嵐の前の静けさ…2018年8月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇

2018/09/10 15:00

内閣府は2018年9月10日付で2018年8月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇し48.7を計上、基準値の50.0は割り込む状態が継続。先行き判断DIは前回月比で上昇して51.4となり、基準値の50.0を超える形となった。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、人手不足、コストの上昇などに対する懸念もある一方、秋物商戦や受注増等への期待がみられる」と示された。なお2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【平成30年8月調査(平成30年9月10日公表):景気ウォッチャー調査】)。

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現状は上昇、先行きも上昇


調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。

2018年8月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。

・現状判断DIは前回月比プラス2.1ポイントの48.7。
 →原数値では「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「よくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは48.1。
 →詳細項目は「住宅関連」「雇用関連」以外が上昇。「サービス関連」のプラス5.9ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「製造業」「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは前回月比でプラス2.4ポイントの51.4。
 →原数値では「ややよくなる」「変わらない」が増加、「よくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは50.4。
 →詳細項目では「飲食関連」以外が上昇。「小売関連」のプラス3.2ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「飲食関連」以外すべて。

2014年4月の消費税率引き上げの際に発生した、同年3月までの駆け込み需要の反動、そして税率上昇に伴う消費マインドの直接的・表面上の低下は同年5月頃から鎮静化の動きを示し、同年7月までにはほぼ収束している。

2014年秋以降は原油価格の大幅な下落に伴い、ガソリンや灯油価格も下落が生じ、直接自動車を利用する際のガソリン代の軽減に加え、輸送コストなどのコスト安がもたらされたことで、景況感を支え、立て直す形となった。また円安に伴い海外からの観光客が増加し、これが国内需要を喚起させる一因になっている。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念は小さくない。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、そろそろ消費動向に影響を与えてきそうではある。

なお冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が成されている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを生成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復している。昨今ではやや低迷、ぬるま湯的な軟調さと表現できる動きにあるのが気になるところ。

昨今では現状が軟調気味


それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(-2018年8月)
↑ 景気の現状判断DI(-2018年8月)

消費税率(2014年4月)改定からはすでに4年が経過したが、それによる消費者心理の深層部分におけるプレッシャーは継続中(税率がそのまま維持されていることに加え、消費者にとって日々の生活において欠かせない買い物のたびに意識する機会があるのだから当然ではある)。さらに食料品をはじめとする物価上昇を起因とした消費心理の減退が上乗せされ、その上社会保険料の重圧による可処分所得の低迷により、景況感は足かせ状態が続いている。

2015年春先以降の一時的な原油価格の上昇に伴いガソリン代は少しずつ値を上乗せしていたが、その後は緩やかに失速し、ガソリン価格もそれに従う形で2014年秋以降に落ち込んだ価格水準にまで再び下落。直接的な景況感の観点ではプラスの要素として継続(企業の収益構造上の話としてはまた別)。さらに円安を受けて海外からの観光客の流入が増加し、これが消費を後押しする形となり、特に小売やサービス部門で大きくプラスの影響を受けていた。

ところが2015年夏以降中国の景気後退、厳密には経済内情が外から見た状況よりも不安定要素を多く抱えていたことが株価の大幅下落、加えてそれへの当局の対応策などから暴露される形となり、世界的なリスク資産からの逃避や景況感の悪化の動きが生じ、その波が日本にも到来した感は強い。また債務危機の最大の山場をこえたと思われた欧州方面では、中東地域からの大量の移民・難民の流入、それを大きな要因とする中東地域における戦闘の激化もまた、世界市場の不安定要素として持ち上がり、日本国内の景況感にも不安要素としてのしかかる形となっている。

その上、原油価格の低迷感が続くことで、関連企業や原油輸出を大きな糧としている諸国の経済的不安定感が強まり、金融市場にも影を落とし、相場低迷に拍車をかけている。為替の変動と原油価格の動向が、日本の株式市場、さらには景況感を左右する主要因となっているほど。そして産油国の生産調整に関わる合意を受けて原油価格は上昇し、1バレルあたりの価格が50ドル強を推移するようになり、これまでの30ドルから50ドルでのボックス圏での動きと比べると随分と底上げされた形に。これを受け、ガソリンなどの価格も上昇の動きを示し、輸送分野をはじめと各方面へのコスト面の影響が懸念されていた。

その後は石油産出国の協調減産の動きを受け、さらに中東情勢の緊迫化もあり、原油価格は少しずつ上昇を示していた。原油価格の上昇にあわせて活動が活発化し市場の調整役・頭を押さえる役割を果たしている米国内のシェールオイルの採掘による生産量の増加も、影響は限定的。結果として日本国内のガソリンや灯油価格も上昇の動きに。米国内のシェールオイルの生産量がさらに増加を続け、1970年以来最大の量を記録したとのEIAの報を受けて原油価格は一時的に頭打ち、さらには下落の動きを示した。

