「進撃の妖怪ウォッチ」的状況…少年・男性向けコミック誌部数動向(2014年4月-6月)

2014/08/02 20:00

メディアが多様化、特にインターネットを利用した媒体の若年層への浸透に伴い、紙媒体の存在意義、価値観が改めて問われる昨今。子供向けのコミック誌でも紙媒体全体の不調の波に引きずられる中で、試行錯誤を繰り返し、起死回生を推し量っている。社団法人日本雑誌協会では2014年7月28日付で、四半期毎に更新・公開している印刷部数に関して、公開データベース上の値に最新値の2014年4月から6月分の値を反映させたが、その数字からも各雑誌の奮戦ぶりやその努力がかなうことなく状況に流される様子が、手に取るようにつかみ取れる。該当誌の出版部数動向・実情を示す値として、出版社が公示している「公称」販売部数よりも高精度な「印刷証明付き部数」として公開されたそれらの値を基に、今回は「少年・男性向けコミック誌」の動向について複数の切り口からグラフ化を行い、同ジャンルの現状を精査していくことにする。

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直近四半期の動向…ミリオンはジャンプとマガジンのみの状況に変わりなし


データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など各種文中の用語の説明、諸般注意事項、同一カテゴリの過去の記事は一連の記事に関するまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明・収録を行っている。必要な場合はそちらで確認のこと。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」が他誌をグンと追い抜いて独走トップ状態、週刊少年マガジンがミリオンの偉業こと100万部超、小学生位までをメインに据えた雑誌としては「コロコロコミック」が最上位にある。このポジションはしばらく変わりが無く、他の雑誌の動向を見るに、ほぼ不動の立ち位置と判断しても良いだろう。
↑ 2014年1-3月期と最新データ(2014年4-6月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2014年1-3月期と最新データ(2014年4-6月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

直近データで確認すると「ジャンプ」の印刷部数は267万7500部。書店などの在庫としてとどまったまま売れることなく、出版社に返本される冊子も少なからずあるので(単行本はともかく雑誌の完売は滅多にない。以前の月刊コンプティークにおける「艦これ」効果での完売・再販が大きなニュースになったのは、それほどレアな事象だったからに他ならない)実態の販売数はこれよりも少なくなる。ジャンプの返本率はもちろん公開されていないが、仮に1割と設定すると、実売部数は240万部強位となる。雑誌に限らず新聞や書籍までも含め、紙媒体の不調が続く中、毎週これだけの部数を全国に向けとして、さばききるだけの実力がジャンプにはまだ存在することになる。しかしながら同誌は最盛期、1995年時点において、635万部を刊行していたことを考えると、紙媒体全体の不調が一因とはいえ、色々と複雑な感想を抱く人は少なくあるまい。

今四半期はデータ公開上の脱落誌・追加誌は無し。2四半期前から追加された「別冊少年マガジン」も滞りなく公開されている。追加はともかく脱落が無いのは嬉しい話。……ではあるが、以前【講談社の月刊少年ライバル休刊へ、新少年漫画誌刊行の模索も】で伝えたように、月刊少年ライバルは休刊が決定、すでに断行されている。データの開示も当然、今回が最後となる。

他方、詳しくは後述するが、今件グラフからも一部雑誌で有意な形での増加を示している雑誌が複数確認できる。減少が常となる昨今では珍しい動きと言える。

続いて男性向けコミック誌。起伏がやや大きな少年向けコミックと比べれば、動きは大人しい……が、ポジティブな方向への流れはあまり見えないような感はある。

↑ 2014年1-3月期と最新データ(2014年4-6月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2014年1-3月期と最新データ(2014年4-6月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

少年向けコミック誌同様、今四半期では脱落誌・追加誌は無し。ただし少年向けの「月刊少年ライバル」同様、【小学館の月刊漫画誌「IKKI」、9月発売号で休刊・連載陣の今後は7月25日発売号で発表】で伝えている通り、「IKKI」の9月発売分での休刊が確定した。次四半期まではデータの開示は行われるだろうが、他誌への移行や終結に向けたドタバタの中で、数字には期待できない。

少年向けコミック誌と比べて上位陣がかなり均衡している男性向けコミックだが、今四半期では前四半期からの順位に変わりはなし。ただしトップの「ビッグコミックオリジナル」と第2位の「週刊ヤングジャンプ」の差が縮まっており、何らかのイレギュラーな動きが起きれば、あっさりと順位が入れ替わる可能性はある。数四半期前には週刊ヤングジャンプが順位の上で上位にのし上がったほどの勢いを持つ(現実としては減少傾向が穏やかなだけなのだが)ところを見ると、再び上位陣の順位入れ替わりというレアな事態に遭遇するかもしれない。

