巨人去りし後の…少女・女性向けコミック誌部数動向(2014年10月-12月)

2015/02/09 08:00

ツールとしてのメディアの進化、特にインターネットを用いる媒体の技術革新とスマートフォンをはじめとした各ツールの普及浸透で、紙媒体は立ち位置の変化を余儀なくされている。すき間的な空き時間の解消によく使われていた雑誌群は特にその影響を大きく受け、市場・業界は大変動のさなかにある。その変化は先行する形で現状をお伝えた少年・男性向け雑誌ばかりでなく、少女・女性向けのにも及んでいる。そこで今回は社団法人日本雑誌協会が2015年2月3日付で発表した「印刷証明付き部数」の最新値(2014年10月から12月分)を用い、「少女・女性向けコミック系の雑誌」の現状をざっとではあるが確認していく。

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トップは変わらずちゃおとBE・LOVE。順位変動は無いが…


データの取得場所に関する説明、「印刷証明付部数」など各種用語の解説、さらには「印刷証明付き部数」を基にした定期更新記事のバックナンバーは、一連の記事まとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】に掲載している。必要な場合はそちらを参照のこと。

まずは少女向けコミック誌の現状を確認する。ターゲットとなる読者層は比較的年齢が若い世代、具体的には未成年でも高校生ぐらいまでが対象(もちろんそれより上の層でも読んで一向に構わない)。今四半期も前四半期同様、脱落・追加雑誌は無し。また改名・リニューアル誌も無い。

↑ 2014年7-9月期と最新データ(2014年10-12月期)による少女向けコミック誌の印刷実績
↑ 2014年7-9月期と最新データ(2014年10-12月期)による少女向けコミック誌の印刷実績

少女向けコミック誌ではトップは「ちゃお」。第2位の「別冊マーガレット」に2倍以上の部数の差をつけており、少年コミック誌の「週刊少年ジャンプ」的な独走ぶりが感じられる。この圧倒的差異をつけた状況は、現在データが取得可能な2008年4月から6月分の値以降継続してのもの。その勢いの良さも「週刊少年ジャンプ」同様。

第2位の「別冊マーガレット」と第3位の「りぼん」は結構良い勝負を続けている。そしてその後に「花とゆめ」「LaLa」「なかよし」「Sho-Comi」がほぼ同列で続き、その他諸々が後を追いかけている。前四半期と比べパッと見で大規模な変動をしている雑誌は無いが、大よそ青よりも赤の棒が短く、直近四半期の間で部数が減少していることが分かる。

続いて女性向けコミック誌。想定読者層は「少女向け」と比べてやや高めの年齢層。もちろんそれより若い層でも読んで一向に構わないのだが、内容的にはあまり向いていないものもあるため、少女向けコミックを上の年齢層が読むパターンよりはオススメしがたい(高校生向けの教科書を中学生が読むようなもの)。発行部数は少女向けコミックと比べて少なめなことから、横軸の部数区切りの数字が異なっていることに注意。

↑ 2014年7-9月期と最新データ(2014年10-12月期)による女性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2014年7-9月期と最新データ(2014年10-12月期)による女性向けコミック誌の印刷実績

トップの「BE・LOVE」(主に30代から40代向けレディースコミック誌)が頭一つ抜きんでて、「YOU」「プチコミック」が続く。もっともトップ以外の部数は各誌でそれぞれ類似順位他誌と一定の差異があり、並べるときれいな傾斜が出来る形となっている(横並びで競っている状況にない)のが特徴。順位変動が起きにくい……ように見えるが、元々の部数が少ないことから、環境変化に伴う変動の影響が出やすく、順位の差し換えに達するほどの結果が出ることもある。

ここ数四半期ほど、その順位変化のさなかにあるのが「ARIA」。今四半期でも前四半期と比べ、一目でわかる減少を示している。これは前四半期から続く動きで、理由は後ほど詳しく解説していく。

