特需の影響は一部で残るも…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2016年7月-9月)

2016/11/08 05:08

ゲームそのものの楽しさの提供だけでなく、周辺の人達とのコミュニケーションのための媒介・ツールとしての役割も大きい家庭用ゲーム機とその対応ソフトは、スマートフォンの普及浸透とそれ用のゲームアプリの大々的な展開で、大きな転換期の中にある。ただでさえインターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視されるゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる中で、二重の危機誘発要因の到来に違いない。「アプリ系ゲームの紙媒体専門誌を出せばよい」との意見もあるが、あまり上手くいった事例を聞かないのは、情報の更新伝達スピードがマッチしないのが主な要因だろう。まさに四方の行く手をさえぎられた状態のゲームやエンタメ系の専門誌の実情に関して、社団法人日本雑誌協会が2016年10月28日付で発表した、主要定期発刊誌の販売数を「各社の許諾のもと」に「印刷証明付き部数」として示した印刷部数の最新版となる、2016年7月から9月分の値を取得精査し、現状などを把握していくことにする。

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Vジャンはトップに変わりなし…部数現状


データの取得場所の解説や「印刷証明付部数」など用語の内容に関する説明、読む際の諸般注意事項、さらには類似記事のバックナンバー一覧に関しては、一連の記事のまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明済み。必要な場合はそちらで確認のこと。また記事のカテゴリ名をクリックしてたどれる同一カテゴリの記事一覧からも、印刷証明付き部数関連の記事の過去のものを確認できるので、その手段も併用してほしい。

まずは最新値にあたる2016年の7-9月期分と、そしてその直前四半期にあたる2016年4-6月期における印刷実績をグラフ化し、現状を確認する。

↑ 2016年の4-6月期と2016年7-9月期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の印刷実績
↑ 2016年の4-6月期と2016年7-9月期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の印刷実績

大よそ部数は青よりも赤の方が短めで、減退している様子が分かる。絶対部数では下位にある声優系雑誌が、いずれも前四半期より部数を増やしているのは興味深い。他方最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で、このポジションに変化は無い。

今期では追加・非公開化の雑誌は無し。数四半期前に部数公開から脱落した「週刊アスキー」と「電撃PlayStation」の復活の兆しも無し。「週刊アスキー」は【週刊アスキー、紙媒体版は5月末で終了し、今後はネットへシフト】で伝えた通り紙媒体としての発行は終了し、今はデジタル媒体上での展開となっているため、当然印刷証明付き部数は存在しない。一方「電撃PlayStation」は現在もなお紙媒体として新刊が定期的に発行されており、休刊や電子化による非公開化では無い。

「電撃PlayStation」と似たような現象は以前「ニュータイプ」でも起きており、それも合わせ発売元であるKADOKAWAの方針の可能性は否定できない。株式公開企業や大型企業による法的な公開義務はないものの、すでに公開していた数字を非公開化する施策は、情報の非開示化との姿勢としては残念と評せざるを得ない。

ともあれ現在印刷証明付き部数を掌握しているゲーム・エンタメ誌は、現時点で7誌にまで減少している。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無(ジャンル区分そのものは今なお存在している)、「ゲーム・アニメ情報誌」でも6誌にまで減少しているのが現状。今後も減少傾向が続くようならば、「ゲーム・エンタメ」の定義で包括しえる、類似カテゴリの雑誌を加えることも検討せねばなるまい。

とはいえ、類似の主旨を持つカテゴリが存在しそうにないのも悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「Nintendo DREAM」「娘TYPE」が挙げられるが、印刷証明部数は非公開。残念ではある。

ダイナミック下落と上昇と…前四半期との相違確認


次に四半期、つまり直近3か月間で生じた印刷数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が配慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌)(2016年7-9月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌)(2016年7-9月期、前期比)

マイナス幅は誤差領域の5%以内の振れ幅で「メガミマガジン」「Vジャンプ」、それを超えた5%以上は「アニメディア」「アニメージュ」「PASH!」。他方、プラスを計上したのは誤差領域を超える形で「声優アニメディア」「声優グランプリ」の2誌。マイナス誌が多いのは多分に、2四半期で特需が発生した「おそ松さん」(テレビ放送は2015年10月から2016年3月)の恩恵による部数急増の反動。今なお同作品の人気そのものは高く、企画イベントや関連商品が相次ぎ登場し、一定の需要を満たしているが、テレビアニメ放送時の熱狂ぶりは薄れ、同ジャンルの雑誌における重版の動きも無くなっている。とりわけかつての「進撃の巨人」で生じた特需すらかすむほどの売り上げ増を見せた「PASH!」の反動は大きなものとなっている。

↑ PASH!印刷実績(部)
↑ PASH!印刷実績(部)

今回の減退で、ほぼ「おそ松さん」特需による底上げは吐き出された感はある。女性向け作品の人気ぶりは、男性向けと比べると長期化するとの分析もあるが、前四半期が限界だったようだ。

