「おそ松さん」特需到来…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2016年1月-3月)

2016/05/27 12:00

ゲームそのものの楽しさの提供だけでなく、周辺の人達とのコミュニケーションのための媒介・ツールとしての役割も大きい家庭用ゲーム機とその対応ソフトは、スマートフォンの普及浸透とそれ用のゲームアプリの大々的な展開で、大きな転換期の中にある。ただでさえインターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視されるゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる中で、二重の危機誘発要因の到来に違いない。「アプリ系ゲームの紙媒体専門誌を出せばよい」との意見もあるが、あまり上手くいった事例を聞かないのは、情報の更新伝達スピードがマッチしないのが主な要因だろう。まさに四方の行く手をさえぎられた状態のゲームやエンタメ系の専門誌の実情に関して、社団法人日本雑誌協会が2016年5月25日付で発表した、主要定期発刊誌の販売数を「各社の許諾のもと」に「印刷証明付き部数」として示した印刷部数の最新版となる、2016年1月から3月分の値を取得精査し、現状などを把握していくことにする。

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Vジャンはトップに変わりなし、だが…部数現状


データの取得場所の解説や「印刷証明付部数」など用語の内容に関する説明、読む際の諸般注意事項、さらには類似記事のバックナンバー一覧に関しては、一連の記事のまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明済み。必要な場合はそちらで確認のこと。また記事のカテゴリ名をクリックしてたどれる同一カテゴリの記事一覧からも、印刷証明付き部数関連の記事の過去のものを確認できるので、その手段も併用してほしい。

まずは最新値にあたる2016年の1-3月期分と、そしてその直前四半期にあたる2015年10-12月期における印刷実績をグラフ化し、現状を確認する。

↑ 2015年の10-12月期と2016年1-3月期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の印刷実績
↑ 2015年の10-12月期と2016年1-3月期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の印刷実績

「大よそ部数は青よりも赤の方が短めで、減退している様子が分かる」がこれまでは定番の言い回しなのだが、今期はまったく逆。青よりも赤の方が長めで、全般的に増加している様子が分かる。この動向の詳細は次の項目で説明していく。

他方最大部数を示しているのは「Vジャンプ」でこれは変化が無いが、当誌部数は減退。青と赤の立ち位置の違いは、部数そのものの多さと合わせ、他誌から浮いた感が強い。

前四半期では「ファミ通DS+Wii」が非公開化してしまったが、今期では追加・非公開化の雑誌は無し。数四半期前に部数公開から脱落した「週刊アスキー」と「電撃PlayStation」の復活の兆しも無し。「週刊アスキー」は【週刊アスキー、紙媒体版は5月末で終了し、今後はネットへシフト】で伝えた通り紙媒体としての発行は終了し、今はデジタル媒体上での展開となっているため、当然印刷証明付き部数は存在しない。一方「電撃PlayStation」は現在もなお紙媒体として新刊が定期的に発行されており、休刊や電子化による非公開化では無い。

「電撃PlayStation」と似たような現象は以前「ニュータイプ」でも起きており、それも合わせ発売元であるKADOKAWAの方針の可能性は否定できない。株式公開企業や大型企業による法的な公開義務はないものの、すでに公開していた数字を非公開化する施策は、情報の非開示化との姿勢としては残念と評せざるを得ない。

ともあれ現在印刷証明部数を掌握しているゲーム・エンタメ誌は、現時点で7誌にまで減少している。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無、「ゲーム・アニメ情報誌」でも6誌にまで減少しているのが現状。今後も減少傾向が続くようならば、「ゲーム・エンタメ」の定義で包括しえる、類似カテゴリの雑誌を加えることも検討せねばなるまい。

とはいえ、類似の主旨を持つカテゴリが存在しそうにないのも悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「Nintendo DREAM」「娘TYPE」が挙げられるが、印刷証明部数は非公開。残念ではある。

目を疑うようなプラスぶり…前四半期との相違確認


次に四半期、つまり直近3か月間で生じた印刷数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が配慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる

↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌)(2016年1-3月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌)(2016年1-3月期、前期比)

マイナスの値を示したのは誤差領域の5%以内の振れ幅で「メガミマガジン」、5%以上は「Vジャンプ」。残りの5誌はいずれも5%以上の確実な上昇。しかも2割3割は当たり前どころか、「アニメージュ」は2倍、「PASH!」に至っては3倍もの部数をはじき出している。