しかしアメリカ合衆国の景況感の堅調さから生産量増加分も打ち消しになるのではとの思惑が強まり、さらにはシリアとイスラエルの紛争激化やアメリカ合衆国のイラン核合意からの離脱とイランへの経済制裁再開など中東情勢の緊迫化から、再び上昇の動きに転じている。増産による価格調整への動きとして7月頭を天井とし、やや値を落としつつはあるものの、高値感は継続中。

今回月の現状判断DIは総計で前回月から2.1ポイントのプラス、詳細項目では「住宅関連」「雇用関連」以外で上昇。もっとも大きな下げ幅は「雇用関連」が計上した0.8ポイント、もっとも大きな上げ幅は「サービス関連」による5.9ポイント。「サービス関連」の上げは「平成30年7月豪雨」により大きく下落した前回月の反動によるところが大きい。

景気の先行き判断DIは「飲食関連」のみが下げ。上げ幅は「小売関連」の3.2ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(-2018年8月)
↑ 景気の先行き判断DI(-2018年8月)

今回月で基準値を超えている詳細項目は「飲食関連」以外すべて。

「平成30年7月豪雨」の被害も落ち着き始めたが


発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状
・暑い日が続いたせいか、ドリンクやデザートがよく動いた。その分、例月よりも単価が上がっている(一般レストラン)。
・8月はイベントがあるので人出が多く、猛暑でタクシー利用が増え、夜の客の動きもあって景気がよい(タクシー運転手)。
・豪雨の影響も落ち着き、今夏は猛暑を受けて夏物衣料やUVケア用品等が好調に推移した(百貨店)。
・天候不順などで野菜価格の高騰が続き、いわゆる買い控えも見受けられる(スーパー)。

■先行き
・秋の新商材発売を前にして、予約希望の声が想定よりも多く、今後の売上の底上げが期待できる(通信会社)。
・気温の変動が大きいため、秋物衣料品の立ち上がりが早くなる見込みである(百貨店)。
・平成30年7月豪雨災害の復興に向けた国と県の支援による被災地への観光客の誘致施策が始まっており、自粛ムードもやや薄れている気配がある。一般の物販や外食での個人消費、個人イベント開催も回復しており、今後は秋の観光需要や法人企業の利用も回復してくる(都市型ホテル)。
・大きく何かが変わるような要素が見当たらない。原材料費や人件費、輸送費のコストアップ分がじわじわと利益を圧迫する状態が続いている(一般レストラン)。

前回月は「平成30年7月豪雨」の影響が大きく足を引っ張られる形だったが、今回月ではその影響も落ち着き、むしろその復興への動きの期待、そして猛暑で動く季節商品の成果や期待が見受けられる。また、早くも秋関連の商品へ期待を寄せる声もある。

企業関連の景況感では猛暑がプラスの影響を示しただけでなく、「平成30年7月豪雨」が直接、さらには間接的に企業動向をけん引したとの話が多々見受けられる。

■現状
・猛暑の影響により飲料関係の需要が増加したことにより、容器の販売が増加した。半導体向け需要は引き続き好調である(化学工業)。
・平成30年7月豪雨などを踏まえた災害対策工事の発注がかなり出てきた。入札の落札はできていないが、かなり発注数が多くなっている。解体工事を順調に受注している(建設業)。

■先行き
・平成30年7月豪雨の被害によるJRコンテナの不通区間が解消されコンテナ輸送が通常に戻ることに加え、大型移転業務の受注もあり収入増が見込める(輸送業)。
・当初の生産計画に対して増産傾向である。また、新規車両も3か月後に生産がスタートする(輸送用機械器具製造業)。

原油価格は高止まりの中にあり、燃料費の増加は負担となっているはずだが、少なくとも全国規模の概要ではその声は見られない。

雇用関連では人手不足に関わる多様な意見が見受けられる。

■現状
・建設業の受注は堅調に推移しているが、人手不足で大きな工事を予定どおり仕上げることに苦慮している。急募求人に力を入れているが、苦戦している(求人情報誌製作会社)。

■先行き
・求職者が少なくなり、派遣単価が上がる予定である。単価が上がれば、求職者が増えて派遣人数も増加すると予測している(人材派遣会社)。

人手不足は相変わらずだが、「単価が上がれば求職者が増えて」とのコメントを見るに、これまで労働市場の変化に伴う十分な単価のアップをしてこなかったのかという疑念も沸いてくる。需給の関係の変化に伴う、適切な対応をしてこなければ、状況の維持、さらには改善を期待するのには無理がある。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計29件、先行き計54件、合わせて83件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好12件、やや良好29件、不変98件、やや悪い18件 悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

