運転免許の自主返納などで高齢者は不便を感じているのだろうか

2021/12/01 03:10

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2021-1124高齢者の人口比率の増加や一人暮らし世帯数の増加などを主な原因とし、高齢者による自動車の交通事故が社会問題化している。その対応策の一環として進められているのが、高齢者に運転免許の自主返納などを勧める動き。そのような社会の流れに応じる形で運転免許を自主返納などした高齢者は、どのような思いを抱いているのだろうか。自動車が運転できなくなったことで、日常生活に不便さを感じていないだろうか。内閣府が2021年3月に発表した調査結果【高齢者の交通安全対策に関する調査(令和3年3月)】を基に、その実態を確認していく。

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今調査の調査要綱は先行記事【高齢者の運転免許の自主返納などの理由、トップは「自身の運転に自信がなくなった」】を参照のこと。

最初に示すのは、運転免許を自主返納などした人に限定し、そのことで生活などに不便を感じているかを自分の印象・認識として尋ねた結果。居住地区により大きな違いが生じている実情が確認できる。

↑ 自主返納などにより不便を感じているか(自主返納者など限定、居住地区別)(2020年度)
↑ 自主返納などにより不便を感じているか(自主返納者など限定、居住地区別)(2020年度)

赤系統色が感じている派、青系統色が感じていない派で区分しているが、都市部では25.0%しか感じている派がいないのに対し、過疎地では60.5%と6割を超えるまでになる。感じている派が半数超えなのは過疎地のみ。これは都市部では公共交通機関が充実しているのに加え、日常生活に必要不可欠な店舗や施設が豊富にあり、自宅からの距離もさほどない場合が多いことが理由として挙げられる。自動車が運転できなくなっても、バスなどの代替手段を利用することは容易にできるし、歩きで行ける距離の場合も多々あることだろう。

例えば過疎地において6割強の人が自主返納などにより不便を感じていることになるが、具体的にはどのような不便さなのだろうか。感じている派に限定して上位3つ以内の複数回答で尋ねた結果が次のグラフ。トップには「買い物、お店などに行きにくくなった」がついた。56.8%の人が、自主返納などにより買い物やお店などに行きにくくなったと不便を感じている。

↑ 自主返納などで不便を感じている理由(自主返納者などのうちどちらかと言えば不便を感じている、不便を感じている人限定、上位3つ以内複数回答)(2020年度)
↑ 自主返納などで不便を感じている理由(自主返納者などのうちどちらかと言えば不便を感じている、不便を感じている人限定、上位3つ以内複数回答)(2020年度)

単純に自宅と商店との距離が離れていて歩きで行きにくくなったとの意味合いに加え、第2位についている「荷物を運ぶのが大変」の意味合いも含めて回答した人も少なからずいることが予想される。購入した商品が多い、重たいと手で持ち帰るのは難儀することが多くなるが、その難儀さは高齢者ならばなおさらだからである。最近では一部デパートやスーパーでは自宅配送サービスも行われているが、何かと制限が設けられている、さらには有料の場合もあることから、利用できる環境にあっても躊躇してしまうのだろう。

買い物などの商店にではなく、病院への通院がしがたくなったとの意見は35.7%。病気やケガによる通院は治療のためには必要不可欠ではあるが、病院が自宅から遠くにあると、歩きでは行きがたくなる。公共交通機関が使えればよいが、そのような都合のよい場所に病院があるとは限らない。

続いて「出かけたり外出先での滞在時間のハードルが上がった」で32.8%。これは外出先と自宅との距離があると、帰宅するまでにかかる時間を考慮した上で滞在時間を決めねばならないから。例えば自動車で10分で行ける・徒歩だと1時間かかる場所にある友人宅に遊びに行く場合、夕食の準備もあるので18時までに帰宅しなければならないとすると、自動車ならば17時50分ぐらいまでは友人宅にいることができるが、歩きの場合は17時に出なければならない。しかも歩きの場合、疲れた状態での徒歩の帰宅となるため、帰ること自体が面倒になるので、ならばそもそも論として友人宅に遊びにいくのを止めようとの判断すらするかもしれない。

「仕事がやりにくくなった」は意外にも2.5%にとどまっている。あるいは「荷物を運ぶのが大変」と混じってしまっているのかもしれない。

買い物や通院は必要不可欠な行為に違いないことから、不便さを感じてもし続けることに違いはない。しかし移動行為のハードルは上がり、ためらいを覚えるようになるかもしれない。実際、自主返納などをした後に外出頻度が減った人は、都市部で23.6%、過疎地だと55.8%にも達している。

↑ 自主返納などの前後における外出頻度の変化(自主返納者など限定、居住地区別)(2020年度)
↑ 自主返納などの前後における外出頻度の変化(自主返納者など限定、居住地区別)(2020年度)

自主返納などをしたことにより不便を感じた人の割合動向とほぼ同じで、都心部では少数だが過疎地では過半数の人が外出頻度が減ったと答えている。具体的にどのような外出行動が減ったのかまでは分からないが、通院を減らすことは難しいので、買い物や趣味の行動、友人との交流などが減ったことが想像される。それらの行為が減ることは、日常生活も不便さを覚えることになるし、精神的にもよいとは言えない。生活の質の維持向上のためにも、特に過疎地など生活環境があまり整っていない場所の人に向けて、自主返納などをした場合に代替手段となるものを提示することが必要なのかもしれない。


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