付録効果か、大きく部数を上げる誌あり…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2022年4-6月)
2022/09/13 02:00

ゲームそのものの楽しさの提供だけでなく、周辺の人達とのコミュニケーションのための媒介・ツールとしての役割も大きい家庭用ゲーム機とその対応ソフトは、スマートフォンの普及とそれ用のゲームアプリの大々的な展開で、大きな転換期の中にある。ただでさえインターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視されるゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる中で、二重の危機誘発要因の到来に違いない。「アプリ系ゲームの紙媒体専門誌を出せばよい」との意見もあるが、あまり上手くいった事例を聞かないのは、情報の更新伝達スピードがマッチしないことや誘導性のメディア間ハードルが高いのが主な要因だろう。まさに四方の行く手をさえぎられた状態のゲームやエンタメ系の専門誌の実情に関して、社団法人日本雑誌協会が2022年8月22日に発表した、主要定期発刊誌の販売数を「各社の許諾のもと」に「印刷証明付き部数」として示した印刷部数の最新版となる、2022年4-6月分の値を取得精査し、現状などを把握していくことにする。
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4誌のみの状態変わらず…部数現状
データの取得場所の解説や「印刷証明付き部数」など用語の内容に関する説明、読む際の諸般注意事項、さらには類似記事のバックナンバーの一覧に関しては、一連の記事のまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明済み。必要な場合はそちらで確認のこと。また記事のカテゴリ名をクリックしてたどれる同一カテゴリの記事一覧からも、印刷証明付き部数関連の記事の過去のものを確認できるので、その手段も併用してほしい。
まずは最新値にあたる2022年の4-6月期分と、そしてその直前期にあたる2022年1-3月期における印刷実績をグラフ化し、現状を確認する。

↑ 印刷証明付き部数(ゲーム・エンタメ系雑誌、万部)(2022年1-3月期と2022年4-6月期)
ゲーム・エンタメ系雑誌の中で最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で16.0万部。このポジションは前期から変わり無し。他の雑誌と比べると群を抜いて部数が多い「Vジャンプ」の立ち位置は、少年向けコミック誌の「週刊少年ジャンプ」と同じように見える。
現在印刷証明付き部数を公表しているゲーム・エンタメ系雑誌は、今期でも今グラフに表示されている4誌にとどまっている。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無(ジャンル区分そのものは今なお存在している)なのが現状。今後も減少傾向が続くようならば、「ゲーム・エンタメ」の定義で包括しえる、類似カテゴリの雑誌を加えることも検討せねばなるまい。
とはいえ、類似の主旨を持つカテゴリが存在しそうに無いのも悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「週刊ファミ通」「電撃Nintendo」「Nintendo DREAM」「MC☆あくしず」などが挙げられるが、いずれも印刷証明付き部数は非公開なのが実情ではある。
1誌がプラス…前四半期との差異確認
次に四半期、つまり直近3か月間で生じた部数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が配慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前期比)(2022年4-6月期)
ゲーム・エンタメ系雑誌において前期比でプラスを示したのは1誌「Vジャンプ」で、誤差領域(プラスマイナス5%以内)を超えたプラス幅となっている。一方マイナスを示したのは「声優グランプリ」「PASH!」「アニメージュ」で、「声優グランプリ」と「PASH!」は誤差領域を超えたマイナス幅。
ゲーム・エンタメ系雑誌では最大の部数を誇る「Vジャンプ」は特集や付録で大きく上下感を見せるものの、長期的には部数減少の傾向にある。話題性のある付録で一時的な部数の引き上げを果たしても、それが継続するには至らないパターンが続いている。