定期発刊の雑誌としては数少ない事例として、複数誌の休刊・統廃合の結果、新たに複数誌の創刊との形を採った集英社の「グランドジャンプ」と「グランドジャンププレミアム」。昨今では雑誌の休刊の際には「ウェブ移行」「既存誌への連載陣の吸収」「これまでとはコンセプトを異にする新雑誌の創刊」とのパターンが定型フォーマット化されており、今なお珍しい部類に属している。そして2誌のうち「グランドジャンププレミアム」のデータ公開はなされていない。

「グランドジャンプ」は公開が継続されているが、ここ1年強ほどの間横ばいが維持されていた。しかし直近四半期では5000部ほどではあるものの、減少が確認されている。これがイレギュラーなものか、それとも凋落の兆しなのかは、次回以降の動向次第ということになる。「グランドジャンププレミアム」などとの間で連載陣の入れ替えによるテコ入れは行われていたが、動向次第では今後さらなるテコ入れが実施される可能性はある。

↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2014年4-6月期まで)
↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2014年4-6月期まで)

ぐいっと伸びるコロコロ一族…前四半期比較で動向精査


続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。単純に四半期前、つまり3か月前との比較であり、季節変動などを考慮していないが、短期間における部数動向の実態を知ることが出来る。なおデータが非開示となった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌は、計算が出来ないのでこのグラフには登場しない……が今回は該当誌は無い。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年4-6月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年4-6月期、前期比)

「月刊少年シリウス」が大きく下げているが、これは前四半期から続き、2013年10月号から連載を開始した「進撃の巨人 Before the fall」の影響で大きく伸びた2四半期前の反動によるもの。見方を変えると、「進撃の巨人」効果は2四半期もの反動による失速を経てなお、上昇開始前よりは上の状態を維持できるほど大きかったことが分かる。まさに雑誌を「進撃」させる「巨人」といえる。

↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

一方、大きな伸びを示しているのが「コロコロイチバン!」「別冊コロコロコミックスペシャル」「コロコロコミック」の、いわば「コロコロ三兄弟」。前四半期比で2割3割は当たり前という、驚異的な伸び方が確認できる。この原因は前四半期でも前兆が確認できた「妖怪ウォッチ」効果。毎回表紙にジバニャンをはじめとした著名な妖怪が大きく描かれ、連載や特集、さらには付録にも登場し、子供達の興味関心を大きく引き寄せている。先の「進撃の巨人」が青年層向けにアピールする素材とすれば、「妖怪ウォッチ」は年少層向けの素材に他ならない。

またコロコロコミック勢では、他にも「ポケモン」や「ふなっしー」など、若年層向けのトレンドテーマを巧みに盛り込んでおり(例えばふなっしーの連載「ヒャッハーだよ♪ ふなっしー」は、実態をもはるかに凌駕する奇抜なアクションの数々を見せており、色々な意味で子供達から注目を集めている)、これだけの需要増加も納得がいく。

続いて男性向けコミック。こちらは少年コミック誌と比べると「凪」的状態。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2014年4-6月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2014年4-6月期、前期比)

誤差範囲内の5%ポイントを超える雑誌はプラス・マイナス共にゼロ。誤差範囲内の動きではマイナス圏が多く、全体的には不調の雰囲気を呈しているものの、大きな流れまでには至っていない。

「コロコロ三兄弟」ではなく「コミック乱三兄弟」では「コミック乱ツインズ」がやや健闘しているが、それ以外は今一つ。

速報として先日【「美味しんぼ」炎上のプラス効果無し...ビックコミックスピリッツ・2014年4月-6月期の印刷実績は18.3万部・前四半期比で5000部強の減少】でお伝えしたが、編集部まで半ば率先する形で世間を騒がせ、一部では「炎上商法では」との指摘もあったビックコミックスピリッツ。結果としては前四半期比はマイナス2.9%。部数にして約5400部のマイナス。これまでの四半期別動向から特に変わった動きは無く、下落傾向の歯止め、さらには押し上げ的な効果は生じなかったことになる。

↑ 雑誌印刷実績変移(ビックコミックスピリッツ)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(ビックコミックスピリッツ)(部)

