「最近mixiに自社広告が多くない?!」と思って色々と調べてみた

2009/05/16 17:20

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mixiイメージ【ミクシィ(2121)】が運営する日本国内最大手のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)【mixi】。当方(不破)も初期から入会しており、今でも時々アクセスをするのだが、特に今年度に入ってからか気になることがあった。いわゆる「自社広(自社広告。広告スペースが空いている時に挿入される、運営会社自身の広告)が増えてないか?」ということ。初めは気のせいかとも思ったが、気になって調べてみたところ、mixiに限らずSNS全体の問題として、広告モデル上の問題点が表面化している可能性が見えてきた。そこでここでは、それら「SNSと広告の課題」についてまとめてみることにする。


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mixiと自社広告

記事執筆直前にmixiへアクセスした時の様子
記事執筆直前にmixiへアクセスした時の様子

「mixi」には多種多様なスペースに広告設置エリアが用意してあり、その場所の特性やサイズなどで広告を出すための料金が異なる。もちろん人気のある(注目されやすい、閲覧回数の多い)部分は料金が高い。

例えばポータルサイトの「ヤフー」のトップページは、ヤフーの中でももっともアクセス数が多く、それだけ注目・人気を集めている(アクセス的にも、広告出稿的にも)。同じようにmixiにログインした直後の画面は(ログイン画面以外では)一番アクセス頻度が高く、注目を集め、広告の応募もひっきりなしに無ければならない……はずなのだが、mixi自身やミクシィの他サービス「ファインド・ジョブ」の広告が目立つ。例えるなら、駅前通りの一等地、駅から歩いて3分以内の店舗用ビルが空き店舗だらけという具合。

右上に位置する正方形のエリアは、最近では広告ページエリアにおいて最上部よりも注目を集めやすいとして人気も高く、そこにはさすがに他社からの広告が入っていたが、それ以外は自社広告。「メール確認」など内部ページに至ると、ほとんど(他社の)一般広告が見当たらない。感覚的には「普通の広告が少ないな」というものがあったが、改めて見直してみるとさすがに少なすぎる。

景気の悪化で企業の広告費が削減され、そのしわ寄せがインターネット広告にも及んでいるという話はよく耳にする。正確には「成果の確実なところに経営資源を集中する」ということだ。と、いうことはパソコン版mixiの広告は「あまり効果が無い」と見なされ、広告出稿がひかえられているのだろうか。

2009年3月までは堅調に売上が推移している
先日発表されたmixiの第1四半期決算と共に公開された、【関連資料(PDF)】によると、少なくとも2009年3月までは広告の売上は順調に推移している。下記はその資料を元に作成した、2007年4月から2009年3月における、パソコン・モバイル版それぞれの1ページあたりの広告売上。

mixiにおける1ページあたりの広告売上(モバイルは一部のみ広告掲載だが全ページビューで除算)
mixiにおける1ページあたりの広告売上(モバイルは一部のみ広告掲載だが全ページビューで除算)

デザインを変更して1ページあたりの広告掲載量を増やしたことも要因の一つだが、それ以上に広告枠への掲載希望が多く、高めの広告費でも掲載を希望する広告主が多かったことが見て取れる。景気の後退が叫ばれた2008年後半以降にもこの傾向を維持したことは、十分賞賛に値する。しかしこれは2009年3月までの話。「自社広告が増えてないか?」と感じた4月以降のデータはない。

「SNSを使う人」は何を目的にしている?
mixiに対する広告出稿が減ったとすれば、どうして減ったのか? 今やmixiは「パソコンが副でモバイルが主」のSNSとなってしまったが、それでもユーザー数は増加の一途をたどっているし、パソコン経由の閲覧数もそれなりのボリュームがある。

2006年9月以降のmixiにおける会員数、パソコンとモバイルのページビュー数推移(決算資料から抜粋)
2006年9月以降のmixiにおける会員数、パソコンとモバイルのページビュー数推移(決算資料から抜粋)

年度切り替えのタイミングで景気後退による広告費減のあおりを受けたとしても、減り方が急すぎる(気がする)。

色々とその理由を探していて、その過程で見つけたのが[SNSの広告不振にデータ・ポータビリティ技術は役立つのか(オルタナティブ・ブログ)]という記事。そこの記事と、その記事が参照していたIDC(アメリカの市場調査会社、International Data Corporation)が2008年11月に発表したSNSの広告に関するプレスリリース【Social Network Users Less Receptive To Advertising, IDC Survey finds】には、次のような言及があった。

・SNSを利用する理由は4つ。「他人と連絡を取り合うため」「知人へ返事をするため」「娯楽のため」「仕事関連」。広告は利用者の動機とは関連付けられ得ない(言い換えれば「利用者は広告にあまり興味を持たない」)。
・実際、通常のサイトと較べてSNS上の広告は関心を集めにくく、利用成果率も低い。



IDC調査による、ウェブ全体とSNSのみの「広告効果」
IDC調査による、ウェブ全体とSNSのみの「広告効果」

mixiのような大規模なページビューを送り出す場所の広告は、期限を決めた「場所貸し」のタイプがほとんど。クリックや購入が確定した時点で報酬が発生する「成功報酬」ではない。そして元記事にも言及があるように、「SNSはページビュー数は多いが、成果が期待したほどではない」とし、費用対効果が低いと愚痴をこぼされている。