↑ 印刷証明付き部数(Vジャンプ、部)
ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ゲームと密接な関係にある付録を常につけることで雑誌の集客力を高めさせるのも、雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論であり、「Vジャンプ」の必勝方程式として定着している。恐らくは今期の大きな増加ぶりも、付録の「遊戯王カード」や「ドラゴンクエストX オンライン」用のアイテムコードが功を奏した結果だろう。
しかし長期的な部数動向を見るに、その方程式が必勝とは言い難い状況なのは否定できない。昨今では15万部が底のような部数動向となってたが、ここ数期ではその底すら抜けてしまっている。直近期では幸いにも15万部を超える結果は出せたが。
なお「Vジャンプ」では電子雑誌方式に関しては、紙媒体誌を購入した人限定で閲覧できる仕組み「購入者特典」の形での提供のため、電子書籍版のセールスが伸びたので今件値(紙媒体として印刷された部数)が減少しているとの解釈は難しい。販売スタイルは今でも原則として紙媒体の雑誌のみである。
他方、マイナス29.9%という非常に大きなマイナス幅を示したのが「声優グランプリ」。

↑ 印刷証明付き部数(声優グランプリ、部)
今期は前期と比べると大きな部数の落ち込みを見せているものの、むしろその前期の方がイレギュラー的な部数の上乗せを示しており、今期は単に反動的なものでしかない。
比較対象となる前期では2022年3-4月号の付録声優名鑑、そして2022年4月号で麻倉もも氏がソロで初表紙になったことで部数の上乗せが生じており、そのような特需的要素が今期ではなかったため、前期比で大きなマイナス幅が出てしまったようだ。長期的には部数は漸減の流れの中にあるため、できれば前期のようなイレギュラーなプラス幅を見せる機会が相次ぐことで、雰囲気を変えてほしかったのだが。
プラスは1誌の前年同期比
続いて前年同期比における動向を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べればロングスパンの動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前年同期比)(2022年4-6月期)
前年同期比ではプラス誌は1誌「Vジャンプ」。それ以外はすべてマイナス。誤差領域を超えたマイナス幅を示したのは「声優グランプリ」と「アニメージュ」。
マイナスだが誤差領域内にとどまった「PASH!」の部数動向は次の通り。

↑ 印刷証明付き部数(PASH!、部)
「PASH!」は特集記事や付録による部数への影響が大きく、部数変動が他誌と比べると大きくなる傾向がある。例えば2016年1-3月期は「おそ松さん」特需、2016年10-12月期は「ユーリ!!! on ICE」特需によるもの。2018年ぐらいからは2万部を底とする部数動向を示しているが、今期ではその底値は上回る結果となった。
【ソフトハード合わせて国内市場規模は3759億円、プラスダウンロードが322億円…CESA、2020年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表(最新)】にもある通り、日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は厳しい状況にある。少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も紙媒体としての部数低迷は続くことだろう。
世界的に話題となり社会現象すら巻き起こした、スマートフォン向けアプリの「ポケモンGO」だが、本来は今ジャンルの各誌が対象となる。しかしスマホが対象であることから、各誌の部数動向に影響を与えたとの話は耳にしない。「ポケモンGO」のような広範囲の属性に浸透するタイプではないものの、大いに人気を博し、他分野にも影響を示すタイトルは複数存在している。例えば「Vジャンプ」のカードのように、それらアプリとの連動企画が可能なら、定期的な部数底上げが期待できるのだが。
しかしながら昨今の「Vジャンプ」の購入者の感想に目をやると、特定のカードが付録の号には需要が急増するものの部数増刷や重版の動きがなく、そのために転売屋の暗躍が大っぴらになっているとの指摘もある。契約まわりで増刷が難しいのだろうか。

しかしながらコミック系雑誌と違いゲーム・エンタメ系雑誌では、大きな表示で見ることで魅力が得られるもの、そして多数の付録がセールスポイントとなる場合も多々あり、単純に電子化しただけで紙媒体版と同じ訴求力が生じるとは考えにくい。さらに一部電子版では版権の問題からか、紙媒体版にあったページが一部省かれているとの話も確認できており、悩ましい状況には違いない。
2019年10-12月期には3誌がまとめて部数非公開化に踏み切り、その状態が今期も続いているため、「三大アニメ誌」の動向の確認などが不可能となり、記事構成の大幅縮小の状態が継続している。部数の非公開化は発売元の出版社、あるいは編集部による判断である以上仕方がないが、褒められる話ではないのは言うまでもない。部数の非公開化という判断もまた、雑誌動向にかかわる情報となるからだ。
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