物価上昇の懸念…2023年1月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き上昇
2023/02/08 14:00

内閣府は2023年2月8日付で2023年1月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落し48.5を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で上昇して49.3となったが、基準値の50.0を下回る状態は継続している。結果として、現状下落・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、持ち直しへの期待がみられる」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和5年1月調査(令和5年2月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は下落、先行きは上昇
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2023年1月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」が減少。原数値DIは46.5。
→詳細項目は「小売関連」「サービス関連」が下落。「小売関連」のマイナス1.0ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「雇用関連」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でプラス2.5ポイントの49.3。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは49.1。
→詳細項目は全項目が上昇。「住宅関連」のプラス5.8ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」のみ。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年1月では物価の上昇や寒波などの影響を受けて、前月比で落ち込むこととなった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2023年1月では現状判断同様に物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安はあるものの、為替の調整や新型コロナウイルスの流行状況がひと段落つくのではとの期待があり、景況感は前進の動きを示している。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2023年1月)
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張り、大きな下落。今回月の1月は前回月から続き、大幅下落から少しずつ持ち直しを見せた動きより転じた下落を継続している。なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「雇用関連」のみ。
続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2023年1月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「非製造業」のみ。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っているが、新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の猛威に対する不安はピークを過ぎており、人の流れの活性化への期待があること、そして為替の調整や新型コロナウイルスの流行が落ち着くのではとの期待があるから、上昇している。
物価上昇への不安や寒波と経済活動回復への期待と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・出張関連の客が平均して増えてきている。人流が動き出しているようである。天候に左右されて来客数が増減する感覚が、新型コロナウイルス感染症発生前に似てきている気がする(一般レストラン[居酒屋])。
・売出効果により来客数が増加しており、高額品並びに衣料品も含め、好調に推移している。新型コロナウイルス感染症の発生前ほどではないが、外国人観光客も徐々に戻り、インバウンド需要も少しずつ伸び始めている。新型コロナウイルスの新規感染者数の報道は続いているが、行動制限がないため、前年同時期と比較しても売上は回復傾向にある(百貨店)。
・光熱費や物価の上昇、寒波の影響に加え、久しぶりの行動制限のない年末年始で支出の増加があり、節約志向が高まっている。まとめ買いもお買い得品の買い回りが顕著になっており、総菜、即食性の高い品が人気で、調味料や光熱費、原材料の節約になっている(スーパー)。
・全国旅行支援が継続されているが、記録的寒波など雪の影響を受けキャンセルが多く出ている(観光型旅館)。
■先行き
・新型コロナウイルスの感染状況が一段落し、5月に感染症法上の分類を5類に引き下げる効果で、客の意識が良い方向に向かうと予想する。中国以外からのインバウンドにも期待が持てる(都市型ホテル)。
・コロナ禍の影響が弱まったことで、新生活需要が増える可能性がある。また、転勤などの増加も予想されるなど、ようやく以前の状況に戻ると期待している(家電量販店)。
・円安に関しては多少落ち着きを見せているものの、物価上昇の流れは更に加速し、消費者の財布のひもは依然として固いままである。持っている物を再使用するリメイク、リユース傾向は加速しているように感じる(衣料品専門店)。
・冬場の本格的なエネルギーコストの上昇時期を迎えているなか、今春以降の更なる電力料金の値上げが発表されたことから、今後、消費者の節約ムードがますます強まることになる(スーパー)。
インバウンドや経済復調に関するポジティブな声もあるが、その一方で商品価格の値上げなどの物価高を受け、消費者の買い渋りの動きも見受けられる。また、記録的寒波の影響も生じたようだ。
企業動向でも物価上昇・コスト上昇への影響が多々見受けられる。
・受注量が増え始めており、人材確保を検討し対応している(食料品製造業)。
・原料の値上がりが1年に2回もあり、中には40%以上の値上がりもある。製品への価格転嫁は容易ではなく、客を回って理解を得るための営業活動に要するコストも重荷になっている(窯業・土石製品製造業)。
■先行き
・値上げが続くなか、極端な円安の調整は進んでおり、輸入原料のコストが低下することから、利益が確保できるとともに、賃金も上昇すると予想される(食料品製造業)。
・4月からの電力料金の値上げが当社の生産コストの増加に大きく影響する。加えて、他社も電力料金の値上がりを価格転嫁すると想定されるため、原材料や部品等の購入品のコスト上昇は不可避となる(金属製品製造業)。
受注増による人材確保の検討といった頼もしい話もあるが、材料費などの高騰でビジネスがし難くなるとの意見も見受けられる。電気料金の値上げに対する苦票も見受けられる。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・新型コロナウイルス感染症がやや落ち着き気味となり、求人数が増え始めた。しかし、求職者数が少なく人材不足の状態で、マッチングはかなり難しくなっている(民間職業紹介機関)。
■先行き
・新型コロナウイルスの新規感染者数の減少や物価高は変わらないものの、各企業が賃金のベースアップを検討しているようである、実際、大企業で賃金を上げているケースが増えてきているので、今後はややよくなる(職業安定所)。
雇用状況は改善の気配が見られるものの、求職者数が依然少なく企業側の需要には応えにくいようではある。他方、人手不足を背景に賃金アップの動きが見られるのは好ましい話に違いない。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは生活様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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