吉野家の健康戦略が成功か…牛丼御三家売上:2015年8月分

2015/09/08 08:00

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2015年9月7日、吉野家における2015年8月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス15.4%となった。これは先月から続き、2か月連続のプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年8月における売上前年同月比はプラス1.4%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス3.5%との値が発表された。今回月は3社すべてが前年同月比でプラスの売上を計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2015年8月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2015年8月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2014年8月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス5.1%。同社では2014年4月1日から消費税率改定に伴い主力メニューの牛丼価格を引き上げており、これが客単価の上昇、そして客数の減退(マイナス4.6%)に結びつく形となった。

従って今回月は「牛丼値上げによる客数減少・客単価増加が生じた前年同月」との比較となり、多少の反動(客数のプラス化、客単価のマイナス化)の影響が生まれることになる。他方吉野家では【吉野家の牛丼、300円から380円へ値上げ・12月17日15時から】で報じたように、2014年12月17日から主力商品の牛丼価格をはじめ各種商品価格の引き上げを行っており、これ以降は客数の減少と客単価の増加が直接的な影響要因として計上される。また、これと前後して高単価商品も次々市場への投入を実施しており、客単価の底上げ要因が付加される。

新 牛カルビ丼と麦とろ定食一方【吉野家の朝メニュー一新、「うまい、やすい、はやい」を前面に低カロリーメニューが新登場】で伝えたように、幅広い時間帯における顧客サービスの充実を図るために朝メニューの刷新も実施。価格帯も幅広いものとなり、低価格需要にも(時間の制限はあるが)応える姿勢を示している。さらに【新御膳は麦とろ・吉野家の健康志向食品第三弾は「麦とろ牛皿御膳」】にもある通り、健康志向的な商品ラインアップの充実も図り、これもまた客単価の押し上げに起因している。実際今商品は【吉野家の麦とろ御膳が300万食突破】でも報じた通り好評を博する形となり、今回月の堅調さはこれが大いに貢献したものと考えられる。

結果として客単価は前月に続き2割近くの底上げとなる一方、客数は3%足らずの減少に留まり、プラス15.4%と大幅な売り上げの増加を示す形となった。相次ぐ客単価を引き上げる施策の実施は、メニュー構成、さらには運営方針のかじ取りの変化の表れと見て間違いない。

昨今では客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率なので、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると7.56%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2015年8月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2015年8月営業成績(既存店)(前々年同月比)

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、吉野家だけでなく3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる。結果としてこのような状況になったのか、あるいは意図してのものなのかは不明だが、明らかにかじ取りの転換がなされている。

麻婆豆腐定食続いて松屋。今回月も新作メニューが続々と登場し、ラインアップに彩りを添えている。先月末から展開しているガーリックチキン定食、さらにリピーターを狙った牛焼肉各種定食の50円引きキャンペーン(この類のキャンペーンはポスターの割引告知を目に留め、つい動機づけが成されてしまうもの)が実施されている。また「山かけネギトロ丼」に関しては人気が出たこともあり、一部店舗で品切れが生じているとの告知までなされている。

8月の業績は、客数の減少は3社中最小に留まったが、客単価も上昇率は3社中では一番ひかえめ。このパターンはこの3か月間続くもので、昨今の牛丼御三家動向においては、松屋ポジション的なものとして定番となりつつある。もっとも同社は以前から、3社の動向では常に中庸かつ唯我独尊的な方向性を示しており、これもまた「いつもの動き」といえる。

最後にすき家。8月では前月末から発売を始めた「ニンニクの芽牛丼」シリーズや、前月から展開している「チキンと彩り野菜カレー」が好評と伝えられている。後者は吉野家の健康志向的な動きに合わせた感もあるが、集客アイテムとして活躍しているのは事実。ファストフードでも健康に注目が集まる方向性が出てきたのだろうか。業績では、客単価はそこそこに上昇、ただし客数の減退ぶりがやや大きめ。客単価の大幅上昇ぶりで救われた形となった。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2015年8月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2015年8月)

売上幅の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移していることが分かる。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。他方、直近で今回月と1年ほど前に起きている吉野家の売上における跳ね上がりは、新商品の導入に伴う客単価の大きな底上げによるもの(前回は定価を上げた鍋定食、今回は「麦とろ牛皿御膳」)。逐次インパクトのある商品投入で、業績に活を入れるのがここ数年の吉野家の動きのようでもある。

客数の減少・客単価の増加はやはり戦略転換の結果かも


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年が経過しているため、消費税率改定にによる客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが、相変わらず値はマイナス値のままで低迷している。矢印で示した領域において、3社ともにマイナス圏のオレンジ枠にはまったままであることが分かる。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2015年8月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2015年8月)

今回月における単純な前年同月比に加え、2年前同月比の試算結果を見ても、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示している。客数だけを見れば「低迷している」との判断をしてしまうが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面も見えてくる。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることで、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。今回月で大きな貢献の立役者となった「麦とろ牛皿御膳」も、その気配を覚える商品。これまでの吉野家(どころか牛丼店としても)では考えにくい商品に違いない。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる(某社のようなワンオペを推奨するものでは無い)。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、方向性の確定に苦慮しているマクドナルドが苦戦を強いられる一方、モスバーガーやケンタッキー・フライド・チキンでは高単価・高品質をさらに前面に押し立てるだけでなく、独自ブランドをより個性豊かなものとして、売上を維持している。

この「客単価増・客数減」の動きが今後も継続するのなら、数年後には牛丼チェーン店における社会的立ち位置は、これまでとは随分とちがったものとなるに違いない。


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