男性は60代後半でも約6割が就業中…高齢者の仕事事情を多方面から確認してみる(高齢社会白書)(最新)

2023/12/12 02:39

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2023-1205高齢化問題だけでなく労働市場問題まで含め、現在社会問題の一つとしてスポットライトを当てられているのが、高齢者の仕事事情。定年退職を迎えた後の高齢者の就業は、生き甲斐としての労働だけでなく、生活費の補てんの意味合いも強くなり、また労働市場側から見れば労働力の補完として重要視される一方、若年層の労働機会を奪うとする懸念もある。それらの状況も合わせ、現状を把握するため、内閣府が2023年6月20日付で発表した、日本の高齢化社会の現状を各公的調査などの結果を絡めて解説した白書「高齢社会白書」の最新版となる2023年版などを基に、確認をしていくことにする(【高齢社会白書一覧ページ】)。

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まずは高齢者の就業・不就業状況の確認。労働人口などの年次計測記事などでの分析も逐次当サイトでは掲載しているが、今件は原則2023年版の高齢社会白書からのものである(明記が無いものは一次ソースにさかのぼって精査している)。

↑ 高齢者の就業状態(男性、高齢社会白書(2023版))
↑ 高齢者の就業状態(男性、高齢社会白書(2023年版))

↑ 高齢者の就業状態(女性、高齢社会白書(2023年版))
↑ 高齢者の就業状態(女性、高齢社会白書(2023年版))

赤系統色は現在非就業者、青系統色は就業者。女性は兼業主婦として働いていたが子供が成人したことなどでそれを辞めている人も多く、50代後半の時点ですでに1/4強が非就業者となっている。

男性では60代前半でも8割強が働いており、60代後半でも約6割。70代前半に入っても約4割が何らかの形で働いている。一方女性は60代前半ですでに就業者が約6割となり、60代後半に入ると約4割にまで落ちる。男性は自営業者による就業者率が高いのも特徴で、75歳以上に至っても7.5%が確認できる。

高齢者の雇用に関しては、「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入(定年に達した高齢者に対し、退職の形をとらずに継続雇用したり(勤務延長制度)、一度退職した上で再び雇用する(再雇用制度))」のいずれかを導入するよう義務付けている。さらに2021年4月からは70歳までを対象として、従来の雇用による措置や、「継続的に業務委託を締結する制度」「継続的に社会貢献事業に従事できる制度」という雇用によらない措置のいずれかの措置を講ずるように努めることを義務付けている。その導入実情が次のグラフ。

↑ 雇用確保措置の実施状況(企業規模別、高齢社会白書(2023年版))
↑ 雇用確保措置の実施状況(企業規模別、高齢社会白書(2023年版))

全体では希望した人全員が65歳以上でも継続雇用してもらえる制度を導入した企業が21.8%となっているが、301人以上の大きな企業では19.0にとどまっている。その他措置のほとんどすべてが、21-300人規模の企業の方が高くなっている。大企業は色々としがらみがあるのだろうか。

人数面で見ると、60代前半では男女合わせて431万人、60代後半でも268万人が就業しており、労働市場では大きな要素となっていることが分かる。女性に限ればパートやアルバイトなどの非正規が多数を占めている。

↑ 雇用者数および非正規雇用者率(役員を除く、男性、年齢階層別・雇用形態別、万人、高齢社会白書(2023年版))
↑ 雇用者数および非正規雇用者率(役員を除く、男性、年齢階層別・雇用形態別、万人、高齢社会白書(2023年版))

↑ 雇用者数および非正規雇用者率(役員を除く、女性、年齢階層別・雇用形態別、万人、高齢社会白書(2023年版))
↑ 雇用者数および非正規雇用者率(役員を除く、女性、年齢階層別・雇用形態別、万人、高齢社会白書(2023年版))

興味深いのは就業率と完全失業率の動向。まずは完全失業率だが、前世紀末以降は65歳以上ではほぼ横ばい、55歳から64歳にかけては金融危機勃発までは減少、その後増加をした後、2011年以降はおおよそ減少をしており、この年齢階層の再雇用が積極的に行われていることが分かる。もっとも2014年以降は65歳以上も少しずつ減少の動きを見せており、65歳以上の人でも労働意欲を持つ人が増え、労働力が求められていることが示唆されている。さらに2020年以降では小さからぬ増加の動きが生じているが、これはいうまでもなく新型コロナウイルス流行の影響で生じた経済の停滞によるものである(直近年でやや減ったのは経済の復調によるもの)。

↑ 完全失業率(年齢階層別(一部))
↑ 完全失業率(年齢階層別(一部))

就業率(該当年齢階層人口に占める就業者の割合)は上昇中。特に女性は連続性のあるデータが得られる1973年以降に限れば、2003年まではほぼ横ばいだった動きから2004年以降上昇傾向が見られ、2013年以降は動きに弾みがつき、2016年には5割を超え、さらに上昇が続いている。男性も2013年あたりから上昇に勢いがつき、最大値を更新するまでとなった。ただし2020年以降は上昇度合いがゆるやかになり、男性ではほぼ横ばいへの動きになってしまっている。これは新型コロナウイルス流行の影響で生じた経済の停滞によるものである(直近年でやや増えたのは経済の復調によるもの)。

↑ 60-64歳の就業率(男女別)
↑ 60-64歳の就業率(男女別)

団塊世代が定年退職を迎えたため、今後急激に高齢者人口が増えることは無いが、若年層は減少中なのとともに、平均寿命も延び続けていることから、全人口比における高齢層の比率はさらに増加し、就業者も増えていくものと考えられる。また、高齢者の労働力への需要も高まりを示し、高齢者側の就業意欲も高いことから、就業率も上昇を継続することだろう。



労働市場が供給過多(仕事の担い手が不足している)ならば高齢者の就業率向上も大歓迎な話となるが、実際には若年層における失業率は全体と比べて高めに推移しており、高齢層からの圧迫感は否めない(【20代前半の完全失業率は4.8%…若年層の労働・就職状況(最新)】)。

単に就業の「パイ」の切り方を変えるのではなく、パイ全体を大きくして多くの人に行きわたることを考えねばならないことは、以前【2021年は2.1人で1人、2065年には? 何人の働き手が高齢者を支えるのか(最新)】でも解説した通り。さもなくば、本来高齢者を支える立場にある若年層の足元を、就業・経済面ですくう状況になりかねないのは言うまでもない。


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