残った4誌は一喜一憂…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2020年7-9月)
2020/11/09 05:32


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残るは4誌のみ…部数現状
データの取得場所の解説や「印刷証明付き部数」など用語の内容に関する説明、読む際の諸般注意事項、さらには類似記事のバックナンバーの一覧に関しては、一連の記事のまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明済み。必要な場合はそちらで確認のこと。また記事のカテゴリ名をクリックしてたどれる同一カテゴリの記事一覧からも、印刷証明付き部数関連の記事の過去のものを確認できるので、その手段も併用してほしい。
まずは最新値にあたる2020年の7-9月期分と、そしてその直前期にあたる2020年4-6月期における印刷実績をグラフ化し、現状を確認する。

↑ 印刷証明付き部数(ゲーム・エンタメ系雑誌、万部)(2020年4-6月期と2020年7-9月期)
最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で、このポジションは前期と変わり無し。他の雑誌と比べると群を抜いて部数が多い「Vジャンプ」の立ち位置は、少年向けコミック誌の「週刊少年ジャンプ」と同じように見える。
3期前の2019年10-12月期では「声優アニメディア」「メガミマガジン」「アニメディア」の3誌の部数が非公開化された。いずれも学研プラス発行の雑誌で、現状でも電子版だけでなく紙媒体版でも定期的に刊行が行われており、休刊(準備)のために部数が非公開化されたわけではない。恐らくは発売元の判断で非公開化が実施されたのだろう。もっとも学研プラスの他の雑誌、例えば「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」「ムー」「歴史群像」は今期でも部数公開が継続されており、ゲーム・エンタメ系の雑誌に限った非公開化だと推測できる。
似たような現象は以前「週刊アスキー」「電撃PlayStation」「ニュータイプ」でも起きており、やはり発売元の判断であった可能性がある。株式公開企業や大型企業による法的な公開義務は無いものの、すでに公開していた数字を非公開化する施策は、情報の非開示化との姿勢としては残念と評せざるを得ない。また、突然の非公開化は他の雑誌でよく生じる「非公開化から休刊」パターンを想起させるため、読み手の健康にもよくない。
ともあれ現在印刷証明付き部数を提示しているゲーム・エンタメ系雑誌は、今期でも4誌に留まっている。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無(ジャンル区分そのものは今なお存在している)なのが現状。今後も減少傾向が続くようならば、「ゲーム・エンタメ」の定義で包括しえる、類似カテゴリの雑誌を加えることも検討せねばなるまい。
とはいえ、類似の主旨を持つカテゴリが存在しそうに無いのも悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「週刊ファミ通」「電撃Nintendo」「Nintendo DREAM」「MC☆あくしず」などが挙げられるが、いずれも印刷証明部数は非公開。残念ではある。
1誌がプラス…前四半期との差異確認
次に四半期、つまり直近3か月間で生じた部数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が配慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前期比)(2020年7-9月期)
前期比でプラスを示したのは「アニメージュ」のみで誤差領域(プラスマイナス5%以内)を超えた上げ幅。一方マイナスを示したのは「Vジャンプ」「PASH!」「声優グランプリ」の3誌。
「Vジャンプ」は誤差領域を超えたマイナスとなるマイナス7.2%。同誌は特集や付録で大きく上下感を見せるものの、長期的には部数減少の傾向にある。話題性のある付録で一時的な部数の引き上げを果たしても、それが継続するには至らない状態が続いている。ここ数年は部数に大きな変化はないものの、わずかずつ減少しているように見える。

