開局以来初の最終赤字となったテレビ朝日の連結決算をグラフ化してみる

2009/05/04 18:30

テレビ朝日イメージ【テレビ朝日(9409)】は2009年4月30日、2009年3月期の連結決算を発表した。【テレビ朝日の下方修正をグラフ化してみる(2009年4月2日版)】で発表した決算予想と比べ、コスト削減の効果が現れるなどで売上高、営業利益、経常利益は上回ったものの、最終損益の赤字をくつがえすまでには至らず、結局17億1600万円の最終赤字を計上した。これは同局が開局以来初の出来事となる。今回発表された決算内容からは、テレビ朝日、そして恐らく民放大手の今後を占うキーポイントがいくつか描かれているので、そのポイントに絞ってグラフ化などを行いつつ、チェックを入れてみることにする。【決算短信そのものはこちら】

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効率の悪いビジネス!?
まずは決算短信から主な経営指標を前年度比でグラフ化したのが次の図。

連結経営成績の前年度比
連結経営成績の前年度比

売上そのものはさほど減少していないが、営業利益・経常利益・純利益が大きく減っていることが確認できる。これは元々テレビ朝日の財務状態が「売上に対して利益率が低い」「これまでの売上で利益をようやく確保できていた」ことを意味する。要は損益分岐点ギリギリだったため、ちょっとした売上の割合(絶対額ではない)の減少で、利益が大きく削られてしまったわけだ。

ちなみに儲けの効率を示す一つの指標、「売上高営業利益率」(営業利益を売上高で割ったもので、売上の何%が本業の稼ぎにつながるかを意味する)を計算すると、2008年3月期は3.9%、2009年3月期に至っては0.8%でしかない。例えるなら、テレビ朝日では「1万円の売上をあげても本業部分では80円しか利益を得られない」計算になる。

テレビ放送事業は「金食い虫」体質!?
テレビ朝日では本業の事業を3つに区分している。すなわち

・テレビ放送事業……テレビ放送時間の販売、番組の販売、商品化権料収入
・音楽出版事業……音楽著作権・著作隣接権の管理事業、レコード事業、アーティストマネジメント事業

・その他事業……イベント事業、ビデオ・DVD販売、出版、出資映画事業、テレショップ事業及び放送用機器等の販売等

である。それぞれについて2009年3月期と2008年3月期の営業利益をグラフ化したのが次の図。

セグメント別営業利益(億円)
セグメント別営業利益(億円)

本業のテレビ放送で思いっきり足を引っ張っているのが分かる。ちなみにそれぞれのセグメントにおける費用をグラフ化するとこのような形になる。

セグメント別営業費用(億円)
セグメント別営業費用(億円)

多少の差異はあるが、ほとんど2009年3月期と2008年3月期で変化がない。特にテレビ放送事業では大きく売上を落としているにも関わらず、計上される費用に変化が無い(というよりむしろ増えている)ので、損失の傷も大きくなっている。

何か物品を販売する商売ならば「商品が売れない=売上減少≒商品入荷分の費用減少(在庫として残れば話は別)」となるが、テレビ放送事業ではその傾向が見られない。これは「テレビ放送事業」が物理的な物品を売るのではなく、広告展開の権利など「見えないもの」を売るビジネスであり、「商品が売れようが売れまいがある程度の費用が発生する」ビジネスモデルであることを意味する。極端な話、広告枠が1本も売れなくとも同程度の費用は発生するわけだ(放送が続く限り)。……広告が入りそうにないから番組は作りません・放送しませんというわけにもいかないのである。

広告枠の販売がうまくいっているうちは良い。しかし昨今のように広告に対する人気の雲行きが怪しくなると、売上が上がっても上がらなくともテレビ放送事業は費用がかさむため、いわゆる「金食い虫」となりかねない、ということになる。

経営成績悪化の原因は2点「スポット広告の減少」「有価証券評価損」
決算短信にも明記されているが、今回テレビ朝日が最終赤字を出さざるを得なくなった最大の理由は二つ。「スポット広告の減少」と「有価証券評価損」にある。

まずは「スポット広告の減少」について。「スポット広告」については【テレビ局からスポット広告を減らした業種を調べてみる(2009年3月期第2四半期編)】で詳しく解説しているが、要は「特定番組のスポンサーではなく番組間でばらまきをするタイプの広告」。

タイム広告とスポット広告
タイム広告とスポット広告

テレビ局の事業の多くが「売上と費用は正比例しない、売上が上がらなくてもある一定の費用は発生しうる」いわゆる箱モノビジネスであることは上で説明した通り。同時に元々売上高営業利益率が低いビジネスである以上、売上高の減少は即赤字転落の危機を呼びこみうる。決算短信の補足資料に、各事業セグメントと広告部類別の売上高の推移が掲載されていたので、それを元に2008年3月期と2009年3月期を比較した「前期比」をグラフ化したのが次の図。

セグメント別売上高・前年度比
セグメント別売上高・前年度比

スポット広告が非常に大きな減少を見せているのが分かる。これはあくまでも前年度比なので「スポット広告の収入が落ちてても、その他の収入でなんとかなりそうでは?」と錯覚してしまうかもしれない。そこで前年度からの割合ではなく、前年度からの「額の差異」でグラフ化しなおしたのが次の図。

セグメント別売上高・前年度比(金額)
セグメント別売上高・前年度比(金額)

いかにスポット広告の落ち込みが致命的かが分かるはずだ。

そして2009年3月期の赤字転落の原因のもう一つは「有価証券評価損」。要は株価やその他資産の価値が下がったので持株の評価を下げねばならなくなったということ。

2008年3月期と2009年3月期における特別「損失」の内訳
2008年3月期と2009年3月期における特別「損失」の内訳

「減損損失」は固定資産の評価減によるもの。具体的な説明は無いが、子会社か何かの再評価を行ったのだろう。そしていわゆる「損切り」こと「投資有価証券売却損」が1.73億円発生し、一定割合以上の「評価損」による計上である「投資有価証券評価損」が20.34億円も計上されている。これも今回の最終赤字を招いた大きな要因である。

あくまでも極論だが、最終赤字額が17億1600万円であることを考えると、株価の低迷が無ければ最終赤字という事態には陥らなかった、と考えることもできる。実際に経常利益の時点までは、何とか黒字を確保しているのだから、あながちこの想定も「突拍子も無い」と言い切る事はできない。

次期予想をかいま見る
次期、つまり現在進行期である2010年3月期の業績予想も短信には記載されている。それによると、売上高は広告費の減退影響を受けて減少を続けるものの、コスト削減により営業・経常利益は改善。最終利益も黒字化への転換を予想している。

2010年3月期連結業績予想(前年比)
2010年3月期連結業績予想(前年比)

コスト削減などについて決算短信には、

「営業費用は徹底したコストコントロールを行う」
「番組制作費についてはコスト構造を見直すとともに、選択と集中を進め、経費についても徹底的な削減を実施いたします。視聴率を獲ることはもとより、それを活用し、収益の拡大に重点をおいた編成構造の変革も行ってまいります。アニメ事業、映画事業、クロスメディア展開、コンテンツ事業などについても、最適な体制への組織の再編を行い、これまで以上に収益を重視し、他社との協業事業にも積極的に取り組んでまいります」

と説明しており、いわゆる「箱モノだからどうしても一定額の費用はかかるよね」体質にメスを入れ、組織そのものの体質改善を推し量ると説明している。

売上が低迷することが予想され、それでも利益を得たいのなら、売上低迷分以上に費用を削減するしか方法がない(他分野で売上を上げる、というのはまた別の話)。【テレビ朝日の下方修正をグラフ化してみる(2009年4月2日版)】でも言及しているのだが、この「コストカット」でおきうる番組の質の劣化によって、「商品」としてのテレビ放送の価値の低下(≒広告収入の減少)をどこまで押さえられるのかが注目されることだろう。

実際、テレビ朝日のテレビ放送事業部門においては、2009年3月期では

・ゴールデンタイムで民放3位以上の平均視聴率(28年ぶり)
・プライム2(23-25時)で4年連続の平均視聴率1位
・WBCの視聴率では開局以来初のゴールデンタイム、プライムタイム(19-23時)、プライム2での月間視聴率三冠を達成

などの好業績を残している。だが、にも関わらずスポット広告の売上は大きく低迷したという結果が出ている。それだけテレビ放送事業・テレビ広告に対する評価は厳しいということだ。

「コスト構造の見直し」が、本当にムダな費用の削減につながり、多少の売上は落ちてもそれ以上にスリム化して財務体質の健全化が図れるのなら、テレビ朝日にとっては良いリストラといえるだろう。しかし本当ならば削ってはいけない費用を削ってしまい(&削るべきところを残してしまい、)「商品」たるテレビ放送の質の大きな価値下落を引き起こすのなら、その結果は広告収入、特にスポット広告の減少の加速化として現れるに違いない。

ちなみに「景気が回復すれば広告出稿も増えてくるはず」という観測は甘いと考えざるを得ない。【過去20余年の媒体別広告費の移り変わりをグラフ化してみる】【民放連曰く「諸君らが愛してくれたテレビの広告費は減った。何故だ!?」】でも解説したように、今世紀に入ってからGDPの変動と既存4大媒体への広告費が連動しないという現象が起きている。理由は色々と考えられるが、新メディアの登場による選択肢の増加が大きな要因であることに違いは無く、この状況が再びくつがえって「景気向上=広告費増加」という図式になるとは考え難い。

【企業社員がおススメする報道番組ランキングをグラフ化してみる】でも触れているが、テレビ局はお得意様たる広告主たる企業・スポンサーの方を向いているが、その企業はテレビ局にではなく、消費者の方を向いている。そのことを忘れてしまうと、黒字転換どころか現状維持ですら難しいだろう。

……そして「コスト削減によるテレビ番組=主力商品の質の低下の危険性」「テレビ放送が『どの方向を向いているのか』」はテレビ朝日に限らず、民放すべてに共通する課題・懸念だと思われる。夏までには民放全社の決算が出揃うはずなので、おりを見て2009年3月期の業務成績の確認、そして今年度の展望に対するチェックをしてみることにしよう。

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