米国の保護主義的政策への不安強まる。人手不足やコスト上昇への懸念継続…2018年3月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き下落

2018/04/09 16:17

内閣府は2018年4月9日付で2018年3月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは先回月比で上昇し48.9を計上し、基準値の50.0を割り込む形となった。先行き判断DIは先回月比で下落して49.6となり、基準値の50を割り込む形に。結果として、現状上昇・先行き下落の傾向となり、基調判断は「緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、人手不足、コストの上昇、海外情勢等に対する懸念もある一方、引き続き受注、設備投資等への期待がみられる」と示された。なお2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【平成30年2月調査(平成30年4月9日公表):景気ウォッチャー調査】)。

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現状は上昇、先行きは下落


調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。

2018年3月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。

・現状判断DIは前回月比プラス0.3ポイントの48.9。
 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは51.7。
 →詳細項目は「飲食関連」「非製造業」「雇用関連」が下落。「非製造業」のマイナス0.9ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは先回月比でマイナス1.8ポイントの49.6。
 →原数値では「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」「ややよくなる」が減少。「よくなる」が変わらず。原数値DIは50.1。
 →詳細項目では全項目で下落。最大の下げ幅は「小売関連」「飲食関連」のマイナス1.9ポイント。基準値の50.0を超えている項目は「小売関連」「製造業」以外。

2014年4月の消費税率引き上げの際に発生した、同年3月までの駆け込み需要の反動、そして税率上昇に伴う消費マインドの直接的・表面上の低下は同年5月頃から鎮静化の動きを示し、同年7月までにはほぼ収束している。

2014年秋以降は原油価格の大幅な下落に伴い、ガソリンや灯油価格も下落が生じ、直接自動車を利用する際のガソリン代の軽減に加え、輸送コストなどのコスト安がもたらされたことで、景況感を支え、立て直す形となった。また円安に伴い海外からの観光客が増加し、これが国内需要を喚起させる一因になっている。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念は小さくない。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、そろそろ消費動向に影響を与えてきそうではある。

なお冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が成されている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを生成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)推移
↑ 景気の現状判断DI(全体)推移

↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移
↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復している。

現状は上昇だが先行きは下落


それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(-2018年3月)
↑ 景気の現状判断DI(-2018年3月)

消費税率(2014年4月)改定からはすでに4年が経過したが、それによる消費者心理の深層部分におけるプレッシャーは継続中(税率がそのまま維持されていることに加え、消費者にとって日々の生活において欠かせない買い物のたびに意識する機会があるのだから当然ではある)。さらに食料品をはじめとする物価上昇を起因とした消費心理の減退が上乗せされ、その上社会保険料の重圧による可処分所得の低迷により、景況感は足かせ状態が続いている。

2015年春先以降の一時的な原油価格の上昇に伴いガソリン代は少しずつ値を上乗せしていたが、その後は緩やかに失速し、ガソリン価格もそれに従う形で2014年秋以降に落ち込んだ価格水準にまで再び下落。直接的な景況感の観点ではプラスの要素として継続(企業の収益構造上の話としてはまた別)。さらに円安を受けて海外からの観光客の流入が増加し、これが消費を後押しする形となり、特に小売やサービス部門で大きくプラスの影響を受けていた。

ところが2015年夏以降中国の景気後退、厳密には経済内情が外から見た状況よりも不安定要素を多く抱えていたことが株価の大幅下落、加えてそれへの当局の対応策などから暴露される形となり、世界的なリスク資産からの逃避や景況感の悪化の動きが生じ、その波が日本にも到来した感は強い。また債務危機の最大の山場をこえたと思われた欧州方面では、中東地域からの大量の移民・難民の流入、それを大きな要因とする中東地域における戦闘の激化もまた、世界市場の不安定要素として持ち上がり、日本国内の景況感にも不安要素としてのしかかる形となっている。

