前年同期比では少年・男性向けコミック合わせて1誌以外すべてマイナス…少年・男性向けコミック誌部数動向(2015年10月-12月)

2016/02/14 05:00

専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由で漫画や文章を読む機会が多数設けられるようになったことにより、人々の読書欲はむしろ上昇の一途にあるとの解釈もなされている。一方で紙媒体を用いた本は相対的な立ち位置の揺らぎを覚え、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。主に子供向けとして提供されているコミック誌業界においては、さらに子供の娯楽や価値観の変化も加わり、ビジネス的に厳しい立場に追い込まれ、よりリスクが低く新天地のように見えるウェブベースでの展開に移行する雑誌が相次いでいる。社団法人日本雑誌協会では2016年2月12日付で、四半期毎に更新・公開している印刷部数に関して、公開データベース上の値に最新値の2015年10月から12月分の値を反映させた。そこで今回は各雑誌が一般向けに、あるいは営業の中で提示する値よりもはるかに実態に近い、この公開された「印刷証明付き部数」を基に、「少年・男性向けコミック誌」の動向を複数の切り口からグラフ化を行い、現状を精査していくことにする。

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ゆるやかに削られる部数…直近四半期の動向


データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など各種文中の用語の解説、諸般注意事項、同一カテゴリの過去の記事は一連の記事の解説ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明・収録済み。詳細はそちらで確認のこと。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前四半期から変わらず。今記事におけるもう一つの対象ジャンル「男性コミック誌」と合わせても、唯一のダブルミリオンセラー(200万部以上の実績)誌として君臨中。次いでやや年上の少年向け雑誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)雑誌「コロコロコミック」。少し前までは「コロコロコミック」も合わせ3誌が100万部超えだったものの、「妖怪ウォッチ」による底上げ効果が切れ、同誌が脱落し、現在では「週刊少年ジャンプ」「週刊少年マガジン」の2誌のみ。とはいえ、これら3誌が他誌から群を抜いた実績状態にあることに違いは無い。

↑ 2015年7-9月期と最新データ(2015年10-12月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2015年7-9月期と最新データ(2015年10-12月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

直近データで確認すると「ジャンプ」の印刷部数は現在232万1667部。雑誌では返本や在庫本なども存在するので、それを勘案すると最終消費者の手に渡る冊数は、これよりも少なくなる。雑誌の種類やジャンルによって返本率は大きな変動があるが、暫定値として1割から2割と試算すると、200万部プラスα程度。ここ数年で電車の乗客を見渡した時に、コミック雑誌を手に持って読んでいる人が随分と減ったこと、また電車の棚や駅ホームのゴミ箱などでも見受けられなくなったことを思い返せば、毎週全国で200万人以上もの人が購入し目を通している状況は奇跡に近い。もっとも同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた記録を目にするに、その4割足らずにまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。さらにじわりと部数は減退を続けており、このペースでは2020年前後には大台の200万部を切る可能性も否定できない。

今回は脱落・追加雑誌は無し。コンビニなどでも良く見かけるメジャーどころの週刊コミック誌で、【週刊少年サンデーがダイナミックなリストラクチャリングをするという話】でも伝えた通り、大規模かつ大胆な組織構造改革宣言を行った週刊少年サンデーの部数は、35万6584部。容易に取得可能な最古のデータとなる2008年の4月から6月期における86万6667部からは41%程度にまで部数を減らしている。

↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年サンデー)(部)
↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年サンデー)(部)

グラフの形状からも分かる通り、何度か大胆な改革により部数持ち直しの機運も見られたが、全体的な流れに逆らうまでには至っていない。今回の改革に関しても、現時点ではその成果は観られない。もっとも2015年8月に宣言を始めたのだから、今回の該当期間で成果を見せろとは無理な話であり、むしろ今後の動向に期待をしたいところ。手をかける部分が大規模かつ深刻なものであれば、その状況改善と成果が数字となって表れるのには、半年や一年の短期間では無く、数年もの時が必要とされよう。

