にこやかな態度でふりまくのはあいそうかあいきょうか…慣用句の言い回しを確認する

2016/10/19 05:20

複数の言葉をつなげて別の意味を持たせたり、慣習的に認識する言い回しを慣用句と呼んでいる。元々は別の意味、あるいは現在ではあまり使われていない用語の組合せであることから、中途半端な覚え方をした結果、見聞きする限りでは正しいように思えても、実のところは本来の言い回しとは異なるものだったとの事例も良くあるパターン。「うろ覚え」を「うる覚え」とするのが好例。今回はいくつかの言い回しに関し、文化庁が2016年9月21日に発表した「平成27年度 国語に関する世論調査」の概要から、その認識度合いについて確認していくことにする(【発表リリース:平成27年度「国語に関する世論調査」の結果について】)。

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混乱状況は「上を下へ」よりも「上や下へ」の方がよく使われている


今調査の調査要綱は先行記事【配達の人に対する感謝の意、どんな言葉をあなたはかけるか】を参照のこと。

次に示すのは4つの状況「周囲の皆に明るくにこやかな態度を取る」「そんなに思い通りになるものではない」「混乱したさま」「眠りから覚めた時の気分が悪い」に関して、それぞれ本来の表現「あいきょうを振りまく」「そうは問屋が卸さない」「上を下への大騒ぎ」「寝覚めが悪い」と、異なる言い回しだが使われる場合が少なくない言い回し「あいそ(う)を振りまく」「そうは問屋が許さない」「上や下への大騒ぎ」「目覚めが悪い」を例示し、回答者がどちらの言い方を使うか、両方とも使うか、さらにはどちらも使わずに別の言い方を用いるか、そして「分からない」かの中から一つを選んでもらったもの。グラフでは本来の意味の選択肢の棒を赤色で塗り、さらに回答項目部分の背景色を変更している。

↑ 慣用句などの使い方について(2015年度)
↑ 慣用句などの使い方について(2015年度)

本来の言い回しを使われている方が多いのは「あいきょうを振りまく」「そうは問屋が卸さない」。本来の言い回しで無い方が多く使われてしまっているのが「上を下への大騒ぎ」と「寝覚めが悪い」。特に「上を下への大騒ぎ」では異なる言い回し「上や下への大騒ぎ」との差異が38.3%ポイントも生じてしまっている。またこの項目では「両方とも使わない」との回答が12.7%にも達しており、果たしてこのような状況でいかなる類似の言い回しをしているのかが気になるところ。可能性としては「上へ下への大騒ぎ」だろうか。

例示されている選択肢は指し示す意味として用いられていることが多い表現ではあるが、それぞれを見比べれば分かる通り、「音感が非常に似ている」「直接的な意味合いが近しい」のが共通点として挙げられる。口頭などでやり取りした際に、聞き違いをそのまま記憶し、あるいは聞こえのよい表現と取り違えてしまったのが、直接の意味にさほど違いが無いことから間違いと認識されず、そのまま波及したものと考えれば道理は通る。

例えば「目覚めが悪い」も「寝覚めが悪い」も、音感が近しいのに加え、「目覚め」と「寝覚め」との間にはさほど違いは無い。勘違いされても仕方がない。ところがこれに関して「湯冷めが悪い」との表現を用いることは無い。「ねざめ」と「ゆざめ」は音感こそ似ているが、寝ている状態から目覚める事象と、お風呂から出て体が冷えた状況はまったく別物であるからだ(湯冷めしたままなのが体に悪いのは事実ではあるが)。

回答者の年齢階層別で生じる差異


これらの言い回しの選択に関して、例示された2つのどちらを選んだかを、年齢階層別に見たのが次以降のグラフ。青棒は本来の意味、赤棒は別の意味で統一している。

↑ 「周囲の皆に明るくにこやかな態度を取る」の慣用句の回答率(2015年度、年齢階層別、一部)
↑ 「周囲の皆に明るくにこやかな態度を取る」の慣用句の回答率(2015年度、年齢階層別、一部)

本来の言い回し「あいきょうを振りまく」は中堅層以降で優勢だが、若年層ではむしろ「あいそ(う)を振りまく」の方が多数派。とはいえその差はさほど大きくない。16-19歳において本来以外の使い方がやや優勢な程度。双方の使われ方が均衡しているともいえる。

↑ 「そんなに思い通りになるものではない」の慣用句の回答率(2015年度、年齢階層別、一部)
↑ 「そんなに思い通りになるものではない」の慣用句の回答率(2015年度、年齢階層別、一部)

問屋は卸すのか許すのか問題。20代以降は大よそ本来の使い方「卸さない」が優勢だが、16-19歳では「許さない」の方がわずかに優勢。未成年者が「許さない」の表現を用い、大人がやや違和感を覚える表情を見せたり、ミスを指摘する場面があるかもしれない。

↑ 「混乱したさま」の慣用句の回答率(2015年度、年齢階層別、一部)
↑ 「混乱したさま」の慣用句の回答率 (2015年度、年齢階層別、一部)

本来の表現「上を下への」はどの年齢階層でも少数派。興味深いのは歳を減るほど例示してある本来とは別の表現「上や下への」の利用率が高くなる一方で、本来の表現は40代をピークにむしろ下がっていくこと。若年層では双方の回答率を足しても多分に余りが出ることから、上記に指摘した「上へ下への大騒ぎ」のような言い回しを用いているケースが多いのだろうか。

↑ 「眠りから覚めた時の気分が悪い」の慣用句の回答率(2015年度、年齢階層別、一部)
↑ 「眠りから覚めた時の気分が悪い」の慣用句の回答率 (2015年度、年齢階層別、一部)

寝覚めか目覚めか。非常に面白いグラフの形状をしている。本来とは別の言い回しの回答率が一番高いのは16-19歳。以降歳を経るにつれて少しずつ減退していき、本来の言い回しの回答率が上昇していく。70歳以上でも本来とは別の言い回しが優勢だが、その差はごく少数。世代によってこのような動きを見せることから、世代の流れに連れて表現のシフトが生じており、現在はその真っ最中であることが推測される。あと数十年もすれば、「目覚めが悪い」が主流、さらには本来の意味として認識されるようになるかもしれない。



今件慣用句的な言い回しに関しても、本来の言い回しを「正しい言い回し」とは表記していない。これは慣用句そのものが使われ方、時代の変遷と共に意味を変えていくため、多分に「正しい言い回し」なるものを定義できないからに他ならない。

数十年もすれば、今回挙げた言い回しに関しても、「本来とは異なる言い回し」の方が「従来の言い回し」として認識されるようになる可能性はある。例えば本来の言い回しが「寝覚めが悪い」から「目覚めが悪い」に変わっているかもしれない。


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