4マスは雑誌とテレビがプラス、ネットはマイナス0.3%(経産省広告売上推移:2024年3月発表分)(最新)

2024/03/08 14:08

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経産省広告売上推移経済産業省は2024年3月8日、「特定サービス産業動態統計調査」の2024年1月分における速報データ(暫定的に公開される値。後ほど確定報で修正される場合がある)を、同省公式サイトの該当ページで公開した。その内容によれば2024年1月の日本の広告業全体における売上高は前年同月比でマイナス1.0%となり、減少傾向にあることが分かった。今件記事シリーズで精査対象の広告種類5部門(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ・インターネット広告)では雑誌とテレビがプラスを、新聞、ラジオ、インターネット広告がマイナスを示した。下げた部門ではラジオが一番下げ幅は大きく、マイナス6.1%を示している(【発表ページ:経済産業省・特定サービス産業動態統計調査】)。

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4マスは雑誌とテレビがプラス


今件記事で検証しているデータの取得場所、速報値と確定値の違い、過去の記事の一覧など「特定サービス産業動態統計調査」に関連する共通要件の解説は、記事集約ページ【定期更新記事:4大既存メディア広告とインターネット広告の推移(経済産業省発表・特定サービス産業動態統計調査から)】に記載している。必要な場合はそちらを参照のこと。

まずは主要5部門の動向に関してグラフ化を行い、状況の確認をする。

↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2023年12月-2024年1月)
↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2023年12月-2024年1月)

今件グラフの各値は前年同月比を示したもので金額そのものではない(棒の縦方向の長さと市場規模の大小は比例しない)。同時に前回月分からの動きが確認しやすいよう、前回記事における最新分の2023年12月分データと並列してグラフ化している。なお前回月分の値は、前回月記事で用いた速報値の後に発表されている確定値に修正済みのため、前回記事とは異なる値が表記されている部門もある。ただし昨今では調査の精度が上がり、速報値と確定値との間に差が見られる事態は、以前と比べて少なくなっている。

しばらくは軟調が続いている4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)だが、今回月では雑誌とテレビがプラスを示した。2015年以降4マスは概して軟調が続いており、特に紙媒体の新聞と雑誌は下げ基調が止まらず、2ケタ台の下げ率を見せたのは新聞が31回、雑誌は45回。それゆえに、今回月の雑誌におけるプラス18.9%という値は輝いてすら見える。

↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2014年1月以降)
↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2014年1月以降)

一方、インターネット広告はマイナス0.3%と前回月から転じる形でマイナスを示した。インターネット広告の前年同月比マイナスは、2023年3月分以来の話。

なお4マスとインターネット「以外」の一般広告(従来型広告)の動向は次の通り。

↑ 一般広告の広告費(前年同月比)(2024年1月)
↑ 一般広告の広告費(前年同月比)(2024年1月)

全部門で最大の下げ幅を示した海外だが、金額は約6億円。売上高合計へはほとんど影響は与えていないようだ。

新聞とインターネット広告の差は6.37倍


今回も最新公開月(2024年1月分)における、各部門の具体的売上「高」(額)のグラフ化を行い、状況の確認をしていく。広告代理店業務を営む日本企業は電通と博報堂が知名度も高い大手だが、その2社がすべてではない。そして各広告種類の区分は業界内で似たような文言が用いられているが、その構成内容は業界内で完全統一されておらず、【定期更新記事:(電通・)博報堂売上動向(月次)】と今件グラフとの額面上で、完全一致性は無い。なお表記の都合上、億円単位における小数点以下は四捨五入している。

↑ 月次広告費(億円)(2024年1月)
↑ 月次広告費(億円)(2024年1月)

詳細は【どちらが優勢か…新聞広告とインターネット広告の「金額」推移】で解説の通りだが、以前は新聞の金額はインターネット広告の金額を上回っていたものの、2014年1月を最後に新聞の金額はインターネット広告の金額を超えておらず、今回月では金額面で4マスとインターネット広告における上位順位はインターネット広告・テレビ・新聞の順となっている。

今回月では両者の金額差は約1029億円。約6.37倍の差がついている。もちろんインターネット広告の方が上。「従来型メディアの紙媒体全体の広告費」は約232億円で、これはインターネット広告費よりも下。つまり今回月も前回月に続き「インターネット広告の売上高が、大手4マスのうち、紙媒体全体の広告費を上回った」ことになる。

一方話題のインターネット広告だが、中期的には成長を続け、減少する月もその下げ幅は小規模にとどまっている。他方、その機動性の高さと使い勝手のよさもあり、金額面だけを追い続けると、浮き沈みが大きい。2011年以降は3月と12月に大きく伸びる動きがパターン化しているが、これは【ネットショッピング動向】でも精査の通り、この時期、つまり年末と年度末にインターネット経由で商品が多く売れる時期のため、それを見込んでインターネット広告への資金投入が活性化した結果と考えられる。バレンタインデーが近づくとチョコレート関連の新商品が続々登場したり、広告をよく見かけるのと構造は同じである。

↑ インターネット広告費(億円)
↑ インターネット広告費(億円)

