「妖怪ウォッチ」は余韻すら消え去り、前年同期比では1誌以外すべてマイナス…少年・男性向けコミック誌部数動向(2015年7月-9月)

2015/11/09 11:00

デジタル媒体で漫画や文章を読む機会が多数設けられるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇の一途にあるとの解釈もなされている。一方で紙媒体を用いた本は相対的な立ち位置の揺らぎを覚え、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。主に子供向けとして提供されているコミック誌業界においては、さらに子供の娯楽や価値観の変化も加わり、ビジネス的に厳しい立場に追い込まれ、よりリスクが低く新市場のように見えるウェブベースでの展開に移行する雑誌が相次いでいる。社団法人日本雑誌協会では2015年11月5日付で、四半期毎に更新・公開している印刷部数に関して、公開データベース上の値に最新値の2015年7月から9月分の値を反映させた。そこで今回は各雑誌が一般向けに、あるいは営業の中で提示する値よりもはるかに実態に近い、この公開された「印刷証明付き部数」を基に、「少年・男性向けコミック誌」の動向を複数の切り口からグラフ化を行い、現状を精査していくことにする。

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直近四半期の動向…妖怪の余韻が消え去る少年誌


データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など各種文中の用語の解説、諸般注意事項、同一カテゴリの過去の記事は一連の記事の解説ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明・収録済み。詳細はそちらで確認のこと。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前四半期から変わらず。今記事におけるもう一つの対象ジャンル「男性コミック誌」と合わせても、唯一のダブルミリオンセラー(200万部以上の実績)誌として君臨中。次いでやや年上の少年向け雑誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)雑誌「コロコロコミック」。半年前までは2四半期連続して100万部を超え、ミリオンセラー誌が3誌状態だった今分野は、前四半期で「コロコロコミック」が100万部割れをおこし、再び2誌状態に逆戻りしてしまった。今四半期でも同誌部数はさらに減退し、三巨頭体制への復帰は果たせない。もっともこの3誌が他誌から群を抜いた実績状態にあることに違いは無い。

↑ 2015年4-6月期と最新データ(2015年7-9月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2015年4-6月期と最新データ(2015年7-9月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

直近データで確認すると「ジャンプ」の印刷部数は現在237万6667部。雑誌では返本や在庫本なども存在するので、それを勘案すると最終消費者の手に渡る冊数は、これよりも少なくなる。雑誌の種類やジャンルによって返本率は大きな変動があるが、暫定値として1割から2割と試算すると、200万部プラスα程度。ここ数年で電車の乗客を見渡した時に、コミック雑誌を手に持って読んでいる人が随分と減ったこと、また電車の棚や駅ホームのゴミ箱などでも見受けられなくなったことを思い返せば、毎週全国で200万人以上もの人が購入し目を通している状況は奇跡に近い。もっとも同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた記録を目にするに、その4割足らずにまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。

今回は脱落・追加雑誌は無し。コンビニなどでも良く見かけるメジャーどころの週刊コミック誌で、【週刊少年サンデーがダイナミックなリストラクチャリングをするという話】でも伝えた通り、大規模かつ大胆な組織構造改革宣言を行った週刊少年サンデーの部数は、36万9231部。容易に取得可能な最古のデータとなる2008年の4月から6月期における86万6667部からは43%程度にまで部数を減らしている。

↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年サンデー)(部)
↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年サンデー)(部)

グラフの形状からも分かる通り、何度か大胆な改革により部数持ち直しの機運も見られたが、全体的な流れに逆らうまでには至っていない。今回の改革に関しても、現時点ではその成果は観られない。もっとも8月に宣言を始めたのだから、今回の該当期間で成果を見せろとは無理な話であり、むしろ今後の動向に期待をしたいところ。手をかける部分が大規模かつ深刻なものであれば、その状況改善と成果が数字となって表れるのには、数か月、さらには数年もの期間が必要とされよう。

続いて男性向けコミック誌。

↑ 2015年4-6月期と最新データ(2015年7-9月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2015年4-6月期と最新データ(2015年7-9月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

男性向けコミックは少年向けと比べると印刷部数の規模が小さく、また飛びぬけた値を示す雑誌が無いため、上位陣では比較的きれいな部数の差異によるグラフが生成される。またトップから第3位まで、第4位と第5位、第6位から第8位までの差異が小さく、競馬や競輪、F1レースの周回時におけるグループ的なものができているのも興味深い。

