全社がプラス…牛丼御三家売上:2024年2月分(最新)

2024/03/05 14:22

このエントリーをはてなブックマークに追加
2024-0305牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2024年3月5日に、吉野家における2024年2月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス8.7%となった。これは前回月から続く形でのプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年1月における売上前年同月比はプラス18.0%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス15.0%との値が発表された。今回月は売上高前年同月比では全社がプラスを示す形となった(【吉野家月次発表ページ】)。

スポンサードリンク


前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項がない限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前年同月比)(2024年2月)
↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前年同月比)(2024年2月)

このグラフで概況をまとめた上で、まずは吉野家の状況の確認を行うことにする。前年同月(2023年2月分)のデータを基に営業成績を比較すると、一年前の前年同月比の客数はプラス2.1%、客単価はプラス5.9%、売上高はプラス8.1%。よって今回月では客数、客単価、売上高すべてでマイナスへの補正がかかることになる。

今回月においては特筆すべきキャンペーンやメニューの追加変更の動きはなかった。結果として客数はプラス3.3%、客単価はプラス5.1%となり、売上高はプラス8.7%を示した。

昨今の動向を視点を変えて眺めると、興味深い結果も導き出せる。昨今では吉野家に限らず各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が多分に生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年にわたった変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすればよい。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると8.4%のプラスとなる。松屋なら17.1%のプラス。

↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前々年同月比)(2024年2月)
↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前々年同月比)(2024年2月)

2年越しに見れば吉野家の今回月の営業成績は、客数は良好、客単価と売上高はともに好調と表現できる。

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、3社が主力商品の値上げによって客単価の引き上げを行い、客数の減少を補い(あるいは客数減少を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上高を維持しているようすが把握できる。2020年3月以降は新型コロナウイルスの流行という特殊要因で、これらの動きから外れる結果となってしまっているが。いやむしろ、客数の大幅な減少が生じてしまったことから、客単価で売上を調整しようという動きの観点では戦略的な方向性の加速化(をせざるを得ない状況に追いやられた結果)とも表現できる。

続いて松屋。今件記事、あるいは店舗数などを精査する連動記事などでも触れている通り、松屋が運用するとんかつ系の店舗松のや・松乃家・チキン亭の専用公式サイトを2016年7月末にオープンして本腰の入れ具合を改めてアピールする一方で(今記事における松屋の既存店のデータに関しては、2008年4月以降はとんかつ事業、鮨事業、その他業態の既存店は除いてある)、今回月では2024年2月20日から「シャリアピンソースハンバーグ定食」の販売を開始している。また2月22日からは牛めし弁当まとめ買いセットに「ネギたっぷり旨辛ネギたま牛めし」「鬼おろしポン酢牛めし」 の2種を追加、2月29日には1日限定で肉の日企画として定番の焼肉定食のWサイズを通常価格の200円引きにしている。

結果として2024年2月の業績は客数がプラス9.1%、客単価はプラス8.1%となり、売上はプラス18.0%に。2年前同月比の年換算では売上はプラス17.1%となり、プラスに。昨今では新型コロナウイルスの流行による外出自粛の影響を受けているが、プラスを維持することができた。松屋は【松屋の業績がなかなか回復しない理由】で解説の通り、店舗が首都圏や繁華街に多く配されており、苦戦を強いられているが、それでもよい業績を上げることができた。

最後にすき家。2024年2月1日からは「お好み牛玉丼」、2月14日からは「海鮮ちゃんぽんうどん」「ずわい蟹汁」、2月27日からは「海鮮ちらし丼」の販売を開始している。また2月1日からは「すき家×名探偵コナン」のキャンペーンを実施している。さらに2月1日から「Sukipass」の販売を開始している。結果として客数はプラス10.1%、客単価はプラス4.5%となり、売上はプラス15.0%を示した。一方2年前同月比では売上高はプラス26.3%とプラスを示している。

↑ 牛丼御三家売上高(既存店、前年同月比)
↑ 牛丼御三家売上高(既存店、前年同月比)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外はおおよそ横ばいに推移していた。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。松屋とすき家は売上でおおよそプラスを維持しており、調整終了感を覚えさせていた。

吉野家に限ると(鍋以外でも)単月で大きくぶれる傾向があり、全体的にもマイナスの領域にいる機会が多かった。2017年10月のように台風のようなイレギュラー的起因に加えて前年同月における特需の反動があり、目立つ形での大幅減が生じるようなパターンが少なくない。経営施策の上で安定感にやや欠けると解釈することもできる。それゆえに、2018年2月のプラス30%超え(ソフトバンクとのコラボ企画「SUPER FRIDAY」によるもの)がひときわ目立つのもまた吉野家らしいところではある。

もっとも2017年11月以降は(前年同月のマイナスからの反動も一因だが)売上高をプラスのままで維持し続けており、ようやく安定感が見えてきたかな、という感はあった。それゆえに2018年10月以降の客数と売上高のマイナスが継続したのは、意外さを覚えざるを得ない。2019年3月では売上・客数ともに、4月以降は客数こそマイナスの月もあるが売上はプラスと示しているのに加え、売上高の2年前同月比では2018年11月分以降、おおよそプラスを継続していたので、杞憂かもしれないが。

