電話料金と家計支出に占める割合を詳しく検証(最新)

2023/05/29 02:45

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2023-0520スマートフォンの普及に連れ、これまでの従来型携帯電話以上に携帯電話が生活に密着し、欠かせない存在となりつつある昨今。重要性が増し利用頻度が高まるに従い、過度の依存をはじめ、さまざまな問題点も指摘されるようになった。その問題点の一つに挙げられるのが、携帯電話の利用料金が家計の大きな負担となる、とするもの。そこで今回は【電話料金と家計支出に占める割合】をベースに、さらに詳細かつ複数の視点から【総務省の家計調査(総世帯データ)】を吟味していくことにする。

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用語解説


最初に行うのは用語解説など。登場する主な用語の概要は次の通り。おおよそ家計調査の定義に従っている。

・世帯消費支出…税金や社会保険料を除外した、世帯維持に必要な支出。

・携帯電話…従来型携帯電話とスマートフォンの双方。

・固定電話通信料…固定電話に係わる電話料金。IP電話やテレホンカードなども含む。

・携帯電話通信料…携帯電話に係わる電話料金。PHSなども含む。

・電話通信料…今件では固定電話通信料と携帯電話通信料の合算。

・総世帯…全部の世帯。単身世帯と二人以上世帯の合算。

・総世帯のうち勤労者世帯…総世帯のうち、世帯主が勤労者(勤め人。無業者は該当しないが、他に役員や自営・自由業者も該当しない)の世帯。おおよそ現役の就業者がいる世帯と見てよい。見方を変えれば、大体は非就業の年金生活者以外の世帯

昨今では一部界隈で大きな出費となっているであろうスマートフォン向けのアプリゲームなどにおける課金だが、これは今件電話料金には含まれない。家計調査の項目では「889 他の教養娯楽 サービスのその他」が該当するが、この項目詳細を確認すると、

・華道、茶道などの各種免許料(運転免許料は除く)
・技能テスト
・宝くじ、競輪、競馬の券
・コピー代
・貸スタジオの賃借料
・ダウンロード代(音楽・映画・動画)
・コンテンツ月額利用料(音楽・映画・動画)
・電子書籍、電子新聞

とある。それぞれ独自の額面推移などを見たいところだが、現状ではまとめてひとくくりとなっているため、詳細の精査は不可能。

携帯電話通信料のみでのはなく、電話通信料全体での計算を一部項目で行うのは、概して固定電話から携帯電話へのシフトが生じているため。固定電話を取りやめて携帯電話のみとした場合、その世帯では「携帯電話の支払が増えた」ことに違いはないが、同時に「固定電話の支払が減った」ことになり、家計における負担の考察の上では、不公平感が生じるためである。

ほぼ漸増中な負担だが


まずは世帯単位での消費支出に占める電話通信料の比率を算出する。

↑ 消費支出に占める電話通信料比率(世帯種類別)
↑ 消費支出に占める電話通信料比率(世帯種類別)

取得可能な公開値は2002年以降の分のみであるため、2002年からのグラフとなっているが、おおよそ2011年ぐらいまでは漸増の動きを示している。これはすなわち全体として均した場合(非保有世帯における値がゼロのケースも含めた平均)、各世帯における電話通信料の負担が大きくなっていることを意味する。その後数年は値が横ばいに移行しているが、これは電話通信料があまり増加しなくなったこと、世帯消費支出が漸減していたものが持ち直しの動きを示したことによるもの。

さらに2015年から2016年にかけて総世帯・うち勤労者世帯ともに大きな増加を示しているが、これは料金の値上げよりはむしろ携帯電話の、しかも電話通信料負担がより大きくなるスマートフォンの普及率の向上による結果と見てよい。また2014年4月から実施された消費税率の引き上げも影響していると考えられる。そして2018年以降は前年比が落ちているのは、電話通信料が減ったのに加え消費支出が増加したため。他方2020年ではここ数年の下落傾向から転じて増加の動きを示したが、これは新型コロナウイルス流行の影響で交通費や交際費、旅行費などが大きく減り、消費支出が減少したことによるもの。2021年以降は減少に転じているが、これは政府の携帯電話料金値下げ政策などによる電話通信料が減少したのが主要因。

