松屋が大きく伸び、すき家はマイナス継続…牛丼御三家売上:2016年5月分

2016/06/07 05:00

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2016年6月6日、吉野家における2016年5月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス0.1%となった。これは先月から続く形で、2か月連続のプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年5月における売上前年同月比はプラス5.5%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はマイナス1.3%との値が発表された。今回月はすき家以外が前年同月比でプラスの売上を計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2016年5月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2016年5月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2015年5月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス18.8%。同社では【吉野家の牛丼、300円から380円へ値上げ・12月17日15時から】にある通り、2014年12月17日から主力商品の牛丼価格をはじめ各種商品価格の引き上げを実施しているため、これ以降は客数の減少と客単価の増加が直接的な影響要因として計上されている。また同月では鍋膳との差し換えの形で「牛バラ野菜焼き」や「ベジ丼」など、野菜を中心とした新メニューを続々投入し、高客単価に拍車をかけるかたちとなっている。

結果として2015年5月は客数マイナス13.4%・客単価プラス18.8%、売上高プラス2.9%と、客単価の上昇では客数の減退を客単価が吸収し余りある業績を示している。今回月はこれらの値との比較となるため、客数はプラス、客単価はマイナスの反動による補正が加わる状況下での結果となる。

さらには【吉野家の豚丼が一か月で700万食売れたそうです。1日23.3万食】にある通り、2016年4月6日から復刻発売を開始した豚丼が大いにセールスを伸ばしており、客単価はマイナス・客数はプラスの状態に拍車をかける状況となっている。

これらの補正や環境変化があった結果、客数は3.2%の増加となり、客単価は3.0%の減少を示す形となった。売上高は差し引きでプラス。前年同月からのリバウンドによる足の引っ張りがある中でのプラスは、十分に貢献した結果にちがいない。

今回月の吉野家の業績に多分な影響を与えた復刻版の豚丼だが、販売価格も以前の展開時と同じ水準とし、同社のこれまでの「客単価引上げ戦略」とは様相を異なる切り口であることがうかがえる。3月には【業績予想の修正に関するお知らせ(PDFファイル)】において、

主力業態である吉野家事業の第4四半期における牛すき鍋膳の販売実績が計画未達の中で

とあり、冬場のけん引役であった鍋定食シリーズの動きが今一つであったことが確認できるなど、客数の減り方が想定以上であることを懸念する動きが相次いでおり、その状況への対応策が今回の豚丼だったようだ(今年は「ベジ丼」はあるものの「牛バラ野菜焼き」は現時点で未発売)。

昨今では各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が多分に生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると1.49%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2016年5月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2016年5月営業成績(既存店)(前々年同月比)

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、2度に渡る主力商品の相次ぐ値上げをして突出している吉野家だけでなく、3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる。

結果としてこのような状況になったのか、あるいは意図してのものなのかは(当然未公開のため)確認はできないが、明らかに施策としてのかじ取りの転換がなされているのが数字からも確認できる。

続いて松屋。今回月では先月にも増して新作メニューの大展開状態となっている。先月末発売開始の「豚バラ肉と長ネギの生姜焼定食」、5月10日の「ケイジャンチキン定食」、5月17日の「新カレギュウ・新ハンバーグカレー」、5月24日の「チキンと茄子のグリーンカレー」、そして5月31日の「ネギたっぷり旨辛ネギたま牛めし」。一部は該当月ぎりぎりの発売開始、既存メニューのリニューアルもあるが、ともあれ新商品の展開に力を入れていることは間違いない。また、「チキンと茄子のグリーンカレー」のように、松屋っぽさを残しながらも今まではあまり見られなかったスタイルのメニューも登場し、評判を博するなど、勢いのある様子がうかがえる。

結果として5月の業績は、客単価が2.4%とプラスを維持、客数は3.0%とそれなりのプラス、売上は5.5%と結構な結果を計上している。客単価も客数も大きなぶれが無く、一歩ずつ確実に業績を積み増ししていく、質実剛健的な同社の姿勢が見える形となっている。2年前同月比では客数の減退が3社で一番小さく、客単価の上げ幅も大人しく、結果として売り上げはトップについている。

