企画の良し悪しが評価を分かつ?…ビジネス・マネー系雑誌部数動向(2017年4月-6月)

2017/08/22 05:07

インターネットに代表される電子情報技術の加速的進歩、機動力に長けたスマートフォンの普及浸透で、ますます時間との戦いが熱いものとなりつつあるビジネス、金融業界。その分野の情報をつかさどる専門誌では、正しさはもちろんだがスピーディな情報展開への需要が天井知らずのものとなる。デジタルとの比較で生じる時間的遅れは紙媒体の致命的な弱点となり、その弱みをくつがえすほどの長所が今の専門誌では求められている。このような状況下の「ビジネス・マネー系専門誌」について、社団法人日本雑誌協会が2017年8月18日付で最新データへの更新発表を行った、第三者による公正な部数動向を記した指標「印刷証明付き部数」から、実情を確認していくことにする。

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「プレジデント」一強時代は変わらず


データの取得場所に関する解説、「印刷証明付部数」など各種用語の説明、過去の同一テーマのバックナンバー記事、諸般注意事項は一連の記事の集約ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で解説している。必要な場合はそちらから確認のこと。

最初に精査するのは、直近分にあたる2017年の4-6月期とその前四半期に該当する、2017年1-3月期における印刷実績。

↑ 2017年1-3月期と2017年4-6月期のビジネス・金融・マネー誌の印刷実績
↑ 2017年1-3月期と2017年4-6月期のビジネス・金融・マネー誌の印刷実績

「クーリエ・ジャポン」の休刊後、今カテゴリの雑誌は全部で6誌の状態が続いている。そして不定期刊化し、出入りが激しい「¥en SPA!」は今回顔を見せている(2017年6月15日発売)。何か新規雑誌を追加したいところではあるが、該当ジャンルで合致しそうな雑誌は他にないのが残念。

対象誌の中では「PRESIDENT(プレジデント)」が前四半期から継続する形でトップ。部数上で第2位となる「週刊ダイヤモンド」とは2倍強もの差をつけている。その「PRESIDENT」の部数だが、2013年後半から上昇傾向が始まり、2015年第1四半期をピークとしたあとは少し値を落として踊り場状態となっていた。その後、2016年に入ってから大きく下落し、2013年以降の上昇分をほとんど吐き出す形となっている。2013年までの沈滞期と比べれば5万分ほどの上乗せをした形で、安定期に突入した雰囲気だった。そして半年前に大きな伸びを見せ、直近でもいくぶん値を落とした程度。高値安定的な状況になりつつある。

↑ PRESIDENT印刷証明付き部数(2017年4-6月期まで)
↑ PRESIDENT印刷証明付き部数(2017年4-6月期まで)

同誌は昨今の動向を見れば分かる通り、昨今ではヒット企画の号で大きく背伸びをし、その余韻を楽しみながら次のヒットの創生を目指すスタイルのように見える。良いパターンを見つけたのだろうか。

3誌がプラス、3誌がマイナス…前四半期比較


次に示すのは各誌における、四半期間の印刷証明部数の変移。前四半期の値からどれほどの変化をしたかを算出している。季節による需要動向の変化を無視した値のため、各雑誌の実情とのぶれがあるものの、手身近に各雑誌の状態を知るのには適している。なお「¥en SPA!」は前四半期には刊行されなかったため、グラフ上にはその姿は無い。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・金融・マネー誌)(2017年4-6月、前四半期期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・金融・マネー誌)(2017年4-6月、前四半期期比)

今四半期ではプラス領域は3誌、マイナス領域は3誌。誤差領域(5%内の振れ幅)を超えたのは「THE21」のプラス8.1%。

「THE 21」は「ビジュアルな視覚に訴える確かな情報誌」なるキャッチコピーを掲げ、特集を多様な切り口からの読み物を掲載している。この切り口は方向性や方法論の違いこそあれ、どのビジネス誌でも行っている手法だが、「THE 21」ではツボをつくテーマを分かりやすい表現でアピールしているのがポイント。該当期の3誌では「なぜか仕事ができる人の習慣」「ミスが99%なくなる 仕事のすごい仕組み」「最強の記憶術」が特集テーマとなっており、確かに目を向け手に取りたくなるようなテーマではある。

ビジネス関連誌では特に、特集記事の切り口の巧みさ、鋭さで「他誌にはないコンテンツ」を形成し、それがオンリーワン的付加価値をもたらし、売上を底上げするケースが多々見受けられるようになった。これはビジネス誌に限らず、最近の専門雑誌には特に必要不可欠な要素でもある。

プラスは3誌、マイナスも3誌…前年同期比動向


続いて前年同四半期を算出。こちらは前年の同期の値との比較となることから、季節変動の影響は考えなくてよい。年ベースでの動きなためにやや大雑把とはなるものの、より確証度の高い雑誌の勢いを把握できる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・マネー系、2017年4-6月、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・マネー系、2017年4-6月、前年同期比)