今ジャンルで最大部数を示している「Vジャンプ」はマイナス3.7%。同誌は付録や特集記事で大きな上下を見せることでも知られているが、昨今ではその上下の動きでも大よそボックス圏内に留まっている。

↑ Vジャンプ印刷実績(部)
↑ Vジャンプ印刷実績(部)

同誌の購読者の感想などをブログや専用掲示板、通販サイトのコメントで確認すると、付録にカードが付いた号ではその付録が目当て、手に入れることができてとても嬉しいなどの意見が相次いでいる。同雑誌の公式ソーシャルメディアアカウントでも、付録のカードを基にしたデッキの紹介なども行い、雑誌購入の有益性をさらにアピールしている様子がうかがえる。

ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ある意味これも雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論なのだろう。雑誌を購入すれば確実にカードが取得できる点では、スマートフォンのアプリにおける「ガチャ」よりは多分に親切に違いないとの見方もできよう。

他方今四半期では声優系の雑誌の躍進が目に留まる。特筆すべき特集は無いものの、各方面の読者の感想の限りでは、歌謡界におけるアイドルへの熱中ぶりと何ら変わらない層が多分に支えている雰囲気がある。実際両誌とも、多数の人気声優にスポットライトを当て、連載を設け、グラビアを掲載している。

昨今ではアニメがヒットすると主要人物の声優の歌を収録したCDも多分に関連商品として展開されることから、アイドル歌手と声優の境目があいまいとなっているのかもしれない。その点ではこれら声優系雑誌の攻め方、アイドル誌のような切り口は決して間違っておらず、むしろ正しい方向性と見るべきだろう。

特需の香りが残る前年同期比


続いて前年同期比における動向を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べればロングスパンの値動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系)(2016年7-9月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系)(2016年7-9月期、前年同期比)

上記の通り「おそ松さん」による特需のピークは過ぎたものの、残り香的な底上げはまだ多分に存在し、その影響がまったく無かった前年同期と比べれば多分に大きな上昇ぶりを示している。他方、「メガミマガジン」はすでに特需の効果が無くなり、これまでの漸減傾向に戻っている。

アニメ関連雑誌としてはライバル的な存在、世間一般では「三大アニメ誌」とも呼ばれている、具体的には「アニメージュ」「アニメディア」「ニュータイプ」の動向。「ニュータイプ」の部数が非公開となったため、残り「アニメージュ」「アニメディア」のみ、データの継続反映をさせた上で、状況の精査を続ける。

「アニメージュ」と「アニメディア」の2誌間で順位変動が起きた後、そのポジションが維持されたまま、3誌とも部数を下げていた。その後順位はしばしば入れ替わり、もみあいの形を維持している。前四半期では「アニメージュ」「アニメディア」両誌とも「おそ松さん」特需の恩恵を受けて部数が跳ね上がり、過去数年に渡るつばぜり合いが吹き飛ぶ様相が示された。今四半期でもその勢いがまだ残っている状況。

↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年7-9月期まで)
↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年7-9月期まで)

↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年7-9月期まで)(ニュータイプ除く)
↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年7-9月期まで)(ニュータイプ除く)

直近値では「アニメージュ」4万6133部、「アニメディア」4万3200部。前四半期ではそれぞれ4万5600部・4万5600部だっただけに、特需からの下落と、それでもなおまだ余韻が多分にある状況が確認できる。

非公開化直前の「ニュータイプ」は「アニメージュ」「アニメディア」とさほど変わらない部数だったことから、今回の「おそ松さん」特需でも大きな増加があったものと思われる。どれほどの動きを見せ、他誌とのつばぜり合いを見せたのか、是非とも知りたいところではあるのだが、残念でならない。



【CESA、2015年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表】にもある通り、日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は縮小を続けている。冒頭の解説の通り、少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も低迷は続くことだろう。

2四半期前では言葉通り「おそ松さん」旋風が吹き荒れる形となった。今四半期でもその余韻を十分楽しんでいる雑誌が複数確認できる。かつての「進撃の巨人」すらはるかに凌駕するそのけん引力ぶりには、ただただ驚くばかり。今後何か動きがあれば、再び突風が吹き荒れるに違いない。

他方、今四半期で見せた声優系雑誌のように、環境の変化に応じたかじ取りが上手くいきそうな気配を見せるところもある。次四半期以降も同様の成長ぶりを見せれば、この「航路」は正しいものとの認識が下せ、追随する雑誌も出てくるかもしれない。

世界的に話題となり社会現象すら巻き起こした、スマートフォン向けアプリの「ポケモンGO」だが、本来は今ジャンルの各誌が対象となる。しかしスマホが対象であることから、各誌の部数動向に影響を与えたとの話は耳にしない。例えば「Vジャンプ」のカードのように、アプリとの連動企画が可能なら、凄まじいまでの特需が期待できるのだが。


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