単なる総世帯と、総世帯のうち勤労者世帯との間には小さからぬ差が出ていた。後者の方が比率は高い。これは総世帯には勤労者世帯以外に、「年金生活をしている高齢者が世帯主の世帯」も多分に含まれているからに他ならない。勤労者世帯では携帯電話の所有率が高く、そしてより高い料金となるスマートフォンを利用している事例が多い。一方、「年金生活をしている高齢者が世帯主の世帯」では携帯電話の保有率は低く、そして保有しているケースでもスマートフォンよりは従来型携帯電話の利用率が高い。総世帯よりも勤労者世帯に限った方が、電話通信料が高くつくため、比率も大きなものとなる。さらにいえば勤労者世帯の方が世帯内に子供がいる可能性は高く、その子供も携帯電話を所有していれば、世帯単位の携帯電話台数は増え、当然世帯単位での電話通信料も高いものとなる。

もっとも政府の携帯電話料金値下げ政策などによる電話通信料の減少は勤労者世帯の方が恩恵を大きく受けているようで、総世帯のうち勤労者世帯の下げ幅は大きく、直近の2022年では単なる総世帯とさほど変わらない値となっている。

固定電話と携帯電話どちらにしても、原則として利用する以上は支払が発生することに注目し、購入(=支払)頻度から概算の世帯普及率を算出してその動向を確認すると、固定電話普及率の減少度合いや携帯電話の普及率上昇の傾向はほぼ同じであるが、勤労者世帯の方が、(高齢者が世帯主の世帯も含む)総世帯よりも高い携帯電話普及率・低い固定電話普及率を示している。つまり、「高齢者は固定電話を維持し続け、携帯電話の利用は遅れている」「多分に非高齢者による世帯となる勤労者世帯は積極的に携帯電話を利用し、固定電話の撤去をしている・元々利用していない」のが確認できる。

↑ 概算世帯普及率(総世帯、電話、種類別)
↑ 概算世帯普及率(総世帯、電話、種類別)

↑ 概算世帯普及率(総世帯のうち勤労者世帯、電話、種類別)
↑ 概算世帯普及率(総世帯のうち勤労者世帯、電話、種類別)

携帯電話の普及率が高い勤労者世帯に限った方が、電話通信料の負担が大きくなるのも当然の話ではある。

なお2013年から数年間においては勤労者世帯でもいくぶん携帯電話の概算世帯普及率の減少が確認できた(2017年以降は持ち直したが)。これは勤労者世帯でも定年退職後の再就職組などが多分を占める、高齢世帯主による世帯が増えているのが原因である。再就職による就労でも、勤労者には違いなく、その人が世帯主ならば該当世帯は勤労者世帯となる。

勤労者世帯の割合が減っている!?


今世紀初頭からの比較ならばともかく、ここ数年は世帯の消費支出に占める比率はさほど変化していない、電話通信料。世帯ベースでの普及率は勤労者世帯では大きな変化はなく、年金生活者世帯で増えている。これが、昨今における携帯電話料金の負担増に係わる声の増加に対するヒントとなる。

次に示すのは家計調査のデータから算出した、総世帯数に占める勤労者世帯数の比率。見方を変えれば、この世帯比率以外の世帯は、おおよそ年金生活世帯と見てよい(実際には上記の通り、役員世帯なども含まれる)。

↑ 総世帯数に占める勤労者世帯数比率
↑ 総世帯数に占める勤労者世帯数比率

高齢化に伴い、勤労者世帯の比率は減少し、高齢者・年金生活者世帯(≒低世帯年収)は増加中。さらにその世帯における携帯電話の普及率は漸増している。携帯電話に関して、その料金の高さに頭を抱える人が増えるのも当然の話ではある。

さらにいえばここ数年の勤労者世帯の比率の減少ぶりがゆるやかになってきた、さらに2018年以降は前年比で増加する動きを見せている背景には、「高齢者が再雇用で非正規などの立場から再就職を果たし、生活費の負担を少しでも軽減する」ケースが増えてきたことが挙げられる。これについてはその傾向が顕著となってきた2016年発表の家計調査でも特記事項として指摘されており、注意を要する影響力を持ちつつある(【エンゲル係数の増加と社会保険料の圧迫感】【日常生活を支える、実収入と蓄財の切り崩しと】参照のこと)。勤労者世帯としてカウントはされるが、現役世代の勤労者世帯と比べ、当然実収入は低くなり、携帯電話料金への負担比率は大きなものとなる。2015年から2016年にかけて世帯消費支出に占める電話通信料比率が前年比でやや大きめな上昇を示している背景には、この要素も一因ではある。

世帯年収別では?