↑ 印刷証明付き部数(Vジャンプ、部)
ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ゲームと密接な関係にある付録を常につけることで雑誌の集客力を高めさせるのも、雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論であり、「Vジャンプ」の必勝方程式として定着している。しかし部数動向を見るに、その方程式が必勝とは言い難い状況なのは否定できない。
なお「Vジャンプ」では電子雑誌方式に関しては、紙媒体誌を購入した人限定で閲覧できる仕組み「購入者特典」の形での提供のため、電子書籍版のセールスが伸びたので今件値(紙媒体として印刷された部数)が減少しているとの解釈は難しい。販売スタイルは今でも原則として紙媒体の雑誌のみである。
プラスは2誌の前年同期比
続いて前年同期比における動向を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べればロングスパンの動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前年同期比)(2020年7-9月期)
プラス誌は「PASH!」と「アニメージュ」の2誌。誤差領域を超えたマイナスを示したのは「声優グランプリ」「Vジャンプ」の2誌。
「PASH!」は前期比では大きなマイナスだが前年同期比では大きなプラスを示している。

↑ 印刷証明付き部数(PASH!、部)
「PASH!」は特集記事や付録による部数への影響が大きく、部数変動が他誌と比べると大きくなる傾向がある。例えば2016年1-3月期は「おそ松さん」特需、2016年10-12月期は「ユーリ!!! on ICE」特需によるもの。今期が前年同期比で大きなプラスを示したのは、前期の創刊10周年記念号としての「アイドリッシュセブン」特集などで大きく伸ばした部数の余韻が影響していると解釈してよいだろう。当然、その前期からは部数を大きく落としているため、前期比では大きなマイナスとなっている次第である。同業他誌で取り上げられていた劇場版「鬼滅の刃」の表紙展開や特集があれば、あるいはもう少し部数の維持はできたかもしれないが(部数は非公開だが「アニメディア」の2020年10月号で表紙を飾り、特集記事も組まれている)。
【CESA、2019年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表(最新)】にもある通り、日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は厳しい状況にある。冒頭の解説の通り、少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も紙媒体としての部数低迷は続くことだろう。
動向が掌握可能な期間の限りでは「進撃の巨人」や「おそ松さん」、そして最近では「ユーリ!!! on ICE」が一部雑誌に特需をもたらした。具体的な数字は非公開のため確認はできないが、「鬼滅の刃」を取り上げた雑誌も大きく部数を伸ばしているだろう。元々部数が6ケタ台に届いていないのも一因だが、アニメ業界のトレンドに乗る形で適切な供給を行えば、大きな勢いを得られることが改めて明らかになった。
世界的に話題となり社会現象すら巻き起こした、スマートフォン向けアプリの「ポケモンGO」だが、本来は今ジャンルの各誌が対象となる。しかしスマホが対象であることから、各誌の部数動向に影響を与えたとの話は耳にしない。「ポケモンGO」のような広範囲の属性に浸透するタイプではないものの、大いに人気を博し、他分野にも影響を示すタイトルは複数存在している。例えば「Vジャンプ」のカードのように、それらアプリとの連動企画が可能なら、定期的な部数底上げが期待できるのだが。
しかしながら昨今の「Vジャンプ」の購入者の感想に目をやると、特定のカードが付録の号には需要が急増するものの部数増刷や重版の動きが無く、転売屋の暗躍が大っぴらになっているとの指摘もある。契約まわりで増刷が難しいのだろうか。

しかしながらコミック系雑誌と違いゲーム・エンタメ系雑誌では、大きな表示で見ることで魅力が得られるもの、そして多数の付録がセールスポイントとなる場合も多々あり、単純に電子化しただけで紙媒体版と同じ訴求力が生じるとは考えにくい。さらに一部電子版では版権の問題からか、紙媒体版にあったページが一部省かれているとの話も確認できており、悩ましい状況には違いない。
3期前には3誌がまとめて部数非公開化に踏み切り、その状態が今期も続いているため、「三大アニメ誌」の動向の確認などが不可能となり、記事構成の大幅縮小の状態が継続している。部数の非公開化は発売元の出版社、あるいは編集部による判断である以上仕方がないが、褒められる話ではないのは言うまでもない。部数の非公開化という判断もまた、雑誌動向にかかわる情報となるからだ。
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