保管の価値がある雑誌作りを目指す動き…ビジネス・マネー系雑誌部数動向(2015年4月-6月)

2015/08/11 08:00

インターネットに代表される電子情報技術の加速的進歩、機動力に長けたスマートフォンの普及浸透で、ますます時間との戦いが熱いものとなりつつあるビジネス、金融業界。その分野の情報をつかさどる専門誌では、正しさはもちろんだがスピーディな情報展開への需要が高まるばかりとなる。デジタルとの比較で生じる時間的遅れは紙媒体の致命的な弱点となり、その弱みをくつがえすほどの長所が今の専門誌では求められている。このような状況下の「ビジネス・マネー系専門誌」について、社団法人日本雑誌協会が2015年8月5日付で発表した、第三者による公正な部数動向を記した指標「印刷証明付き部数」から、実情を確認していくことにする。

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「プレジデント」一強時代は変わらず


データの取得場所に関する解説、「印刷証明付部数」など各種用語の説明、過去の同一テーマのバックナンバー記事、諸般注意事項は一連の記事の集約ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で解説している。必要な場合はそちらから確認のこと。

最初に精査するのは、直近にあたる2015年の4-6月期とその前四半期に該当する、2015年1-3月期における印刷実績。

↑ 2015年1-3月期と2015年4-6月期のビジネス・金融・マネー誌の印刷実績
↑ 2015年1-3月期と2015年4-6月期のビジネス・金融・マネー誌の印刷実績

今四半期では追加・脱落雑誌は無し。ただし不定期刊化し、出入りが激しい「¥en SPA!」は今回は顔を見せており、部数が確認できる(2.1万部)。前四半期は非登場だったため、青色の棒は存在していない。

対象誌の中では「PRESIDENT(プレジデント)」が前四半期から継続する形でトップ。部数上で第2位となる「週刊ダイヤモンド」とは3倍近くもの差をつけている。グラフで概況を確認する限りでは、他誌は多少の増減を示しているが、「プレジデント」は大きな部数減退が確認できる。ただし同誌は昨今では上昇の動きと共に四半期毎の部数変動の幅が大きくなる傾向があるため、今回の動きも予定調和的なもので想定の範囲内。

↑ PRESIDENT印刷証明付き部数(2015年4-6月期まで)
↑ PRESIDENT印刷証明付き部数(2015年4-6月期まで)

前四半期があまりにも堅調だったための反動にも見えるが、それでもなお2四半期前よりは上。2013年後半辺りから始まった上昇傾向に変わりは無い。

大きく下がったようPRESIDENT…前四半期比較


次に示すのは各誌における、四半期間の印刷証明部数の変移。前四半期の値からどれほどの変化をしたかを算出している。季節による需要動向の変化を無視した値のため、各雑誌の実情とのぶれがあるものの、手身近に各雑誌の状態を知るのには適している。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・金融・マネー誌)(2015年4-6月、前四半期期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・金融・マネー誌)(2015年4-6月、前四半期期比)

今四半期ではプラス領域は「THE21」「DIAMOND」の2誌のみで、しかも誤差領域内。マイナス領域は残り5誌だが、誤差を超えた下げ方を示したのは「PRESIDENT」のみ。四半期ベースでは安心できない下げ方に違いは無いが、上記グラフを見れば分かる通り、前四半期の反動による動きとの解釈もできるため、大きな心配は要らない。むしろ前四半期でもプラス、今回もプラスを計上した「THE21」の健闘ぶりに注目すべき。

↑ THE 21 印刷証明付き部数(2015年4-6月期まで)
↑ THE 21 印刷証明付き部数(2015年4-6月期まで)

トップの「PRESIDENT」とコンセプト的に類似している雑誌だが、昨年までは冴えない動きを示していただけに、今年に入ってからの流れの変化には注目したい。

「COURRiER Japon(クーリエ ジャポン)」はかつて期待の新星として上昇機運真っ只中にありながら天井感の後、失速。昨今ではようやくその落下スピードも落ち着きを示すようになった。

↑ COURRiER Japon(クーリエ ジャポン)印刷証明付き部数(2015年4-6月期まで)
↑ COURRiER Japon(クーリエ ジャポン)印刷証明付き部数(2015年4-6月期まで)

下落前の横ばいの基準6万部よりはまだ上であることから、そろそろストップがかかり、再上昇の動きに転じるよう期待したい。無論そのためには現状の失速原因を突き止め、改善の施策を打たねばならないのは言うまでもない。

3プラス1マイナスな前年同期比動向


続いて前年同四半期を算出。こちらは前年の同期の値との比較となることから、季節変動の影響は考えなくてよい。年ベースでの動きなためにやや大雑把とはなるものの、より確証度の高い雑誌の勢いを把握できる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・マネー系、2015年4-6月、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・マネー系、2015年4-6月、前年同期比)

前四半期比などでも触れていた「THE 21」、そして中期的な成長を続けている「PRESIDENT」の2誌が誤差領域を超える5%超の伸びを示している。

意外なのは「\en SPA!」。発行スタイルが不定期刊に近く、印刷証明部数の計上も昨今では2四半期毎になっているが、地道な伸びを示しているのが分かる。

↑ \en SPA! 印刷証明付き部数(2015年4-6月期まで)
↑ \en SPA! 印刷証明付き部数(2015年4-6月期まで)

部数そのものが少数のため「伸び」よりは「誤差の範囲内の動き」との表現が適切かもしれないが、昨今の雑誌業界の情勢の中で、部数を減らさずに維持できているだけでも評価の対象にはなる。

他方「COURRiER Japon」は年ベースでも大きく下げているが、状況は上記で説明の通り。下げ基調の真っただ中にあったが、最近ようやく落ち着きを見せ始めているところ。とはいえ、1年間で1/4ほどの部数減少はキツイ状況に違いない。



内容の斬新さから注目を集めると共に部数を伸ばしていた「COURRiER Japon」が、編集方針の変更と思われる内容性向の変化と共に失速し、書籍的な保存を半ば目論んだ企画構成の「PRESIDENT」「THE21」が確実に部数を伸ばす動きを示していることから、記事冒頭で触れている「インターネットにスピード感では絶対に太刀打ちできない、紙媒体としての専門誌の勝利の方程式」の一つに、内容の充実性、さらに突き詰めれば蓄積性、保存性の高さの強調がある感は強い。それだからこそ、前四半期の記事でも指摘しているが、【近藤誠×和田秀樹 「決定版! 頼れる病院、危ない病院"特集...ダークサイドに入り込んだ感じ】のような記事の展開を「PRESIDENT」が行ったのは残念であり、違和感を覚える。

元々ビジネス誌の多くは連載物、あるいは特集の記事を再構築して加筆し、書籍として再展開する傾向が強い。コミック誌における雑誌連載と、その集約+描き下ろしによる単行本のような関係ではある。雑誌の掲載時点で捨て置かれる程度のものでは無く、保存して単行本のごとく取り扱ってもらう、価値あるものとしての作りを成すのは、雑誌そのもののセールスを高める点では一つの方法論としてありうる。たとえ月刊誌でもコミック誌を保存している人はあまりいないが、ビジネス誌なら結構多くの人が保全しているのではないだろうか。

「PRESIDENT」「THE21」が見つけた「方程式」も、その考えにのっとったものなのかもしれない。


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