すき家の客数・売上大幅増は期間限定牛丼値下げが原因か…牛丼御三家売上:2015年10月分

2015/11/06 05:00

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2015年11月5日、吉野家における2015年10月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス8.0%となった。これは先月から続き、4か月連続のプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年10月における売上前年同月比はプラス5.5%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス14.9%との値が発表された。今回月は前回月に続き、3社すべてが前年同月比でプラスの売上を計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2015年10月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2015年10月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2014年10分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス6.5%。同社では2014年4月1日から消費税率改定に伴い主力メニューの牛丼価格を引き上げており、これが客単価の上昇、そして客数の減退(マイナス3.5%)に結びつく形となった。

牛すき鍋膳従って今回月は「牛丼値上げによる客数減少・客単価増加が生じた前年同月」との比較となり、多少の反動(客数のプラス化、客単価のマイナス化)の影響が生まれることになる。他方吉野家では【吉野家の牛丼、300円から380円へ値上げ・12月17日15時から】で報じた通り、2014年12月17日から主力商品の牛丼価格をはじめ各種商品価格の引き上げを実施しているため、これ以降は客数の減少と客単価の増加が直接的な影響要因として計上される。また、これと前後して高単価商品も次々市場への投入を実施しており、客単価の底上げ要因が付加される。今回月でも【今年も登場吉野家の鍋「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」、肉2倍やねぎ増しメニューも追加】で伝えた通り、今や冬場定番となった鍋メニューの早期投入を開始、さらにオプションの新設でさらなる単価引上げが期待できる状況となっている。


↑ 「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」のテレビCM。【直接リンクはこちら:牛すき鍋膳  アツアツ篇 】

一方で【牛丼御三家、相次ぎ期間や地域限定で牛丼(めし)を値下げ】でも伝えているが、西日本限定・期間限定ではあるものの、主力商品となる牛丼価格の値引きを実施しており、この分は客単価の引き下げの影響が生じることとなった。

結果として客単価は前月に続き1割強の底上げとなる一方、客数は御三家では唯一マイナスの値を示した。しかし売上としてはプラス8.0%とそれなりの売り上げの増加を示す形となった。相次ぐ客単価引き上げ施策の実施は、メニュー構成、さらには運営方針のかじ取りの変化の表れと見て間違いない。

それゆえに西日本限定とはいえ、牛丼価格の期間限定引き下げは、違和感を覚えた人も多いはずだ。3社がほぼ同じタイミングで行っていることもあわせ、現在の「高単価化戦略」のかじ取りの中で、客単価を引き下げる施策を打った場合、どの程度の影響が生じるかを確認する、実証実験のようなものだったのかもしれない。

昨今では各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると5.40%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2015年10月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2015年10月営業成績(既存店)(前々年同月比)

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、吉野家だけでなく3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる。結果としてこのような状況になったのか、あるいは意図してのものなのかは不明だが、明らかに施策としてのかじ取りの転換がなされている。特に吉野家は相次ぐ牛丼価格の引き上げが実施されており、客単価の上昇ぶりは他の2社から群を抜く形となっているのが分かる。

麻婆豆腐続いて松屋。今回月も新作メニューが続々と登場し、ラインアップに彩りを添えている。新メニューとしてはプレミアムピリ辛きんぴら牛めしと鶏のチリソース定食が展開され、松屋の常連客はもちろんそうでない人も、店を横切るたびにそのポスターに映し出された彩りの艶やかさに目を留める形となった。また先月発売された「四川風旨辛麻婆豆腐定食」は、LINE限定のクーポンによるセールスプロモーションが非常に好評だったこともあり、一部店舗で早々に完売状態となり、お詫びの告知が出ている。

10月の業績は、客単価こそ3社中最小の上昇率となったものの、客数増加はそこそこ。結果として売上は3社中最小の上昇率に留まったものの、プラス5.5%とそれなりの堅調さを示す形となった。2年前同月比でも似たような動きを示しており、松屋ならではの地道な成長ぶりがうかがえる。

最後にすき家。新メニューとしてはきのこペペロンチーノ牛丼が9月16日から発売を開始、また対象期間としてはギリギリだが、10月29日からは「新 牛すき鍋定食」の販売を開始した。しかしそれより今回月では、上記でも触れている牛丼の期間限定値引きに関して、同社のみ期間延長が成されたことが業績に大きく影響する形となった。具体的には本来ならば9月29日から10月8日までだったものが、10月22日までと2週間延長され、10月は2/3以上が該当する形となった。また牛丼だけでなく、牛丼類全体での値引きとなるため影響も大きく、結果として客単価の伸びはプラス1.6%に留まったものの、客数は他社から群を抜く形で大きく上昇し、売上も唯一の2ケタ台%の上昇を示した。2年前同月比でも客単価・客数・売上高共に大きくプラスが計上されており、単に前年同月が軟調だったための反動では無いことも確認できる。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2015年10月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2015年10月)

売上幅の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。他方、直近で8月と前年11月に起きている吉野家の売上における跳ね上がりは、新商品の導入に伴う客単価の大きな底上げによるもの(前年は定価を上げた鍋定食、今年は「麦とろ牛皿御膳」)。逐次インパクトのある商品投入で、業績に活力を与えるのがここ数年の吉野家の施策とも読める。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年が経過しているため、消費税率改定にによる客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが(イベントによる減退が生じた場合、次年はそのイベントの影響が無くなっているため、特異的に減少した値との比較によって大きなプラスが生じ得る)、相変わらず値はマイナス値のままで低迷した状態が続いていた。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2015年10月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2015年10月)

単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果を見ても、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示している。それゆえに今回月の動向はやや特異的で、今後の動向を見極める必要もある。やはり期間限定とはいえ、牛丼(牛めし)の値引きが大きく影響したのだろう。ただし中期的には客数だけを見れば「低迷している」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面も見えてくることに違いは無い。期間限定の値下げの影響が無くなる11月分で、再びこれまでの状況と同じようなパターン(客単価プラス、客数マイナス)に戻れば、今回月が牛丼値引きによるイレギュラーな動きであったことが確認できることになる。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が成されれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、方向性の確定に苦慮しているマクドナルドが苦戦を強いられる一方、モスバーガーやケンタッキー・フライド・チキンでは高単価・高品質をさらに前面に押し立てるだけでなく、独自ブランドをより個性豊かなものとして、売上を維持している。

この「客単価増・客数減」の動きが今後も継続するのなら、数年後には牛丼チェーン店における社会的立ち位置は、これまでとは随分とちがったものとなるに違いない。


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