「おそ松さん」特需は去り、個々の独自性による伸びがちらほら…少女・女性向けコミック誌部数動向(2016年4月-6月)

2016/08/08 11:00

加速度的に展開される技術革新、中でもインターネットとスマートフォンをはじめとしたコミュニケーションツールの普及に伴い、紙媒体は立ち位置の変化を余儀なくされている。すき間時間を埋めるために使われていた雑誌は大きな影響を受けた媒体の一つで、市場・業界は大変動のさなかにある。その変化は先行解説した少年・男性向け雑誌ばかりでなく、少女・女性向けのにも及んでいる。そこで今回は社団法人日本雑誌協会が2016年8月5日付で発表した「印刷証明付き部数」の最新値(2016年4月から6月分)を用い、「少女・女性向けコミック系の雑誌」の現状を簡単にではあるが確認していく。

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トップは少女向けはちゃお、女性向けはBE・LOVEで変わり無し


データの取得場所に関する説明、「印刷証明付部数」など各種用語の解説、さらには「印刷証明付き部数」を基にした定期更新記事のバックナンバーは、一連の記事まとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】に掲載している。必要な場合はそちらを参照のこと。

まずは少女向けコミック誌の現状。内容の限りではターゲットとなる読者層は比較的年齢が若い世代、未成年でも高校生ぐらいまでが対象。今四半期も前四半期同様、脱落・追加雑誌は無し。また改名・リニューアル誌も無い。一時期は改名、リニューアル、休刊が相次いだだけに、平穏無事なだけでも嬉しい話には違いない。

↑ 2016年1-3月期と最新データ(2016年4-6月期)による少女向けコミック誌の印刷実績
↑ 2016年1-3月期と最新データ(2016年4-6月期)による少女向けコミック誌の印刷実績

少女向けコミック誌ではトップは「ちゃお」。第2位の「別冊マーガレット」に2.5倍ほどの差をつけており、少年コミック誌の「週刊少年ジャンプ」的な群を抜く部数の多さ。この圧倒的差異をつけた状況は、現在データが取得可能な2008年4月から6月分の値以降継続している。今回計測期は大きな下落を示しているが、これは元々同誌が毎年この四半期に大きく部数を落とすのが主なが原因。ただし同誌は前四半期、さらには前年同期比でも小さからぬマイナス値を計上している。先に話題に登ったATM型貯金箱をはじめ、魅力的な付録の数々も、今四半期では部数の支えにはならなかったようだ。

第2位の「別冊マーガレット」と第3位の「りぼん」は僅差で競っており、何かイレギュラーな動きがあればすぐにでも順位は入れ替わりそう。そしてその後に「花とゆめ」「LaLa」「Sho-Comi」「なかよし」がほぼ同列で続き、その他諸々が後を追いかけている。前四半期と比べ各誌とも部数に大きな変化は無く、順位変動も見られない。

続いて女性向けコミック誌。想定読者層は「少女向け」と比べてやや高めの年齢層。内容的には実質的に大人向けが多く、子供にはあまりお勧めできない(いわゆるR指定は無いが、その判断を下されてもおかしくない雑誌、連載も多い)。発行部数は少女向けコミックと比べて少なく、横軸の部数区切りの数字も小さめ。

↑ 2016年1-3月期と最新データ(2016年4-6月期)による女性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2016年1-3月期と最新データ(2016年4-6月期)による女性向けコミック誌の印刷実績

トップの「BE・LOVE」(主に30代から40代向けレディースコミック誌)がやや突出、「YOU」「プチコミック」が続く。トップ以外の部数は各誌でそれぞれ類似順位他誌と一定の差異があり、並べるときれいな傾斜ができていた。ただし第2位と第3位の雑誌はここしばらく激しいつばぜり合い、さらには順位の差し換えの動きを続けており、今四半期では「YOU」がやや大きく落ちたものの、第2位の順位はかろうじて維持できる結果となった。

