「今年も北海道も含めて数値目標なし、無理のない節電協力要請」…2015年冬の節電要請内容正式発表

2015/10/30 15:32

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政府や経済産業省など関係省庁は2015年10月30日、同日開催された「電力需給に関する検討会合」の結果として、2015年度冬季における電力需給対策「2015年度冬季の電力需給対策について」を正式に決定すると共に、その内容を公開した。それによれば沖縄電力をのぞく、電力需給の点で懸念のあった9電力会社すべてで、電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3.0%以上を確保できる見通しとなった。予断を許さない状況には違いないものの、今冬では具体的な数字目標付きの電力使用制限令の発令は無く、「数値目標を伴わない節電要請(定着節電分の確実な実施)」(高齢者や乳幼児などの弱者への配慮を行う)がなされることとなった。北海道電力管轄では2年前の冬は数字目標付きの節電要請がなされたが、今年は去年に続き設定されていない。節電要請の期間は2015年12月1日-2016年3月31日(年末の12月29日-31日を除く)の平日9時-21時となる。ただし北海道電力管轄・九州電力管轄は時間帯を8時-21時とする。

一方、北海道電力管轄は他電力管轄との電力融通の点で制限が多分にあることに加え、1発電所のトラブル発生時における影響が大きい特殊性を踏まえ「大規模な電源脱落時の電力需要の削減のため、緊急時ネガワット入札などの仕組みを整備」などが追加対策として行われる。また昨年同様状況に応じ、計画停電回避緊急調整プログラムの準備や、数値目標付きの節電協力要請を検討することが明記された(【電力需給に関する検討会合公式ページ】【節電ポータルサイト(経産省)】)。


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2015年冬季は昨年冬季より幾分改善された電力需給状況


【電力需給検証小委員会】などで公開された「2015年度冬季の電力需給対策について」の関連資料によれば、直近過去冬季における厳寒リスク、昨今の経済成長ぶり、企業や家庭における節電の定着などを織り込んだ上で、いずれの電力管内でも電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3.0%以上を確保できる見通しとなった。今冬では昨年と異なり、他管轄間の融通電力を想定せずとも、この状況を確保できる試算がなされている。もっとも沖縄電力管轄以外、特に北海道電力管轄では、大規模な電源脱落などが発生した場合には、電力需給がひっ迫する可能性があることは言うまでもない。

その他、今冬季における電力需給対策として発表された内容は次の通り。

1.沖縄電力管轄以外の全国で「数字目標を伴わない」一般的な節電の協力要請。高齢者や乳幼児などの弱者への配慮

2.需要ひっ迫への備え
 ・電力会社による発電設備の保守、保全強化
 ・電力需給の状況改善が必要と判断された場合には、すぐに他電力会社から電力融通が受けられるような対応を講じることへの要請
 ・随時調整契約などの積み増し、ディマンドリスポンス(時間帯別の電力料金設定を行い、ピーク時以外の電力使用を促進する)契約の拡大を促進
 ・節電、省エネキャンペーンの実施

3.北海道電力管轄への特別対策
 ・過去最大級(137万kW)を上回る電源脱落リスクに備え、緊急時ネガワット入札(節電した電力を発電したものと見なして取引する仕組み(【参考:「ネガワット取引に関するガイドライン」を策定しました〜スマートな節電を行える環境整備を進めます〜(経産省)】)などの仕組みの整備

4.情報発信の強化と状況に応じて対策検討。

今件では当然リストアップされることはないが、重要なポイントとして、震災から4年以上が経過した今冬季であってもなお、特殊事情を有する北海道電力管轄だけでなく、沖縄電力を除いた全管轄に対し、今件のような電力需給状況に関する特別告知がなされること自体の問題を再考する必要がある。理由は言うまでも無く、電力供給の柱の一つである、原子力発電所による発電が、今なお遅滞状態にあるため。とりわけ冬季では北海道電力の需給バランスの乱れがその影響を受ける形となっている。

↑ 2015年度冬季(2月)における電力予備率見通し(沖縄除く)(川内原発2号機再稼働考慮)
↑ 2015年度冬季(2月)における電力予備率見通し(沖縄除く)(川内原発2号機再稼働考慮)

↑ 2010年度比の、2015年度冬季定着節電見込み(9電力管轄)
↑ 2010年度比の、2015年度冬季定着節電見込み(9電力管轄)

無論昨年の冬と比較すれば新設発電所の稼動、再生可能エネルギー関連の発電量の上乗せ、新電力への切り替えに伴う9電力管轄からの離脱など、需給面でプラスとなる面もある。

一方で出力を増加させた火力は老朽化や過負荷運転、管理の面でリスクが上昇しており、揚水は天候に左右される面や連続使用の点でやや難があり、再生可能エネルギーは出力に波があることから火力や水力より使い勝手の点で問題が生じやすい(例えば北海道電力管轄では特に、積雪時において電力の需要が大きく伸びるが、太陽光による発電はほとんど期待できなくなる)。数字上の計算はあくまでもフル出力が成し得た場合のものであり、楽観視できない現状がここにある。

↑ 2015年度冬期供給量想定(各電源別、2014年度冬期最大需要日の供給力実績比、万kW)
↑ 2015年度冬期供給量想定(各電源別、2014年度冬期最大需要日の供給力実績比、万kW)

