3社とも確実に高客単価化の道へ…牛丼御三家売上:2015年9月分

2015/10/06 05:00

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2015年10月5日、吉野家における2015年9月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス5.0%となった。これは先月から続き、3か月連続のプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年9月における売上前年同月比はプラス1.3%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス0.7%との値が発表された。今回月は前回月に続き、3社すべてが前年同月比でプラスの売上を計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

スポンサードリンク


前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2015年9月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2015年9月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2014年9分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス6.4%。同社では2014年4月1日から消費税率改定に伴い主力メニューの牛丼価格を引き上げており、これが客単価の上昇、そして客数の減退(マイナス4.5%)に結びつく形となった。

従って今回月は「牛丼値上げによる客数減少・客単価増加が生じた前年同月」との比較となり、多少の反動(客数のプラス化、客単価のマイナス化)の影響が生まれることになる。他方吉野家では【吉野家の牛丼、300円から380円へ値上げ・12月17日15時から】で報じた通り、2014年12月17日から主力商品の牛丼価格をはじめ各種商品価格の引き上げを実施しているため、これ以降は客数の減少と客単価の増加が直接的な影響要因として計上される。また、これと前後して高単価商品も次々市場への投入を実施しており、客単価の底上げ要因が付加される。今回月でも【吉野家の牛カルビ丼リニューアル、特盛も登場】で伝えた通り、迫力あるビジュアルの高単価商品を惜しみも無く投入している。

牛カルビ丼一方【吉野家の朝メニュー一新、「うまい、やすい、はやい」を前面に低カロリーメニューが新登場】で伝えたように、幅広い時間帯における顧客サービスの充実を図るために朝メニューの刷新も実施。価格帯も幅広いものとなり、低価格需要にも(時間の制限はあるが)応える姿勢を示している。さらに【新御膳は麦とろ・吉野家の健康志向食品第三弾は「麦とろ牛皿御膳」】にもあるように、健康志向的な商品ラインアップの充実も図り、これもまた客単価の押し上げに起因している。実際今商品は【吉野家の麦とろ御膳が300万食突破】でも報じた通り好評を博する形となっている(ただし一部店舗では販売終了間近との告知がなされており、そろそろメニュー切り替えの感もある)。

結果として客単価は前月に続き2割近くの底上げとなる一方、客数は10%超えの減少を示し、プラス5.0%とそれなりの売り上げの増加を示す形となった。相次ぐ客単価を引き上げる施策の実施は、メニュー構成、さらには運営方針のかじ取りの変化の表れと見て間違いない。

もっとも客数の減退ぶりに少々不安を覚えたのか、震災前にはしばしば行われていた限定的な牛丼の価格引き下げについて、期間・地域限定での実施を発表している(【牛丼御三家、相次ぎ期間や地域限定で牛丼(めし)を値下げ】)。ただしこれは3社がほぼ同じタイミングで行っていることもあわせ、現在の「高単価化戦略」のかじ取りの中で、客単価を引き下げる施策を打った場合、どの程度の影響が生じるかを確認する、実験的な値下げと読むこともできる。

昨今では客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率なので、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると3.30%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2015年9月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2015年9月営業成績(既存店)(前々年同月比)

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、吉野家だけでなく3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる。結果としてこのような状況になったのか、あるいは意図してのものなのかは不明だが、明らかに施策としてのかじ取りの転換がなされている。

麻婆豆腐続いて松屋。今回月も新作メニューが続々と登場し、ラインアップに彩りを添えている。新メニューとしては四川風旨辛麻婆豆腐定食とトマトバジルハンバーグ定食が展開され、店頭にはにぎやかなポスターやのぼりが彩りを添える形となっている。食欲をそそるビジュアルには、多くの人が足を留め、プロモーション効果の大きさを再確認させられる。

9月の業績は、客数の減少こそ3社中最小に留まったが、客単価も上昇率はそこそこ。客数の減退が最小限に留まるパターンはここ数か月連続した動きで、松屋におけるいつものパターン「吉野家やすき家と比べるといつも中ぐらいの、個性が無く目立たないが、質実剛健な動き」が見て取れる。

最後にすき家。新メニューとしてはきのこペペロンチーノ牛丼が9月16日から発売を開始している。斬新さの観点では名前から奇抜感を覚えさせるメニューに違いない。一方で【すき家の「全店深夜営業再開」は延期へ】でも伝えている通り、いわゆるワンオペ問題も絡み、「全店深夜営業再開」は施策的にあきらめたとも読める発表もなされている。要は売上、利益を挙げられるか否かなのだから、その選択肢がその目的にかなうのならば、それもまた良し、というところか。客数・客単価動向は松屋とほぼ同じ。もっとも客数減少はわずかに悪く、客単価上昇分はいくぶん少ないため、売上も松屋よりは多少後退する形に。ギリギリプラスとなったのは不幸中の幸い。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2015年9月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2015年9月)

売上幅の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。他方、直近で今回月と1年ほど前に起きている吉野家の売上における跳ね上がりは、新商品の導入に伴う客単価の大きな底上げによるもの(前回は定価を上げた鍋定食、今回は「麦とろ牛皿御膳」)。逐次インパクトのある商品投入で、業績に活を入れるのがここ数年の吉野家の施策とも読める。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年が経過しているため、消費税率改定にによる客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが(イベントによる減退が生じた場合、次年はそのイベントの影響が無くなっているため、特異的に減少した値との比較によって大きなプラスが生じ得る)、相変わらず値はマイナス値のままで低迷している。矢印で示した領域において、3社ともにマイナス圏のオレンジ枠にはまったままであることが分かる。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2015年9月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2015年9月)

今回月における単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果を見ても、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示している。客数だけを見れば「低迷している」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面も見えてくる。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が成されれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、方向性の確定に苦慮しているマクドナルドが苦戦を強いられる一方、モスバーガーやケンタッキー・フライド・チキンでは高単価・高品質をさらに前面に押し立てるだけでなく、独自ブランドをより個性豊かなものとして、売上を維持している。

この「客単価増・客数減」の動きが今後も継続するのなら、数年後には牛丼チェーン店における社会的立ち位置は、これまでとは随分とちがったものとなるに違いない。


■関連記事:
【各社の店舗展開戦略が見えてくる…牛丼御三家の店舗数推移】
【ロイヤルホストが全席禁煙化・9割近くの店舗で独立した喫煙ルーム設置】
【各社の店舗展開戦略が見えてくる…牛丼御三家の店舗数推移(2015年)(最新)】
【牛すき鍋定食(すき家、2015年2月)試食】

スポンサードリンク




▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2016 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー