アメリカ国債の引き受け先をグラフ化してみる(2009年6月暫定更新版)

2009/06/10 16:10

米国債イメージ以前アメリカ合衆国(以下「アメリカ」)の国庫部門専用ページからデータを抽出して、米国債(アメリカ政府財務省発行の国債)の引受先をグラフ化した記事を【アメリカ国債の引き受け先をグラフ化してみる(2009年1月更新版)】で掲載したが、それから半年が経過した6月頭以降、多くの読者から「データの更新版は無いのか」というお問い合わせをいただいている。例の「金融危機救済予算」の7000億ドルも当初金融セクターを救済の対象としていたのが、半年の間に自動車3大企業のうち2社までが連邦破産法11条の適用を受けるなど、状況は刻々と変化を遂げている。今後、場合にはよっては地方自治体に対する連邦政府の救済もありえるだけに、「7000億ドルで済むのか、済まされるのか」という問いに対する明確な回答は見つからない。そしてそれらの企業などを救済する手当てこと「予算」は、事実上国債発行で確保することが確定している(増収になる見込みはなく、支出が増えるのなら、どこからか調達しなければならない。紙幣そのものを刷ってばらまくわけにはいかないので、国の借金としての国債を発行する必要がある)。そのような状況がますます悪化しているような雰囲気においては、米国債(アメリカ国債)の動向をチェックしたいという心境は理解できる。前回の記事からほぼ半年経過したこともあり、今回データの更新もあわせ、記事とデータの再編集を行うことにした……

スポンサードリンク


……のだが、結論から先に述べると、現時点で取得できるデータは前回から半年が経過しているにも関わらず5か月分(2009年3月分まで)しかない。そこで今回は「暫定版」として5か月更新分を計算・グラフ化し、2009年4月分が掲載され次第、あらためて「正規更新版」として掲載する。なぜ「2009年4月分」にこだわるのかは、後ほど解説する。

さて、念のために確認しておくと、「国債」とは(はじめから利率分を割り引いている場合もあるが)「この証書の期限に、書いてある利息分を追加して返すので、お金を貸してください」という国の借金証明書のことを指す。英語ではTreasury securities(国庫証券)と表現する。

アメリカ政府財務省発行の国債こと「米国債」の引き受け先データはどこで手に入るのか。【アメリカ合衆国の国庫部門専用ページ】から入手可能。具体的には【過去のデータはこちら】【直近データはこちら】となる。直近のデータは後ほど細部が修正される場合もあるので、注意を要する(今回も再び一部修正を強いられた)。

該当ページには各国の保有額(新規発行額では無い)がドル単位で算出され、主要国分のデータが掲載されている。そのうち日本をはじめ、主要国上位6か国(エリア)を抽出してグラフ化したのがこちら。2000年3月から最新データの2009年3月分までが対象。毎年期間切り替えの時期があるので、その部分は差が生じないように調整をしてある。要は概要が分かればよい。金融(工学)危機が「現状では」ピークを迎えた2008年10月以降のデータを見ると、表立った危機度は後退している中でも、全体額がさらにずいぶんと増加しているのが確認できる。逆に言えば発行された米国債が、危機を押さえつける財源に回されているともいえる。

米国債の引き受け先(全体額含む)
米国債の引き受け先(全体額含む)

前回のグラフと比べてやや縦横比が変わったように見えるのは、サイトの移転・デザイン変更で、横幅の制限がやや緩和されたため。それを別にすれば前回同様に「国債が借金なのは理解しているはず、だが……さらに増えてないか?」という印象がぬぐえない。実質値にして、この5か月で3000億ドル(約30兆円)ほど総額が増えており、前回のグラフ形成時からさほど変わらない急ピッチなペースで上昇していることが分かる。また、ドルを基準にした絶対額で見ても、日本と中国の逆転現象が継続しているなど、大まかな各国間の相対関係・状況に変化は無い。

なお※1の石油産出国は中東諸国以外ベネズエラ、インドネシアなども含む。また※2のカリブ諸国の銀行とは俗に言う「タックス・ヘイブン」なところ。実際の金主は不明、というところ。

この傾向は、全体額を除いたグラフで見るとさらに明らかになる。

米国債の引き受け先(主要国のみ)
米国債の引き受け先(主要国のみ)

いずれもドルベースであることを前提として、ではあるが、イギリスが柔軟な運用をしていたこと、ブラジルが地道に、そして2006年中盤以降猛烈な勢いで買い集めていたのが分かる。そしてそれ以上に中国が2002年中盤以降大規模な購入をしていることや、日本の保有額が少しずつだが減少しているのが一目瞭然に見て取れる。

さらにこの半年近くの間、つまり前回の記事以降、中国の買い増しスピードが加速度的になったあとややその速度をゆるめていること、ブラジルやイギリスが(国内的な経済の傾きであっぷあっぷしているからか)買取額を減らしていること、日本も再び多少ではあるが「額面上の」買い増しをしているのが分かる。また、石油産出国やカリブ諸国の銀行が地味ではあるが着実に保有量を増やしているのも確認できる。

これらの動向をもう少し詳しく見るために、期間を2006年1月以降に限定したグラフが次の図。

米国債の引き受け先(主要国のみ、2006年1月-)
米国債の引き受け先(主要国のみ、2006年1月-)

主要国の動向を額面上からまとめると次の通り。

・日本……漸減から微増へ。
・イギリス……起伏が激しいが、全体的には横ばい。
・中国……増加。2008年後半から急増、ただし2009年以降は上昇率がゆるやかに。
・カリブ諸国の銀行……2008年9月以降急増。絶対額は少ないが、割合ではこの半年で2倍近くに。
・ブラジル……2008年半ばを境に漸減へ。

日本は運用資産のポートフォリオの組み換えをしている最中ということもあり、アメリカ国債の保有額が漸減していたが(ドルベース換算なので為替変動は無関係)、この半年の間に再び増加傾向を見せている。引受依頼があったからか、中国との立ち位置が逆転され外交上の問題が発生したからか、他国債とのリスクを勘案した結果なのか、はたまた他の理由によるものか、このグラフからだけでは判断できない。ただ、もっとも有力な推定については後ほど説明するが、「発行総額に対する比率」で購入額を決めているフシが見られる。

一方、中国・カリブ諸国の銀行の増加振りが目立つ。カリブ諸国の銀行は半年で2倍近くに増加、そして中国は2008年の9月で日本の保有額を追い抜いて「もっとも多くの米国債を保有している国」の座を確保して以来、ずっと買い増しスピードを速めて積み重ねをしている。「米国債はデフォルトしない」という前提のもと、今がお買い得という判断からの選択だろうか。あるいはアメリカの財布のヒモを握ることで、外交上においても優位に立とうという「大戦略」に基づいた決定なのかもしれない。

それでは各国の引き受け額が発行額全体に占める割合はどのくらいで、どのような変化を示しているのか。それぞれの比率の比較と、全体軸に配したグラフの双方で表してみる。

米国債の引き受け先(全体軸に配したグラフ)
米国債の引き受け先(全体軸に配したグラフ)

米国債の引き受け先(棒グラフ)
米国債の引き受け先(折れ線グラフ)

「米国債の引き受け先(全体軸に配したグラフ)」は前回までは「掲載されている国別区分内の総額における割合」を掲載していたが、「掲載国以外にもアメリカ国債を買っている国はたくさんある。掲載しないのはおかしい」という意見をいただき、納得のいく指摘だったので、今回からは6国区分以外のもの(「その他」)を黄色で着色し掲載することにした。

オイルマネーと呼ばれる石油産出国は「額面上は」買い増しを続けているものの、全体的な比率としては一定枠を維持しているのが分かる。あるいは意図的に、比率を維持しつつ額を上下しているのかもしれない。また、前回(半年前)に大いに割合を増やしていたイギリスも再び失速。その一方、「その他」の割合がヨコヨコであることとあわせて考えると、他国の減少分+増刷分を中国が買い取っているのがよく分かる。

日本は発行額全体に占める割合は減少・横ばいの傾向を維持しており、絶対額の増加は中国のような意図的なものではなく、バランス調整上の増額であったことがうかがえる。



少なくともこのグラフを見る限り、「国債を持っている(借金証書が手持ちにある)」という意味では、アメリカに対する中国の意見力は増加中である、と考えるのが正しい。また、「カリブ諸国の銀行」の総額・割合が少しずつ増加傾向を見せているのも気になるところ。

これらのグラフはあくまでも発行側であるアメリカの立場から見たもの。つまり繰り返しになるが米ドルベースでの計算なので、日本円に計算した場合の日本の米国債の保有額はもっと少なくなる。日本が対外債の購入割合・額を大幅に減らしたという話は聞いていないので(年金などで運用を弾力化し、手堅い債券から株式などに割合をスライドさせるという話はある(【年金運用、第2四半期は1.6兆円の赤字・サブプライム問題の影響色濃く】))。米ドルベースでの「額」は増額しているが、発行全体額に占める「比率」は減少傾向を続けているので、満期を迎えた国債を償還し、代わりに新規発行の国債を購入する際に、バランスの調整をしているのだろう。つまり、発行全体額に占める割合を維持・減少という基本方針に変わりはないが、発行額全体が急増してしまっているので、結果として購入額も増加してしまったわけだ。

さて最初に「2009年4月は大切な月だから、データが掲載されたら改めて更新版を記事にする」と書いた。これは、年度替りで各国が何らかの方針転換をしてくる可能性がある、という理由によるもの。欲をいえばクライスラー破たんの5月、GM破たんの6月と、毎月のように米国債発行増額のカギとなるイベントが目白押しなので、毎月経過を追っていきたいところだが、こればかりは今のところ「未定」としておく。

「日本市場の上場企業の倒産件数のグラフ化」記事のように、書くべき要件が生じたり、求めがあればそのように対処するつもりではある。

スポンサードリンク




▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2017 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー