電気代など物価上昇の懸念…2023年2月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇

2023/03/08 15:00

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内閣府は2023年3月8日付で2023年2月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇し52.0を示し、基準値の50.0を上回ることとなった。先行き判断DIは前回月比で上昇して50.8となり、基準値の50.0を上回ることに。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかに持ち直している。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな持ち直しが続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和5年2月調査(令和5年3月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。

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現状は下落、先行きは上昇


調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。

2023年2月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。

・現状判断DIは前回月比プラス3.5ポイントの52.0。
 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」が増加、「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは51.0。
 →詳細項目は「住宅関連」が下落。その「住宅関連」のマイナス2.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは前回月比でプラス1.5ポイントの50.8。
 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは52.0。
 →詳細項目は「非製造業」以外が上昇。「飲食関連」のプラス6.7ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。

冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年2月では人の動きの回復ぶりを反映する形で、前月比で上昇することとなった。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2023年2月では現状判断同様に物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安はあるものの、今後現状以上に人の動きが回復しそうな雰囲気に景況感が後押しされている。

現状判断DI・先行き判断DIの実情


それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2023年2月)
↑ 景気の現状判断DI(〜2023年2月)

昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張り、大きな下落。今回月の2月は前回月から転じる形で、下落から持ち直しの動きを示している。なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2023年2月)
↑ 景気の先行き判断DI(〜2023年2月)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っているが、新型コロナウイルスの変異株の猛威に対する不安はピークを過ぎており、人の流れの活性化への期待があることから、上昇している。

経済活動回復への期待は強いが物価高への不安も


発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状
・イベントやコンサートが開催されるようになり、空港の国際線、国内線共に利用客が通常に戻りつつある。インバウンドの観光客も増えており、徐々に良くなっている(タクシー運転手)。
・入学式や卒業式など春の行事におけるウェアや、祝いや祝返しのギフトを中心に動きが出始めている。自身への買物は節約傾向にあるが、大切な人への贈物といった需要はバレンタイン、入学や卒業関連、ブライダル祝いを中心に、新型コロナウイルス感染症発生前に近づく勢いがある(百貨店)。
・極端な買い控えの動きは見られないが、物価の優等生とみられた卵の価格上昇が激しい。野菜や果物などは天候のお陰で安価であるが、いろいろな物の値上げの影響が買物点数に少しずつ出ている(スーパー)。
・電気代の値上げにより、企業も家庭も予算が圧迫されている。ビジネス街では昼食代などを節約する傾向がみられ、購入金額が10%ほど下がっている(コンビニ)。

■先行き
・中国からの入国規制などが緩和されるほか、国内でもマスク着用の緩和、新型コロナウイルスの5類感染症への移行など、外に出掛けることへの規制は間違いなく緩和が進む(百貨店)。
・4月以降、国内団体旅行の申込みが増加傾向にある。これまでは小グループが中心であったが、30人以上の団体も増加している。また、海外団体旅行も国内ほどではないものの、4月以降の申込みが発生しており、これまで冷え込んでいた旅行需要の回復の兆しが目に見える形で現れている(旅行代理店)。
・4月以降も食料品などの値上げが進む予定である。一部では賃上げの情報があるものの、現状の値上げ基調のペースをカバーできるほどではなく、客の節約志向は変わらない。衣食住の最低限は消費するが、ぜいたく品の購買は停滞を続ける。また、今後、割引日への客の集中は更に強まる(スーパー)。
・日用品や食料品、光熱費などの値上げの影響でかなり厳しくなり、積極的な消費が見受けられず、客がかなり慎重になってくるのではないか(衣料品専門店)。

インバウンドや経済復調に関するポジティブな声もあるが、その一方で電気代や商品価格の値上げなどの物価高を受け、消費者の買い渋りの動きも見受けられる。

企業動向でも物価上昇・コスト上昇への影響が多々見受けられる。

■現状
・2月からキャンプも始まり、県外からの観光客も相当増えているようにみられる。インバウンドも同様に目立つようになっている。その影響で業務用及び観光土産向け食材が引き続き増加している(食料品製造業)。
・新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んでいた医療品容器の受注に回復傾向がみられるが、仕入れや電気料金などの諸経費が値上がりしているため、利益は上がらない(プラスチック製品製造業)。

■先行き
・自動車に関しても生産ライン停止により受注残を多く抱えていることから、先々の仕事は豊富にある。EV生産用の新規ライン投資などに関連して、ロボット業界の仕事も忙しい状況が続く見込みである(一般機械器具製造業)。
・主原料や副資材、燃料、輸送費、諸経費の増加に加え、足元では大きな電力の値上げが予定されており、価格転嫁がどこまでできるかが課題である。少なくとも採算としては、非常に厳しい状況が当面続くとみている(一般機械器具製造業)。

利用客の増加や仕事のストックの豊富さなど頼もしい話もあるが、電気代や材料費などの高騰でビジネスがし難くなるとの意見も見受けられる。

雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。

■現状
・業種、職種により求職者のエントリー数に大きなばらつきがみられる。また、規模の小さな企業やサービス業では、応募数の減少が顕著であり、人材確保の厳しさが増している(求人情報誌製作会社)。

■先行き
・派遣料の改定をしているが、例年よりも昇給する企業が多い。自社雇用の社員の賃上げなども実施され、派遣社員にも同様の対応をするため、4月からの派遣料金に反映される(人材派遣会社)。

雇用状況は改善の気配が見られるものの、求職者数が依然少なく企業側の需要には応えにくいようではある。他方、おそらくは人手不足を背景に賃金アップの動きが見られるのは好ましい話に違いない。



多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。

世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは生活様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。

さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。



↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである



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