政府への要望、社会保障に新型コロナウイルス感染症への対応

2022/01/17 03:00

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内閣府は2021年1月7日、定点観測的に調査を行っている「国民生活に関する世論調査」の最新版となる2021年版の結果を発表した。それによると、日本国民が今後政府に力を入れてほしい政策の最上位には「医療・年金などの社会保障の整備」がついた。67.4%の人が同意を示している。前回2019年6月時点における調査の結果から順位は変わらず、高齢化社会への対応の重視を要望する声が全体として大きい状況が把握できる。それに続く高回答値の項目は「新型コロナウイルス感染症への対応」だった(【発表リリース:国民生活に関する世論調査】)。

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今調査は2021年9月16日から10月24日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を持つ人の中から層化2段階無作為抽出法で3000人を選んだ上で、郵送法によって行われたもので、有効回答数は1895人。男女比は906対989、年齢階層別構成比は18-19歳が32人・20代171人・30代209人・40代306人・50代333人・60代312人・70歳以上532人。

調査時点において、今後日本国政府はどのようなことに力を入れるべきか、複数回答形式で尋ねたところ、最上位の回答値を示したのは「医療・年金などの社会保障の整備」だった。全体では67.4%の人が望んでいる。

↑ 政府に対する要望(上位抜粋)
↑ 政府に対する要望(上位抜粋)

↑ 政府に対する要望(上位抜粋、前回調査比、ppt)(2021年)
↑ 政府に対する要望(上位抜粋、前回調査比、ppt)(2021年)

最上位の「医療・年金などの社会保障の整備」は前回調査(2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で調査が中止されており、2019年調査分が前回調査となっている)と比べると0.7%ポイントのプラス、第2位の「新型コロナウイルス感染症への対応」は65.8%ポイントのプラスだが、これは前回調査時点では新型コロナウイルスが流行しておらず選択肢そのものが無かったことによるもの。次いで「景気対策」が3.0%ポイントのプラス。「新型コロナウイルス感染症への対応」以外では「防衛・安全保障」がもっとも大きな増加となる9.9%ポイントものプラスを示しており、防衛や安全保障問題への関心の高まりがうかがえる。

これを男女別に見たのが次のグラフ。

↑ 政府に対する要望(上位抜粋、男女別)(2021年)
↑ 政府に対する要望(上位抜粋、男女別)(2021年)

男性の方が高い値なのは「景気対策」「防衛・安全保障」「少子化対策」「税制改革」「外交・国際協力」「資源・エネルギー対策」。「防衛・安全保障」などはともかく、「景気対策」でも男性の方が上の値が出ているのは、いくぶんの意外感を覚えさせる。

女性が男性比で大きく伸びているのは「医療・年金などの社会保障の整備」「新型コロナウイルス感染症への対応」「雇用・労働問題への対応」「物価対策」。どちらかといえば男性よりもより日常生活に身近な話題についての要望であり、見方を変えれば現状への不満を抱いているのが分かる。

これを年齢階層別に見ると、各項目の年齢別関心事項が透けて見える。

↑ 政府に対する要望(上位抜粋、年齢階層別)(2021年)
↑ 政府に対する要望(上位抜粋、年齢階層別)(2021年)

「景気対策」「雇用・労働問題への対応」は若年層から中年層までに高い関心が寄せられているが、高齢層では急速に値が低下する。一方で「医療・年金などの社会保障の整備」「高齢社会対策」「自然環境保護・地球環境保全・公害対策」は高齢層の方が高い値となる。以前【失業対策が第一、少子化対策が次点…現在不十分で今後力を入れるべき社会福祉とは】でも触れたが、回答者自身にとって何が一番望まれるのかを第一に考えてしまい、それがそのまま値に反映されているのが分かる(「我が身恋しや」である)。全体的に要望への関心が低い高齢層でも、「高齢社会対策」以外に「物価対策」において他年齢階層とさほど変わらない、むしろ若年層より高い値を見せているのが好例といえる。

また、「少子化対策」など、一見若年層が無関心な姿勢を見せているように伝えられている問題も、概して若い年齢階層ほど要望への値が高い。「若者は政治や社会に無関心だ」との印象は実情とは異なることを把握できる次第である。無論「雇用・労働問題への対応」は若年層ほど高い値を示し、18-29歳と30代では「高齢社会対策」よりも上の値となっている。切実な問題であることをうかがわせる。

なお今件はそれぞれ独立した項目で「要望のある・無し」を尋ねているが、本来政策は多数項目が連動して行われる(べき)もの。どれか一つの政策のみに焦点を絞って注力しても、他の項目が足を引っ張られることになり(リソースは有限)、結局マイナスの影響を受けた項目が注力した部分にも悪影響を及ぼし、全体的な環境も悪化してしまう。それぞれの項目の連鎖性・波及効果を思慮深く考慮した上で、政策方針が決定され、具体的施策が打たれるべきであることは言うまでもない。



やや余談ではあるが、「国民生活に関する世論調査」は2016年調査分から調査対象をこれまでの20歳以上から18歳以上とし、対象年齢を引き下げている。リリースでは特に説明はないが、公職選挙法の改正に伴い、2016年の参議院議員選挙以降、選挙権がこれまでの20歳以上から18歳以上に引き下げられたものに連動しての変更と考えられる。この点からも「国民生活に関する世論調査」をはじめとした内閣府の調査が、多分に選挙などで具体的に声を挙げる、意思表示をする人を意識していることがうかがい知れよう(時折未成年者を対象とした調査も行われるが)。

他方、今調査では層化2段階無作為抽出法によって回答対象者を選択しているため、実質的に現状の年齢階層別人口区分に近い年齢構成比での調査アプローチが行われる。しかしながら前世紀終り頃から若年層の回答率は減少し続けており、ただでさえ人口比率の少ない若年層の声が、全体の値に反映されにくい状態となっている。

↑ 回答者年齢階層別構成比率試算結果
↑ 回答者年齢階層別構成比率試算結果

↑ 「国民生活に関する世論調査」の年齢階層別回答状況(2021年)
↑ 「国民生活に関する世論調査」の年齢階層別回答状況(2021年)

選挙の投票率同様に、若年層は政治への関心度が低いのに加え、独身就業者が多く回答に応じにくい事情が大きな要因と考えられる。

一つ一つの声が積み重なり世論を形成し、各種判断に用いられることを考えれば、若年層には積極的に調査への参加が望まれる。それとともに、多忙でも回答が可能な代替案の提示(インターネット経由も選択肢として用意するなど)を調査側にも模索してほしいところではある。


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