続いて男性向けコミック誌。

↑ 2015年7-9月期と最新データ(2015年10-12月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2015年7-9月期と最新データ(2015年10-12月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

男性向けコミックは少年向けと比べると印刷部数の規模が小さく、また飛びぬけた値を示す雑誌が無いため、上位陣では比較的きれいな部数の差異による傾斜のグラフが生成される。またトップから第3位まで、第4位と第5位、第6位から第8位までの差異が小さく、競馬や競輪、F1レースの周回時におけるグループ的なものができているのも興味深い。

男性向けコミック誌でも追加・休廃刊やデータ提供休止に伴う脱落は無し。大きな変化は無いものの、元気の無さはこれまでの動向通り。予定調和的な軟調さとでも表現すべきか。

前四半期比較で動向精査…男性向けコミック誌はプラス無し


続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。雑誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、雑誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。

なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌は、このグラフには登場しない。幸いにも今回はそのような雑誌は無い。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2015年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2015年10-12月期、前期比)

今四半期では前四半期比でプラスとなった雑誌は2誌、「月刊少年シリウス」と「コロコロイチバン!」のみ。「月刊シリウス」では該当期に発行された2016年1月号において、「進撃の巨人」のスピンオフ祭を開催しており、これが部数を引っ張った可能性がある。「コロコロイチバン!」では妖怪メダルのプレゼント企画などが確認でき、それが功を奏したのかもしれない。しかし以前と比べるとその勢いは大人しいものとなっている。

誤差範囲内とも判断できる5%内の下げに留まった雑誌は8誌、それ以上の下げ幅を見せたのは3誌、「サンデージェネックス」「少年サンデーS」「別冊少年マガジン」。他方、「妖怪ウォッチ」の嵐が去った後、その勢いを減じているコロコロシリーズだが、その減退速度はゆるやかなものとなりつつある。各誌の表紙を確認してもいまだにジバニャンの姿をよく見かけることもあわせ、案外安定化への道を歩みつつあるのかもしれない。

↑ 雑誌印刷実績変移(コロコロコミック)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(コロコロコミック)(部)

妖怪ウォッチによる安定化を図りつつ、さらに新しいけん引役を見出す、生み出すことができれば、再び100万部超えを果たすのもそれほど難しくは無い。

また「妖怪ウォッチ」同様にコミック誌業界に大きなパワーを注入してくれた「進撃の巨人」の特需で、かつて部数を伸ばした「月刊シリウス」だが、ようやく反動も収まり、部数も安定する形となった。今回期間はそのスピンオフによると思われる盛り上がりも見せている。とはいえ、現状の1万部割れは芳しいとはいえず、さらなるてこ入れが必要なのには違いない。

↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2015年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2015年10-12月期、前期比)

変化率を仕切る横軸がゼロからマイナス領域にしかないことからも分かる通り、今四半期ではプラス領域の雑誌はゼロ。誤差の範囲のマイナス誌が大半なのが幸い。誤差領域を超えたマイナス値を計上したのは「ヤングアニマル」「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」の2誌。「月刊スピリッツ」だけだった前四半期と比べると、いくぶん状況は悪化している。

前年同期比で検証…年ベースでプラスは少年・男性合わせて1誌のみ


続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2015年10-12月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2014年10-12月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が開いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。数十年もの歴史を誇る雑誌もある中で、わずか1年で数十パーセントもの下げ幅を示す雑誌も見受けられるが、それだけ雑誌業界は大きく動いていることを再確認させられる……とはかつて用いていた表現だが、最近では「見受けられる」ではなく「少なくない」と差し換えた方が良いのではないか、そう思わざるを得ない結果が出ている。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2015年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2015年10-12月期、前年同期比)

全対象誌がマイナスで、全誌が誤差範ちゅうを超える5%超。まるでスペインのトマト祭のごとし。コロコロ系は上記でも言及の通り、「妖怪ウォッチ」の特需による大幅上昇の反動が出ており2割3割減は仕方がないところもあるのだが、それ以外の雑誌でも2割減を計上している雑誌が複数あり、状況の厳しさを再認識させられる。

