「プレジデント」がプレジデント状態継続中、だが…ビジネス・マネー系雑誌部数動向(2016年1月-3月)

2016/05/28 05:00

インターネットに代表される電子情報技術の加速的進歩、機動力に長けたスマートフォンの普及浸透で、ますます時間との戦いが熱いものとなりつつあるビジネス、金融業界。その分野の情報をつかさどる専門誌では、正しさはもちろんだがスピーディな情報展開への需要が天井知らずのものとなる。デジタルとの比較で生じる時間的遅れは紙媒体の致命的な弱点となり、その弱みをくつがえすほどの長所が今の専門誌では求められている。このような状況下の「ビジネス・マネー系専門誌」について、社団法人日本雑誌協会が2016年5月25日付で発表した、第三者による公正な部数動向を記した指標「印刷証明付き部数」から、実情を確認していくことにする。

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「プレジデント」一強時代は変わらず、だが


データの取得場所に関する解説、「印刷証明付部数」など各種用語の説明、過去の同一テーマのバックナンバー記事、諸般注意事項は一連の記事の集約ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で解説している。必要な場合はそちらから確認のこと。

最初に精査するのは、直近分にあたる2016年の1-3月期とその前四半期に該当する、2015年10-12月期における印刷実績。

↑ 2015年10-12月期と2016年1-3月期のビジネス・金融・マネー誌の印刷実績
↑ 2015年10-12月期と2016年1-3月期のビジネス・金融・マネー誌の印刷実績

【「クーリエ・ジャポン」が来年2月で休刊、有料会員制のウェブサービスに移行】でも伝えた通り、「クーリエ・ジャポン」が2015年2月25日発売の4月号で休刊となり、有料会員制のウェブサービスに移行した(現時点では一部記事は無料閲覧可能で有料登録すると全部閲覧できる仕組み)。今回の期間ではまだ紙媒体版が発行されてはいるが、部数開示は終了している。これで今記事の対象雑誌が1誌減り、追加雑誌は無いので全部で6誌となってしまった。ただし不定期刊化し、出入りが激しい「¥en SPA!」は今回顔を見せておらず、それは計上されていない。

対象誌の中では「PRESIDENT(プレジデント)」が前四半期から継続する形でトップ。部数上で第2位となる「週刊ダイヤモンド」とは2倍強もの差をつけている。その「PRESIDENT」の部数だが、2013年後半から上昇傾向が始まり、ここ数四半期は踊り場状態が続いていたが、今四半期では大きく下落。1年分の上昇をすべて清算してしまった形となっている。

↑ PRESIDENT印刷証明付き部数(2016年1-3月期まで)
↑ PRESIDENT印刷証明付き部数(2016年1-3月期まで)

この動きはイレギュラー的なものとも言い難い。最初の前四半期部数と比べたグラフで、大きく下がっている実情が把握できるが、経年変化で見るとさらに不安さを覚えるものがある。「この流れを維持できれば、あと数年で40万部への大台に手が届きそう」とは前四半期におけるコメントだったが、その目論見は吹き飛んでしまった感は強い。トップのつまづきは該当ジャンル全体の不安を想起させる材料になるだけに、頑張ってほしいものだが。

全誌マイナス、1割以上の下落が1誌…前四半期比較


次に示すのは各誌における、四半期間の印刷証明部数の変移。前四半期の値からどれほどの変化をしたかを算出している。季節による需要動向の変化を無視した値のため、各雑誌の実情とのぶれがあるものの、手身近に各雑誌の状態を知るのには適している。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・金融・マネー誌)(2016年1-3月、前四半期期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・金融・マネー誌)(2016年1-3月、前四半期期比)

今四半期ではプラス領域は皆無。誤差領域内(5%内の振れ幅)の下げが5誌、誤差を超えた下げを見せたのは「PRESIDENT」の1誌のみ。同誌は部数そのものも大きめであることから、その下げ率の影響度はさらに増すことになる。