2011年以降は明確な形で、3月と12月に突出した額が投入されていることが確認できる。ただしそれ以外の月でも多分にぶれがあるものの、おおよそ増加していることに違いはなく、中期的には成長を示しているのが分かる。2020年春過ぎからは新型コロナウイルスの影響により前年同月比でマイナスが出続けていたが、その難局からの急速な回復ぶりも見て取れる。ただし、2022年春あたりから成長が鈍化、さらには横ばいにと転じたようにも見られる。やはりロシアによるウクライナへの侵略戦争をきっかけにした物価高の影響だろうか。

なおテレビ同様に金額面で突出している「その他」部門は、多様なスタイルの広告が織り交ぜた形となっており、技術進歩に伴い部門分けが難しくなった類の事案が次々と組み込まれ、膨張している感が強い。同じ部門ではあるはずなのだが、それこそ1年の間に構成内容が大きく膨張している可能性は否定できない。(電通・)博報堂の動向を追った広告費関連の記事でも似たような状況が生じており、現状を把握するために用意された区分としては、前年同月比で状況精査をする際の弊害になりつつある(内部構成要素が不確かでは、状況の判断が難しくなる)。新たな部門の追加が求められよう。

次のグラフは今件記事で対象の5部門、そして広告費総計(5部門以外の一般広告も含むことに注意。上記の通り額面が大きな部門もあるため、4マスとインターネットを合わせた動きとは異なる場合もある)について、公開されているデータを基にした中期的推移を示したもの。今調査で「インターネット広告」の金額が公開されはじめたのは2007年1月以降なので、それ以降に限定した流れを反映させている。

↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)
↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)

雑誌と新聞の折れ線がグラフ中では「0%」よりも下側に位置する機会が多い。これは金額が継続的に減っていることを意味する。前年同月と比べてマイナスの値が続けば、金額は漸減していくのは道理ではある。そして効果が上がらない、広告力(世間一般に働きかけられる影響力。メディア力)の無いメディアに広告費を継続して大量投入することは、少なくとも広告の直接対価によるものとしては想定しがたいので、雑誌・新聞の広告力が漸減していると広告主からは判断されていると見なせる。

そして雑誌・新聞ともに紙媒体であることから、デジタル系メディアの浸透に伴い、割りを食った形となっていることは容易に想像できる。ただし紙メディアの一部は、その内容をデジタルに代えてインターネット広告を掲載する媒体の後押しをしている(新聞社によるウェブ上の無料記事展開、有料電子新聞が好例。雑誌も続々紙媒体版との電子版同時発売スタイルに足を踏み入れている)。単純に紙媒体が衰退しつつあるのも一面だが、その上に載るコンテンツの、アナログからデジタルへのシフトが進んでいる現状を表しているとも読み取れる。そしてそのシフト具合は、それぞれ単独の広告費の挙動のみでは見極めが難しい。少なくとも「紙媒体のメディア力の低下」=「紙媒体にも掲載されているコンテンツの衰退」ではない。

昨今の動向を見返すと、やや起伏は大きいものの、インターネット広告が確実に上昇基調(プラス領域)の中にあり、他の媒体とのかい離が生じていたこと、テレビがプラスマイナスゼロ付近でもみ合いをしていたことが分かる。ラジオも似たような動きだったが、2017年初頭あたりから失速したようだ。また上記でも期間の切り抜きの形でグラフ化したが、2015年に入ってから4マスの軟調さが際立ち、現在に至るまで紙媒体では継続しているのも気になる(それ故に2017年10月の新聞の選挙特需によるプラス化はひときわ目立つ形となっている)。2014年同月からの反動でもなく、またかつて電通や博報堂の売上でも似たような現象が起きていたことから、広告市場における何らかの動きが生じている可能性は否定できまい。

他方、インターネット広告も2017年以降伸び率がやや頭打ち、むしろ低下を示していた。特に2019年10月以降は低迷感が否めなかった。消費税率引き上げ、そして新型コロナウイルスの流行によるものだろう。そして前年同月比で見る限りでは、新型コロナウイルス流行による広告費の減少ぶりは、リーマンショックのそれに等しい、むしろ下落期間が短い分だけ急降下な動きであることが確認できる。雑誌に限ればリーマンショック以上の下げ幅。そしてインターネット広告もともに大きく落ちていただけに、全体としてもより大きな下落といえる。

2020年夏ぐらいからの持ち直しで早期にプラス圏に転じ、さらに新型コロナウイルス流行前の水準に戻り、その上勢いよく成長しているようにすら見えるインターネット広告が救いではある。4マスも大きな上昇を見せていたが、これは前年同月の大幅減からの反動でしかないため、失速してしまっている。中でも昨今では再び新聞が大きな下落を示しているのが確認できる。

上記でも触れたが、昨今ではインターネット広告において、2022年春あたりから成長が鈍化、さらには横ばいにと転じたようにも見られる。やはりロシアによるウクライナへの侵略戦争をきっかけにした物価高の影響だろうか。まだかろうじてプラス圏を維持している月が多いように見えるのが幸いではあるのだが。

何はともあれ新型コロナウイルスの流行、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争が片付かないとお手上げ状態なのが実情には違いない。


↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである



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