全社とも売上はプラス…牛丼御三家売上:2018年4月分

2018/05/08 04:00

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2018年5月7日、吉野家における2018年4月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス7.0%となった。これは先回月から続く形で、6か月連続のプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年4月における売上前年同月比はプラス2.3%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス1.1%との値が発表された。今回月は3社とも前年同月比でプラスを計上する形となった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前年同月比)(2018年4月)
↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前年同月比)(2018年4月)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。前年同月(2017年4月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス4.4%、客数はマイナス12.2%、売上はマイナス8.4%。よって今回月では客単価でマイナスの、客数と売上高ではプラスの補正(反動)が加わることになる。

今回月においては「毎日80円引き!定期券」の使用期間で利用客数の増加が望める状況となる一方、4月26日からは「炙り塩鯖󠄀定食」「鶏すき丼」の発売を開始している。双方とも家庭での食事を思わせる内容だが、特に「炙り塩鯖󠄀定食」は目の前で炙る演出が高ポイントとなっている。


↑ 吉野家 炙り塩鯖牛定食(公式紹介動画)

結果として客単価はプラス2.5%と伸び、客数もプラス4.4%と伸長、売上はプラス7.0%を計上する形となった。3社の中では一番大きな売上高の伸びとなる。とはいえ前年同月からの補正があるので、後述する通り2年前同月比を試算すると、唯一マイナスとなるのが実情。

昨今の動向を視点を変えて眺めると、興味深い結果も導き出せる。昨今では吉野家に限らず各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が多分に生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年にわたった変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすればよい。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると1.0%のマイナスとなる。

↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前々年同月比)(2018年4月)
↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前々年同月比)(2018年4月)

吉野家における今回月の客単価・客数・売上高の増加は、2年越しに見ると客単価はともかく客数と売上高に関しては、反動の域を超えたものでは無かったことが分かる。

前年同月比だけで無く、前々年同月比で見ても、3社が主力商品の値上げによって客単価の引上げを行い、客数の減少を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる。中でも松屋はここ数か月にわたり2年前同月比でも売上でプラスを計上しており、調整を終えた感は強い(客数がやや弱いのが気になるところ)。すき家は松屋に続く形で2年前同月比での売上プラスを計上し続けている。そろそろすき家も調整終了の判断を下してもよいのかもしれない。

続いて松屋。今件記事、あるいは店舗数などを精査する連動記事などでも触れている通り、松屋が運用するとんかつ系の店舗松のや・松乃家・チキン亭の専用公式サイトを2016年7月末にオープンして本腰の入れ具合を改めてアピールする一方で(今記事における松屋の既存店のデータに関しては、2008年4月以降はとんかつ事業、鮨事業、その他業態の既存店は除いてある)、今回月では2018年4月3日から「ごろごろ煮込みチキンカレー」、4月17日から「ごろごろチキンのてりたま丼」、4月24日から「ブラウンソースチーズハンバーグ定食」の発売を開始している。また定食のライスに代わりさっぱり塩ダレおろし豆腐の注文が可能になる選択肢の導入を4月17日から開始するとともに、4月10日から1週間にわたり「春のカルビ増量キャンペーン」を実施している。

さらに【やはり松屋も値上げ、4月3日から実施】でも伝えている通り、4月3日からは多数のメニューの価格引き上げを実施した。

結果として4月の業績は客単価がプラス4.2%、客数はマイナス1.8%となり、売上はプラス2.3%を計上。2年前同月比では売上高はプラス5.4%とそれなりのよい値を見せている。

最後にすき家。今回月は2018年4月18日からサラ旨ポークカレーと低アレルゲンお子様カレーの変更を行うと共に、うな丼などのうなぎシリーズのメニューの展開を開始している。

結果として客単価はプラス4.0%と増加、客数はマイナス2.7%となり、売り上げはプラス1.1%を示した。2年前同月比では客単価を大きく伸ばして客数のマイナスをカバーし、売上高はプラス6.4%を計上している。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店、前年同月比)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店、前年同月比)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。

ただし吉野家に限ると(鍋以外でも)単月で大きくぶれる傾向があり、全体的にもマイナスの領域にいる機会が増えてきた。2017年10月のように台風のようなイレギュラー的起因に加えて前年同月における特需の反動があり、目立つ形での大幅減が生じるようなパターンが少なく無い。経営施策の上で安定感にやや欠けると解釈することもできる。それゆえに、2018年2月のプラス30%超えがひときわ目立つのもまた吉野家らしいところではある。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。ここ数年において何度か生じている小規模な跳ね方は、何らかのイベントによるもの。2015年10月の松屋とすき家は牛めし・牛丼の期間限定の値引き、2016年10月の吉野家の急上昇はソフトバンクとのタイアップ企画の成果によるもの。そして前回月の50%超えもまたソフトバンクとのタイアップ企画の結果。取得できている2006年1月分以降に限れば、客数の前年同月比が5割以上のプラスを計上したのはつい最近の2018年2月が初めて。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)