一般サイトでもSNSの利用4動機のような利用理由によりアクセスはあるだろうが、その他にも特定の物事を知りたい、興味がある人の利用も多い。ところがSNSの場合は「他人とのコミュニケーション」が利用理由であり、その他の興味関心はあまり無い。はじめから目的がはっきりしている以上、「こちらには面白い商品が掲載されているよ」「こんな新サービスはどうかな」と広告で誘っても、興味をあまり持たれなくて当然といえば当然の結果となる(例えるなら公衆トイレを借りたくて公園に入った人が、ブランコや貸しボートを利用する可能性はほとんど無いのと同じ)。

あるいはmixiの広告が急に減った(ように見える)のは、この「SNS特有の弱点」が広告主の実感として表れ、その結果出稿が減ったのかもしれない。mixiの(パソコン上の)広告が本当に減ったのかどうかは、じきに今年度の第1四半期決算短信(早ければ8月初旬)で明らかになる、はずだ。

SNS広告不況の解決策はあるのか?
mixiの広告が「成果が薄い」として減った(可能性がある)のは、mixiだけではなくSNSの構造的な問題。元々クローズな環境での利用を前提としているのだから、不特定多数の「サービスや商品目的の利用者を対象にした広告」からの収入に頼るのでは問題・限界がある。そこでSNSのサービスでは技術や運用の面で先行している海外においては、去年後半から色々な試みが行われているという。そのうちの一つが、これもまた先の元記事(「SNSの広告不振にデータ・ポータビリティ技術は役立つのか」)に掲載されていたのだが、「Facebook ConnectやFriend Connectといったデータポータビリティ技術」。

具体的な仕組みは【Facebook Connect、Diggで稼動中】などを参照して欲しいが、簡単に考え方だけをまとめると、「SNSのお友だちとの関係と、他のサービス(ソーシャルブックマークやアマゾンなどの通販サービス)とのデータを共有・連動させてしまおう」というもの。

例えばアマゾンや楽天市場、カカクコムなどの通販サイトを利用するメリットの一つには、多数の利用者によるレビューを閲覧できることがある。しかしそこに登場するレビュー執筆者は自分にとっては知らない人がほとんど。これが仮に、SNSで自分とよくやり取りをしている、あるいは実際にあったことがある、昔からの幼なじみや級友によるものだとしたらどうだろうか? レビューの信頼度・口コミの影響度は何倍にも跳ね上がる。100人の「見知らぬ人のオススメ」より、1人の「素性を良く知っているSNS上の知人のオススメ」の方が購入意欲を高めうる。これは容易に理解できるはず(【「夫よりまずお友だち」女性の口コミパワー最強論】)。

具体的なことをmixi側がやっているわけではないので「ものの例え」になるが、mixiとアマゾンのIDを共有化して、アマゾンでレビューを書くとそのままmixiのデータにも「この商品についてこんなレビューを書きました」などとして掲載され、それがそのままmixi上の知人へのオススメになる。mixi上の書き込み経由で商品が購入された場合、そのうちの何%かはmixiのマージンとして納められ、さらに掲載した本人にもマージンが、という具合だ(要はmixiがアソシエイツプログラムの仲介業をするという具合)。この仕組みなら、むしろSNSの特性が広告としての弱点ではなく強みとして活きてくる。

mixiでもすでにmixi内コンテンツとしてアマゾンと連動した形での「レビュー」を設けており、アマゾンで購入できる商品のレビューを記事として掲載できる仕組みが用意されている。しかしそのレビューを経由して購入が行われても、マージンはすべてmixi側にわたってしまうため、利用者側のモチベーションは概して高くない。収益としてはそれなりの額は計上されているのだろうが、短信資料を見ても具体的な話が出てこない以上、mixiの収支全体からすればごくわずかなものに過ぎないものと思われる。

mixiでの現在におけるレビュー機能。それなりに利用はされているようだが、収益の面ではスズメの涙ほどのようだ。
mixiでの現在におけるレビュー機能。それなりに利用はされているようだが、収益の面ではスズメの涙ほどのようだ。

これが仮にアマゾンや楽天、カカクコムなどのレビューと完全に相互連動、さらにはクロスポスト(例えばアマゾンでレビューを投稿すれば自動的にmixiのレビューコーナーにも投稿される)機能が実装されれば、可能性は相当広がるに違いない。



【mixiを悪用した「情報ねずみ講」、図解とその後……その1「なぜ」と「理由」】でも触れているが元々mixiをはじめとするSNSは小さな寄り集まりの集合体が基本的なスタイル。その利用者数が増えたからといって、普通のサイトサービスのように「利用者数が増えればページビュー数も増えるから、広告費もそれに比例して増えるので」と考えてしまったのが問題点といえる。構造的に表示は増えても効果が上がらないのは、先の「SNS利用の4目的」として挙げられた「他人と連絡を取り合うため」「知人へ返事をするため」「娯楽のため」「仕事関連」から考えても明らか。

「データポータビリティ技術」についても、具体的かつ効果的な利用方法や、マージンの区分方法などの面で問題が多く、現時点で海外においても試行錯誤が続けられているという。日本でもじきに、多くのSNSサービスがmixi(において生じていると見受けられる)問題を抱え、今技術へのアプローチを始めることだろう。そして日本の場合は特に携帯電話への傾注が著しいため、携帯電話絡みでどのような「仕組み」を生み出していくかが課題となるに違いない。

■追補記事:
【「mixi自社広減少!?」をもう少し考えてみる】

※自社広について「自社稿では?」というご意見をいただきました。調べたところ、「自社広」は「自社広告」の略、「自社稿」は同じく読みが「じしゃこう」ながら「自社で出稿した広告」、さらに「自社校」は読みがやはり「じしゃこう」で「自社で行う校正」を意味するものだそうです。今件では「自社広」で間違いはありませんが、「自社稿」でも問題は無いことを追加情報として表記しておきます。


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