原子力の値のプラス値は川内原発一号機の稼働を反映させたため。なお10月15日時点で二号機の起動もなされているため、実際にはこれにさらに上乗せがなされることとなる。なおそれ以外の原発の稼働が、今冬季に行われる想定はされていない。

需要の面では節電が逐次進んでいるが、LEDへの切り替えなど設備面での節電はともかく、意識面ではやや薄らぎが生じ、震災以降の経済復興などに伴い電力需要は増加している。一方で、新電力への移行もなされている。例えば東京電力管轄では今冬の経済影響などによる電力需要の変化はマイナス206万kWだが、内部を詳しく見ると経済の伸長による電力需要はプラス71万kw、新電力への離脱影響でマイナス277万kW、差し引きでマイナス206万kWとなる次第である。

↑ 電力需要における冬季経済影響等(新電力への離脱影響含む、2010年度冬季比)(万kW)(9電力管轄)
↑ 電力需要における冬季経済影響等(新電力への離脱影響含む、2010年度冬季比)(万kW)(9電力管轄)

蓄積されるリスクと費用と


今回の発表によれば、今冬は今夏同様、火力発電所の過負荷運転による増出力、緊急設置電源の活用などにより、安定電力供給に必要な予備率を確保できる試算が出ている。一方で火力発電所において、従来行われるはずのメンテナンスや機器の改編・更新を先延ばし、間引きなどを実施している。

当然リスクの上昇が懸念されており、今回の試算においては電気事業法に基づいた定期検査のガイドライン(ボイラーは2年、タービンは4年毎の定期検査)に基づいて勘案して見極め、定期検査を行うべき発電所は供給力としては計上していない。ただしこの法定期間に基づく「検査が必要」と判断される火力発電は75機(前回定期検査終了から2年以上経過)ではあるが、そのうち定期検査実施が承認されたのは半数程度の39機でしかない。見方を変えれば、従来のペースよりも定期検査の期間を延ばし、法定期間ぎりぎりまで(一部は法定期間を超えて)活動させる状況が続いていることになる。

↑ 各年度の計画外停止件数推移(夏季と冬季)(2015年度は夏季のみ)
↑ 各年度の計画外停止件数推移(夏季と冬季)(2015年度は夏季のみ)

↑ 各年度の計画外停止件数推移(夏季のみ)
↑ 各年度の計画外停止件数推移(夏季のみ)

老朽火力発電所(運転開始から40年以上経過)によるトラブルが減少しているが、これは該当する発電所そのものが停止を余儀なくされているからによるもの。発電量も2012年度をピークに漸減している。

さらに想定された通常の運転を超える領域での運転を行い、出力を増加させる過負荷運転も行われている。

↑ 火力発電所の過負荷運転等による増出力見込み(万kW)(2015年度冬季)
↑ 火力発電所の過負荷運転等による増出力見込み(万kW)(2015年度冬季)

この運転が継続されれば、通常運転よりもコストパフォーマンスは落ち、リスクの増加を招くことになる。

また、原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加も顕著化している。「原発の停止分の発電電力量を、火力発電の焚き増しにより代替していると想定し、直近の燃料価格などを踏まえ」これまでの実績及び今後の試算を行うと、(各資源価格の上下変動も考慮)もあわせ、2011年度から2014年度の4年間で12.4兆円のロスが生じた計算となる。現在進行中の2015年度の試算も合わせると5年間で12.6兆円にまで積み上げられる。

↑ 原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加(兆円/年)(2015年10月時点、2015年度は推計)
↑ 原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加(兆円/年)(2015年10月時点、2015年度は推計)

このコストは直接的に電力会社への負担となり、メンテナンスや機器改編・更新のさまたげの大きな要因となる。そして負担軽減のために行われる電気料金の引き上げは、家計や企業への重圧となり、しいては経済行動の低迷を導くことになる。家計に限っても、それだけ可処分所得が減り、生活への負荷につながる。電力需給が社会インフラである以上、その痛手はそのまま社会全体の痛手につながる次第である。



冬季では一番シビアな綱渡りが求められる北海道電力管轄でも、供給力状況に変化は無いものの、需要量では節電効果や新規火力発電所の稼働、過負荷運転、新電力への離脱などによりいくぶん需要が減退しており、これが2年前の冬のような数字目標付きの節電要請を回避する要因となった。とはいえ、発電所1基のトラブルによるリスクが他の電力管轄よりもはるかに高く、特段の注意が求められている状況に変わりはない。実際、過去において何度となく計画外の停止事案が発生し、電力需給のバランスが危機に陥ったケースが存在している。

↑ 北海道電力管轄の電力実績(万kW、冬季(2月))
↑ 北海道電力管轄の電力実績(万kW、冬季(2月))

電力需給の観点だけで見れば昨年冬と比べ、今冬はいくぶん緩やかな状況となる。しかし電力事情全体に渡るアンバランスで危機的な状況に変わりはない。震災直後から連なる一連の政策の決定的・致命的な過ちとそれが今なお続く現状を悔やみつつ、今後に向けて最大限の状況改善のための手立てを切に望みたいところだ。


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