吉野家は客数が2割以上の増加…牛丼御三家売上:2016年10月分(最新)

2016/11/08 05:11

牛丼チェーン店「吉野家」などを運営する吉野家ホールディングスは2016年11月7日、吉野家における2016年10月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その内容によると既存店ベースでの売上高は、前年同月比でプラス15.1%となった。これは先月から転じる形で、3か月ぶりのプラスとなる。牛丼御三家と呼ばれる日本国内の主要牛丼チェーン店3社のうち吉野屋以外の企業の状況を確認すると、松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年10月における売上前年同月比はプラス4.0%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はマイナス4.7%との値が発表された。今回月はすき家のみ前年同月比でマイナスの売上を計上することとなった(【吉野家月次発表ページ】)。

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前年同月比、そして前々年同月比試算で各社現状を精査


牛丼御三家の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家2016年10月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2016年10月営業成績(既存店)(前年同月比)

このグラフで概況をまとめた上で、まず最初に吉野家の状況の確認を行うことにする。昨年同月(2015年10月分)の記事、データを基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はプラス15.5%。同社では【吉野家の牛丼、300円から380円へ値上げ・12月17日15時から】にある通り、2014年12月17日から主力商品の牛丼価格をはじめ各種商品価格の引き上げを実施しているため、これ以降は客数の減少と客単価の増加が直接的な影響要因として計上されている(単純計算では2015年12月頃まではこの影響が続くことになる)。結果として2015年10月は客数マイナス6.5%・客単価プラス15.5%、売上高プラス8.0%と、客単価の上昇で客数の減退を吸収し、売上をプラスと成した状態となっている。今回月はこれらの値との比較となるため、客数はプラス、客単価はマイナスの反動による補正が加わる状況下での結果となる。

今年の吉野家の鍋はご当地鍋も併売今回月においては【吉野家の鍋が今年も登場で、ラインアップが色々増えたよ】でも紹介の通り、毎年冬場ではお馴染みとなった鍋膳が今年も販売を開始。しかも今年は地域を区分した上で各地域の名物的な鍋も併売するなど、一層の力を入れた展開ぶりを見せている。昨年の鍋膳はセールスが今一つの動きだったことから、今年はテコ入れをしたのだろう。

また今回月ではソフトバンクとのタイアップキャンペーンを実施している。具体的には毎週金曜日にソフトバンクのスマートフォン利用者にクーポンメールが配信され、それを用いる事で牛丼並盛が無料になる、大盤振る舞い的なもの。各報道でも伝えられている通り、毎週金曜にはキャンペーン実施店舗で行列ができる形となった。

これらの補正や環境変化があった結果、客数は21.8%の増加となり、客単価は5.5%の減少を示した。売上高は大きくプラスを成し、3社中では最大のプラス幅を計上している。ソフトバンクのキャンペーンで提供された並盛が売り上げにどれ位影響したのか、その提供分は吉野家とソフトバンクのどちらが持つことになったのかまでは不明だが、少なくとも売上の観点ではこれだけの結果が示されている。当然、今回月の吉野家の動きはイレギュラーな動きには違いないのだが。

一方、視点を変えてみると興味深い結果も導き出せる。昨今では各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が多分に生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年に渡った変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすれば良い。例えば松屋なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると4.79%のプラスとなる。

↑ 牛丼御三家2016年10月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2016年10月営業成績(既存店)(前々年同月比)

吉野家における今回月の客数・売上高の増加は、2年越しに見ても大きな成果であることがうかがえる。とはいえイレギュラーな上昇による結果であり、中長期的な動向の精査には精度が低いのも事実。他方、

「前年同月比だけでなく、前々年同月比で見ても、2度に渡る主力商品の相次ぐ値上げをして突出している吉野家だけでなく、3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持している様子が把握できる」とは昨月まで繰り返された言及ではあったが、今回月では吉野家以外も客数・客単価共にプラスを計上している。松屋が客数重視、すき家が客単価重視の動きなのは興味深いところだが、それと共に3社とも方針のかじ取りの変更を成し、再び歩みを始めたようにも見受けられる。

続いて松屋。今件記事、あるいは店舗数などを精査する連動記事などでも触れている通り、松屋が運用するとんかつ系の店舗松のや・松乃家・チキン亭の専用公式サイトを7月末にオープンして本腰の入れ具合を改めてアピールする一方で、今回月では10月4日に「豚と茄子の辛味噌炒め定食」、10月18日に「豆腐キムチチゲ膳」、10月25日には「鶏のチリソース定食」の発売を開始している。他方、北海道の災害に伴い、生野菜に用いていたコーンを代替品に差し替えざるを得なくなるトラブルも生じているが、それ以外はおおむねいつもの通り、きらびやかさにはやや欠けるものの、確実性のある、充実した魅力を提供し続けている。

結果として10月の業績は、客単価が2.9%とプラスを確保、客数も1.2%とプラス、売上は4.0%のプラスと成し、堅調な結果を計上している。3社の中では客単価も客数も一番ぶれが小さく、一歩ずつ確実に業績を積み増ししていく、質実剛健的な同社の姿勢が見える形となっている。2年前同月比でも客数と客単価のバランスが良く取れているのが印象的。