大よそ軟調…四半期変移から見た直近動向


次に前四半期と直近四半期との部数比較を行う。雑誌は季節で販売動向に影響を受けやすいため、精密さにはやや欠けることとなるが、ざっくりとした形での雑誌推移を知ることはできる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少女向けコミック誌)(2014年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少女向けコミック誌)(2014年10-12月期、前期比)

プラス領域は「ちゃお」のみで、しかも誤差の範囲(振れ幅5%以内)に留まっている。「別冊マーガレット」「マーガレット」はまったく変化なし、残りはすべてマイナスだが、誤差を超えているのは「LaLa DX」のみ。下げ基調にあるが大よそゆっくりとしたレベルで持ちこたえている。身体の状態に例えると、微熱でちょっとだるい程度だろうか。

前四半期では少女向けコミック誌で最大の上昇幅を示した「りぼん」。今回も下げ度合いはマイナス1.6%に留まっている。同誌は他誌の動向と異なり、意外な健闘を示していることでも注目に値する。

↑ りぼんの部数推移(2014年10-12月期まで)
↑ りぼんの部数推移(2014年10-12月期まで)

「りぼん」は「なかよし」「ちゃお」と並び小中学生向けの3大少女向けコミック雑誌。1955年8月に創刊し、すでに半世紀以上の歴史を有する老舗である。その老舗も昨今の雑誌不況には勝てず部数を減らしているものの、上記グラフにある通り、2011年後半期以降はほぼ20万部を維持し、それ以上の減少はせずに踏みとどまっている。原因は複数考えられるが、固定ファンの多い執筆陣を抱えていること、編集方針の大きな変化が無く読者が安心して定期購読できること、加えて毎号魅力的な付録を提供するため、本誌の内容以外の部分でも楽しさの提供が対象読者層に向けて適切に出来ている点が、結果として表れていると思われる。

「りぼん」の部数は4年近く横ばいの傾向が続き、何かきっかけがあれば大きく伸びる雰囲気はある。他ジャンル(例えば少年・男性向けコミック雑誌)でも似たようなチャートを作る雑誌はいくつかあり、それらと同様に「秘めたる力」の発動が待ち遠しい。

同じく継続的な観測をしている「Sho-Comi」。少しの間少女コミック系列雑誌から離れていた人には首を傾げる名前かもしれないが、「少女コミック」から雑誌名も含めて大幅にリニューアルしたもの。さらに2010年に行われた小学館の少女向けコミック内の再構築に合わせ、読者想定層の年齢をいくぶん下げている。

この大規模なリニューアルに伴い、下げ基調にあった部数動向は横ばいになり、上昇機運を見せる機会も何度かあったものの、結局2013年後半からは失速しはじめ、その傾向は現在も継続中。さらなる手配が求められる事態となっている。

↑ Sho-Comi(少女コミック)の部数推移(2014年10-12月期まで)
↑ Sho-Comi(少女コミック)の部数推移(2014年10-12月期まで)

続いて女性向けコミック。少女向けコミックの動向と比較して、ダイナミックなビジュアルを示している。

↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック)(2014年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック)(2014年10-12月期、前期比)

↑ ARIAの部数推移(2014年10-12月期まで)
↑ ARIAの部数推移(2014年10-12月期まで)

プラス領域の雑誌は皆無(切り捨てなどの問題では無く、まったく同じ)。マイナス領域雑誌が多数、誤差を超えた大幅な下げを示した雑誌が2誌、特に「ARIA」の下げ方が著しい。

「ARIA」では雑誌業界に大きなムーブメントを引き起こした「進撃の巨人」のスピンオフ作品「悔いなき選択」の掲載開始後、多くのファンを引き寄せ、部数を大幅に底上げ。典型的な「進撃の巨人」特需の雑誌として注目を集めた。しかし同作品が2014年8月号(6月28日発売)で終了し、単行本も全2巻が発売されるに至り、その勢いも失速。グラフにある通り部数を急速に落とし、今四半期ではほぼ特需前の水準にまで戻ってしまった。一応特需前と比べ1000部ほど上乗せしているが、残り香的なものだろう。

