人の流れの活性化への期待と物価高への懸念と…2023年4月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇
2023/05/11 14:47


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現状は上昇、先行きも上昇
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2023年4月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「ややよくなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」が減少。原数値DIは55.7。
→詳細項目は「飲食関連」「製造業」以外の項目が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外すべて。
・先行き判断DIは前回月比でプラス1.6ポイントの55.7。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは55.2。
→詳細項目は「飲食関連」「住宅関連」「製造業」以外が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外の全項目。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年4月では人の動きの回復ぶりを反映する形で、前月比で上昇することとなった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2023年4月では現状判断同様に物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安はあるものの、行動規制の解除などで今後現状以上に人の動きが回復しそうな雰囲気に景況感が後押しされている。実際、人の流れが回復してきたとの声も多々聞こえている。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2023年4月)
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張り、大きな下落。今回月の4月は前回月から続く形で、年始までの下落から持ち直しの動きを示している。もっとも天井感を覚える上昇であることは否定できない。なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外すべて。
続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2023年4月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外すべて。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っているが、新型コロナウイルスの変異株の猛威に対する不安はピークを過ぎており、各種規制も解除されており、人の流れの活性化への期待があることから、上昇している。
人の流れの回復と物価高と
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・物価の上昇が続くなかでも、インバウンドは増加する一方であり、国内需要も高単価、高稼働での推移となっている。宿泊業では消費が増えていることを実感している(都市型ホテル)。
・3か月前と比較すると徐々に売上がよくなっている。暖かくなると外出が多くなり、おしゃれするようになる。そのため、店が忙しい状況になっている。客のマインドが明るくなっており、景気回復傾向である(美容室)。
・来客数が増加したことで飲料や菓子の動きがよくなっているが、弁当などの主食、デザートなどは値上げの影響もあって、販売量がやや低調に推移している(コンビニ)。
・物価高により、必要品以外の電化製品は買わない傾向がみられる(家電量販店)。
■先行き
・ゴールデンウィーク後の経過にもよるが、夏季のイベント等の実施も早々に決まっていて、人流が後退する要因は少ない(一般レストラン[居酒屋])。
・コロナ禍における行動制限が解除され、今年は各地域の花火大会の開催などの行事により、着物事業においては浴衣需要が見込まれる。また、インバウンド需要も見込める(衣料品専門店)。
・原材料費の値上げに歯止めが掛からない状況が当分続く。利益確保を優先するか、顧客確保のため企業努力によって現状維持で販売していくかとても難しい状況である。当面景気は変わらない(一般レストラン)。
・現在の旅行需要増加による反動減が少なからず生じるとみられる。全国旅行支援など、国や都道府県が実施している各種施策の終了も今後の旅行需要減少につながる要因の1つとなる(旅行代理店)。
人の流れの増加実情や期待によるポジティブな意見もあるが、物価高を受けた消費者の買い渋りやビジネスの困難さの話も見受けられる。また新型コロナウイルスの流行に伴う行動規制解除とともに公的施策が終了することで、ビジネスが難しくなるとの意見もある。
企業動向でも物価高への影響が見受けられる。
・自動車メーカーにおける部品調達不足も徐々に解消し、増産体制が整ってきている(輸送用機械器具製造業)。
・受注量が大きく減少している。注文住宅市場は約10%程度減少し、ここに来て分譲住宅の販売の鈍化も加わり、各社着工の抑制を行っている状態である。今後の回復に期待する(木材木製品製造業)。
■先行き
・今後も、新型コロナウイルス感染症に関する制限の解除や国内観光客の増加で引き続き観光土産、行楽客の食べ物需要が増加するとみられる(食料品製造業)。
・受注量は堅調だが、光熱費の更なる上昇が予想されるため、利益の確保に苦労するとみている(金属製品製造業)。
部品調達の解消の動きや人の流れの回復で需要が増加するとの喜ばしい話もあるが、光熱費などの物価高で経営的に厳しい状態は続くとの意見も見受けられる。また、住宅業界にかげりの動きがあることは注目に値する。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・募集側が提示する年収の範囲と求職者の希望する年収が一致しなかった場合、上限年収を引き上げても内定を出すケースが徐々に増え始めている(民間職業紹介機関)。
■先行き
・新型コロナウイルス感染症が5類に移行することで、観光関連は動きが出る。一方、製造業では半導体不足や物価高騰などの影響もあるので、全体としては変わらない(職業安定所)。
雇用情勢は求職者数不足が深刻なようで、今まではあまり見られなかった「上限年収を引き上げてでも内定を出す」との文言が確認できる。他方、製造業における半導体不足や物価高の影響は、雇用関連の観点でも大きいようだ。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは生活様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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