吉野家・松屋・すき家全社で前年同月比プラス…牛丼御三家売上:2017年3月分

2017/04/06 05:00

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2017年4月5日、吉野家における2017年3月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス1.1%となった。これは先月から転じる形で、4か月ぶりのプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」などの同年3月における売上前年同月比はプラス4.2%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス0.2%との値が発表された。今回月は3社そろって前年同月比でプラスの売上を計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2017年3月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2017年3月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2016年3月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス1.6%、客数はマイナス4.6%、売上はマイナス3.0%。よって今回月では客単価でマイナス、客数と売上でプラスの補正(反動)が加わることになる。

今回月においては3月9日から「豚スタミナ丼・定食」、3月16日からは朝定食として「辛子明太子定食」の展開を開始している。また3月31日からは「春の300円まつり」と称して定番アイテムの期間限定300円セールを始めている。

結果としては客数はプラス0.4%、客単価はプラス0.8%、売り上げはプラス1.1%。前年同月の結果における補正でどうにかプラスを計上した感はある。とはいえプラスには違いない。ただし今回月では月末の31日付で【通期連結業績予想の修正に関するお知らせ】を発表しており、その中で「既存店客数が伸び悩み、吉野家を中心とした国内主要セグメントの売上高が計画未達となり」との言及が確認できる。客入りの減退ぶりは想定以上のものであることがかいま見れる。

視点を変えてみると興味深い結果も導き出せる。昨今では吉野家に限らず各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が多分に生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば松屋なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると3.2%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2017年3月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2017年3月営業成績(既存店)(前々年同月比)

吉野家における今回月の客単価・客数・売上高の増加は、2年越しに見ると売上・客数の観点ではマイナスとなる。特に客数の減り方が大きい。客単価の底上げ施策は進んでいるが、それ以上に客足が遠のき、売り上げが落ち込んでしまっている。まさに「通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」で言及されている通りではある。

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、2度に渡る主力商品の相次ぐ値上げをしている吉野家だけでなく、3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる。ただし松屋はここ数か月、2年前同月比でも客数・客単価共にプラスを示しており、他社に一歩先んじて、次なるステップに向けた歩みを始めているようにも見受けられる。

続いて松屋。今件記事、あるいは店舗数などを精査する連動記事などでも触れている通り、松屋が運用するとんかつ系の店舗松のや・松乃家・チキン亭の専用公式サイトを2016年7月末にオープンして本腰の入れ具合を改めてアピールする一方で(今記事における松屋の既存店のデータに関しては、2008年4月以降はとんかつ事業、鮨事業、その他業態の既存店は除いてある)、今回月では3月7日から「ビーフカレー」、3月21日から「チキングリル定食」の発売を開始している。また定食のライスを温豆腐に変更できる選択肢の提供を始めるなど、ヘルシー需要にマッチした施策も見受けられる。

結果として3月の業績は客単価が1.5%とプラス、客数は2.7%のプラスを示し、売上は4.2%のプラスと大幅なプラスを計上している。2年前同月比では上記の通り3社のうちで客単価こそすき家に及ばないが、客数では唯一のプラス、売上高では最大の上げ幅を計上している。

最後にすき家。新しいメニューとしては3月2日から「塩さば朝食」の販売店の拡大を行い、3月15日からはハイソなメニュー「黒毛和牛のビーフカレー」と長年のメニュー「キムチ牛丼」のリニューアル販売を開始している。これに合わせて昨月発売を開始した「牛すき焼き丼」などは終売となった。

結果として客単価はプラス2.7%と大幅に増加、その分、客数はマイナス2.4%と減らしたが、売り上げはプラス0.2%を示し、ぎりぎりながらもプラスを示した。2年前同月比のグラフを見れば客数は減少傾向だが、その分を客単価が補っている。長い目で見ればポジティブ、客単価の調整には成功していると評することができる。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2017年3月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2017年3月)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。ただし吉野家に限ると(鍋以外でも)単月で大きくぶれる傾向があり、経営施策の上で安定感にやや欠けると解釈することもできる。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)メインとなる牛丼・牛めしをはじめ各商品の価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年以上が経過しているため、消費税率改定による客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが(イベントによる減退が生じた場合、次年はそのイベントの影響が無くなっているため、特異的に減少した値との比較によって大きなプラスが生じ得る)、相変わらずマイナス値のままで低迷した状態が続いていた。

