年齢階層別の平均賃金の移り変わり

2021/04/10 05:00

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以前と比べると随分と慣習としては薄れてきたが、それでもなお根強く残っているのが「年功序列制」。端的に説明するとエスカレーター式の出世・昇給制度で、年を取れば誰もが昇進し、給与も増えていく仕組みである。今でもその仕組みが半ば以上残っていることに違いはない。またそのような制度が明確化されていなくとも、同じ職場で経歴・経験を積めば有能な人材となり、その実力にあった評価がされれば、次第に昇格・給与の上乗せは望めることになる。それでは現在の日本においてはどの程度、年齢と賃金との間に関係があるのだろうか。厚生労働省が2021年3月31日付で発表した、賃金関連の情報を調査集積した結果「賃金構造基本統計調査」の最新版となる【令和2年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況】などを基に、年齢と賃金との関係を確認していくことにする。

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男女で異なる年功序列制的な動きの実態


今回検証する賃金とは、「賃金(所定内給与額)」を指す。これは先行記事【フルタイムの平均賃金は30万7700円・前年比でプラス0.6%(最新)】で解説の通り、ざっくりと説明すると「基本給に家族手当などを足したもの」。通常はほぼ固定して受け取れる額を意味する。また今件はフルタイム労働者を意味する「一般労働者」を対象としたもので、フルタイムなら契約社員や派遣社員も該当する。ただしパートやアルバイトは「一般労働者」ではなく「短時間労働者」なので、検証対象外となる。

↑ 雇用形態関連の分類。今件記事では「一般労働者」をチェックする。パートやアルバイトなどは除外
↑ 雇用形態関連の分類。今件記事では「一般労働者」をチェックする。パートやアルバイトなどは除外

まずは2020年における男女別・年齢階層別の平均賃金。

↑ 年齢階層別平均賃金(男女別、千円)(2020年)
↑ 年齢階層別平均賃金(男女別、千円)(2020年)

男性が50代前半まで年功序列制的に大きく上昇、以降は横ばいの後、下落傾向の動きをしている。女性もピークは男性とほぼ同じ50代前半(男性は数字の上ではピークは50代後半)だが、上げ幅は小さく、40代前半でほぼ上昇が止まっているような状態。他方、男女とも60代前半に大きな減少を示しているのは、(早期)退職で一度離職し、非正規社員として再雇用される事例が増えてくるからだと考えられる。

女性は男性と比べれば年齢階層間の差異は小さい。非正規社員率が男性と比べて高いことが影響している。

続いて同じ区分で前年比を計算したもの。

↑ 年齢階層別平均賃金(前年比、男女別)(2020年)
↑ 年齢階層別平均賃金(前年比、男女別)(2020年)

50代前半までは上下幅は誤差の範囲と判断できるレベルだが、50代後半から男女ともに大きな伸びを示している。特に男性は60代で3.0%以上の高い伸び率を見せているのが注目に値する。

2020年は新型コロナウイルス流行による景況感の悪化で労働市場が悪化し、完全失業率も増加したが、【年齢階層別完全失業率の推移】にもある通り労働力調査の実数値の限りでは、男女ともに若年層の方が完全失業率の値そのもの、そして前年比でも高い値を示している。高齢層の大きな伸びについて、「低賃金の人が多く解雇されたので、平均値の計算上、前年比で高い値が出た(高賃金の人の割合が増えた)」というわけではなさそうだ。

一部年齢階層の経年推移を検証


続いて過去のデータを絡めた、平均賃金の経年推移を年齢階層別に確認していく。男女のデータはそれぞれ存在するが、すべてを精査するとあまりにも雑多なものとなるので、男性に焦点をしぼることにする。まずは一番気になる人が多いに違い無い20代前半について。こちらは金額、さらには前年比の双方をグラフ化しておく。

↑ 年齢階層別平均賃金(20代前半男性、千円)
↑ 年齢階層別平均賃金(20代前半男性、千円)

↑ 年齢階層別平均賃金(20代前半男性、前年比)
↑ 年齢階層別平均賃金(20代前半男性、前年比)

金額の絶対額ではこの20年強の間ほとんど変化が無く、100円玉のやり取り程度の変化に留まっていた。しかし2014年以降は明らかに上昇の動きにあり、2015年以降は毎年最高額を更新し続けている。

2007年から2008年では景気動向(サブプライムローンショックにはじまる「金融危機」は2007年夏から)に反して上昇しているが、手取りが低い非正規社員(契約社員、派遣社員など)の失職が想定できる(実際、2008年分の該当属性の動向を見ると、前年比で正規社員はプラス1.6%なのに対し、非正規社員はマイナス1.3%を示している)。全体に占める「手取りの低い非正規社員」の比率が下がれば、その母体での平均賃金は上昇するからだ。なお上記で解説の通り、パートやアルバイトなどの「短時間労働者」は今件「一般労働者」=「フルタイム労働者」には該当しないことにも留意しておく必要がある。

直近の2020年に限れば賃金は前年に続き上昇。今回確認した期間内では最高値を更新し、当然のことながら金融危機ぼっ発直前の水準を超えている。2013年以降前年比でプラスを示し続けているのは、グラフの形状から見ても珍しい、そして喜ばしいパターンであることがうかがえる。

続いて30代前半-50代前半の前年比推移をまとめて確認する。



↑ 年齢階層別平均賃金(30代-50代前半男性、前年比)
↑ 年齢階層別平均賃金(30代-50代前半男性、前年比)

どの年齢階層でも2009年の下げ幅は大きく、前年秋に発生した「リーマンショック」がいかに多大な影響を及ぼしていたかを一目て確認できる。50代の下げ幅は今世紀初頭の不景気に匹敵する値に留まっているが、30代・40代はそれをも超えており、非常に厳しい状況。とりわけ40代は前年の2008年にも大きく下げており、畳み掛ける様な賃金の引下げなのが見て取れる。

直近2020年はといえば、30代はマイナス圏だが40代と50代はプラス圏。30代はここしばらくはプラス圏での推移が継続していただけに、残念な動きではある。

最後に、これらを一つにまとめたグラフを。

↑ 年齢階層別平均賃金(20・30・40・50代前半男性、前年比)
↑ 年齢階層別平均賃金(20・30・40・50代前半男性、前年比)

中期では30代前半が一番下側にいることに違いないが、金融危機ぼっ発以降(2008年以降)ではむしろ40代の下げ率が大きい。20-30代、50代と比べ、1ランク下の動きのように見える。この年代の男性非正規社員が増えたのか、あるいは元々賃金が高く、しかも下げやすい層として経営陣側に目をつけられた可能性はある。

これらのグラフから分かるのは、今回対象とした1993年以降(前年比では当然1994年以降)では多少の起伏があるものの、賃金に大きな上昇・下落の変移は無い(毎年プラスマイナス2%から3%内に収まっている)こと、そして年齢階層別に賃金の上下の点で格差が生じていること。すべての年齢階層で一斉に上昇・下落するパターンはほとんど無く、必ず互いに補完し合っているように見える。例えば2005年は30代・40代・50代がプラス、20代が大きくマイナスといった形である。今回はグラフが雑多になるため各年齢階層の後半(20代後半など)は略したが、仮に入れたとしても同じような傾向が確認できている。

ただし2009年は例外。補完云々などは無く、皆が大きく下落している。2009年の急落ぶりと翌年の反動(ただし前年比プラスの動きを示したのは20代前半と50代前半のみ)がいかにレアケースであったか、つまり「リーマンショック」の影響力の大きさが改めて理解できるというものだ。


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