20年で支出金額は1/3に…音楽・映像収録済メディアの購入性向(最新)

2023/06/02 02:41

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2023-0523音楽・映像業界ではCDやDVD、BD(ブルーレイディスク)などの物理媒体の販売が落ち込み、市場規模の縮小が大きな懸念材料となっている。最大の要因はインターネットの普及に伴うデジタル媒体ソフトの販売拡大と、その利用スタイルに伴う購入性向の変化。デジタル媒体市場は拡大しつつあるものの、最近ではその成長度合いもゆるやかなものとなり、物理媒体の販売の落ち込みを補完するまでには至っていない。今回は総務省統計局が2023年2月7日に公開値の更新(2022年・年次分反映)を行った【家計調査(家計収支編)調査結果】の各種値を用い、各世帯単位における音楽・映像系ソフトの購入性向を手がかりとし、具体的にどれほどCDやDVDが買われなくなったのかを金額面などから見ていくことにする。

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次に示すのは総世帯(単身世帯と二人以上世帯の合算、つまり全部の世帯)における年単位の、音楽や映像に関する収録済みのメディア(要は音楽や映像ソフト。録画用の内容未収録なCDやDVD、BD媒体は含まず)購入の傾向を、支出金額と頻度の点から見たもの。他の商品の購入性向からも明らかな通り、単身世帯と二人以上世帯ではエンタメ系の購入性向には小さからぬ違いがあることから、それぞの種類世帯別の動向を見るのも一興ではある。しかし今件は音楽・映像市場における影響を世帯単位で見るのが主目的なため、全体としての平均的な世帯となる総世帯の値を採用する。

また家計調査では2004年以前は「音楽・映像収録済メディア」項目は「オーディオ・ビデオ収録済テープ」「オーディオ・ビデオディスク」に分散して収録されていたが、今回はその双方を合算して計算に加える(厳密には世帯購入頻度の部分を単純加算するのは、やや問題があるのだが)。

さらに2002年より前の値は、二人以上世帯のみのデータしか存在しないこと、世帯購入頻度の値が無いこと、音楽や映像ソフトに関する概念が随分と異なることを考慮し、連続性の高い2002年以降の動向についてのみ精査を行う。

↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額と世帯購入頻度(総世帯、年単位)
↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額と世帯購入頻度(総世帯、年単位)

2002年以降に限れば2004年がピーク。世帯あたり年間6780円を音楽や映像ソフトに費やしていた(インターネット通販で購入しても対象が物理媒体ならば該当する。デジタルデータ系は該当しない)。100世帯あたりの世帯購入頻度は205なので、おおよそ1世帯あたり2回ほど購入している計算になる。単純試算だが、1購入あたりの金額は3300円ほど。一度に複数本のタイトルを購入することもあれば、この位の額はすぐに達する。また「年間7000円足らずではシリーズもののソフトは買えない」との意見もあるだろうが、今件はあくまでも全世帯の平均値。毎年数万円も映像ソフトに投資する世帯もあれば、まったく購入しない世帯も多分にある。

支出金額、世帯購入頻度はともに2004年をピークに漸減。一時盛り上がりを見せる場面もあったが、結局減少に歯止めはかからない状態だった。2019年においては支出金額は2500円足らず、世帯購入頻度は年間で10世帯に7世帯が1回購入する程度にまで縮小してしまった。

直近の2022年では世帯購入頻度は精査期間内では最低値となる51を示し、支出金額も過去最低額を記録した2019年の2464円を下回る2059円となった。

なお2016年においては前年比で世帯購入頻度こそ6ポイントの増加(84)にとどまっているが、支出金額は1004円もの増加(3673円)を見せ、明らかにイレギュラーな流れを示している。総世帯では世帯主年齢階層別のデータは無いので精査は不可能だが、たとえば単身世帯などで過去のデータをさかのぼると、2016年では全般的に、なかでも高齢層の支出金額の増加度合いが著しい。

↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額(単身世帯、世帯主年齢階層別、円)
↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額(単身世帯、世帯主年齢階層別、円)

【日本レコード協会のミリオン認定数推移】で確認すると、2016年は珍しく多数のミリオンセラーが生まれている。また、社会現象でも某アイドルグループの解散事案に伴い、関連CDを購入しようとの運動も生じており、それが2016年におけるイレギュラー的な動きをもたらした可能性は十分に考えられる。

↑ 年次ミリオン認定作品(2016年、日本レコード協会)
↑ 年次ミリオン認定作品(2016年、日本レコード協会)

しかしながら2017年以降においてはそのような現象は発生しておらず、支出金額と世帯購入頻度はともに下落を示す形となっている。

今件につき、減少度合いが分かりやすいように、比率の動きで確認する。一番古い値となる2002年における値を基準値の1.00とし、各項目の相対値を算出する。これなら支出金額や世帯購入頻度の大きさの違い、グラフの描写上発生しうる誤認を極力避けることができる。

↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額と世帯購入頻度(総世帯、年単位、2002年=1.00とした時の比率)
↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額と世帯購入頻度(総世帯、年単位、2002年=1.00とした時の比率)

2002年から2015年までの10年強の間に、世帯単位での音楽・映像ソフトの支出金額・世帯購入頻度はともに4割ぐらいにまで落ち込んでいる。どれほどまでがデジタル系媒体で補完されているかについて、今件家計調査では確認ができないが、少なくとも音楽・映像業界を支える一般的な世帯において、半分足らずに資金投入が減ってしまったことは間違いない。

一方で2016年の特異な動きを見るに、世帯購入頻度はほとんど変わらず、支出金額のみが大きく跳ねたことが改めて確認できる。購入者が増えたのではなく、購入者がいちどきに買う枚数が増えた、あるいは購入対象が高単価なものになった、またはその両方と見るのが無難なようだ。2017年以降は世帯購入頻度・支出金額ともに以前の動向に戻ってしまっており、2016年の挙動はイレギュラー的な影響しか及ぼさなかったことも確認できる。2020年以降における多少の支出金額の盛り上がりは、新型コロナウイルス流行による在宅時間の増加が影響しているのかもしれない。

直近の2022年では支出金額・世帯購入頻度ともに過去最低を更新する形となった。2020-2021年の新型コロナウイルス流行によるものと思われる特需的な動きがほぼ失われた状態といえよう。



音楽・映像メディアは一般的な世帯のみに限らず、企業や団体単位でも購入されるため、今件の購入性向の変化がそのまま業界全体の需要に一致するわけでは無い。しかし大きな影響力を持ち、市場の多分を支える一般的な世帯において、その購入意欲・支出金額が減っている実態は認識しておく必要がある。同時に2016年の特殊な環境下における挙動にも注目をしておきたい。

なおこの20年の間にも世帯平均の人数は減少しているため(2002年時点では2.63人、2022年には2.22人にまで減っている)、「世帯人数が減れば世帯単位での購入金額は減って当然」との意見もある。そこで一人あたりの金額を算出し、その上で指数動向を見たのが次のグラフ。世帯人数には子供も含まれることから購入性向が大人と変わるため、ぶれが生じ得るので、あくまでも参考程度のものとして見てほしい。また世帯購入頻度は世帯人数で除算すると無意味な値となるため、今件では算出しない。

↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額(総世帯、年単位、世帯構成人数を考慮した一人あたり、2002年=1.00とした時の比率)
↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額(総世帯、年単位、世帯構成人数を考慮した一人あたり、2002年=1.00とした時の比率)

単純世帯試算と比べていくぶん値を上げたものの、減少傾向にあること、そして2016年は特異な上昇を見せたことに違いはない。今後この値がどのような推移を見せるか、音楽・映像業界の動向とともに、注目したいところだ。


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