「妖怪ウォッチ」バブル状態は続く…少年・男性向けコミック誌部数動向(2014年10月-12月)

2015/02/07 15:00

文章を読み解く人の趣向に変わりはないが、それを果たすメディアとしてデジタル機器が登場普及するに連れ、従来主流だった紙媒体はあらゆる種類においてその存在価値の再確認・再定義が行われ、新たな価値観のもとで立ち位置をの変化を求められている。子供向けのコミック誌業界も例外では無く、子供の娯楽そのもののシフトに加え、デジタル媒体でコミックを読む機会の増加と共に、ビジネス的に厳しい立場に追い込まれ、従来のビジネスモデルでは成り立たなくなる雑誌も相次いでいる。社団法人日本雑誌協会では2015年2月3日付で、四半期毎に更新・公開している印刷部数に関して、公開データベース上の値に最新値の2014年10月から12月分の値を反映させた。毎回の更新のたびに市場動向の現状をまざまざと見せつけてくれる内容を示してくれるが、今回もまた激動の業界動向をつかみ取れる内容となっている。各雑誌が一般に、あるいは営業の中で提示する値よりもはるかに実態に近い、今回公開された「印刷証明付き部数」を基に、「少年・男性向けコミック誌」の動向を複数の切り口からグラフ化を行い、現状を精査していくことにする。

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直近四半期の動向…少年誌の3傑内で順位変動が起きそうな特需


データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など各種文中の用語の解説、諸般注意事項、同一カテゴリの過去の記事は一連の記事の解説ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明・収録済み。必要な場合はそちらで確認のこと。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前四半期から変わらず。今記事におけるもう一つの対象ジャンル男性コミック誌と合わせても、唯一のダブルミリオンセラー誌として君臨している。次いでやや年上の少年向け雑誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)雑誌「コロコロコミック」が続いている。詳しくは後述となるが、今回同誌が100万部を超えたことで、少年向けコミック誌では100万超部の雑誌が3誌に及ぶこととなった。また第2位の「週刊少年ジャンプ」と「コロコロコミック」の差異は10万部を切っており、今後この特需が続けば順位が差し変わる可能性すら出てきた。

↑ 2014年7-9月期と最新データ(2014年10-12月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2014年7-9月期と最新データ(2014年10-12月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

直近データで確認すると「ジャンプ」の印刷部数は260万5000部。雑誌では返本や在庫本なども存在するので、それを勘案すると「リーチ部数」ともいえる最終消費者の手に渡る数は、これよりも少なくなる。雑誌の種類やジャンルによって返本率は大きな変動があるが、暫定値として1割から2割と試算すると、リーチ部数は200万部強となるだろうか。ここ数年で電車の乗客を見渡した時に、コミック雑誌を手に持って読んでいる人が随分と減ったことを思い返せば、毎週200万人以上もの人が購入し目を通している状況は奇跡に近い。もっとも同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた記録を目にするに、その半分以下にまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。

前四半期では「ライバル」が休刊し、「最強ジャンプ」が非掲載となった。今回は脱落・追加雑誌は無いが、「最強ジャンプ」の復帰は果たされていない。もっとも同誌は2014年8月発売の9月号を最後に月刊誌スタイルを終了し、同10月発売の11月号から隔月刊誌に移行している。非掲載の方針変更は、これが一因かもしれない(もちろん今回対象期間同誌は発売されている)。

続いて男性向けコミック誌。特需が続いている少年誌と比較すると、軟調感は否めない。一部雑誌による暴挙的編集方針も、この状況を見るに納得は出来ずとも理解は可能となる。

↑ 2014年7-9月期と最新データ(2014年10-12月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2014年7-9月期と最新データ(2014年10-12月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

前四半期の記事でお伝えした通り、そして【小学館の月刊漫画誌「IKKI」、9月発売号で休刊・連載陣の今後は7月25日発売号で発表】にもある通り、小学館の月刊誌「IKKI」が9月発売号で休刊したため、今回分からグラフよりその姿を消している。その部数動向を見れば休刊も止む無しと判断できるものの、最後の部数調整を除いて考えれば、実質的には2年ほどからその命運は決定づけられていたことになる。

↑ 雑誌印刷実績変移(IKKI)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(IKKI)(部)

男性向けコミックは少年向けと比べると各誌毎の差異はさほど大きく無く、またトップから第3位、4位と5位、6位から7位までがほぼ横並びなのも特徴的なポジションではある。前四半期ではトップの「週刊ヤングジャンプ」と第2位の「ビックコミックオリジナル」がほぼ横並びとなったが、今四半期では前者に比べ後者の部数減少度合いが大きく、結果として差が開く形となっている。

