吉野家のみ客数・売上でマイナス…牛丼御三家売上:2016年9月分

2016/10/06 05:00

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2016年10月5日、吉野家における2016年9月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でマイナス2.8%となった。これは先月から継続する形で、2か月連続のマイナスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年9月における売上前年同月比はプラス5.4%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス3.4%との値が発表された。今回月は吉野家のみ前年同月比でマイナスの売上を計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2016年9月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2016年9月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2015年9月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス18.3%。同社では【吉野家の牛丼、300円から380円へ値上げ・12月17日15時から】にある通り、2014年12月17日から主力商品の牛丼価格をはじめ各種商品価格の引き上げを実施しているため、これ以降は客数の減少と客単価の増加が直接的な影響要因として計上されている(単純計算では2015年12月頃まではこの影響が続くことになる)。さらに2015年9月に限れば、カルビ丼のリニューアル発売・特盛の追加などの展開を開始しており、これも客単価をけん引していた。

結果として2015年9月は客数マイナス11.2%・客単価プラス18.3%、売上高プラス5.0%と、客単価の上昇で客数の減退を吸収し、売上をプラスと成した状態となっている。今回月はこれらの値との比較となるため、客数はプラス、客単価はマイナスの反動による補正が加わる状況下での結果となる。

今回月においては先月末から「豚生姜焼定食・豚生姜焼丼」の展開を開始、店舗・期間・食数限定ながらも「松茸牛丼」の販売も行い、客単価向上と商品魅力のアピールに積極的。またソフトバンクとのタイアップや月末からながらも「3枚集めて380円引きキャンペーン」を実施するなど、数々のプロモーションも実施している。

これらの補正や環境変化があった結果、客数は1.3%の減少となり、客単価は1.4%の減少を示す形となった。売上高は当然マイナス。3社中では唯一のマイナスの売上となってしまった。前回月の客数マイナス12.2%、売上高マイナス13.1%と比べれば下げ幅は小さいものの、マイナスには違いない。前回月では「季節感に合わせたメニューの不足が、今回の客足の遠のきに影響した可能性は高い」と言及したが、今回月では2種の新作メニューの投入に加え、複数のプロモーションをスタートさせたにも関わらず、プラス化を果たせなかったのは、残念な話ではある。

一方、視点を変えてみると興味深い結果も導き出せる。昨今では各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が多分に生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると1.04%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2016年9月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2016年9月営業成績(既存店)(前々年同月比)

吉野家における今回月の客数・売上高の減退は、2年越しに見れば客数の減少と客単価の上昇を相殺し、ほぼトントンを維持した結果となる。とはいえ、他の2社と比べれば売り上げの上げ幅は小さく、多少の焦りを覚えるところはあるはずだ。

一方で前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、2度に渡る主力商品の相次ぐ値上げをして突出している吉野家だけでなく、3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる。

結果としてこのような状況になったのか、あるいは意図してのものなのかは(当然未公開のため)確認はできないが、明らかに施策としてのかじ取りの転換がなされているのが数字からも確認できる(その観点で、松屋が客数をほとんど落としていないのは奇跡に近い)。

続いて松屋。今件記事、あるいは店舗数などを精査する連動記事などでも触れている通り、松屋が運用するとんかつ系の店舗松のや・松乃家・チキン亭の専用公式サイトを7月末にオープンして本腰の入れ具合を改めてアピールする一方で、今回月では9月6日に「牛とじ丼」、9月13日には「チーズフォンデュハンバーグ定食」と矢継ぎ早に新定食の展開を開始すると同時に、月末ではあるが9月27日からは「新米フェア」と称して定食におけるライスの大盛り無料サービスを期間限定で開始している。きらびやかさにはやや欠けるものの、確実性のある、充実した魅力は松屋らしい。

結果として9月の業績は、客単価が2.4%とプラスを確保、客数も3.0%とプラス、売上は5.4%のプラスと成し、堅調な結果を計上している。3社の中では客単価も客数も一番ぶれが小さく、一歩ずつ確実に業績を積み増ししていく、質実剛健的な同社の姿勢が見える形となっている。2年前同月比でも客数の減退幅が3社で一番小さく、客単価の上げ幅も大人しい。