すでに以前の記事で解説しているが、「ザ・デザート」は【THEデザートについてのお知らせ】にもある通り、2015年10月10日発売の11月号をもって休刊するとの話が公式に発表され、すでに休刊してしまっている。前四半期から当然「ザ・デザート」は部数の計上がされなくなったが、さらに姉妹誌の「デザート」も紙媒体版が刊行中ではあるものの非公開となってしまった。何かの配慮があったのかもしれないが、今四半期で再び値を計上しており、一安心ではある(現時点でも前四半期の「デザート」の値は補てんされていない)。

少女・女性共に1誌ずつ飛びぬけ増加…四半期変移から見た直近動向


次に前四半期と直近四半期との部数比較を行う。雑誌は季節で販売動向に影響を受けやすいため、精密さにはやや欠けるが、大まかに雑誌推移を知ることはできる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少女向けコミック誌)(2016年4-6月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少女向けコミック誌)(2016年4-6月期、前期比)

プラス領域は「LaLa DX」「別冊花とゆめ」の2誌、マイナス領域は10誌で、誤差範囲(5%内の幅)を超えた下げ幅を示したのは「ちゃお」「ザ・マーガレット」「Cheese!」の3誌。少女向けコミックは概して第1四半期(1-3月期)に1年のうちもっとも部数を増やす傾向がある。これは小学生向け学習誌と同じ傾向で、新学期の子供に向けた定期購入者(を検討する試し買いの人)による底上げが原因。結果、次の四半期では下げに転じる雑誌が多くなる次第。「ちゃお」は特に前四半期で大きく伸びたため(プラス10.2%)、その反動も大きくなってしまう。

マイナス圏の「なかよし」だが、該当期間内の発売号では【なかよし7月号が「CCさくら」効果で完売、3年4か月ぶりとの話】でも伝えたように、「CCさくら」の新作が始まったことで、幅広い層から受け入れられ久々の完売となった。しかしそれでも売り上げを前四半期比で(さらには後述するが前年同期比でも)プラスに転じさせることはかなわなかった。

他方、大きなプラスを示した「LaLa DX」だが、複数の要素が確認できる。

↑ LaLa DXの部数推移(2016年4-6月期まで)
↑ LaLa DXの部数推移(2016年4-6月期まで)

グラフを読みなおすと今四半期だけでなく、この一年ほどの間にトレンドを上向きに転換させている。該当期間内でも人気作品の「恋だの愛だの」が完結に向けた盛り上がりを見せ、最終回掲載号ではアイナナSSRのコードが付録として用意された。またそれと前後して「ヴァンパイア騎士」の続編「ヴァンパイア騎士 memories」がスタートするなど、手持ちの人気作品に係わる大きな動きがあり、それが部数のけん引役となったようだ。他の業界によるビッグウェーブに乗る形で無く、自ら波を創って様になる動きを見せるのは、一番効率が良く、大きな機運をつかむことができるため、それが可能であればもっとも望ましい形には違いない。

プラス2.5%を計上した「別冊花とゆめ」だが、こちらは「ガラスの仮面」50巻の一部を先読みできる小冊子が付録の号の展開によるもの。

↑ 別冊花とゆめの部数推移(2016年4-6月期まで)
↑ 別冊花とゆめの部数推移(2016年4-6月期まで)

同誌は美内すずえ氏の「ガラスの仮面」の再開に伴い部数の盛り上がりを見せたものの、ほどなく休載。そしてその後現在に至るまで連載再開には至っていない(2012年7月号分が最後の掲載。また単行本の第50巻も今なお「発売延期となりました。申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください」の説明がなされている)。他方面への展開は行われているものの、肝心の本編がいまだにストップしたままなのが現状。それゆえに、今回の小冊子はようやく動き出したのかとの期待を持たせるのには十分な話だったに違いない。ただ実購入者の意見は多分にして「量が少ない」と以下略状態のため、次四半期以降もその期待度と部数が膨らんだままになるかは疑わしい。

続いて女性向けコミック。1誌が飛びぬけてプラス、プラス圏が他に2誌。マイナス圏は7誌で、誤差範囲以上の下げ幅が1誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック)(2016年4-6月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック)(2016年4-6月期、前期比)