男性向けコミック誌に限らず雑誌全般においても珍しい「複数誌の休刊の上での連載作品のシャッフルによる、複数誌の新創刊」というパターンをとった集英社の「グランドジャンプ」「グランドジャンププレミアム」。長年の人気タイトルも複数含まれ、そのシャッフルぶりに一喜一憂したファンも多かった。両誌とも創刊から暫くしてそれぞれのテコ入れのため、さらに作品のトレードが行われるなど状況は混乱を極めているが、今件印刷証明部数では「グランドジャンプ」の値のみが開示されているため、新創刊やその後の作品のトレードという選択が正しかったのか否かの判断は難しい。

↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2014年10-12月期まで)
↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2014年10-12月期まで)

他誌と比べればまだ穏やかではあるが、下げ基調に違いは無く、創刊・部数公開以降一度も前四半期比で増加した経験が無いのは、楽観的状況では無いことを示している。さらにいえばこの3四半期に渡り、少しずつ部数が減少し続けているのも気になるところ。

ついにコロコロコミックは100万部…前四半期比較で動向精査


続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。雑誌は多分に季節で売れ行きの影響を受けやすいため、単純比較をするとその判断に関して、雑誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある(例えばチョコレートはバレンタインデーの2月に一番売れるため、2月の売れ行きと3月の売れ行きを単純比較した場合、3月が2月と比べて減少するのは当然)。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番手っ取り早い。

なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌は、このグラフには登場しない。前四半期と比べると「IKKI」が退陣したため、男性向けコミック誌のグラフからは姿を消している。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年10-12月期、前期比)

「別冊少年マガジン」「月刊少年シリウス」の減少ぶりが目立つ。これは前四半期から継続している動きで、理由も同じく「進撃の巨人」関連の反動、さらには勢いの鎮静化によるもの。とりわけ「シリウス」は今回の下落により、特需前の状況よりも数字を落としたことになる。むしろこの1年半、よくぞ単作でここまで底上げが成されたと、高く評価すべきだろう。

↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

プラス領域で大きく伸びているのは「別冊コロコロコミックスペシャル」と「コロコロコミック」。こちらも理由は前四半期と同じで、いわゆる「妖怪ウォッチ」特需によるもの。ただし同じコロコロ系でも「コロコロイチバン!」は前四半期からいくぶん値を落としてしまっている。これは多分に「妖怪ウォッチ」という同じテーマを題材にした本誌や付録構成をしていても、ゲーム本体との連動性がどれだけ高いかで作品による牽引力に差が出ることを表す良い例といえる。上昇を果たした「別冊コロコロコミックスペシャル」と「コロコロコミック」はゲームとの連動性が高い付録を展開しており、例えば「コロコロコミック」では2014年11月号に特殊な妖怪メダル3枚が購入できる応募はがきが添付されており、2015年1月号にはメロンニャンのメダルが付録としてついていた。まるで某スナック系菓子とオマケのカード的な状況ともいえる。

上昇率こそ「別冊コロコロコミックスペシャル」に先行されてしまったが、「コロコロコミック」は今回の上昇分で100万部を突破。記録が取得できる限りでは2010年第1四半期以来の快挙となった。

↑ 雑誌印刷実績変移(コロコロコミック)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(コロコロコミック)(部)

上記にもある通りこの勢いにより、少年向けコミック誌では「週刊少年マガジン」に間もなく手が届きそうになった「コロコロコミック」だが、今回の上昇は多分に「妖怪ウォッチ」のメダル効果によるもの。次回以降も同様の堅調ぶりを披露できるかは未知数といえる。

続いて男性向けコミック。こちらは少年コミック誌と比べ、言葉通り逆風しか吹いていない。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2014年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2014年10-12月期、前期比)

誤差うんぬんを抜きにして、前四半期比でプラスを示した雑誌は皆無。ほとんどが誤差範囲の5%以内に収まっているのは幸いだが、唯一「ヤングマガジン」が7.3%と大きな下げを示している。

このような状況を認識した上でなのか、編集方針における迷走ぶりが見られるのが小学館のビッグコミックシリーズ。先の自称美食漫画によるカオス的な編集方針を露呈させた「ビッグコミックスピリッツ」に続き、【小学館は非科学を推奨するあおり出版社と化したらしい...ビッグコミックで「医者を見たら死神と思え」連載開始】【「医者を見たら死神と思え」の連載開始号、よりによって近藤某氏が表紙で「告発者」のコピー付き】でも挙げている通り、「ビッグコミック」や「ビッグコミックスペリオール」でも非科学的かつ倫理の上で問題視される内容の作品展開を始めている。編集部サイドでは起死回生、渾身の力を込めた一撃のつもりかもしれないが、編集部、雑誌社レベルでの姿勢を問われかねない話ではある。