「PRESIDENT」の該当時期刊行誌の内容を確認したが、特に部数を下げるような原因は見当たらない。あえて言えば表紙に大見出しで記載される特集内容が、ややインパクトに欠ける、訴求力が今一つだった感はある(「24時間の新法則」「『英語』の学び方」「心を整える『禅・瞑想』入門」など)。

もっとも「PRESIDENT」以外でも部数を減らした雑誌ばかりで、増やした雑誌は皆無な状況は、今ジャンルの厳しさの数値化ともいえる。赤系統ばかりのグラフは、今のビジネス雑誌界隈の現状を如実に表しているのだろう。

より厳しい前年同期比動向


続いて前年同四半期を算出。こちらは前年の同期の値との比較となることから、季節変動の影響は考えなくてよい。年ベースでの動きなためにやや大雑把とはなるものの、より確証度の高い雑誌の勢いを把握できる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・マネー系、2016年1-3月、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・マネー系、2016年1-3月、前年同期比)

前四半期だけでなく前年同期比でも全誌がマイナス圏。誤差領域を超えたのは「PRESIDENT」「THE21」「BIG tomorrow」の3誌。「PRESIDENT」では今回該当期の特集のパンチ力が弱かったのは上記の通りだが、前年同期では「毎日が楽しくなる時間術」「お金に困らないピケティ実践講座」など、世の中のトレンドを絡ませながらも、書籍として保存するのにも十分価値がありそうな内容の号が相次いで刊行され大いに売り上げを伸ばしており、その反動によるところも少なくない。

「PRESIDENT」に続く大きな下げ率を見せたのは「THE 21」。1年ほど前から部数を盛り返して注目を集めていたが、その後失速している。その上昇期との比較となるため、大きなマイナス値の計上となった。中長期的に見ると低迷感は否めないが、この数年は6万部前後を維持しており、安定感はある。

↑ THE21 印刷証明付き部数(2016年1-3月期まで)
↑ THE21 印刷証明付き部数(2016年1-3月期まで)

何かきっかけがあれば大きく上昇しそうではあるのだが。そのきっかけを探し、見出すのが難しいのは「THE 21」に限った話ではない。



内容の斬新さから注目を集めると共に部数を伸ばしていた「COURRiER Japon」が、編集方針の変更と思われる内容性向の変化と共に失速し、今期からはデジタル媒体に移行したことで、印刷証明付き部数の開示は無くなってしまった。昨今の雑誌媒体ではよくあるケースとはいえ、やはり寂しいものはある。見方を変えると、時流によるところもあるとはいえ、ひとつかじ取りを違えると大きく航路を外してしまう実例なのかもしれない。

書籍的な保存を半ば目論んだ企画構成の「PRESIDENT」「THE21」も、ここしばらくは部数を伸ばし堅調に見えたものの、今四半期では大きく失速してしまっている。記事冒頭で触れている「インターネットにスピード感では絶対に太刀打ちできない、紙媒体としての専門誌の勝利の方程式」の一つに、内容の充実性、さらに突き詰めれば蓄積性、保存性の高さの強調があり、それを実践することで支持を集めてきた雑誌であるだけに、今期の軟調さは気になるところ。単なるイレギュラーであると良いのだが。

元々ビジネス誌ではその編集方針として連載物、あるいは特集の記事を再構築して加筆し、書籍として再展開する傾向が強い。コミック誌における雑誌連載と、その集約+描き下ろしによる単行本のような関係ではある。雑誌の掲載時点で捨て置かれる程度のものでは無く、保存して単行本のごとく取り扱ってもらう、価値あるものとしての作りを成すのは、雑誌そのもののセールスを高める点では一つの方法論としてありうる。その成功方程式に陰りが出てきたとすれば、その式を現状に合わせて修正するなり、新たな公式を見つけ出さねばなるまい。


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