その上、原油価格の低迷感が続くことで、関連企業や原油輸出を大きな糧としている諸国の経済的不安定感が強まり、金融市場にも影を落とし、相場低迷に拍車をかけている。為替の変動と原油価格の動向が、日本の株式市場、さらには景況感を左右する主要因となっているほど。そして産油国の生産調整に関わる合意を受けて原油価格は上昇し、1バレルあたりの価格が50ドル強を推移するようになり、これまでの30ドルから50ドルでのボックス圏での動きと比べると随分と底上げされた形に。これを受け、ガソリンなどの価格も上昇の動きを示し、輸送分野をはじめと各方面へのコスト面の影響が懸念されていた。

最近では石油産出国の協調減産の動きを受け、さらに中東情勢の緊迫化もあり、原油価格は少しずつ上昇を示していた。原油価格の上昇にあわせて活動が活発化し市場の調整役・頭を押さえる役割を果たしている米国内のシェールオイルの採掘による生産量の増加も、影響は限定的。結果として日本国内のガソリンや灯油価格も上昇の動きの中にある。米国内のシェールオイルの生産量がさらに増加を続け、1970年以来最大の量を記録したとのEIAの報を受けて原油価格は一時的に頭打ち、さらには下落の動きを示したが、同国の景況感の堅調さから生産量増加分も打ち消しになるのではとの思惑が強まり、再び上昇の動きに転じている。

今回月の現状判断DIは総計で前回月から0.3ポイントのプラス、詳細項目では「飲食関連」「非製造業」以外で上昇。もっとも上げ幅の上限は0.7ポイント、下げ幅の上限は1.1ポイントでしか無く、小幅な動きに留まっている。

景気の先行き判断DIはすべての項目で下げ。下げ幅は最大で「小売関連」「飲食関連」の1.9ポイント。

↑ 景気の先行き判断DI(-2018年3月)
↑ 景気の先行き判断DI(-2018年3月)

前回月ではすべての項目で基準値を超えていたが、今回月では詳細項目で「小売関連」「製造業」が割り込んでしまっている。

商品価格の値上げへの懸念と米国の保護主義的動きへの警戒


発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状
・天候がすっかり春めいている。需要期の真っ最中でもあるため、新規の来客数も例年同様に好調な状態である(乗用車販売店)。
・来月よりデスティネーションキャンペーンがスタートする。地元の受入環境も盛り上がり始めており、メディアでの露出も増えてきている(旅行代理店)。
・例年3月に比べて暖かい日が続いたため春物商材の動きがよく、春先には動きの鈍い紳
士衣料も好調である(百貨店)。
・生鮮食料品の動きはよくなってきたが、それ以外の食料品関係に値上げがあったため、動きが悪い(スーパー)。

■先行き
・賃上げにより、ある程度消費回復を見込むが、競争環境の厳しさは続く(スーパー)。
・5月以降の予約状況が非常に悪く、夏休みに入るまでの期間の売上が心配である。また、4月以降にビールや食品の値上げがあり、収益悪化を懸念している(観光型旅館)。
・米国の通商政策などにより、株価が下がることが予想され、富裕層の購買意欲が低迷する(百貨店)。

前回月では天候不順によるネガティブな感想が多々見られたが、今回月では季節感を覚えさせる好天候に恵まれ、消費が後押しされた様子が見受けられる。年度替わりに商品の値上げが生じることは毎年の話ではあるが、消費者にとってはマイナス要因と受け入れられやすい。他方、商品の値上げに伴い、あるいは原因としての賃上げで消費回復を見込むとのコメントもあり、物事の善し悪しは一面だけでは見きわめきれない実情を感じさせる。

米中間の貿易摩擦の過熱化、米国の保護主義的な動きは株価の下落を引き起こし、結果として消費者の購買意欲を足止めさせるとの懸念も大きいようだ。

企業関連の景況感では米中貿易摩擦に関する懸念が多々見受けられる。

■現状
・ほぼ横ばいで推移していた製品の販売価格が、若干の上昇傾向をみせている(電気機械器具製造業)。
・為替は円高方向に転換し、株価は国内、海外ともに頭打ちとなっており、投資家の含み益は一時に比べて減っている。個人投資家の投資マインドが、やや低くなってきている(金融業)。

