吉野家は前年比、前々年比共にマイナス…牛丼御三家売上:2016年12月分(最新)

2017/01/06 05:15

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2017年1月5日、吉野家における2016年12月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でマイナス1.1%となった。これは先月から転じる形で、2か月ぶりのマイナスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年12月における売上前年同月比はプラス4.5%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はプラス0.3%との値が発表された。今回月は吉野家のみが前年同月比でマイナスの売上を計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2016年12月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2016年12月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2015年12月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス9.1%。同社では【吉野家の牛丼、300円から380円へ値上げ・12月17日15時から】にある通り、2014年12月17日から主力商品の牛丼価格をはじめ各種商品価格の引き上げを実施しているため、これ以降は客数の減少と客単価の増加が直接的な影響要因として計上されている(単純計算では2015年12月頃まではこの影響が続くことになる)。結果として2015年12月は客数マイナス15.5%・客単価プラス9.1%、売上高マイナス7.9%と、客単価の上昇で客数の減退を吸収しきれず、売上をマイナスと成した状態となっている。今回月はこれらの値との比較となるため、客数はプラス、客単価はマイナスの反動による補正が加わる状況下での結果となる。

今回の吉野家の鍋はご当地鍋も併売今回月においては前回月に販売を開始した鍋膳のセールスの真っ盛り。今回は地域を区分した上で各地域のご当地鍋も併売するなど、一層の力を入れた展開ぶりを見せている。昨年の鍋膳はセールスが今一つの動きだったことから、今年はテコ入れをしたのだろう。さらに【吉野家の牛鍋膳で勝ち負けが出てきたみたい...「北海道豚味噌鍋膳」が販売地域拡大】にもある通り、12月18日からはそのご当地鍋に関して、人気が出た種類を他地域にも展開し、また新しいご当地鍋も一部地域で投入するなど、さらなるテコ入れを推し量っている。しかし結果としては客数はマイナス1.6%、客単価はプラス0.5%、売り上げはマイナス1.1%。客数・客単価共に、前年同月の反動が意味をなさず、勢いがついてしまっている感はある。

一方、視点を変えてみると興味深い結果も導き出せる。昨今では各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が多分に生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば松屋なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると2.9%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2016年12月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2016年12月営業成績(既存店)(前々年同月比)

吉野家における今回月の客数・売上高の増加は、2年越しに見てもマイナス。客単価の底上げ施策は進んでいるが、それ以上に客足が遠のき、売り上げが落ち込んでしまっているのが分かる。

前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、2度に渡る主力商品の相次ぐ値上げをして突出している吉野家だけでなく、3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる。ただし松屋はここ数か月、2年前同月比でも客数・客単価共にプラスを示しており、他社に一歩先んじて、次なるステップに向けた歩みを始めているようにも見受けられる。

続いて松屋。今件記事、あるいは店舗数などを精査する連動記事などでも触れている通り、松屋が運用するとんかつ系の店舗松のや・松乃家・チキン亭の専用公式サイトを2016年7月末にオープンして本腰の入れ具合を改めてアピールする一方で、今回月では12月6日から「鶏と白菜のクリームシチュー定食」、12月20日から「プルコギ定食」の販売を開始している。他に、豚汁の100円フェア(従来は180円)の実施、一部の定食においておかずを大盛りにした「ラージ定食」の選択肢を増やすなど、積極的なサービス向上の施策展開を続けている。

結果として12月の業績は、客単価が1.5%とプラスを確保、客数も2.6%とプラス、売上は4.5%のプラスと成し、堅調な結果を計上している。3社の中では客単価も客数も一番ぶれが小さく、一歩ずつ確実に業績を積み増ししていく、質実剛健的な同社の姿勢が見える形となっている。2年前同月比でも上記の通り、客数と客単価のバランスが良く取れた堅調さが印象的。

最後にすき家。特に新しいメニュー展開は無いものの、「黒毛和牛弁当」を食べて「金の丼」を当てるキャンペーンを展開している。結果として客単価はプラス2.7%と大幅に増加、その分、客数はマイナス2.3%と減らし、結果として売り上げはプラス0.3%を示した。2年前同月比のグラフを見れば客数は減少傾向だがその分を客単価が補っている。長い目で見ればトントン、客単価の調整には成功していると評することができる。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2016年12月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2016年12月)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)メインとなる牛丼・牛めしをはじめ各商品の価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年以上が経過しているため、消費税率改定による客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが(イベントによる減退が生じた場合、次年はそのイベントの影響が無くなっているため、特異的に減少した値との比較によって大きなプラスが生じ得る)、相変わらずマイナス値のままで低迷した状態が続いていた。

2015年10月に松屋とすき家で客数が大きく跳ねたのは、牛めし・牛丼の期間限定の値引きによるところが大きい。案の定、その影響が無くなった翌月の2015年11月では、客数はこれまでの動向同様に低迷する形に戻ってしまった(松屋の客数減退が小さめなのは、客単価の引上げ度合いが小さい結果)。また2016年10月の吉野家の急上昇はソフトバンクとのタイアップ企画の成果によるもの。長蛇の列が該当店でできたのは記憶に新しい。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2016年12月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2016年12月)

客数が前年同月比でプラスに戻り始めたのは、吉野家が2016年2月から、松屋が2015年10月からとなっている。他方すき家は2016年に入ってから1月に一度プラス化したものの、5月までは再び連続したマイナス、そしてようやく6月からはプラス圏での値動きとなった。ただし吉野家はぶれが大きく、他の2社と比べて傾向だった動きが生じにくい状態がこの1年半ほどの間続いている。

中期的な流れを見ると、単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果でも、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示して「いた」。客数だけを見ればゼロ以下の薄いオレンジ色の領域にある機会が多かったことから「低迷していた」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面、具体的には客数と客単価における新たなバランスへのシフトの動きも見えてくる。

そしてここ数か月の客数の堅調さ、売上の底上げは、しばらく続いていた客数と客単価におけるリバランスが終わりを見せてきたことを意味するのだろう。これもまた、2年前同月比の実情から十分理解できる動向ではある。ただし吉野家は客数の変動が大きいことからも分かる通り、客単価と客数のバランス調整に苦慮しているようで、10月のタイアップ企画や今回月のご当地鍋の差し替えに代表されるように、何とかリカバリーをしようと多種多彩なイベントを繰り出している感は強い。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が成されれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、方向性の確定に苦慮しているマクドナルドが苦戦を強いられる一方、モスバーガーやケンタッキー・フライド・チキンでは高単価・高品質をさらに前面に押し立てるだけでなく、独自ブランドをより個性豊かなものとして、売上を維持している。そのマクドナルドも最近になり、ようやく独自色の軸(具体的には定番メニューを廉価で提供すると共に、高単価で魅力的な期間限定メニューを相次ぎ投入するというもの)を確立し、迷走を終え、強い歩みを始めた。その成果が体現化されるように、月次営業報告でも良い数字が出始めている。

松屋やすき家、特に松屋に見られるリバランスが済んだ兆しを覚えさせるここ数か月の動向は、次なる施策を踏み出すタイミングであることを意味している。元々ある程度の呑み需要をカバーしていた松屋、そして呑み形態の実証実験が伝えられるすき家の動向を見るに、次なる施策は就業者を中心とした夕方以降の呑み需要への対応かもしれない。他方、真っ先に大規模な施策の実施とボトルキープアプリのように積極展開姿勢を示した吉野家が、バランス調整に苦慮し続けているのは皮肉な話ではある。


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