低迷していた客数が前年同月比でプラスに戻り始めたのは、松屋では2015年10月からとなっている。直近7か月は前年同月の反動からわずかなマイナスに転じているのが気になるところだが、これは2年前同月比の動向からも分かる通り、絶対数として安定期に入ったとの解釈もできる。他方すき家は2016年に入ってからは上げ下げが続いており不安定感は否めなかったが、2017年に入ってからはプラス圏へと浮上の機会をうかがう動きを見せている。吉野家は2016年2月からプラス圏に顔を見せ始めたが、2016年の後半以降は大きな上下を繰り返しており、2017年に入ってからはほぼマイナス圏に沈んでいる。直近数か月のプラス圏入りは前年同月の反動によるところも大きく、復調したか否かはもう少し様子を見極める必要がある(本来ならば2年前同月比のグラフも生成するべきなのだろう)。無論、2018年2月の跳ね上がりは特需によるもので、中期的な動向勘案には参考にならない。

中期的な流れを見ると、単純な前年同月比だけで無く、2年前同月比の試算結果でも、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示して「いた」。客数だけを見ればゼロ以下の薄いオレンジ色の領域にある機会が多かったことから「低迷していた」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を併せみると、新たな側面、具体的には客数と客単価における新たなバランスへのシフトの動きも見えてくる。

松屋は2015年の末ぐらいから、客数・客単価ともに大きな幅では無いものの大よそプラスを計上し続けている。1年以上も経過していることから単なる反動の領域はすでに超えている。「バランス調整」を終え安定期に入り、次なるステップに歩みを進めているように見える。すき家もここ1、2か月ぐらい前からは松屋に続き、その流れにシフトしたのかもしれない。すき家の2017年11月における値上げはその調整終了を見越した上でのものである可能性も否定できず、松屋が2018年4月からの値上げをしたのも、それが遠因と解釈することもできる。つまり「次なるステップ」は商品価格の引き上げとする見方だ(それがメインなのか、あるいは別の施策のための土台作りなのかは不明だが)。

他方吉野家は客数の変動が大きく、客単価と客数のバランス調整に苦慮しているようだ。相次ぐ大型タイアップ企画やご当地鍋の内容差し替えに代表されるように、何とかリカバリーをしようと多種多彩なイベントを繰り出している感は強い。

サラ牛また昨今の新商品やサービス展開を見るに、牛丼にイメージしがちな安かろう・悪かろう的な非健康的印象を払拭し、健康的な食生活の中に牛丼を据えさせようとの意図も見受けられる。2017年9月からスタートした「晩ごはん」や、矢継ぎ早に提供している機能性表示食品がよい例。その施策が的を射たものとなるか否かは今後の業績次第だが、「晩ごはん」も続々新しいメニューを投入しており、今後の動きが気になるところ。「アレンジDA!BEEF」に代表されるように、家庭の食卓にも吉野家ブランドをより一層浸透させようとする思惑もつかみ取れる。店舗で食するファストフードとしての牛丼だけで無く、外でのちょっと時間をかけた夕食の候補として、さらには自宅での食事としても吉野家をという、新たな市場開拓と見るべきか。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が成されれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界としてよく比較されるハンバーガーチェーン店では、かつて方向性の確定に苦慮していたマクドナルドが苦戦を強いられていた。最近では独自色の軸(具体的には定番メニューを廉価で提供するとともに、高単価で魅力的な期間限定メニューを相次ぎ投入する)を確立し、迷走を終え、自らの個性を磨きながら強い歩みを見せている。

店舗数動向においても、松屋では牛丼専門店はほぼ横ばいのまま、フライ系店舗を漸増させており、店舗業態の上でも多様化の方向性にあるようにみえる。あるいはフライ系店舗への注力増加こそが、次なる施策なのかもしれない。ただし2017年後半からはフライ系店舗だけで無く牛丼店としての松屋の数も増加している。何か戦略に変更が生じた可能性はある。

吉野家の次の一手はどのようなものになるのか。「晩ごはん」がその一手として有効打となりうるのか。高齢者・介護方面への気配や多方面の食の場への展開の姿勢も見せているが、恐らくはそれだけに限らず、複数のカードを胸に秘めているに違いない(ソフトバンクとのタイアップのような刺激が強すぎるものは、ドーピング的な効果以上のものは望めない。繰り返し行えば弊害の方が大きくなる)。またすき家も数年前の「ワンオペ問題」から立ち直り、数字の上では堅調な動きを示している。こちらもエネルギーを貯め込み、それを吐き出す形での画期的な商品展開、施策を見せる可能性は否定できまい。松屋も最近では少しずつ、持ち帰り形式で自社商品の家庭への浸透を推し量る商品展開を進めているのが目に留まる。松屋もすき家も値上げが切り札とはとても思えないだけに、それぞれにおける、今後切られるカードが楽しみだ。


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