人手不足を言及するコメントを精査すると、「人手不足と広範囲の業種で言われているが、中小企業では賃金など求人条件を改善するまでには至っていない」「中小零細企業では、人手不足、原料費や運搬・輸送費の高騰などを理由に利益が上がらないとの声を聞いた」「人手不足に加えて、残業規制の推進により、当地の企業では更に受注業務をこなすことができない企業が増え、受注制限につながることが予想される」「小規模・零細事業所においては中長期的な見直しを行う余力もなく、現状を維持するのに精一杯な企業が多い」などのように、雇用市場の変化に対応しようとしない、できない企業において、人手不足感が強いとの印象を受けるものが少なからず見受けられる。

他方、現状を見据えた上で「昨今特に感じることは人手不足、給与条件のアップである。フルタイムでない労働者の条件は、無期雇用と人手不足から20%ほど急激に上がった。よりよい条件を求めて定着率も急激に下がり、求人や人材育成の繰り返しにより正社員の仕事を増やし、忙しくしている」「人手不足を解消するために、従業員に資格を取得させ人材育成を行う企業や、業務の方法、労働条件などを様々な角度から見直し、生産性向上につなげている企業もある」「業界全体で労務改善をしなければ上向きにならない」などのように、問題意識を明確にし、状況改善へとかじ取りをする企業の動きもある。

また派遣業態に限れば「求人者における人手不足感は強いが、若年労働力の確保、退職技術者の確保など、企業経営の継続を理由としたものへとシフトしており、派遣求人は減少傾向にある」「派遣先企業は、派遣期間が3年となるスタッフを直接雇用に切り替えつつあるが、これは昨今の人手不足の状況をみれば仕方がない。将来、リーマンショックのような問題が起きた時にどうなるかは常に頭をよぎる。大変な時期にきているが、おおむね景気は好調に推移する」などのように、派遣社員の起用よりも直接雇用へと企業の考え方も変わっているものの、派遣業者の立場としては景気が悪化した時にそれらの人達が真っ先に解雇されるのではないかとの懸念を持つところもある。

「働き方改革」に関しては「引き合い、商談件数、受注量ともに増加傾向にある。働き方改革、IoT、AIなど、情報化投資への意識が経営層に出てきたことも影響している」のようなポジティブな意見がある一方で、「働き方改革や残業問題などにより、深夜の利用客が本当にいなくなってしまった」「働き方改革による時間外労働の規制強化が、企業の攻めの戦略を塞いでいる」などの否定的な意見も見受けられる。

人手不足で受注できない、受注を抑えている、売上が伸びないとの意見は多い。しかし果たしてその人手たる従業員に対して、どこまで現状の雇用市場に対応する姿勢を示しているのか、その点までは今調査のコメントから確認できないのは残念ではある。種も蒔かずに育てもせずに肥料や手間をふところに納め、いざとなったら果実が欲しいと騒ぐのは、あまりにもむしがよい話ではある。ましてや人手不足の状況では育てられていなかったのは果実では無く、人である。また、雨が降ってきたのに「これまで晴れていたし、傘を取りに帰るのは面倒くさいし、買うのはもったいない」からと、ずぶ濡れのままで歩き続けるのは、愚か者の所業に違いない。



多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。

昨今では可処分所得を削り取る大きな要素である社会保険料の軽減を果たすための、社会保障の抜本的な見直し、以前実施されていた定率減税の復活など、打てる手立てを打ち、消費を底上げし、世の中に循環するお金の量を継続的に増加させる必要がある。少しずつの後押しでは人の心境はすぐに慣れ、当たり前のものと認識してしまうため、それだけに限らず、同時に大きな喝を与えるような策を定期的に打ち出す方が効果は高い。雑誌ならば売り上げを伸ばすため、人気作品を何本も連載するとともに、目を引く、話題を集める大作を定期的に掲載するようなもの。

世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。

もっとも昨今では直接影響のある半島情勢が緊迫化している。また米国の貿易政策に多くの企業が直接、間接的に懸念を持っている。双方とも景況感、消費にはマイナスに作用するだけに始末が悪い。

数か月先のことでは無く、数年、数十年先を見越した、長期にわたる展望が期待できる政策、例えば上記で挙げた社会保障の抜本的な見直しに加え、社会リソースの若年層に対する重点配置、現状のあまりにも少ない配分比率の変更といった、抜本的な転換のかじ取りが求められよう。

昨今問題視されている、そして報道では得てして否定的に取り上げられている人手不足にしても、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題ではある。そもそも現状求められている労働環境は、本来正当なものとして就業者側に与えられているべきものでは無かったのか。皆がやっているから、昔からそうだったから、経営側にプラスとなるからという安易な理由での施策に過ぎないのであれば、それを正論化する裏付けは無い。

現在の社会環境が本来あるべき姿になるために、必要なコストの水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは状況が異なること、昔がこうだったから今もこうだという判断は正しくないという現実を、認識すべきではある。

なお次回分となる2018年9月分は、台風21号による西日本、平成30年北海道胆振東部地震による北海道の大きな影響が反映されることとなる。少なからぬ下落が予想されよう。


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