EU最大の懸念事項は経済や失業よりもテロや移民問題、テロは44%が懸念を表明(最新)

2017/08/09 05:09

欧州連合欧州委員会(European Commission)は2017年8月までに、同会が毎年2回定点観測的に行っているEU全体における世論調査「Standard Eurobarometer」の最新版となる第87回分の結果を発表した。それによると、現在EU全体の最大の懸念として上げられたのはテロ問題で、全体の44%が懸念を表明していた。移民、経済状況、公的債務がそれに続いている。移民問題の懸念の高まりは昨今急激な上昇を示していたが、今回は前回に続き、直前調査分からは値を落とし、急上昇をするテロ問題がトップに立つことになった(【発表リリース:Standard Eurobarometer 87】)。

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「Standard Eurobarometer」は毎年2回、5月と11月に行われており、今回発表分が87回目となる。今調査の直近分は2017年5月20日から29日にかけて直接面談のインタビュー方式でEU加盟国及び候補国内において行われたもので、回答者数は合計で3万3180人、EU28か国に限定すると2万8007人。

2015年以降外電でたびたび伝えられている通り、欧州諸国の経済問題が最悪期を脱したように見えたことや、中東情勢問題の悪化を受け、EU諸国への移民(難民)問題が大きな社会問題化している。船を使い、あるいは陸続きで、より経済的に安定していると思われるドイツ、さらには英仏海峡トンネルを越えてイギリスに向かう人たちは後を絶たず、海峡トンネルでは警備の強化が成されるほど。また、対応しきれない一部の国では国境線の封鎖措置も成され、これに伴う衝突も起きている。

さらに移民(難民)が移民先にたどり着いても地元住民との間での対立も絶えず、文化的衝突も多々生じ、社会的公平性の概念による保護への理不尽さを覚える地元住民の不満の増加も合わせ、大きな社会問題の火種となり、物理的衝突が生じている。これに伴い各国の移民・難民問題と多分に連動する形でのテロ事件なども多々生じており、情勢はお世辞にも良いとはいえない。当然各国国民の心理に与える影響は小さからぬものがある。

このような状況の中で調査対象母集団に対し、EU全体における大きな懸念事項は何かについて、選択肢の中から二つ選んでもらった結果が次のグラフ。変化が良くわかるように、過去4回分も合わせ都合5回分の動向をまとめている(順位は直近分の回答値順)。

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)(2017年5月)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)(2017年5月)

回答個数無制限の複数回答では無いため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが、経済状況や失業、公的債務といった、数年前までEU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念は低下。その他経済関連の値も概して鎮静化、つまり強く懸念する状況からは外れつつある。インフレ・物価高の値も漸減している。

それに連れ、相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形なのか、移民問題への懸念が急激に上昇していたことが分かる。また同時に、テロ問題への懸念も高まりつつあり、両者の問題の連動性も覚えさせる。単なる犯罪項目にはほとんど変化がないことから、単純な治安の悪化では無く、対外組織、あるいは国際問題的な事案への不安が感じられる。

ただし2016年5月以降は、移民問題はピークを過ぎ、少しずつだが値を落としている。状況に改善が見られたわけでは無いが、これ以上の悪化の動きも無いため、少しずつ慣れてきたのかもしれない。

他方、テロ問題は前回調査で一度値を落としたものの、今回は大きく上昇し、移民問題すら超えて最上位の値を示す形となった。調査が実施されたのは2017年5月だが、それまでの半年に限ってもEU領域内で

・2016年12月 ドイツ首都ベルリン中心部で、クリスマスマーケットに大型トラックが突入し、少なくとも12人が死亡、48人が負傷。
・2017年3月 フランス首都パリ南郊に所在するオルリー空港で、武装したチュニジア系フランス人の男が、警戒中の治安部隊の女性兵士を襲撃し、武器を奪おうとしたが、別の兵士によって射殺。
・2017年3月 英国首都ロンドンの国会議事堂付近で、自動車に乗った英国生まれの男が、通行人をなぎ倒した後、議事堂敷地内で警察官1人を刺殺。男はその場で射殺されたが、合計で4人が死亡、約50人が負傷。
・2017年4月 スウェーデン首都ストックホルムで、大型トラックが歩行者専用道を暴走した後、デパートに突入し、4人が死亡、15人が負傷。
・2017年4月 ドイツ西部・ドルトムントで、地元サッカーチームが乗るバス付近の路肩で、3個の爆弾が爆発し、選手1人を含む2人が負傷。
・2017年4月 フランス首都パリのシャンゼリゼ通りで、警察官を狙った銃撃テロが発生し、警察官1人が死亡、警察官2人と外国人観光客1人の計3人が負傷。
・2017年5月 英国中部・マンチェスターのコンサート会場入口で、移民2世の男による自爆テロが発生し、22人が死亡、120人が負傷。

などの事件が生じており(【公安調査庁「世界のテロ等発生状況」】から抜粋)、テロに対する懸念が強まるのも止むを得ない状態となっている。

移民、テロ問題の懸念の実情は、国単位の動向からもつかみ取れる。上記解説の通り、陸続きで経済的に豊かだと思われるドイツやイギリスに渡ろうとする移民の増加は、当事国においては大きな問題となっている。類似設問を回答者自身の国に関して尋ねた結果が次のグラフだが、そのドイツやイギリスでは移民問題が高い値を示している。テロが生じたイギリスやフランス、ドイツではテロへの懸念の値も高め。

↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2017年5月)
↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2017年5月)

2016年3月22日にベルギーの首都ブリュッセルのブリュッセル空港とマールベーク駅で発生し、大規模な被害をもたらした連続爆破テロ事件の影響は、今なお当事国のベルギーには大きな影響を与えている(ベルギーでは2016年8月にも警察本部前でのテロ事件が起きている)。テロは大きな懸念事項として移民と共に挙げられ、問題の複雑さを思わせる形となっている。ドイツでは移民問題がトップだが、それに続いてテロが上位にあり、ベルギー同様の問題の複雑さがうかがえる。

他方、EU先進国でも失業率の高さが問題視されているフランスでは失業問題への懸念が大きく、テロ問題は次点。イギリスは社会健康環境維持がトップだが、続いてテロが続き、相次ぎ発生した事件が社会に与えた影響の大きさが改めて認識される。

ギリシャでは失業問題がトップ、次いで経済状況と続いているが、政府負債に対する不安も大きい。移民問題に関する値も12%に達しているが、前回調査から値は減退している(マイナス3%ポイント)。

昨今ではドイツの実情を受け、ドイツはもちろん他のEU諸国でも移民への対応が厳しさを増している。それと共に社会的混乱が抑えられるのか、あるいは反発が生じることになるのか、先は読みにくい。一方でイギリスがEUからの離脱に関する脱退プロセスを進めており、今後他のEU諸国とは方向性の異なる国民感情を有し、調査結果として現れる可能性もある。ただし移民やテロの実情を見るに、言葉通り「対岸の火事」とするのは難しそうだ。

今なお高い値を示す移民問題やテロ対策の行く末はもちろんだが、イギリスの離脱に絡んだ同国、そして関連しそうな諸外国の動きも大いに気になるところだ。


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