最後にすき家。9月7日から少々風変わりな「アボカド牛丼」の展開を開始。また9日からは「おそ松さん」とのタイアップキャンペーンを実施している。結果として客単価は3社中で一番プラス幅の大きい3.3%プラス、客数はプラスマイナスゼロ%、そして売上は3.4%のプラスを計上した。前々年同月比では売上において4.1%のプラスを計上しており、それなりに良い業績が出たことになる。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2016年9月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2016年9月)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。

他方、2015年8月とその前年2014年11月に起きている吉野家の売上における跳ね上がりは、新商品の導入に伴う客単価の大きな底上げによるもの。逐次インパクトのある商品投入で、業績に活力を与えるのがここ数年の吉野家の施策とも読める。その反動も合わせ、昨今では吉野家のみが大きな揺れ動きをしているようにも見える。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)メインとなる牛丼・牛めしをはじめ各商品の価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年以上が経過しているため、消費税率改定による客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが(イベントによる減退が生じた場合、次年はそのイベントの影響が無くなっているため、特異的に減少した値との比較によって大きなプラスが生じ得る)、相変わらずマイナス値のままで低迷した状態が続いていた。2015年10月に松屋とすき家で客数が大きく跳ねたのは、牛めし・牛丼の期間限定の値引きによるところが大きい。案の定、その影響が無くなった翌月の2015年11月では、客数はこれまでの動向同様に低迷する形に戻ってしまった(松屋の客数減退が小さめなのは、客単価の引上げ度合いが小さい結果)。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2016年9月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2016年9月)

客数が前年同月比でプラスに戻り始めたのは、吉野家が2016年2月から(3月には一時凹んだが)、松屋が2015年10月からとなっている。他方すき家は2016年に入ってから1月に一度プラス化したものの、5月までは再び連続したマイナス、そしてようやく6月からはプラス圏での値動きとなった。上で記した売上高が最近3社とも堅調なのは、多分にこの客数のプラス化が貢献しており、まさに客足の増加で3社とも足をそろえる形での売上高プラス圏の動きを見せている次第。

他方この1、2か月では吉野家のマイナス圏での値動きが気になる。売り上げの面では客単価との兼ね合わせで調整ができていることは上記で示した通りだが、昨年における客単価の上昇が大きいだけに、その影響が今なお響いている感はある。

他方、中期的な流れを見ると、単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果でも、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示していた。客数だけを見ればゼロ以下の薄いオレンジ色の領域にある機会が多かったことから「低迷していた」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面、具体的には客数と客単価における新たなバランスへのシフトの動きも見えてくる。ここ数か月の客数の堅調さ、売上の底上げは、しばらく続いていた客数と客単価におけるリバランスが終わりを見せてきたことを意味するのだろう。吉野家は客単価の上昇が大きかったがため、その調整がまだ続いているものと考えられる。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が成されれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、方向性の確定に苦慮しているマクドナルドが苦戦を強いられる一方、モスバーガーやケンタッキー・フライド・チキンでは高単価・高品質をさらに前面に押し立てるだけでなく、独自ブランドをより個性豊かなものとして、売上を維持している。そのマクドナルドも最近になり、ようやく独自色の軸(具体的には定番メニューを廉価で提供すると共に、高単価で魅力的な期間限定メニューを相次ぎ投入するというもの)を確立し、迷走を終え、強い歩みを始めたようにも見える。

吉野家はやや不規則な動きにあるが、リバランスが済んだ兆しを覚えさせるここ数か月の動向は、各社が次なる施策を踏み出すタイミングであることを意味している。元々ある程度の呑み需要をカバーしていた松屋、大規模な施策の実施とボトルキープアプリのように積極展開姿勢を示す吉野家、そして呑み形態の実証実験が伝えられるすき家の動向を見るに、次なる施策は就業者を中心とした夕方以降の呑み需要への対応にあるのかもしれない。


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