最後にすき家。吉野家に先駆けること10月12日から、鍋定食シリーズとして「牛すき鍋定食」「キムチ牛すき鍋定食」「牛すき焼き丼」「牛すき皿定食」の展開を開始している。結果として客単価はプラス6.8%と大幅に増加、その分、客数はマイナス10.8%と大きく減らし、結果として売り上げは3社中唯一のマイナスを計上してしまった。ただし2年前同月比のグラフを見れば分かる通り、客数のマイナス値は前年同月(プラス13.1%)の反動によるところが大きい。長い目で見ればやや良好といったところか。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2016年10月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2016年10月)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外は大よそ横ばいに推移している。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。その分、今回月の吉野家におけるキャンペーンの成果が非常に目立つ形となっている。

客数の減少・客単価の増加は戦略転換によるものに違いなく


次に示すのは各社の客数動向。先の消費税率改定に伴い各社とも(規模、タイミングこそ違えど)メインとなる牛丼・牛めしをはじめ各商品の価格引き上げを実施しているが、それからすでに1年以上が経過しているため、消費税率改定による客数減退の影響は消え去り、むしろ前年同月比動向ならば反動で底上げ効果が生じてもおかしくないが(イベントによる減退が生じた場合、次年はそのイベントの影響が無くなっているため、特異的に減少した値との比較によって大きなプラスが生じ得る)、相変わらずマイナス値のままで低迷した状態が続いていた。2015年10月に松屋とすき家で客数が大きく跳ねたのは、牛めし・牛丼の期間限定の値引きによるところが大きい。案の定、その影響が無くなった翌月の2015年11月では、客数はこれまでの動向同様に低迷する形に戻ってしまった(松屋の客数減退が小さめなのは、客単価の引上げ度合いが小さい結果)。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2016年10月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2016年10月)

客数が前年同月比でプラスに戻り始めたのは、吉野家が2016年2月から(3月には一時凹んだが)、松屋が2015年10月からとなっている。他方すき家は2016年に入ってから1月に一度プラス化したものの、5月までは再び連続したマイナス、そしてようやく6月からはプラス圏での値動きとなった。

今回月はすき家の客数が大きく減退しているが、2年前同月比の数字を見れば分かる通り、これは前年同月の反動によるもの。上で記した売上高が最近3社とも堅調なのは、多分にこの客数のプラス化が貢献しており、まさに客足の増加で3社とも足をそろえる形での売上高プラス圏の動きを見せている次第。

他方、中期的な流れを見ると、単純な前年同月比だけでなく、2年前同月比の試算結果でも、各社とも規模、結果に違いがあれど、客単価増・客数減となる方向性を示して「いた」。客数だけを見ればゼロ以下の薄いオレンジ色の領域にある機会が多かったことから「低迷していた」との判断に至るが、売上は横ばい、客単価は上昇との情報を合わせると、新たな側面、具体的には客数と客単価における新たなバランスへのシフトの動きも見えてくる。

そしてここ数か月の客数の堅調さ、売上の底上げは、しばらく続いていた客数と客単価におけるリバランスが終わりを見せてきたことを意味するのだろう。これもまた、2年前同月比の実情から十分理解できる動向ではある(吉野家は今回月においては特異な例のため、もう少し様子を見定める必要があるが)。

卵が先か鶏が先かの問題に近いものだが、震災以降顕著化している消費者の消費性向の変化に伴う、廉価スタイルの外食産業全般からの客足の遠のきに対し、各社とも価格面で一歩上のステージに上がることにより、時代の変化に対応しようとしている。これまで同様に廉価外食店の様式では客数が減るばかりで、客単価がそのまま維持されたのでは、当然厳しさを増してくる。ならば客数の減少が一時的に加速化しようとも、営業様式の格付けをアップし、売上の点で帳尻を合わせようとするものである。逆に品質の高いブランド化が成されれば、新規層の開拓につながる可能性もある。

客単価の引き上げで客数の減りをカバーして売上、利益を維持する場合、これまでの「薄利多売」と比べて客数が減った時の売上の減退リスクは大きくなる(同じ人数が減った時の、売上の減少額が大きくなる)。しかし店員の接客時における負担は軽減される。間接的にサービスの品質向上も期待できる。商品在庫のリスクや物流コストも圧縮されうる。

類似業界として良く比較されるハンバーガーチェーン店では、方向性の確定に苦慮しているマクドナルドが苦戦を強いられる一方、モスバーガーやケンタッキー・フライド・チキンでは高単価・高品質をさらに前面に押し立てるだけでなく、独自ブランドをより個性豊かなものとして、売上を維持している。そのマクドナルドも最近になり、ようやく独自色の軸(具体的には定番メニューを廉価で提供すると共に、高単価で魅力的な期間限定メニューを相次ぎ投入するというもの)を確立し、迷走を終え、強い歩みを始めたようにも見える。実際、月次営業報告でも良い数字が出始めている。

吉野家はやや不規則な動きにあるが、リバランスが済んだ兆しを覚えさせるここ数か月の動向は、各社が次なる施策を踏み出すタイミングであることを意味している。元々ある程度の呑み需要をカバーしていた松屋、大規模な施策の実施とボトルキープアプリのように積極展開姿勢を示す吉野家、そして呑み形態の実証実験が伝えられるすき家の動向を見るに、次なる施策は就業者を中心とした夕方以降の呑み需要への対応にあるのかもしれない。


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