客数減少を客単価の増加で補う方向性は続く…牛丼御三家売上:2015年7月分

2015/08/06 11:00

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2015年8月5日、吉野家における2015年7月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス3.0%となった。これは先月から転じ、2か月ぶりのプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年7月における売上前年同月比はプラス0.1%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はマイナス2.7%との値が発表された。今回月はすき家のみが前年同月比で売上マイナスを計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2015年7月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2015年7月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2014年7月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス5.7%。同社では2014年4月1日から消費税率改定に伴い主力メニューの牛丼価格を引き上げており、これが客単価の上昇、そして客数の減退(マイナス10.1%)に結びつく形となった。

従って今回月は「牛丼値上げによる客数減少・客単価増加が生じた前年同月」との比較となり、多少の反動(客数のプラス化、客単価のマイナス化)の影響が生まれることになる。他方吉野家では【吉野家の牛丼、300円から380円へ値上げ・12月17日15時から】で報じたように、2014年12月17日から主力商品の牛丼価格をはじめ各種商品価格の引き上げを行っており、これ以降は客数の減少と客単価の増加が直接的な影響要因として計上される。また、高単価商品も次々市場投入を実施しており、客単価の底上げ要因が付加される。

一方【吉野家の朝メニュー一新、「うまい、やすい、はやい」を前面に低カロリーメニューが新登場】で伝えたように、幅広い時間帯における顧客サービスの充実を図るために朝メニューの刷新も実施。価格帯も幅広いものとなり、低価格需要にも(時間の制限はあるが)応える姿勢を示している。さらに【新御膳は麦とろ・吉野家の健康志向食品第三弾は「麦とろ牛皿御膳」】にもある通り、健康志向的な商品ラインアップの充実も図り、客層の拡大化を推し量る動きも見られる。

結果として客単価は2割近くの底上げ、客数は1割強の減少、差し引きでわずかな売上増の形に収まった。相次ぐ客単価を引き上げる施策の実施は、メニュー構成、さらには運営方針のかじ取りの変化の表れと受け止められる。

昨今では客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることから、反動による前年同月比の変化の影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率なので、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば松屋なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると1.19%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2015年7月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2015年7月営業成績(既存店)(前々年同月比)

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、吉野家だけでなく3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が透けて見えてくる。結果としてこのような状況になったのか、あるいは意図してのものなのかは不明だが、明らかにかじ取りの転換がなされていることは見て取れる。

続いて松屋。今回月も新作メニューが続々と登場し、ラインアップに彩りを添えている。先月末に発表された「山形だし牛めし」を筆頭に、「豚キムチ定食」「ガーリックチキン定食」「山かけネギトロ丼」など盛り沢山な内容。いずれも高単価なメニューではあるが、夏の暑さを前提に、さっぱりとした食べやすさ、あるいはスタミナ補充の勢いがある料理をとの明確なメッセージ性が感じられ、季節感に合わせた需要の変化を的確に把握している感はある。

7月の業績は、客数の減少は3社中最小に留まったが、客単価も上昇率は3社中では一番ひかえめ。このパターンは先月から続くもので、昨今の牛丼御三家動向においては、松屋ポジション的なものとして定番となりつつある。もっとも同社は以前から、3社の動向では常に中庸かつ唯我独尊的な方向性を示しており、これもまた「いつもの動き」でしかないのかもしれない。

最後にすき家。7月では「チキンと彩り野菜カレー」「ニンニクの芽牛丼」の2新メニューが展開されている。前者は吉野家同様の健康志向的な方向性が見え隠れしているが、後者はすき家での定番かつ人気メニューの一つで、前評判もなかなかなもの。業績はというと、客単価はそこそこな上昇だが、客数の減退ぶりがやや大きめで、これが売上高のマイナスにつながる形となった。もっとも下げ幅も限定的で、誤差の範囲との解釈もできる。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2015年7月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2015年7月)

売上幅の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移していることが分かる。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。

客数の減少・客単価の増加はやはり戦略転換の結果かも


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年が経過しているため、消費税率改定にによる客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが、相変わらず値はマイナス値のままで低迷している。矢印で示した領域において、3社ともにマイナス圏のオレンジ枠にはまったままであることが分かる。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2015年7月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2015年7月)

今回月における単純な前年同月比に加え、2年前同月比の試算結果を見ても、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示しているのは明らか。客数だけを見れば「低迷している」との判断ができるものの、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面も見えてくる。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることで、時代の変化に対応しようとしているようだ。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点でそろばん勘定を合わせようとするものである。先日展開を開始した吉野家の「ベジ丼」や「麦とろ牛皿御膳」も、その気配を覚える商品。これまでの吉野家では考えにくい商品に違いない。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる(某社のようなワンオペを推奨するものでは無い)。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、方向性の確定に苦慮しているマクドナルドが苦戦を強いられる一方、モスバーガーやケンタッキー・フライド・チキンでは高単価・高品質をさらに前面に押し立てるだけでなく、独自ブランドをより個性豊かなものとして、売上を維持している。マクドナルド自身も最近では野菜を豊富に取り入れたメニューを相次ぎ投入し、これが比較的堅調との話は見聞きされており、今後この方向性にかじ取りをしていく可能性が見えてきた。

この「客単価増・客数減」の動きが今後も継続するのなら、数年後には牛丼チェーン店における社会的立ち位置は、これまでとは随分とちがったものとなるだろう。


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