何度か生じている小規模な跳ね方は、何らかのイベントによるもの。2015年10月の松屋とすき家は牛めし・牛丼の期間限定の値引き、2016年10月の吉野家の急上昇はソフトバンクとのタイアップ企画の成果によるもの。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2017年3月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2017年3月)

客数が前年同月比でプラスに戻り始めたのは、吉野家が2016年2月から、松屋が2015年10月からとなっている。他方すき家は2016年に入ってからは上げ下げが続いており不安定感は否めない(やや下値圏とすら評価できる)。また吉野家も2016年の後半以降、大きな上下を繰り返しており、松屋の安定的なプラス圏での値動きとは対照的。松屋と吉野家の2017年2月の下げは、前年同月がうるう年による日取りの関係によるもの。

中期的な流れを見ると、単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果でも、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示して「いた」。客数だけを見ればゼロ以下の薄いオレンジ色の領域にある機会が多かったことから「低迷していた」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面、具体的には客数と客単価における新たなバランスへのシフトの動きも見えてくる。

松屋はここ数か月の間、前年同月比でも2年前同月比でも客数・客単価共に大きな幅では無いもののプラスを計上し続けている。客数に限れば上記グラフのように2015年後半以降安定した成長ぶりを示し続けているのも合わせ、「バランス調整」を終え、次なるステップに歩みを進めているようにみえる。

他方吉野家とすき家、特に吉野家は客数の変動が大きく、ここ数か月は2年前同月比でもマイナスを計上していることからも分かる通り、客単価と客数のバランス調整に苦慮しているようだ。2016年10月のタイアップ企画やご当地鍋の内容差し替えに代表されるように、何とかリカバリーをしようと多種多彩なイベントを繰り出している感は強い。先日の業績予想下方修正もその苦しみが数字化されたものと解釈できる。

吉野家では2017年2月1日から、高齢者向けとして介護施設を対象とした業務用商品「吉野家のやさしいごはん」の提供を開始する(店頭販売は無し)。四方八方を尽くして邁進しようとする姿勢が見受けられる。今後十年単位で介護向け食材は一定規模の市場を期待でき、現役世代に牛丼の味を覚えた人が高齢化して同じ味を求めると考えれば、大きな需要も容易に推測が可能なものとなる。具体的な動向には注目したい(決算短信などの説明でその実情をうかがい知ることができよう)。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が成されれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、かつて方向性の確定に苦慮していたマクドナルドが苦戦を強いられていた。最近ではようやく独自色の軸(具体的には定番メニューを廉価で提供すると共に、高単価で魅力的な期間限定メニューを相次ぎ投入する)を確立し、迷走を終え、強い歩みを見せている。

吉野家やすき家はまだ四苦八苦の中にあるようだが、松屋に見られるリバランスが済んだ兆しを覚えさせるここ数か月の動向は、次なる施策を踏み出すタイミングであることを意味している。数字の限りでは客単価を維持しつつ企画を多様化し、客数を伸ばす姿勢のようだ。店舗数動向においても、牛丼専門店はほぼ横ばいのまま、フライ系店舗を漸増させており、店舗業態の上でも多様化の方向性にあるようにみえる。

吉野家やすき家の次の一手はどのようなものになるのか。吉野家は高齢者・介護方面への気配も見せているが、恐らくはそれだけに限らず、複数のカードを胸に秘めているに違いない。またすき家も数年前の「ワンオペ問題」から立ち直り、数字の上では決して悪くない動きを示している。こちらもまた、リバランスにめどが立ち次第、新たな施策を見せる可能性はある。あるいは4月5日から発売を開始したロカボ(低糖質)商品「ロカボ牛麺」「ロカボ牛ビビン麺」が、新たな方向性の兆しなのかもしれない。


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