さらに加速化する「進撃の妖怪ウォッチ」的状態…少年・男性向けコミック誌部数動向(2014年7月-9月)

2014/10/31 08:00

スマートフォンをはじめとするデジタルメディアの急速な日常生活への浸透に連れて、紙媒体への注力が相対的に減退し、また媒体を担う者のプロ意識が問われる状況が相次ぎ露呈し、メディアそのものの意義が再確認されつつある昨今。子供向けのコミック誌業界もまた、紙媒体の他のジャンル同様に苦境のさなかにある。社団法人日本雑誌協会では2014年10月27日付で、四半期毎に更新・公開している印刷部数について、公開データベース上の値に最新値の2014年7月から9月分の値を反映させた。市場動向の現状を刻むその数字からも各雑誌の奮戦ぶり、そしてその努力が実を結んだ成果、あるいは時の流れには逆らい切れなかった様子が、手に取るようにつかみ取れる。各雑誌の出版部数動向・実情を示す値として、出版社が公示している「公称」販売部数よりも高精度で公平性の高いことでも知られている、今回公開された「印刷証明付き部数」を基に、「少年・男性向けコミック誌」の動向に関して複数の切り口からグラフ化を行い、現状を精査していくことにする。

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直近四半期の動向…少年誌は1強、男性誌は3強の状態は相変わらず


データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など各種文中の用語の説明、諸般注意事項、同一カテゴリの過去の記事は一連の記事に関する解説ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明・収録済み。必要な場合はそちらで確認のこと。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」のダントツ感はいつものごとくで、少年コミック誌・男性コミック誌合わせても唯一のダブルミリオンセラーな状態にある。次いで週刊少年マガジンがミリオンセラー、小学生位までの比較的低年齢層向けの雑誌としては「コロコロコミック」がトップ(こちらはミリオンならず)。状況に大きな変化が3か月で生じるはずも無く、この序列も前四半期からのもの。もっとも今四半期では後述するが、いくつかの雑誌で大きく赤色の棒、つまり今四半期分が前四半期から伸びているものが確認できる。

↑ 2014年4-6月期と最新データ(2014年7-9月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2014年4-6月期と最新データ(2014年7-9月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

直近データで確認すると「ジャンプ」の印刷部数は266万5834部。返本や在庫本なども勘案すると、実際に購入者の手元に届くなどの最終消費者の手に渡る数は、これよりいくぶん少なくなる。雑誌は原則売れないものは返本されるため、返本率を仮に1割から2割程度と試算すると、実リーチ数は大よそ200万部超位と表記すれば問題はあるまい。通勤電車の乗客の動向で、最新のコミック雑誌を手に取る人がどれだけいるのかを思い返すと、ジャンプの値は奇跡に近い健闘といえる。一方で同誌がかつて635万部を刊行していた(1995年時点)事実を知ると、時代の流れの残酷さすら覚える次第。

今四半期はデータ公開の上で追加は無いが、脱落誌は2誌。まず月刊誌の「少年ライバル」が【講談社の月刊少年ライバル休刊へ、新少年漫画誌刊行の模索も】でも伝えたように休刊しており、これが対象外となった。また「最強ジャンプ」もデータの掲載が認められなかった。こちらは現在でも発売中で、該当期間のものは2014年8月に該当期間中の発売も確認されている。もっとも同誌は2014年9月号以降はこれまで月刊誌だったものが隔月刊誌に転じており、その際に公開方針が変わったのかもしれない。

続いて男性向けコミック誌。良い意味での神風が一部で吹いている少年向けと比べて、男性向けは逆風状態が続いている。パッと見でも前四半期から大きく値を落とした雑誌が複数確認できる。

↑ 2014年4-6月期と最新データ(2014年7-9月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2014年4-6月期と最新データ(2014年7-9月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

少年向けコミック誌と異なり、今四半期では脱落・追加誌は無し。ただし前四半期の記事でも伝えたが(【小学館の月刊漫画誌「IKKI」、9月発売号で休刊・連載陣の今後は7月25日発売号で発表】)、「IKKI」は9月発売分で休刊。今回掲載分が最後となる。それに向けて最後の部数調整がなされたらしく、元々少ない印刷部数ではあるもの、さらなる減退を示すこととなった。