同誌では「悔いなき選択」以外にも「寄生獣」のスピンオフ作品「ネオ寄生獣f」の連載を開始する他、女性向けコミックの仕切りにはとらわれにくい作風の漫画「北斎先生!!」など、多様な方面で次々と新しい手を打ち出しているが、部数底上げにはつながっていない。

誤差無し減少の雑誌多し…前年同期比


続いて「前年同期比」による動向。年ベースの変移となることからやや動きの荒い状況把握となるが、季節による変移を考慮しなくて済む(いわゆる季節調整値による調整が要らない)ため、より的確な精査が可能となる。「たかだが1年でそこまで大きな変化が……」とは思えないほとの数字が、昨今の雑誌業界では当たり前となりつつあるが、その傾向は少女向け・女性向け雑誌にも表れている。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少女向けコミック誌)(2014年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少女向けコミック誌)(2014年10-12月期、前年同期比)

プラス雑誌は皆無。5%超、つまり誤差範囲を超えた下げ幅を示した雑誌は9誌で、前四半期と変わらず。その領域から逃れた「誤差範囲内の下げ幅に留まっている」雑誌のうち、前四半期でも該当したのは「りぼん」「別冊フレンド」「ちゃお」「別冊マーガレット」の4誌。大よそこの4誌は現状では健闘組と見ても良いだろう。

逆に10%超の雑誌5誌のうち、前四半期でも同じポジションにあったのは「Sho-Comi」「ベツコミ」「Cheese!」の3誌。「Sho-Comi」は上記グラフの通り、直近1年ほどで下げ基調に転じた結果。他誌も似たようなもので、危機感を覚えさせる。

続いて女性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック誌)(2014年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(女性向けコミック誌)(2014年10-12月期、前年同期比)

「ARIA」は年ベースでは前四半期までは年ベースにおいてはなお「進撃の巨人」効果が得られていたが、今四半期からは効果が無くなった後の影響が大きく出ている。1年前は「進撃の巨人」でもっとも部数を伸ばした時期だっただけに、それとの比較となるため、これだけの下げ幅を示すこととなった。上記折れ線グラフを見ればこの動きにも納得が出来るが、単独で今件棒グラフだけを見ると、「1年で8割近い部数減少とは何があったのか」と驚くに違いない。

その「ARIA」の下げっぷりから他の雑誌の動向がかすんでしまっているが、5%を超えた下げ幅を見せる雑誌も「ARIA」以外で7誌となり、プラスは「Cocohana」1誌のみ。しかもこのプラスも、前年同期がたまたまイレギュラーで部数を落とした結果でしかなく、実質的にはこの2年ほどは横ばいを続けている。それでも他誌と比べれば、相対的には健闘していることになるのだが。



「ARIA」の動向を見れば分かる通り、他ジャンル同様「特需」による部数底上げは限定的なもの。その需要が去った後、どれだけ余韻として定期的部数の底上げが出来るかが要となる。企業そのもの同様雑誌が原則として、姿形や編集方針の変更こそあれど、永久に継続することを前提として出版されているのであれば、常連客に相当する固定ファンをどれだけ確保するかがより重要であることに違いは無い。

冒頭でも触れているが、就業状態、通勤動向を思い返すに、男性向けの雑誌と比べて「すき間時間を費やす」目的としての雑誌需要の影響は少ないように見えるが、実のところ少女・女性向けコミック誌は男性向け雑誌同様、むしろそれ以上の減退ぶりを示している。インターネットによる情報のやり取りが、男性よりも女性の方が積極的に行われる傾向にあることが遠因としてあるのかもしれない。

男性向け諸雑誌同様、「特需」の影響に期待をしつつ、女性の読書傾向を精査した上で、定番層の確保と拡充が可能な施策を行うことが、各雑誌に求められているのだろう。


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