その一撃の結果に関しては、少なくとも減少傾向の部数を盛り返すまでには至っていない。減少度合いが落ち着いたと見る向きもあるが、中長期的に見れば同誌、同社が失ったものは何倍も大きなものとなる可能性は高い。

↑ 雑誌印刷実績変移(ビッグコミック)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(ビッグコミック)(部)

↑ 雑誌印刷実績変移(ビッグコミックスピリッツ)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(ビッグコミックスピリッツ)(部)

↑ 2014年7-9月期→2014年10-12月期に至るビッグコミック系各紙の印刷証明部数減少率
↑ 2014年7-9月期→2014年10-12月期に至るビッグコミック系各紙の印刷証明部数減少率

これらビッグコミック系各誌は中期的にも小さからぬ部数減退の中にある。「ビジネスだから仕方がない」との意見もあり、この数字はそれを裏付けるものではあるものの、雑誌社全体に与えるイメージ的影響を考えると、好ましい選択とは言い難い。

↑ 2008年4-6月期→2014年10-12月期に至るビッグコミック系各紙の印刷証明部数減少率
↑ 2008年4-6月期→2014年10-12月期に至るビッグコミック系各紙の印刷証明部数減少率

それ以外の動きでは、今四半期ではかつて成長株だった「コミック乱」系列や「ヤングアニマル」系列も小さからぬ下げの中にあるのが目に留まる。他方、「モーニング2」はこれまで軟調状態が続いていたが、この1年に渡っては横ばいに移行し、健闘しているのが確認できる。イブニングから移行した「もやしもん」の連載終了に向けた佳境感、黒田硫黄氏による「アップルシードα」のスタートなど、理由は複数考えられる。

コロコロ3兄弟の飛びぬけ感は続く…前年同期比で検証


続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2014年10-12月分に関する検証なので、その1年前にあたる2013年10-12月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が開くものの、雑誌の印刷実績における勢いをより厳密に知ることが出来る。数十年もの歴史を誇る雑誌もある中で、わずか1年で数十パーセントもの下げ幅を示す雑誌もあるが、それだけ雑誌業界は大きく動いていることを再確認できる。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年10-12月期、前年同期比)

上記にある通り「妖怪ウォッチ」の特需を一挙に受けたコロコロ3誌がいずれも大きなプラス。「コロコロイチバン!」は前四半期比ではマイナスに転じたが、前年同月比ではプラスを維持出来ている。他方「月刊少年シリウス」「別冊少年マガジン」は共に「進撃の巨人」の反動。年ベースでも影響が出ている。

それら特需、その反動を除くと「少年サンデーS」「週刊少年サンデー」の下げ幅が目立つ。発売日などから対比する形で取り上げられることの多い「週刊少年マガジン」と順位の上では同じだが、下げ率の幅は2倍近く。より子供向け内容の多い「週刊少年サンデー」の方が失速度も大きいのは、雑誌業界全体の需要を示す一つのシグナルだろうか。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2014年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2014年10-12月期、前年同期比)

前四半期比ベースだけでなく、前年同期比ベースでも前誌でプラスは果たせず。しかも誤差を超えた5%超の下げ幅を過半の雑誌が占めている。中でも少し前まで堅調さを示していた「コミック乱」シリーズがいずれも大きな下げ幅を見せており、戦国系の漫画の勢いが減じてきた感を覚えさせる。また「ビッグコミック」シリーズもずらりと大きな下げ幅の中に納まっている。

なお健闘しているように見える「月刊スピリッツ」だが、元々部数が1万部のみのため、これ以上の減少は雑誌そのものの存亡にかかわることになる。むしろ必至に踏みとどまっているのが現状かもしれない。



今四半期は前回同様「妖怪ウォッチ」による特需が続き、一方で低迷する男性向けコミック誌の中では問題視されるような動きが相次ぐ形となった。奇しくも双方の動きとも、一つの出版社内の雑誌によるものという事実は、この事態の複雑さを象徴するものでもある。

昨今ではこれまで以上に電子書籍、ウェブ漫画が浸透し始め、小規模書店の閉店やコンビニにおけるコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、ごく一部の人気作品以外はますます紙媒体が手に取られる機運が薄らぎつつある。

他のジャンル同様紙媒体の観点では、少年・男性向けコミックもまた市場環境は極めて厳しい。紙媒体そのものが無くなることはありえないが、今後さらに過酷な状況が待ち受けていることは否定できない。その中でいかに自らを律しつつ、環境に合った施策を取るかに、各雑誌社、雑誌編集部局の実力と本質が現れるのではないだろうか。


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