出版物の種類別売上の変化をグラフ化してみる(14年経緯)(2015年)

2015/10/30 05:00

先に【出版物の種類別売上の変化をグラフ化してみる(前年比)】で、日販の『出版物販売額の実態』最新版(2015年版)のデータを基に出版物の主要種類別、書店の規模別における売上の直近動向を確認した。概して軟調な販売動向ではあったが、それではこの流れは単年のみのものなのだろうか。それとも以前から同じような動きを示していたのだろうか。過去のデータを紐解き、その疑問を解消していくことにする。

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まずは書店における出版物の売上高では額面上大きな売上を占める3大分類「雑誌」「コミック」「文庫」(この3区分で売上全体の約2/3に達する)、それに加えて「新書」の計4区分を抽出した、過去14年分における売上高前年比の推移を折れ線グラフにしたのが次の図。

↑ 分類別売上高前年比(雑誌、コミック、文庫、新書)
↑ 分類別売上高前年比(雑誌、コミック、文庫、新書)

2009年では大幅な下げを記録した「新書」をはじめ、各項目で状況の悪化のスピードが緩まる傾向を見せた2010年。そして2011年は「新書」以外は再び下落傾向を示すことになった。2012年は、「文庫」はやや戻しを見せるものの、「コミック」はマイナス幅を大きくし、「新書」もマイナスに転じている。

直近となる2014年では、「コミック」がプラス化したが、それ以外はすべてマイナス5%以上の下げ幅を示しており、状況的にはあまりよろしくない。「コミック」が堅調なのは【紀伊國屋の2014年ベストセラー】でラインアップを確認すれば分かる通り、「ONE PIECE」「進撃の巨人」「銀の匙」「坂本ですが?」など定番作品の見当によるところが大きい。また「出版物販売額の実態」の類似データによると、これらの作品に加え「東京喰種トーキョーグール」「ニセコイ」「ハイキュー!!」なども大いに健闘したことが確認できる。特に若年層において、一般書籍を押しのける形でこれらの作品が売上では上位を占めており、「コミック」の堅調さを後押ししたことが見て取れる。

続いて「児童書」「学参(学習参考書)」「辞典」「実用書」「地図旅行」。ややこしい話になるのだが、「学参」と「辞典」、「実用書」と「地図旅行」はそれぞれ2004年までは同一区分でカウントされていたため、それぞれは2004年までまったく同じ値となっている。そして2005年から2009年は分離、2010年では再びそれぞれが合算して1項目に戻ったため、再び同じ値を示している。これら「2004年まで同じ」「2010年で同じ」区分内の項目は、同じ種類のマークを名前の後ろにつけて、把握できるようにしている。

↑ 分類別売上高前年比(児童書、学参、辞典、実用書、地図旅行)
↑ 分類別売上高前年比(児童書、学参、辞典、実用書、地図旅行)

2008年に「辞典」が大きく売れ行きを伸ばした理由は過去の記事で補足したように、10年ぶりに改訂された「広辞苑」の発売(第六版)と、【2008年辞典売上活性化の謎】で解説した「辞書引き学習」のブームによるもの。そのイレギュラーを除けば、2007年の不況以降は押し並べて軟調、2014年は2013年に続き該当項目はすべてマイナス。いずれも下げ幅を縮小しているものの、前年比でマイナスであることに変わりはない。

最後に「文芸」「ビジネス」「専門」「その他」。このうち「ビジネス」「専門」については、やはり2004年まで同一項目でカウントされている(こちらは2010年の項目再統合は無し)。また「その他」は2010年では「総記」と項目名を変更している。

↑ 分類別売上高前年比(文芸、ビジネス、専門、その他>総記)
↑ 分類別売上高前年比(文芸、ビジネス、専門、その他>総記)

「その他>総記」とは文具や図書券、セルビデオ、レジ回り商品文具などを指す。2010年にこの分類が大きな伸びを示したのは、【短所を長所に...電子たばこ付きの「本」、ミリオンセラーに】で紹介した電子たばこが多分に影響しているものと考えられる。「文芸」の上下の振れ幅の大きさが目に留まるが、これはこのジャンルがヒット作の状況次第で大きく左右されるのが原因。中期レベルでの傾向は特定できない。ただこの数年は押し並べてマイナス圏にあり、それだけコンスタントに売り上げが落ちていることに違いは無い。2013年では前述の通り村上春樹氏の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の登場で大きく盛り上がったが、その分反動が直近年の2014年に現れた形となった。少なくともデータを計上できる2001年以降では最大の下げ幅を示している。

また「ビジネス」「専門」の安定的なまでの減退ぶりが良くわかるグラフとなっている。「専門」はグラフの領域全期間で、「ビジネス」は2006年以降継続して前年比マイナス圏にある。読むに値する該当分類誌が減ったのか、インターネットなどのデジタルメディアに移行したのか、原因は複数考えられるが、今回の結果からだけでは断定は難しい。もっとも、例えば金融系ビジネス誌の休刊がちらほら見受けられる状況と、その理由を推定する限りでは、「購入価値がある対象誌の減少」「デジタルメディアへの移行」の双方が相乗効果的に影響を及ぼしていると考えれば道理は通る。



以上駆け足ではあるが、主要分類別に出版物の売上推移のチェックを行った。2014年は総額で全マイナス、各分類ではコミックと総記のみのプラスで終わるといった軟調ぶりだったが、これが突然のイベント的な、イレギュラーなものでは無く、容易に想定し得る結果であることが分かる。

一歩引いて出版物市場全体を見渡すと、消費者の可処分所得の減退、消費性向の変化、娯楽の多様化、他メディアとの時間・費用の奪い合い、そして「読書」の観点に限っても電子書籍の登場と広まりなど、出版物の周囲には売上の減少を導きうる要素が多分に確認できる。しかしこれらの動きは一、二年突然で降ってわいたものではなく、それよりももっと前から生じていたもので、「変化」はそれが加速化したに過ぎない面も大きい。そして似たような「変化」はこれまでにも何度となく発生している。

注意したいのは、「これまでにも」の事例も合わせ今回の「変化期」においても、単なる縮小とは異なる「スタイルの変貌」「進化」の様相を合わせ持っていること。他メディアとの積極的な連携、電子書籍など多様な方向性への展開に代表される、新たな富肥市場をつかむ選択肢・可能性も用意されている。

昨今の「出版不況」は業界が進化を遂げるために課せられた、艱難辛苦、試練とする解釈も可能だろう、いやそうに違いない。


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※各グラフで最新年度以外の数字が表記されていませんが、これは資料提供側の指示によるものです。何卒ご理解ください
(C)日販 営業推進室 店舗サービスグループ「出版物販売額の実態2015」

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