「PASH!」は独自路線、そしてかつては「進撃の巨人」特需で大きく背伸びをしていたが、その特需の終結と共に失速状態に移行。しかし今回は目を見張るような部数の伸び。これは前四半期ですでに他誌に先行する形で気配を見せていた「おそ松さん」(テレビ放送は2015年10月から2016年3月)特需の恩恵によるもの。2015年12月発売の2016年1月号(前四半期計測対象)では、「おそ松さん」と「K」が表紙絵として採用され、さらに「おそ松さん」の大判ポスターの付録、オリジナルパスケースの応募者全員サービスが実施され、緊急重版が行われた。そして次号(2016年2月号、今四半期計測対象号)では発売前から重版が決定する事態が生じている。これらが同誌のセールスを持ち上げたと考えれば十分に道理は通る。

↑ PASH!印刷実績(部)
↑ PASH!印刷実績(部)

かつての「進撃の巨人」で生じた特需すらかすむほどの売れ行きぶりに、グラフの形そのものがゆがんでしまっている。前四半期の記事では「次回精査時にはさらに値を上乗せすることは容易に想像ができる」と言及したが、よもやここまでとは。「進撃の巨人」より巨大化した六つ子が歩き回る情景が想起されそうだ。

また類似の「おそ松さん」特需は、対象領域となるアニメ専門誌各誌で発生。「アメディア」「アニメージュ」などでも続々特集や付録をつけた号の重版が決定し、小さからぬ騒ぎとなった。中でも「アニメディア」は1981年創刊後初の重版となり、プレスリリースも配信されたほど(【完売店続出!W重版決定!!学研のアニメ誌「アニメディア」&「オトメディア」、『ワートリ』『コナン』『ダンデビ』『おそ松さん』効果で両誌とも史上初の重版決定!】)。

今ジャンルで最大部数を示している「Vジャンプ」はマイナス9.0%。部数の大きさを考えれば少々頭の痛い話。前四半期で付録カードの効用による大きな部数かさ上げがあり、その反動が一部あるものの、憂慮すべき状況。

↑ Vジャンプ印刷実績(部)
↑ Vジャンプ印刷実績(部)

懸念されていた20万部割れは今四半期でも回避できたものの、危うい状態にあることに違いは無い。

前年同期比プラスはメガミマガジン以外


続いて前年同期比における動向を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べればロングスパンの値動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系)(2016年1-3月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系)(2016年1-3月期、前年同期比)

前四半期比でずば抜ける形で大きく上げた「PASH!」をはじめ、「アニメージュ」「アニメディア」などが「おそ松さん」特需の恩恵を受けて大きなプラス値を計上。「Vジャンプ」は比較対象となる前年同期比が軟調だったこともありプラス。「メガミマガジン」のみが大きなマイナス値を示す形となった。ここまで明らかなプラス値が並ぶのグラフを見たのはジャンルを問わず久々であり、気持ちの良いものに違いない。

アニメ関連雑誌としてはライバル的な存在、世間一般では「三大アニメ誌」とも呼ばれている、具体的には「アニメージュ」「アニメディア」「ニュータイプ」の動向。1年前から「ニュータイプ」の部数が非公開となったため、残り「アニメージュ」「アニメディア」のみ、データの継続反映をさせた上で、状況の精査を続ける。

「アニメージュ」と「アニメディア」の2誌間で順位変動が起きた後、そのポジションが維持されたまま、3誌とも部数を下げていた。その後順位はしばしば入れ替わり、もみあいの形を維持している。今四半期では「アニメージュ」か上、「アニメディア」がそれに続く形となっているが、両誌とも「おそ松さん」特需の恩恵を受けて部数が跳ね上がり、過去数年に渡るつばぜり合いが吹き飛ぶ様相が示されている。

↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年1-3月期まで)
↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年1-3月期まで)

↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年1-3月期まで)(ニュータイプ除く)
↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年1-3月期まで)(ニュータイプ除く)

直近値では「アニメージュ」8万0033部、「アニメディア」6万2333部。前四半期ではそれぞれ3万9934部・4万1600部だっただけに、特需の恩恵の受け方が大きな部数伸張の差異となって表れたようだ。



【CESA、2015年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表】にもある通り、日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は縮小を続けている。冒頭の解説の通り、少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も低迷は続くことだろう。

他方、今四半期では言葉通り「おそ松さん」旋風が吹き荒れる形となった。かつての「進撃の巨人」すらはるかに凌駕するそのけん引力ぶりには、ただただ驚くばかり。テレビアニメ放送が終わった現在でもその魅力による活気は続いており、該当誌の部数を底上げする力となっている。噂されている第二期や映画が事実となれば、この特需状態はしばらく継続することになるだろう。


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