一方で2020年3月を起点月としてしばらくの間、新型コロナウイルスによる外出自粛の影響を大きく受け、客数と売上高が大きく減少する動きが生じていた。天災のようなものだから、仕方ないのではあるが。中でも店舗の立地関係から松屋の回復度合いが遅れていたが、2021年初頭を底値に、すこしずつ戻しを見せているようだ。すでにそれから1年を経過しており、単なるマイナスからの反動ではなく、確実なアップの動きにある。2022年夏ぐらいからは3社とも前年同月比でプラスを維持しており、しかもそのプラス幅は拡大傾向にある。好ましい状況にあると言える。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。ここ数年において何度か生じている小規模な跳ね方は、何らかのイベントによるもの。2015年10月の松屋とすき家は牛めし・牛丼の期間限定の値引き、2016年10月と2018年2月の吉野家の急上昇はソフトバンクとのタイアップ企画の成果によるもの。取得できている2006年1月分以降に限れば、客数の前年同月比が5割以上のプラスを示したのは2018年2月が初めて。

↑ 牛丼御三家客数(既存店、前年同月比)
↑ 牛丼御三家客数(既存店、前年同月比)

低迷していた客数が前年同月比でプラスに戻り始めたのは、松屋では2015年10月からとなっている。2017年秋以降は前年同月の反動からわずかなマイナスに転じているのが気になるところだが、これは2年前同月比の動向からも分かる通り、絶対数として安定期に入ったとの解釈もできる。あるいは単価を引き上げつつ売上高を維持する過程での調整時期なのか。それゆえに、2018年9月以降プラスがおおよそ続いているのは好ましい傾向ではあった。しかし新型コロナウイルスの流行移行、他社同様に、しかももっとも大きな規模で落ち込み、2021年に入ってから前年同月比計算の都合上として一時的にプラスに持ち直したあと、他社と異なり再び失速・マイナス化が加速し、憂慮すべき状況だった。2022年に入ってから持ち直しを示したのは幸いではある。

他方すき家は2016年においては上げ下げが続いており不安定感は否めなかったが、2017年に入ってからはプラス圏へと浮上の機会をうかがう動き。2018年後半以降はすっかりプラスでの安定感を見せている。新型コロナウイルスの流行でも3社中一番マイナス幅が小さく、2021年に入ってからの反動時期も終えて、再びプラスを維持し続けている。

吉野家は2016年2月からプラス圏に顔を見せ始めたが、2016年の後半以降は大きな上下を繰り返しており、2017年頭からはほぼマイナス圏に沈んだ。2018年初頭以降のプラス圏入りは前年同月の反動によるところが大きく、復調したか否かはもう少しようすを見極める必要がある。新型コロナウイルスの流行による影響は、松屋よりは少ないものの、すき家よりは大きい。2021年に入ってからのプラス化は、松屋やすき家よりは遅く、2022年夏あたりからは失速した感はある。その後に再び持ち直しの動きがあるのは幸いだが。

中期的な流れを見ると、単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果でも、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示して「いた」。客数だけを見ればゼロ以下の薄いオレンジ色の領域にある機会が多かったことから「低迷していた」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を併せみると、新たな側面、具体的には客数と客単価における新たなバランスへのシフトの動きも見えてくる。

松屋に関しては【松屋の省マンパワー化】【松屋フーズが堅調らしい】にある通り、2019年において運用スタイルをセルフサービス型にシフトし、これが好調な成績を収めたのこと。客のストレス減少や回転率の向上が、客数の増加につながっているのであれば、大いに注目すべき動きに違いない。あるいはこのセルフサービス型店舗の浸透が、松屋の「次なるステップ」だった可能性はある。結局のところお客が牛丼店に求めているものは何なのか、それを突き詰めた結果としての回答の一つがセルフサービス型の店舗なのかもしれない。ただ、券売機の使用方法の難儀さはかねてから問題視されており、早期の解消が望まれるところではある(【「使いにくい」と話題になった松屋の券売機 対面サービスこだわる吉野家が「タブレット」「新型店舗」に注力する背景】)。松屋側でも不評を受けて、2023年9月あたりから新しいUIによる新型の券売機の導入を始めたが、新型もあまり好評ではないようだ。

吉野家は全体的に客数の変動が大きく、客単価と客数のバランス調整に苦慮しているようだ。相次ぐ大型タイアップ企画に代表されるように、何とかリカバリーをしようと多彩なイベントを繰り出している感は強い。

サラ牛また昨今の新商品やサービス展開を見るに、牛丼にイメージしがちな安かろう・悪かろう的な非健康的印象を払拭し、健康的な食生活の中に牛丼を据えさせようとの意図も見受けられる。2017年9月からスタートした「晩ごはん」や、矢継ぎ早に提供している機能性表示食品などが好例。その施策が的を射たものとなるか否かは今後の業績次第。2020年1月から始まった大規模な定食へのテコ入れ・拡充策を見るに、牛丼だけの推進力に限界を感じ、牛丼以外のメニューに本腰を入れるつもりなのかもしれない。今後さらに増えるであろう利用客予備層となる中年から高齢層向けには、牛丼よりも定食の方がウケはよいだろう。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が果たせれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される(単純な人数減少以外に、客単価が高い方が客のマナーはよくなる傾向がある)。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界としてよく比較されるハンバーガーチェーン店では、かつて方向性の確定に苦慮していたマクドナルドが苦戦を強いられていた。最近では独自色の軸(具体的には定番メニューを廉価で提供するとともに、高単価で魅力的な期間限定メニューを相次ぎ投入する)を確立し、迷走を終え、自らの個性を磨きながら強い歩みを見せている。

すし松など店舗数動向においても、松屋では牛丼専門店はほぼ横ばいのまま、フライ系店舗を漸増させており、店舗業態の上でも多様化の方向性にあるようにみえる。あるいはフライ系店舗など牛丼以外の業態店舗への注力増加こそが、次なる施策なのかもしれない。また牛丼店舗におけるセルフサービス化も、割り切りによる業務の効率化の観点では、まさに「次なる施策」の一つに違いない。

Sukipassカードといえばすき家の「Sukipass」が大いに効果を発揮したようで、利益はまた別の話だが、少なくとも売上の点では堅調な値を示していることもあり、2021年6月時点で36回の販売を行った。他社も例えば松屋の割引定期券配布のように、同様の施策を探っている感はある。「お得感を所有させる」戦略は常連客の形成には手っ取り早い方法であり、それは同時に囲い込みをも意味するからだ。一方で2021年6月分の販売休止以降、不規則に「Sukipass」の販売が休止、再開を繰り返すようになったが、何か思惑があるのだろうか。ちなみに2023年1月1日から1月分の「Sukipass」の販売が開始された後、販売はされていなかったが、2023年5月1日から久々に販売が行われ、以降毎月頭の販売が行われている。

他方、2020年3月以降における新型コロナウイルスによる客数への大きな影響は、楽観的に見ても今年中は継続することが容易に想像される。有用な治療薬が開発され重篤化が容易に防げるようになり、ワクチンの普及で感染力を抑えられるような状況にならない限り、客数は戻らないだろう。単に密閉空間への忌避が生じているだけでなく、在宅勤務・リモートワークが急速に進んだことで就業者の需要が大きく落ち込んでいるが、その状況はしばらく続くことになる。

そして在宅勤務・リモートワーク化は、仮に新型コロナウイルスの流行が終わる・問題が解決するようになっても継続され、影響が続く可能性は高い。つまり社会環境そのものの変化が生じる可能性がある(いわゆる「新しい社会様式」である)。家庭向け需要喚起として持ち帰りの強化をしているが、元々足を運ぶ機会が無かった家庭にとっては、よほどの機会がない限り改めて購入を検討することはない(その観点では以前から中食需要を受け止めていた食品スーパーやコンビニ、一部洋食ファストフードには特需状態であり、それが常用化する可能性すら秘めている)。

2009年の春に発生した新型インフルエンザでも、WHOの世界的大流行の終結宣言が出されたのは2010年の8月だが、少なくとも吉野家では終結宣言が出される時期ぐらいまでは客数が軒並み前年同月比で1-2割減を示している。新型コロナウイルスに関しては相次ぐ変異株の猛威もあり、新型インフルエンザの時以上に延びているのが実情。

↑ 牛丼御三家客数(既存店、前年同月比)(2009年1月-2011年12月)
↑ 牛丼御三家客数(既存店、前年同月比)(2009年1月-2011年12月)

新型コロナウイルスの5類感染症移行後の動向を見るに、社会様式は少しずつ流行前のスタイルに戻ろうとしているものの、多分にそのままの状態が維持される感はある。牛丼チェーン店はもちろん外食産業全体において厳しい状況が続くに違いない。

そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争をきっかけとした世界的な資源高騰の動きは、商品価格の値上げを各社に強いるような状況となっている。いかに現状を耐えていくか、あるいはこのような状況でも売上をはじき出す仕組みの模索が問われることだろう。


↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである



■関連記事:
【「まだ牛丼屋で消耗してるの?」というけど、牛丼屋は消耗するどころかステキな場所だ】
【ロイヤルホストが全席禁煙化・9割近くの店舗で独立した喫煙ルーム設置】
【各社の店舗展開戦略が見えてくる…牛丼御三家の店舗数推移(最新)】
【牛すき鍋定食(すき家)試食(2016年2月)】
【「ひとり牛丼」5割強「ひとりカラオケ」1/4…大学生の「おひとりさま」ライフ】

スポンサードリンク


関連記事


このエントリーをはてなブックマークに追加
▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2024 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー|Twitter|FacebookPage|Mail|RSS