身近なお役立ち情報に特化した記事展開が評価か…ビジネス・マネー系雑誌部数動向(2017年1月-3月)

2017/05/24 05:09

インターネットに代表される電子情報技術の加速的進歩、機動力に長けたスマートフォンの普及浸透で、ますます時間との戦いが熱いものとなりつつあるビジネス、金融業界。その分野の情報をつかさどる専門誌では、正しさはもちろんだがスピーディな情報展開への需要が天井知らずのものとなる。デジタルとの比較で生じる時間的遅れは紙媒体の致命的な弱点となり、その弱みをくつがえすほどの長所が今の専門誌では求められている。このような状況下の「ビジネス・マネー系専門誌」について、社団法人日本雑誌協会が2017年5月16日付で最新データへの更新発表を行った、第三者による公正な部数動向を記した指標「印刷証明付き部数」から、実情を確認していくことにする。

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「プレジデント」一強時代は変わらず


データの取得場所に関する解説、「印刷証明付部数」など各種用語の説明、過去の同一テーマのバックナンバー記事、諸般注意事項は一連の記事の集約ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で解説している。必要な場合はそちらから確認のこと。

最初に精査するのは、直近分にあたる2017年の1-3月期とその前四半期に該当する、2016年10-12月期における印刷実績。

↑ 2016年10-12月期と2017年1-3月期のビジネス・金融・マネー誌の印刷実績
↑ 2016年10-12月期と2017年1-3月期のビジネス・金融・マネー誌の印刷実績

「クーリエ・ジャポン」の休刊後、今カテゴリの雑誌は全部で6誌の状態が続いている。そして不定期刊化し、出入りが激しい「¥en SPA!」は今回顔を見せていない。何か新規雑誌を追加したいところではあるが、該当ジャンルで合致しそうな雑誌は他にないのが残念。

対象誌の中では「PRESIDENT(プレジデント)」が前四半期から継続する形でトップ。部数上で第2位となる「週刊ダイヤモンド」とは2倍強もの差をつけている。その「PRESIDENT」の部数だが、2013年後半から上昇傾向が始まり、2015年第1四半期をピークとしたあとは少し値を落として踊り場状態となっていた。その後、2016年に入ってから大きく下落し、2013年以降の上昇分をほとんど吐き出す形となっている。2013年までの沈滞期と比べれば5万分ほどの上乗せをした形で、安定期に突入した雰囲気だった。そして前四半期で大きな伸びを見せ、直近でもいくぶん値を落とした程度。高値安定という状況になりつつある。

↑ PRESIDENT印刷証明付き部数(2017年1-3月期まで)
↑ PRESIDENT印刷証明付き部数(2017年1-3月期まで)

同誌は昨今の動向を見れば分かる通り、昨今ではヒット企画の号で大きく背伸びをし、その余韻を楽しみながら次のヒットの創生を目指すスタイルのように見える。良いパターンを見つけたのだろうか。

2誌がプラス、4誌がマイナス…前四半期比較


次に示すのは各誌における、四半期間の印刷証明部数の変移。前四半期の値からどれほどの変化をしたかを算出している。季節による需要動向の変化を無視した値のため、各雑誌の実情とのぶれがあるものの、手身近に各雑誌の状態を知るのには適している。なお「¥en SPA!」は今四半期には刊行されなかったため、グラフ上にはその姿は無い。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・金融・マネー誌)(2017年1-3月、前四半期期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・金融・マネー誌)(2017年1-3月、前四半期期比)

今四半期ではプラス領域は2誌、マイナス領域は4誌。誤差領域内(5%内の振れ幅)の動きが全部で、それを超えた雑誌は無し。

前四半期比で最大の上げ幅を見せたのは「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」。「意思決定者のためのマネジメント総合誌」なるキャッチコピーを掲げ、特集を多様な切り口からの読み物を掲載するのは他のビジネス誌と変わらないが、海外の論文を翻訳して掲載しているのがセールスポイント。スタイリッシュでセンスのあるデザインも評価が高い。今回計測期間内に刊行された号では、2017年3月号の「顧客は何にお金を払うのか」が大いに評価されたようだ。確かに気になるテーマには違いない。

前四半期比ではプラスを計上した、もう一つの雑誌「THE21」。コンセプトは「ビジュアルな視覚に訴える確かな情報誌」で、「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」と比べると随分と柔らかい印象を受けるビジネス専門誌である。今回計測期間内で発行された3誌の中では、2017年4月号の特集「失敗しない話し方――教わらなかった「できる人の会話術」10のコツ イラッとされない! 嫌われない! できる人が心がけている話し方のコツ&使ってはいけないNGワードを紹介」が高評価を受けたようだ。具体的な状況下での「NGフレーズ」集をはじめ、端的な箇条書きでの解説は確かに読みやすい。

これら2誌が特徴的だが、特集記事の切り口の巧みさ、鋭さで「他誌にはないコンテンツ」を形成し、それがオンリーワン的付加価値をもたらし、売上を底上げするケースが多々見受けられるようになった。これは最近の専門雑誌には特に必要不可欠な要素でもある。