男性向けコミック誌は上位陣がほぼ均衡しており、競り合いの状態にあるのも特徴。今四半期では前四半期から転じて、週刊ヤングジャンプがトップに付き、ビックコミックオリジナルがそれに続くこととなった。ヤングマガジンもその競り合いに加わりたいところではあろうが、もう10万部近く部数が足りない。

雑誌の統廃合、主に廃刊に等しい休刊が相次ぐ中、珍しい事案として複数誌の休刊・統廃合の結果、新たに複数誌の創刊との形を採った集英社の「グランドジャンプ」と「グランドジャンププレミアム」に関して、今カテゴリでは継続的に動向を追い続けている。その統廃合で良い結果が出れば、他誌もそれを成功方程式として採用することで、生き残り、さらには成長をも模索出来るからだ。

今四半期でも新生成った2誌のうち、データ開示が行われているのは「グランドジャンプ」のみ。そして同誌の印刷実績動向だが、あまり思わしいとは言えない。

↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2014年7-9月期まで)
↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2014年7-9月期まで)

これでもまだ他誌と比べれば健闘している、環境をかんがみれば評価に値する動きではあるが、統廃合の成果としては物足りない。すでに何度か大規模な連載陣の入れ替えが「グランドジャンプ」と「グランドジャンププレミアム」との間で実施されており、試行錯誤が続いていることはうかがえるものの、起死回生、成功事例と評価するまでには至っていない。

コロコロ一族の爆走も妖怪のしわざ…前四半期比較で動向精査


続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。単純に四半期前、つまり3か月前との比較であり、季節変動などを考慮していない。しかし短期間における部数動向の実態を確認できる。なおデータが非開示となった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌は、計算が出来ないのでこのグラフには登場しない。今回は「ライバル」と「最強ジャンプ」がグラフから消えている。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年7-9月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年7-9月期、前期比)

「別冊少年マガジン」「月刊少年シリウス」が大きく落ちているが、これはいずれも「進撃の巨人」関連の反動。前者は連載そのものは継続しているが、テレビ放送も終わり、世の中の盛り上がりが鎮静化に向かったことによる反動、そして後者は2013年10月号から連載を開始した「進撃の巨人 Before the fall」の影響で大きく伸びた前年同期の反動。特に後者は今四半期の下げ方で、ほぼ特需分が無くなったことになる。

↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

他方、際立った伸び方を示しているのが「コロコロイチバン!」「別冊コロコロコミックスペシャル」「コロコロコミック」の、いわば「コロコロ三兄弟」。これは前四半期から続く動きで、理由は言うまでも無く「妖怪ウォッチ」によるもの。しばらく前に発生した「進撃の巨人」特需が、今度は(掲載誌こそ違えど)「妖怪ウォッチ」で発生した次第。【コロコロコミックが妖怪ウォッチ効果で100万部を突破したという話】などでも触れているが、特にゲームと連動性のある付録をつけた号の売れ行きは凄まじく、単号で100万部突破も報じられている。「コロコロコミック」9月号ではスイカニャンのメダルが付録についていたことから、多くの子供達の注目を集め、言葉通り引っ張りだこならぬ引っ張りコロコロとなった。

続いて男性向けコミック。こちらは少年コミック誌と比べると逆風状態にある。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2014年7-9月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2014年7-9月期、前期比)

誤差範囲内の5%ポイントを超える雑誌はプラスがゼロ、マイナスが2誌。「IKKI」は上記説明の通り休刊前の減少であることから仕方ないものの、「コミック乱」の下げ幅が目立つ。そして何よりもプラス誌がゼロである状況が、男性向けコミック誌の状況を示している。

「コロコロ三兄弟」ならぬ「コミック乱三兄弟」では「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」が話題を集めている。

↑ 雑誌印刷実績変移(コミック乱ツインズ戦国武将列伝)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(コミック乱ツインズ戦国武将列伝)(部)

原作や外伝、続編などのコミック化、複数の映画化が行われた「戦国自衛隊」が2013年から新解釈のもとに劇画版として連載されており、そのストーリー展開に注目が集まっている。とはいえ部数そのものはさほど奮うほどのものではなく、低迷感を押しとどめるまでには至らない。