「妖怪ウォッチ」、さらには「進撃の巨人」といった特需に係わる反動による大幅な下げをおこした雑誌を除けば、「少年サンデーS」「サンデージェネックス」「週刊少年サンデー」の下げ幅が目立つ。特に「週刊少年サンデー」は発売日などから対比する形で店舗に並び評される「週刊少年マガジン」と比べ、下げ率はより大きい。子供向け内容の多い「週刊少年サンデー」の方が失速度も大きいのは、雑誌業界全体の需要を示す一つのシグナルといえる。それゆえに上記の通り、抜本的改革が宣言されたと考えれば、道理は通る。昨今では改革の効果ともいえるヒット作もちらほらと出始め、次四半期以降の動向が楽しみではある。

↑ 雑誌印刷実績変化率(週刊少年サンデー/週刊少年マガジン)(部)
↑ 雑誌印刷実績変化率(週刊少年サンデー/週刊少年マガジン)(部)

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2015年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2015年10-12月期、前年同期比)

男性向けコミックでは数少ない堅調さを見せる「コミック乱」シリーズだが、前年同期比では「コミック乱」が少年・男性向けを合わせて唯一プラスを計上する形となった(誤差領域内だがプラスには違いない)。「コミック乱ツインズ」も誤差領域内の下げ幅に留まり、その手堅さを改めて知ることができる。今回「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」がやや大きな減退を示したのは気になるところだが、NHKの大河ドラマ「真田丸」が比較的堅調な動きを示していることから、それを受けた企画を積極果敢に展開すれば、ある種の特需も期待できよう。

誤差範囲を超えた5%超の下げ幅を示した雑誌は9誌。前四半期の9誌と同じ数であり、全体的な軟調さの雰囲気は変わるところが無い。特に40万部以上の実績を誇る「ヤングマガジン」が、1年で11.7%もの部数減退を起こしている実情には、出版業界の厳しさが再認識される。



記事タイトルや本文の複数か所で触れている通り、またゲームタイトルそのものや周辺アイテムの現状からも分かる通り、昨年一部の雑誌業界に旋風を巻き起こした「妖怪ウォッチ」の特需効果は勢いを止め、今はゆるやかに勢いを落としつつもその余韻を楽しむ状況となっている。特需の余熱が残っているうちに、今後の状況変化に備える、あるいは新たなけん引コンテンツを探すかの課題ではある。

一方、大きなテーマは見当たらないものの、「コミック乱」シリーズが中長期的に、他の男性向けコミック誌とは異なる堅調さを見せているのも興味深い。思い返せば確かにコンビニなどでも確実にその存在感を示しており、需要にマッチしているようでもある。流行り廃りが起きにくい、堅い定番コンテンツの強みといえる。直上で触れたNHK大河ドラマの展開との連想も一つの例だが、他のジャンルとの相乗効果が容易に期待できるのも長所ではある。

昨今ではこれまで以上に電子書籍、ウェブ漫画が浸透し始め、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも方法論が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。これまでは馬車でしか行き来できなかった場所への輸送ビジネスが、バスや電車、飛行機などが登場し、馬車業界において顧客が奪われているような状況とも表現できる。

なお今件の各値はあくまでも印刷証明部数であり、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用性向も確実に上昇している。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各雑誌、コミックそのものの需要がそれと連動する形で減退しているとは限らないことは認識しておくべきである。

便宜性、利点を思い返せば、紙媒体による雑誌そのものが無くなることはありえない。しかし今後さらに紙媒体としてのビジネスの上では過酷な状況が待ち受けている。これから紙媒体の市場が広がり、売上がアップするような未来は想像しがたい。その厳しい実情の中で理性を失わず、コンテンツを提供する自らの立場を誇りとし、環境の変化に合った施策を取るか否か。その点にこそ、各雑誌社、雑誌編集部局の実力と本質が現れるのではないだろうか。


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