当然といえば当然の結果ではあるが、少なくとも現状の雑誌を救う手法は、ネガティブな意味での炎上商法では無いということが、改めて確認されたと見ることもできよう。

前年同期比でもコロコロ一族が強い…前年同期比で検証


次に示すのは、季節変動による部数変化を考慮しなくてもよい、前年同期比を算出したもの。今回は2014年4-6月分に関する検証だから、その1年前2013年4-6月分の数字との比較となる。年ベースというやや間の伸びた形ではあるが、雑誌の印刷実績の観点からのすう勢を知ることが出来る。季節変動が関与しないため、従来ならば変動値は数%内外に収まるはずだが、昨今では雑誌業界全体の不調を受け、10%以上もの下げ幅を見せる雑誌も少なくない。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年4-6月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年4-6月期、前年同期比)

前四半期比の部分で言及した、いわば「妖怪ウォッチ」効果で大きな背伸びを見せたコロコロ一族だが、前年同期比でも当然大きな伸び方が確認できる。また四半期ベースではともかく、年ベースではなお「月刊少年シリウス」の「進撃の巨人」効果が活きていることも分かる。

一方「月刊少年ライバル」は休刊に向けて色々と整理を行う状態が前四半期から続いており、前年同期比では大きな下げを示してしまっている。また、それ以外でも複数誌で10%以上の下げ幅を見せる雑誌があるのが気になる。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2014年4-6月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2014年4-6月期、前年同期比)

プラスを示した雑誌は「コミック乱」のみ。これは前四半期から変わらない。四半期単位での動向では「凪」と評した動きだが、前年同期比では「嵐」の真っただ中にあることが分かる。本屋やコンビニでは必ず目に留まる大手雑誌で、年に1割を超える部数減が生じていることに、驚きを隠せない人もいるに違いない。

今件グラフ・検証は、あくまでも公開値のある雑誌に限られている。男性向けコミック誌はこれら以外にも多数店頭で展開されているが、それら印刷実績が未公開の雑誌群はどのような部数動向を示しているのか。半ば以上不安な状況を想像せざるを得なくなってくる。



今回計測期間では、特筆事項としてまず挙げられるのが、「コロコロコミック」シリーズにおける「妖怪ウォッチ」効果。他にも「ポケモン」「ふなっしー」などの影響も多分に考えられるが、ゲームそのもののセールス動向、そして表紙の状況を見るに、「妖怪ウォッチ」の影響大と見て間違いない。各雑誌の購入者コメントを確認しても、「妖怪ウォッチ」関連の話ばかりで、その盛況ぶりには驚くばかりである。

他方男性向けコミック誌では、「妖怪ウォッチ」のようなヒットタイトル、雑誌全体を牽引できるようなテーマは今四半期では登場せず、全体的な低迷感がただようばかりとなった。もっとも年齢層的に少年向けコミックと比べてやや年上をターゲットとしているだけに、趣味趣向も多様化・拡散してしまうため、多くの人の心を引き付ける素材を呈するのは難しいかもしれない。

絶版マンガ図書館男性向けコミック誌では過去の秀作をサルベージし、その作者の新作や関連する作品との連動により需要を喚起する方法論として、【絶版マンガ図書館】(旧・Jコミ)のような存在もある。単なる掘り起しだけでなく、多種多様な切り口で漫画そのものの市場、さらには書き手までをも含め活性化させる試みが模索、実行されており、今後もその動向には注目すべきものがある……が、少なくとも現時点では最新の雑誌の販売動向にまで影響を与えるものではないようだ。

ただし雑誌購入の年齢層が幅広くなり、昔の漫画を読みたいとする中堅層以降も増えていることから、「絶版マンガ図書館」の事業が継続され、対象作品が増えてくれば、ある一定ラインを超えた時点で、大きく現行の紙媒体にも影響を及ぼすターンに移行する可能性はある。

スマートフォンやタブレット型端末の普及は進み、電子書籍をはじめとしたウェブ上での雑誌購読機会も増えている。出版社の中には紙媒体での雑誌展開よりも、ウェブ上での展開を経て紙版の単行本を出版する方がリスクは低くプロジェクトも立ち上げやすいと考える向きも出始めている。

ヒット作が出にくい構造・体質にあり、同時にデジタル端末による閲覧機会が多い読者層を抱える男性向けコミック誌こそ、今以上に積極的なデジタル展開への模索が求められよう。

一方少年向けコミック誌では今回の「妖怪ウォッチ」、以前の「進撃の巨人」のような、強い牽引力を持つ素材を定期的に発掘、あるいは創生することが、市場全体を支える大きなヒントとなることは言うまでもあるまい。


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