ダイナミックな上昇を示した「フラワーズ」。これは【月刊フラワーズ増刷、「ポーの一族」続編が人気】で伝えた通り、同誌で人気作品「ポーの一族」の続編「ポーの一族 春の夢」がスタートしたことによるもの。当時の作品のファンがこぞって注目し買い始めたため、雑誌としては珍しく増刷が決まり、報道もなされるようになった。

さらに「ポーの一族 春の夢」の人気ぶりを示すのが、連載開始となる2016年7月号に限り、「フラワーズ」が電子書籍化されたこと。これについて出版社側では次のように説明している。

本電子書籍は「月刊フラワーズ」2016年7月号紙版で売り切れ店が続出した為、急遽製作されました。次号以降「月刊フラワーズ」デジタル版が配信される予定はございません。本電子書籍内の目次・広告・価格表示等は全て紙で発行した当時のものとなります。一部記事のラインナップが紙版と異なる場合がございます。また、読者アンケートへの応募は出来ません。何卒ご了承ください。

まるで震災時に流通網の混乱から緊急措置として電子書籍化されたような、それほどのイレギュラーな状態であったことが分かる。また特定の読み切りや付録を目当てとしたものでなく、連載作品に対する期待・注目による売り上げ増であることから、今後もセールは今四半期同様に高い値を維持し続けるものと思われる。

↑ フラワーズの部数推移(2016年4-6月期まで)
↑ フラワーズの部数推移(2016年4-6月期まで)

「ポーの一族 春の夢」は不定期連載で、次の掲載は冬予定となっているが、現時点では未定。作品内容はもちろんだが、「フラワーズ」の部数も合わせ、次回以降が楽しみな状況には違いない。

軟調誌多し…前年同期比


続いて「前年同期比」による動向。年ベースの変移となることから大雑把な状況把握となるが、季節による変移を考慮しなくて済むので、より確かな精査が可能となる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少女向けコミック誌)(2016年4-6月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少女向けコミック誌)(2016年4-6月期、前年同期比)

前四半期同様、プラスを計上したのは「LaLa DX」と「別冊花とゆめ」の2誌のみ。上昇の理由もほぼ同じ。他方、下落誌は11誌で、誤差領域を超えたのは8誌。特に「ザ・マーガレット」「ベツコミ」「なかよし」の3誌は1割を超える下げ幅を示しており、やや強い危機感を覚えさせる。とりわけ「ザ・マーガレット」はここしばらく似たような立ち位置を維持しており、非常によろしくない状況に違いない。

↑ ザ・マーガレットの部数推移(2016年4-6月期まで)
↑ ザ・マーガレットの部数推移(2016年4-6月期まで)

続いて女性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック誌)(2016年4-6月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック誌)(2016年4-6月期、前年同期比)

「フラワーズ」の健闘ぶりは上記の通りビッグな新連載によるものだが、「ARIA」も結構堅調な動きにある。もっとも、同誌は部数そのものが少なめで、前年同期は「進撃の巨人」特需の反動による下落で底値を示していたこと、部数の絶対数による差異は1500部足らずであることから、誤差領域との解釈もできる。

↑ ARIAの部数推移(2015年10-12月期まで)
↑ ARIAの部数推移(2015年10-12月期まで)

再び大金星をつかみ、グラフにダイナミックな動きを示してほしいものだが。



前四半期ではあちこちに見受けられた「おそ松さん」特需の香りだが、今四半期では残り香すら覚えることなく、通常運転に戻った感は強い。そのような中で複数誌において、独自の魅力的な作品の展開による部数の底上げが確認できたのは喜ばしい話に違いない。

このような盛り上がりを複数タイトルで意図的に起こせるようになれば、それこそ全盛期の週刊少年ジャンプのような活性化も不可能では無い。そのためには幅広い層へ訴えかける、購入動機をかきたてる作品の発掘、創生が欠かせまい。


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