最後にすき家。新メニューとしては月末に「まぐろなめろう丼」が展開を開始したものの、実質的に今回月では業績に与える影響はほとんど無いと見て良いだろう。他に目だった動きも無く、大人しい一か月だったといえる。

結果としては客単価はマイナス、客数もマイナス。結果として売り上げは3社中唯一のマイナスとなった。2年前同月比の客数がマイナス11.1%であることからも分かる通り、客数が大きく減っている状況が、売上の足を引っ張っていることになる。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2016年5月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2016年5月)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。

他方、直近で2015年8月とその前年2014年11月に起きている吉野家の売上における跳ね上がりは、新商品の導入に伴う客単価の大きな底上げによるもの。逐次インパクトのある商品投入で、業績に活力を与えるのがここ数年の吉野家の施策とも読める。その反動も合わせ、昨今では吉野家のみが大きな揺れ動きをしているようにも見える。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)メインとなる牛丼・牛めしをはじめ各商品の価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年以上が経過しているため、消費税率改定による客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが(イベントによる減退が生じた場合、次年はそのイベントの影響が無くなっているため、特異的に減少した値との比較によって大きなプラスが生じ得る)、相変わらずマイナス値のままで低迷した状態が続いていた。2015年10月に松屋とすき家で客数が大きく跳ねたのは、牛めし・牛丼の期間限定の値引きによるところが大きい。案の定、その影響が無くなった翌月の2015年11月では、客数はこれまでの動向同様に低迷する形に戻ってしまった(松屋の客数減退が小さめなのは、客単価の引上げ度合いが小さい結果)。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2016年5月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2016年5月)

今回月の吉野家は先月に続き客数の増加を示している。前々年同月比がマイナス10.6%であることからも分かる通り、多分に反動によるところが大きいことは否めない。ただし売上そのものは前々年同月比でもプラスを維持。ここ数年のボックス圏内ではあるが、良い状況に違いは無い。

↑ 吉野家売上高推移(既存店)(前々年同月比)(2007年4月-2016年5月)
↑ 吉野家売上高推移(既存店)(前々年同月比)(2007年4月-2016年5月)

単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果を見ても、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示している。中期的には客数だけを見ればゼロ以下の薄いオレンジ色の領域にある機会が多い事から「低迷している」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面も見えてくることに違いは無い。

豚丼4月に再販が始まり客数の飛躍に貢献した豚丼は特異な例だが、吉野家では客数の減退ぶりに代表される息切れ感に危惧を覚えているようで、今や定番となった鍋膳シリーズに、健康感の強いトマト牛鍋膳を突然投入するなど(【吉野家の新作鍋は「トマト牛鍋膳」】)、健康志向の観点から集客施策に注力をしているようすがうかがえる。これまでにも「ベジ丼」「麦とろ牛皿御膳」などある程度の動きはあったものの、今後はさらなるヘルシー感の演出、女性陣や健康への気遣いを強いものとする層への働きかけを重視する気配はある。健康留意の紋所があれば、相応の単価上昇は許される傾向があるため、吉野家にとっては悪い話では無い。実際、6月2日からは「麦とろ御膳」の発売を開始している。

ただし今年4月に豚丼で集客効果が多分に生じたとの実績を出し、5月でも勢いこそ落ちたものの実績を作ってしまったことから、今後の吉野家における戦略のかじ取りが、これまでとは多少変化を見せる可能性は否定できない。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が成されれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、方向性の確定に苦慮しているマクドナルドが苦戦を強いられる一方、モスバーガーやケンタッキー・フライド・チキンでは高単価・高品質をさらに前面に押し立てるだけでなく、独自ブランドをより個性豊かなものとして、売上を維持している。

この「客単価増・客数減」の動きが今後も継続するのなら、数年後には牛丼チェーン店における社会的立ち位置は、これまでとは随分とちがったものとなるに違いない。そして現状までの動向、特に震災前の施策、例えば牛丼価格の期間限定による引き下げ競争は、歴史的事象として語られることになるだろう。それゆえに、大きな成果を挙げた吉野家の豚丼の動向には、大いに注目したいところではある。


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