男性向けコミック誌でも追加・休廃刊やデータ提供休止に伴う脱落は無し。大きな変化は無いものの、元気の無さはこれまでの動向通り。予定調和的な軟調さとでも表現すべきか。

前四半期比較で動向精査…少年向けコミック誌はプラス無し


続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。雑誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、雑誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。

なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌は、このグラフには登場しない。幸いにも今回はそのような雑誌は無い。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2015年7-9月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2015年7-9月期、前期比)

今四半期では前四半期比でプラスとなった雑誌は2誌、「別冊少年マガジン」と「ゲッサン」のみ。「別冊少年マガジン」では8月8日発売の9月号において、「進撃の巨人」の表紙化、さらにはスピンオフの新連載、そして「進撃の巨人 ハンドタオル」の付録など、盛りだくさんの内容で攻めているのが確認できる。この号がわずかではあるが前四半期から値を底上げしたと考えるのが無難なところ。

他方「ゲッサン」だが、こちらは8月12日発売の9月号で「アイドルマスター ミリオンライブ!」関連の企画の実施に加え、同タイトルの登場人物の一人、春日未来嬢のラバーストラップが付録として用意されていた。こちらが部数底上げに貢献したことは、ほぼ間違いあるまい。

誤差範囲内とも判断できる5%内の下げに留まった雑誌は7誌、それ以上の下げ幅を見せたのは5誌。「コロコロコミック」「コロコロイチバン!」「別冊コロコロコミックスペシャル」の大きな下げ方は、ここ半年ほど前まで続いていた「妖怪ウォッチ」特需が過去のものとなり、その状況から通常状態への回帰の動きにも見える。

↑ 雑誌印刷実績変移(コロコロコミック)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(コロコロコミック)(部)

とはいえ特需で得たアドバンテージはまだまだ十分に残っている(「コロコロコミック」なら30万部位であろうか)。「妖怪ウォッチ3」の発売までの状況変化に合わせ、どのような動きを見せるかが気になるところ。あるいはそれ以外の新たなけん引役となる、機関車的コンテンツを見出すことができるだろうか。

また「妖怪ウォッチ」同様にコミック誌業界に大きなパワーを注入してくれた「進撃の巨人」の特需で、かつて部数を伸ばした「月刊シリウス」だが、ようやく反動も収まり、部数も安定化する形となった。とはいえ、現状の1万部割れは芳しいとはいえず、てこ入れが必要なのには違いない。

↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2015年7-9月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2015年7-9月期、前期比)

手堅さでは定番の歴史もの「コミック乱」三兄弟と表現できる「コミック乱ツインズ」「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」「コミック乱」のうち、2誌までが前四半期比でプラス。「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」は今四半期ではマイナスとなったが、これは前四半期で大きな上昇(プラス6.5%)を示したことの反動によるものと見て良い。実情としては3誌とも堅調といったところ。

まだ「ビックコミックスピリッツ」の上昇ぶりに関しては、これといった原因が見つからない。「天そぞろ」をはじめとした新連載攻勢が功を奏したのか、あるいは前四半期の大きな下げ(マイナス3.7%)の反動に過ぎないのか。実際、2四半期前との比較ではマイナスとなることから、反動の要因が多分にありそうだ。

なお前四半期比でマイナスを計上した雑誌は、今四半期では14誌。誤差超の大幅減少は「月刊スピリッツ」1誌のみ。

前年同期比で検証…年ベースでも「妖怪」特需の余韻も消えた


続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2015年7-9月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2014年7-9月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が開いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。数十年もの歴史を誇る雑誌もある中で、わずか1年で数十パーセントもの下げ幅を示す雑誌も見受けられるが、それだけ雑誌業界は大きく動いていることを再確認させられる……とはいつもの言い回しではあるのだが、最近では「見受けられる」ではなく「少なくない」と差し換えた方が良いのではないかと考えさせられる結果が出ている。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2015年7-9月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2015年7-9月期、前年同期比)