プラスは3誌のみ…前年同期比動向


続いて前年同四半期を算出。こちらは前年の同期の値との比較となることから、季節変動の影響は考えなくてよい。年ベースでの動きなためにやや大雑把とはなるものの、より確証度の高い雑誌の勢いを把握できる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・マネー系、2017年1-3月、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ビジネス・マネー系、2017年1-3月、前年同期比)

ここしばらくは「週刊ダイヤモンド」以外はマイナス圏がずらりとの状況が続いていたが、今四半期では3誌がプラス圏に。

↑ 週刊ダイヤモンド印刷証明付き部数
↑ 週刊ダイヤモンド印刷証明付き部数

「週刊ダイヤモンド」のキャッチコピーは「書店で一番売れてるビジネス週刊誌」。今カテゴリ内では「PRESIDENT」に続く部数だが、「PRESIDENT」は隔週刊誌であることから、少なくとも印刷証明付き部数が確認できるビジネス週刊誌では「一番売れている」で間違いはない。

同誌では社会生活の身近な、気になる一つのテーマに絞り、それに切り込むスタイルで特集記事を構成している。そして表紙に大きく描かれたそのテーマの見せ方が鋭く、大きな魅力となっている。「劇変世界を解く 新地政学」「子会社「族」のリアル」「相続と贈与の大問題」などと大きく踊る表紙を見かけたら、つい手を伸ばしてしまうのも理解はできる。

同誌は今カテゴリでは珍しく、部数低迷の度合いも緩やかで、2013年以降は事実上横ばいで推移している。今後大きな飛躍へと歩む期待ができよう。

他方、最大の下げ率を見せたのは「BIG tomorrow」。2009年の頭をピークに、ほぼ継続する形で部数を落としている。

↑ BIG tomorrow 印刷証明付き部数(2017年1-3月期まで)
↑ BIG tomorrow 印刷証明付き部数(2017年1-3月期まで)

部数の小さな起伏の繰り返しは、何らかの試行錯誤の繰り返しをしているようにも見える。昨今はその試行錯誤が上手くいかず、上昇へのパターンに切り替えられていないのだろう。何かきっかけがあれば再び盛り上がりを見せそうな感もあるのだが。もっともそのきっかけを探し、見出すのが難しいのは「BIG tomorrow」に限った話ではない。



内容の斬新さから注目を集めると共に部数を伸ばしていた「COURRiER Japon」が、編集方針の変更と思われる内容性向の変化と共に失速し、一部有料のデジタル媒体に移行したことで、印刷証明付き部数の開示が無くなってから1年以上が経過した。昨今の雑誌媒体ではよくあるケースとはいえ、やはり寂しさを覚えさせる。見方を変えると、時流によるところもあるとはいえ、ひとつかじ取りを違えると大きく航路を外してしまう実例なのかもしれない。

グラフ化した部数動向の限りでは、身近な少数のテーマに絞り、そこに深く切り込み、特集記事による小冊子的な形成スタイルを成している「週刊ダイヤモンド」と「PRESIDENT」が、その選択テーマの巧みさも合わせ、読者層に受け入れられ、部数に成果となって表れている雰囲気がある。このスタイルはビジネス系雑誌に限らず、一つの方法論として注目すべきかもしれない。

記事冒頭で触れている「インターネットにスピード感では絶対に太刀打ちできない、紙媒体としての専門誌の勝利の方程式」の一つに、内容の充実性、さらに突き詰めれば蓄積性、保存性の高さの強調がある。雑誌としての1冊が、その特集記事による専門誌のような内容を持つ小冊子的存在としての価値を見出せるものならば、お得感を覚える人も多いだろう。

元々ビジネス誌ではその編集方針として連載物、あるいは特集の記事を再構築して加筆し、書籍として再展開する傾向が強い。コミック誌における雑誌連載と、その集約+描き下ろしによる単行本のような関係ではある。雑誌の掲載時点で捨て置かれる程度のものでは無く、保存して専門書のごとく取り扱ってもらう、価値あるものとしての作りを成すのは、雑誌そのもののセールスを高める点では一つの方法論としてありうる。一冊一冊が保存に値する、少なくともその価値が見いだせる号が頻繁に登場する期待を読者予備軍にアピールできれば、定期購読を模索する人も増え、部数の安定化も確保できる。

他方、コミック系雑誌で多分に進んでいる、定期刊行の雑誌の時点における電子雑誌化も、今ジャンルでも少しずつだが確実に歩みを進めている。例えば「週刊ダイヤモンド」では現在紙媒体の本誌と同じレイアウトでページめくりをしながらの電子雑誌を読むことができ、さらにバックナンバーの記事PDFを精査できるサービスが、定期購読者向けに提供されている(【デジタルサービスとは(週刊ダイヤモンド)】)。

↑ 紙媒体としての「週刊ダイヤモンド」を定期購読している読者に提供される、各種デジタルサービス
↑ 紙媒体としての「週刊ダイヤモンド」を定期購読している読者に提供される、各種デジタルサービス

ただし今サービスはあくまでも紙媒体の読者へ対する付随サービスであり、独自のコンテンツ提供ではない(紙媒体のみ、電子媒体のみの販売スタイルではない)。もう少し電子媒体に関わる環境に変化が生じてくれば、コミック雑誌同様に「電子媒体のみの販売」を行うビジネス雑誌も登場するようになるのだろう。


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