続・自動車は手が届きにくい存在になっているのか…可処分所得と自動車価格の関係(最新)

2023/07/06 02:34

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2023-0626若年層を中心に自動車購入を避ける傾向、俗に「若者の自動車離れ」との表現をよく見聞きする。実態としては「都心部に顕著だがそれ以外ではあまり起きていない」「低コストの軽自動車への利用のシフト」「実用、趣味趣向面での自動車の必要性の減少」などが挙げられ、事実に合った言い回しではない、一側面に過ぎないとの指摘もある。それでは「若者の自動車離れ」の原因の一つに挙げられる、「自動車取得時の初期費用負担」の重さはどのように変化をしているのか、総務省統計局における公開値【小売物価統計調査(動向編)調査結果】などから各種計算を施し、可処分所得と自動車の販売価格との関係から確認をしていくことにする。

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可処分所得は1997年がピーク


自動車価格の動向は先行記事【初任給と自動車価格の関係をグラフ化してみる】と同じ基準で取得する。つまり「小売物価統計調査」で長期経年データが確認可能な「小型乗用車・国産・排気量1500cc超-2000cc以下」の車種の価格を比較対象とする(2016年末で「小型乗用車・国産・排気量1500cc超-2000cc以下」の調査が終了してしまったため、2017年からは観測対象車種を一番金額面で近い「国産、普通乗用車」に変更している)。

一方可処分所得だが、こちらは【家計調査の家計収支編】から取得する。ただし今件主旨の精査に耐えられる期間の値が取得できるのは、二人以上世帯のうち勤労者世帯かつ農林漁家世帯を除く世帯の値に限定されるので、その値を用いる。さらに現在では世帯構成の状況変化に伴い、農林漁家世帯を除く世帯との区分が調査結果の公開値から無くなってしまったため、2000年分以降は単純に二人以上世帯のうち勤労者世帯の値を適用する。なお単身世帯はまた事情が異なるのだが、必要な値が取得できない以上、精査は不可能。

なお可処分所得とは【直近では実収入53万5177円…収入と税金の変化(家計調査報告(家計収支編))(最新)】で説明している通り、家計の収入(月収や臨時収入、配偶者の収入など)から、非消費支出(税金や社会保険料)を引いた値で、自由に使えるお金と考えればよい。

次に示すのは、その可処分所得の推移。消費者物価指数などによる修正は加えていないので、素の額面となる。よい機会でもあるので、該当世帯の平均世帯構成人数も併記しておく。

↑ 平均可処分所得と平均世帯人数(二人以上世帯のうち勤労者世帯(1999年までは農林魚家世帯を除く)、円)
↑ 平均可処分所得と平均世帯人数(二人以上世帯のうち勤労者世帯(1999年までは農林魚家世帯を除く)、円)

可処分所得は高度経済成長期において急こう配で上昇し、バブルがはじけた前後でそのカーブは緩やかになるものの、上昇は継続。1997年の49万7036円を一つの頂点とし、その後は緩やかに下降し、2005年前後で一度下落は止まり、直近の金融危機以降再び下落、ここ数年は横ばいから上昇の動き。実収入の減少だけでなく、社会構造、特に年齢別構成比の変化に伴い、社会保険料の負担増などによる非消費支出の増加が生じており、それによって可処分所得が削られている実情、そしてここ数年の急速な回復ぶりは、「収入と税金の変化」で詳しく精査した通り。直近の2022年の50万914円は、これまでの最高値だった2020年の49万8639円を超えて、記録のある限りでは最高値を更新する形となった。

他方、世帯構成人数はほぼ一様に漸減を示している。こちらも世帯人数に絡んだ各種記事で解説の通りで、単身世帯の増加だけでなく、夫婦世帯でも少子化が進んでいる現れといえる。何しろこの半世紀で、二人以上世帯・勤労者世帯・農林漁家世帯を除くとの条件に限っても、世帯構成人数が一人近く減ってしまっているのだから。

自動車価格は可処分所得の何か月分!?


可処分所得の推移が取得できたので、本題として「自動車価格はその年の可処分所得の何か月分か」、つまり「月次可処分所得・自動車購入係数」を算出する。計算方法は先の「初任給と自動車価格の関係をグラフ化してみる」と変わらない。現時点では1970年から2022年分まで各値が取得できるので、その範囲で計算を行う。例えばこの値が10ならば、その年の二人以上世帯・勤労者世帯(・農林漁家世帯)の可処分所得10か月分で自動車が買える計算になる。この値が小さいほど、自動車は手に届きやすいことになる。

↑ 月次可処分所得・自動車購入係数(自動車価格÷可処分所得、二人以上世帯のうち勤労者世帯(1999年までは農林魚家世帯を除く))
↑ 月次可処分所得・自動車購入係数(自動車価格÷可処分所得、二人以上世帯のうち勤労者世帯(1999年までは農林魚家世帯を除く))

バブル崩壊後の上昇度合いがやや大きな勾配ではあるものの、先行する「初任給と自動車価格の関係」とほぼ同じ結果が出た。そして奇しくももっとも低い値を示したのも、「初任給と自動車価格の関係をグラフ化してみる」での結果と同じ年となる1990年の2.94。おおよそ可処分所得3か月分で自動車が買えたことになる。

直近の2022年では7.05。バブル時と比べれば2.4倍ほど自動車は手が届きにくい存在と考えられる。バブル前の値と比較すると、データ精査が可能なもっとも古く、かつ高い値を示していた1970年の6.31よりもいくぶん大きい程度。これは複数の先行記事で言及しているが、調査対象となる車種の一部で、高価格な、そして最近普及率が上昇している車種が追加された結果のようだ。ともあれ2014年までのように「可処分所得の観点で過去と比べて自動車が取得しにくくなったとは言い切れない」との文言は使えず、「可処分所得の観点でも、過去と比べて自動車が取得しにくくなった」との表現を用いねばならなくなったのは事実ではある。



先の記事でも解説したが、自動車の所有・維持には本体代金以外にも多様なコストが発生する。しかしそれらは本体の代金と比べれば単価は安く、また例えばガソリン代は【レギュラーガソリン価格と灯油価格】にある通り、1980年代以降は大体ボックス圏内で推移しており、さらに自動車の高性能化に伴う燃費の向上などを考慮すれば、コスト上昇分は本体価格ほどには取得ハードルとはなり得ない。

無論、毎月の維持費をそろばん勘定した上で、その維持費と所有・利用によって得られる便益を天秤にかけ、購入しない・手放した方がよいと計算できる事例もあるだろうが、その度合いを中長期的に推し量ることは困難である。

ともあれ、初任給とはいくぶん違いが出たものの、大勢としては可処分所得との比較でも同じ傾向が確認された。つまり高度成長期にかけて自動車には手が届きやすくなり、バブル期がピーク、その後は少しずつ距離が離れていた。昨今では可処分所得の増加でいくぶん近づいてきたかな、という程度。ともあれ今後可処分所得が大きな上昇、あるいは該当自動車の価格が下落しない限り、今件係数は高い値を維持し続けることだろう。


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