■先行き
・米国の保護主義的な動きにより、円高が進行したり、株価の下落が続くと、ビジネスにも影響が出てくる(電気機械器具製造業)。
・見積依頼案件が減少してきており、この先受注量も減少する見込みである(建設業)。

原油価格は高止まり状態にあるため言及は見受けられない。米中間の貿易摩擦・米国の保護主義的政策に伴い直接的にやり取りの上で問題が生じるというよりは、それに伴い円高の進行や株価の低迷が生じ、それによる景況感の悪化が悪影響を及ぼすとの懸念が大きい。今回月で先行き指数が大きく下がった原因でもある。

雇用関連では人手不足に関わる懸念が見受けられる。

■現状
・零細企業の求人が増加傾向にあるものの、応募者が少なく充足できない状況が続いている(民間職業紹介機関)。

■先行き
・有期雇用契約の求人には求職者の関心が少ない(人材派遣会社)。

雇用市場が完全な売り手(優位)市場(就職側の有利市場)である現状では、企業としては現状の人手をつなぎ止め、新規を呼び寄せるための環境改善を行わねばならない状況にある。そのような状況下においては、例えば派遣よりは正規をとの考えが企業・就職希望者双方に及ぶため、派遣登録者が少なくなるのは致し方ない。そのような場面で相変わらず派遣に頼る企業の姿勢は、状況協判断としてはどうなのだろうか(職種として仕方が無い、むしろ好ましいケースもあるが)。派遣業者が人材不足に陥る状況は、雇用市場全体としては悪い話とは言い切れない感もある。ましてや有期雇用契約の求人に対する求職者の関心の少なさは当然の話のようにも思えるのだが。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を見渡すと、「人手不足」の文言を多数見受けることができる(現状29件、先行き48件、合わせて77件)。大企業に人材を取られるので自社のような中小企業は人材不足を解消できない、今の若者は「寄らば大樹の陰」であるという嘆きのような感想も。ただ今回月のコメントの中には、単に人手不足への不満だけで無く、景況感の上向きの表れでは無いかとする解釈を持つところや、人手不足のために賃上げが上手くいっている、さらには企業の人手不足感を積極的に商戦に活用するといった動きも見られる。人手の充足ができたので今後の飛躍が期待できるとの言及もある。

「働き方改革などによる社員への残業規制などにより、売上・利益確保などで伸び悩む企業が多い」とする、これまでの状況がいかに就業側に大きな負担があったのかを認識できる声もある。人手不足で受注できない、売上が伸びないとの意見が少なく無いが、果たしてどこまで現状に対応する姿勢を示しているのか、その点までは今調査のコメントから確認できないのは残念ではある。種も蒔かずに育てもせず、いざとなったら果実が欲しいと騒ぐのは、あまりにもむしがよい話ではある。ましてや人手不足の状況では育てられていなかったのは果実では無く、人である。



多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。

昨今では可処分所得を削り取る大きな要素である社会保険料の軽減を果たすための、社会保障の抜本的な見直し、以前実施されていた定率減税の復活など、打てる手立てを打ち、消費を底上げし、世の中に循環するお金の量を継続的に増加させる必要がある。少しずつの後押しでは人の心境はすぐに慣れ、当たり前のものと認識してしまうため、それだけに限らず、同時に大きな喝を与えるような策を定期的に打ち出す方が効果は高い。雑誌ならば売り上げを伸ばすため、人気作品を何本も連載するとともに、目を引く、話題を集める大作を定期的に掲載するようなもの。

世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。

もっとも昨今では直接影響のある半島情勢が緊迫化している。また米国の貿易政策に多くの企業が直接、間接的に懸念を持っている。双方とも景況感、消費にはマイナスに作用するだけに始末が悪い。

数か月先のことでは無く、数年、数十年先を見越した、長期にわたる展望が期待できる政策、例えば上記で挙げた社会保障の抜本的な見直しに加え、社会リソースの若年層に対する重点配置、現状のあまりにも少ない配分比率の変更といった、抜本的な転換のかじ取りが求められよう。

昨今問題視されている、そして報道では得てして否定的に取り上げられている人手不足にしても、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題ではある。現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは状況が異なることを認識すべきではある。


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