携帯電話通信料(携帯電話料金)の負担が重いとの話の理由の一つには、「携帯電話を利用する際に必要となる出費は、どのような使い方をしても、世帯年収がどれほどの人でも、最低利用料金(基本料)がそれなりに高額になる」とする特徴を起因とする。いわばエンゲル係数のような発想に基づくもの。

そこで世帯年収別に年間の携帯電話通信料と、その額が世帯消費支出に占める比率を算出したのが次のグラフ(世帯年収の額面区分が毎年変わるので、経年変化の確認は不可能)。

↑ 携帯電話通信料と消費支出に占める携帯電話通信料比率(総世帯、世帯年収別)(2022年)
↑ 携帯電話通信料と消費支出に占める携帯電話通信料比率(総世帯、世帯年収別)(2022年)

低世帯年収の世帯ほど携帯電話通信料も低く、負担割合も低め。そして世帯年収が上昇するに連れて携帯電話通信料も増えていく。世帯年収が一定以上になると、世帯年収の増加率が携帯電話通信料の増加率を上回るため、負担比率は逆に減る。

ただし今件は携帯電話を所有していない層も含めた、全世帯に占める平均値であることに注意しなければならない。世帯年収が低い世帯、特に高齢者のいる世帯は携帯電話を持っていない、所有していても運用コストが廉価で済む従来型携帯電話のみの所有となるため、携帯電話通信料そのものも低いものとなる。後述する勤労者世帯との差を見る限りでは、高齢者のいる世帯の携帯電話、とりわけ料金が高めとなるスマートフォンの所有率は相当低いものと見てよい(実際、他の調査結果でもそれを裏付ける値は出ている)。

これが総世帯のうち勤労者世帯となると、多くは現役世代の世帯となるため、相応に携帯電話の所有率も高く、平均値としての携帯電話通信料も底上げされる。世帯年収の平均も総世帯と比べると上がっているが、携帯電話の通信料の上昇分はそれ以上のものとなり、おおよそ低所得世帯ほど負担が重い結果が出てしまう。

↑ 携帯電話通信料と消費支出に占める携帯電話通信料比率(総世帯のうち勤労者世帯、世帯年収別)(2022年)
↑ 携帯電話通信料と消費支出に占める携帯電話通信料比率(総世帯のうち勤労者世帯、世帯年収別)(2022年)

消費支出に占める携帯電話通信料の負担に関しては、勤労者世帯では最大で1.36%ポイントほどの差が、世帯年収によって生じる事になる。2022年の世帯年収区分の勤労者世帯における最下区分「343万円未満」における平均消費支出は194万7654円。その世帯において8万3809円の出費は結構な額に違いはない。



携帯電話、特にスマートフォンの普及は、インターネットをインフラとして活用する観点では大いに喜ぶべき話に違いない。しかしエンゲル係数の食費同様、世帯年収などの経済上の安定感の度合いにかかわらず、一定額の支出が発生してしまうため、低所得層では負担が大きくなる。まさにエンゲル係数ならぬテレフォン係数とでも呼ぶべきか。

また、世帯年収が年金のみで、貯蓄の取り崩しを合わせて生活している高齢者世帯の多分においても、世帯年収との比較となるため(貯蓄の取り崩しは実収入としてはカウントされない)、テレフォン係数は高めのものとなり、大きな負担を感じてしまう。現在、高齢者のいる世帯も多く含む総世帯において、特に低年収の世帯で負担比率が低いのは、ひとえに保有者そのものが少ない、世帯比率が低いからに他ならない。

シンプルにまとめると、昨今の携帯電話通信料の負担増「と感じる」原因は「低所得者層にも携帯電話、特に高コストのスマートフォンの普及が進んでいる」「高齢層世帯(≒低収入)への普及が進んでいる」ことが挙げられる。さらに後者に該当する高齢層世帯そのものが比率の上で増加しているため、割高を訴える声が大きくなっていることも挙げられよう。そして、消費動向調査の結果(【スマートフォンとタブレット型端末の普及率推移】)からも明らかな通り、世帯内の利用台数の増加も負担増につながっているものと考えられる。

今後携帯電話、特にスマートフォンの普及率がますます向上するに連れ、これまで所有していなかった世帯の多分における、経済的な高負担の問題が、さらに増加することは容易に想像できる。比較的廉価な利用コストで済む「ガラホ」の普及促進や、(携帯電話などによるインターネット普及の後押しを必須とするのなら)低所得者向けの補助制度の立案も、検討すべきかもしれない。

また、いわゆる格安スマホの普及促進も一つの方法論に違いない。しかし従来のスマホと比べてサポート面で不安が残り、かつ格安スマホを求める層は多分に初心者であることから、今後トラブルの増加も予想されるだけに、頭を悩ませる話には違いない。


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