ここしばらくは「週刊ダイヤモンド」以外はマイナス圏がずらりとの状況が続いていたが、今四半期では3誌がプラス圏に。前年同期が存在する「¥en SPA!」はプラスマイナスゼロで、グラフの形状としてはちょうどよい仕切り分けの形となっている。同誌自身はここ数年部数をほぼ横ばいで維持しているのが現状。健闘していると評価できよう。

↑ ¥en SPA!印刷証明付き部数
↑ ¥en SPA!印刷証明付き部数

部数そのものではトップの「PRESIDENT」に続く「週刊ダイヤモンド」は、今四半期では誤差領域内でのマイナス。中長期的な動向としては安定期にある。

↑ 週刊ダイヤモンド印刷証明付き部数
↑ 週刊ダイヤモンド印刷証明付き部数

「週刊ダイヤモンド」のキャッチコピーは「書店で一番売れてるビジネス週刊誌」。今カテゴリ内では「PRESIDENT」に続く部数だが、「PRESIDENT」は隔週刊誌であることから、少なくとも印刷証明付き部数が確認できるビジネス週刊誌では「一番売れている」で間違いはない。

同誌では社会生活の身近な、気になる一つのテーマに絞り、それに切り込むスタイルで特集記事を構成している。そして表紙に大きく描かれたそのテーマの見せ方が鋭く、大きな魅力となっている。部数動向は2013年以降では事実上横ばいで推移。今後大きな飛躍へと歩む期待ができよう。

他方、最大の下げ率を見せたのは「BIG tomorrow」。2009年の頭をピークに、ほぼ継続する形で部数を落としている。

↑ BIG tomorrow 印刷証明付き部数(2017年4-6月期まで)
↑ BIG tomorrow 印刷証明付き部数(2017年4-6月期まで)

部数の小さな起伏の繰り返しは、何らかの試行錯誤の繰り返しをしているようにも見える。昨今はその試行錯誤が上手くいかず、上昇へのパターンに切り替えられていないのだろう。何かきっかけがあれば再び盛り上がりを見せそうな感もあるのだが。もっともそのきっかけを探し、見出すのが難しいのは「BIG tomorrow」に限った話ではない。



内容の斬新さから注目を集めると共に部数を伸ばしていた「COURRiER Japon」が、編集方針の変更と思われる内容性向の変化と共に失速し、一部有料のデジタル媒体に移行したこと(2016年4月号で雑誌媒体版としては休刊)で、印刷証明付き部数の開示が無くなってから1年以上が経過した。昨今の雑誌媒体ではよくあるケースとはいえ、やはり寂しさを覚えさせる。見方を変えると、時流によるところもあるとはいえ、ひとつかじ取りを違えると大きく航路を外してしまう実例なのかもしれない。

グラフ化した部数動向の限りでは、身近な少数のテーマに絞り、そこに深く切り込み、特集記事による小冊子的な形成スタイルを成している雑誌が、その選択テーマの巧みさも合わせ、読者層に受け入れられ、部数に成果となって表れている雰囲気がある。このスタイルはビジネス系雑誌に限らず、一つの方法論として注目すべきかもしれない。

記事冒頭で触れている「インターネットにスピード感では絶対に太刀打ちできない、紙媒体としての専門誌の勝利の方程式」の一つに、内容の充実性、さらに突き詰めれば蓄積性、保存性の高さの強調がある。雑誌としての1冊が、その特集記事による専門誌のような内容を持つ小冊子的存在としての価値を見出せるものならば、お得感を覚える人も多いだろう。

元々ビジネス誌ではその編集方針として連載物、あるいは特集の記事を再構築して加筆し、書籍として再展開する傾向が強い。コミック誌における雑誌連載と、その集約+描き下ろしによる単行本のような関係ではある。雑誌の掲載時点で捨て置かれる程度のものでは無く、保存して専門書のごとく取り扱ってもらう、価値あるものとしての作りを成すのは、雑誌そのもののセールスを高める点では一つの方法論としてありうる。一冊一冊が保存に値する、少なくともその価値が見いだせる号が頻繁に登場する期待を読者予備軍にアピールできれば、定期購読を模索する人も増え、部数の安定化も確保できる。

他方、コミック系雑誌で多分に進んでいる、定期刊行の雑誌の時点における電子雑誌化も、今ジャンルでも少しずつだが確実に歩みを進めている。例えば「週刊ダイヤモンド」では現在紙媒体の本誌と同じレイアウトでページめくりをしながらの電子雑誌を読むことができ、さらにバックナンバーの記事PDFを精査できるサービスが、定期購読者向けに提供されている(【デジタルサービスとは(週刊ダイヤモンド)】)。

↑ 紙媒体としての「週刊ダイヤモンド」を定期購読している読者に提供される、各種デジタルサービス
↑ 紙媒体としての「週刊ダイヤモンド」を定期購読している読者に提供される、各種デジタルサービス

ただし今サービスはあくまでも紙媒体の読者へ対する付随サービスであり、独自のコンテンツ提供ではない(紙媒体のみ、電子媒体のみの販売スタイルではない)。「電子版を読みたければ紙媒体版を買いなさい」である。もう少し電子媒体に関わる環境に変化が生じてくれば、コミック雑誌同様に「電子媒体のみの販売」を行うビジネス雑誌も登場するようになるのだろう。


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