全対象誌がマイナスで、誤差範ちゅうを超える5%超は13誌にも及ぶ。かつては「妖怪ウォッチ」の特需効果を存分に受け、前四半期比ではその影響が無くなったものの、前年同期比ではまだ十分な計上を確認できたコロコロ3誌だが、今四半期比ではその動きもまったく見られなくなった。「コロコロコミック」はまだマイナス4.2%と小幅な下げで済んでいるが、「コロコロイチバン!」「別冊コロコロコミックスペシャル」は赤着色領域、特に「コロコロイチバン!」は1/3以上の下げ幅に達している。

「妖怪ウォッチ」同様特定タイトル、具体的には「進撃の巨人」の特需で盛況だったことが記憶に新しい「月刊少年シリウス」「別冊少年マガジン」は、共に「進撃の巨人」関連の反動によるところも大きい下げ幅。年間で2割強の減少との数字は尋常では無いことは、容易に想像できる。

それら特定作品による特需やその反動を除くと「少年サンデーS」「サンデージェネックス」「週刊少年サンデー」の下げ幅が目立つ。特に「週刊少年サンデー」は発売日などから対比する形で店舗に並び評される「週刊少年マガジン」と比べ、下げ率はより大きい。子供向け内容の多い「週刊少年サンデー」の方が失速度も大きいのは、雑誌業界全体の需要を示す一つのシグナルといえる。それゆえに上記の通り、抜本的改革が宣言されたと考えれば、道理は通る。

↑ 雑誌印刷実績変化率(週刊少年サンデー/週刊少年マガジン)(部)
↑ 雑誌印刷実績変化率(週刊少年サンデー/週刊少年マガジン)(部)

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2015年7-9月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2015年7-9月期、前年同期比)

男性向けコミックでは数少ない堅調さを見せる「コミック乱」シリーズだが、前年同期比では「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」が少年・男性向けを合わせて唯一プラスを計上する形となった。「コミック乱」「コミック乱ツインズ」も誤差領域内の下げ幅に留まり、その手堅さを改めて知ることができる。

誤差範囲を超えた5%超の下げ幅を示した雑誌は9誌。前四半期の10誌からは少なくなっているが、全体的な軟調さの雰囲気は変わるところが無い。特に40万部以上の実績を誇る「ヤングマガジン」が、1年で16.2%もの部数減退を起こしている実情には、出版業界の厳しさが再認識される。



記事タイトルや本文の複数か所で触れている通り、またゲームタイトルそのものや周辺アイテムの現状からも分かる通り、昨年一部の雑誌業界に旋風を巻き起こした「妖怪ウォッチ」の特需効果は勢いを止め、今はその反動によるマイナス値に頭を抱えながら、特需の余熱が残っているうちに、今後の状況変化に備える、あるいは新たなけん引コンテンツを探すかの課題が突きつけられている状況にある。

一方、大きなテーマは見当たらないものの、「コミック乱」シリーズが中長期的に、他の男性向けコミック誌とは異なる堅調さを見せているのも興味深い。思い返せば確かにコンビニなどでも確実にその存在感を示しており、需要にマッチしているようでもある。流行り廃りが起きにくい、堅い定番コンテンツの強みといえる。男子・少年コミックスの分野ではそのような「鉱脈」を見出すのは難しいが、試掘は常に、そして積極的に行われるべき。

昨今ではこれまで以上に電子書籍、ウェブ漫画が浸透し始め、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも方法論が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。これまでは馬車でしか行き来できなかった場所への輸送ビジネスが、バスや電車、飛行機などが登場し、馬車業界において顧客が奪われているような状況とも表現できる。

なお今件の各値はあくまでも印刷証明部数であり、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして今後は電子雑誌の利用性向も確実に上昇する。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各雑誌、コミックの需要がそれと連動する形で減退しているとは限らないことは認識しておくべきである。

便宜性、利点を思い返せば、紙媒体による雑誌そのものが無くなることはありえない。しかし今後さらに紙媒体としてのビジネスの上では過酷な状況が待ち受けている。これから紙媒体の市場が広がり、売上がアップするような未来は想像しがたい。その厳しい実情の中で理性を失わず、コンテンツを提供する自らの立場を誇りとし、環境の変化に合った施策を取るか否か。その点にこそ、各雑誌社、雑誌編集部局の実力と本質が現れるのではないだろうか。


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