【小学館は非科学を推奨するあおり出版社と化したらしい...ビッグコミックで「医者を見たら死神と思え」連載開始】で解説しているが、前四半期で指摘した、非科学的な内容をドキュメンタリータッチで漫画化するという手法で起死回生を狙ったと思われるビッグコミック系各誌。【ビッグコミックやスペリオールなどの販売実態を探ってなるほど感】でも指摘している通り、問題が呈されている作品を掲載している各誌とも、中長期的に小さからぬ部数の減退を示している。

↑ 2008年4-6月期→2014年7-9月期に至るビッグコミック系各紙の印刷証明部数減少率
↑ 2008年4-6月期→2014年7-9月期に至るビッグコミック系各紙の印刷証明部数減少率

これだけの状況にあれば、それこそ「悪魔との契約」すら考えたくなるのは理解も出来なくは無いものの、読者の多くは納得することはあるまい。また上記で挙げた通り、コロコロ系雑誌は特需効果のおかげではあるが、あれほどまでに盛況さを示す中、同じ雑誌社でドーピング的な手法に手を染める実態には残念さを覚えさせるを得ない。部数動向の観点でも、今後の動きに注目したい。

コロコロ一族の躍動感は変わらず…前年同期比で検証


次に示すのは、季節変動による部数変化を考慮しなくてもよい前年同期比のグラフ。今回は2014年7-9月分に関する検証なので、その1年前2013年7-9月分の数字との比較となる。年ベースではあるが、雑誌の印刷実績の観点からのすう勢をより純粋に知ることが出来る。季節変動が関与しないため、従来ならば変動値は数%内外に収まるはずだが、雑誌業界全体の不調の影響が強く表れ、10%以上もの下げ幅を見せる雑誌も少なくない。つまりそれだけ雑誌業態の低迷ぶりはスピード感あふれるものになっているわけだ。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年7-9月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年7-9月期、前年同期比)

「妖怪ウォッチ」特需は前年同期比の上でも大きな効用を示している。いわゆるコロコロ一族が群を抜いた成長ぶり。一方で前四半期の記事の時点では、「進撃の巨人」効果が活きていた「月刊シリウス」も、ついにその効用の反動が表れる形となっている。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2014年4-6月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2014年4-6月期、前年同期比)

プラスを示した雑誌は「イブニング」のみで、実質的には誤差の範囲。年ベースでの減退では実に9誌が5%超、4誌が10%超の下げ幅を呈している。「IKKI」は休刊前の消化試合的な状態での減少で仕方がない面もあるが、「ビックコミックスペリオール」「ビックコミック」の下げ幅は危機的状態。上記で解説した「悪魔との契約」的手法に手を染める立場も、納得はできるというもの(良し悪しはまた別の問題)。

先に述べた「グランドジャンプ」だが年ベースでの下げ幅は3.2%。対象雑誌群の中では健闘しているポジションにあることが、今グラフからも確認できる。無論部数が減少していることに違いはないのだが。



今回計測期間では、前四半期同様コロコロ三兄弟における「妖怪ウォッチ」特需が目立つ形となった。中には単号で100万部にタッチした雑誌もあり、まさに妖怪様々といったところ。子供向けであること、ゲームとの連動性も多分に狙えることから先の「進撃の巨人」よりも波及効果は大きく、さらに年末のオリジナル映画の放映に向けて盛り上がりを見せることは確実なため、少なくとも次の四半期までは好調さは継続しそうだ。

他方男性向けコミック誌では、「妖怪ウォッチ」のようなヒットタイトル、雑誌全体を牽引できるようなテーマは今四半期も登場しなかった。「戦国自衛隊」も良いテーマではあるのだが、雑誌そのものをけん引するまでには至っていない。一方で繰り返しになるが、一部雑誌群で一般向け雑誌が触れてはいけない領域に手をかけた動きが見られるのは、残念な話ではある。

先日まで連続する形で掲載した「出版物販売額の実態」を元にした印刷物業界の動向を見る限り、紙媒体の雑誌は売り場を減らされ、読み手の需要は減り、中長期的な低迷・減退は避けられそうにない。特に目を留める場の象徴である本屋の数が減り、コンビニにおいても明らかに売り場を追われている。

少年・男性向けコミックを取り巻く環境は厳しい。これは否定のしようがない。その中でどのように現状の形を維持するのか、または状況の変化に応じて進化していくのか。各雑誌社、各雑誌毎に決断が求められている。


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