「ユーリ!!! on ICE」と「おそ松さん」で小粒な特需…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2016年10月-12月)

2017/02/11 05:18

ゲームそのものの楽しさの提供だけでなく、周辺の人達とのコミュニケーションのための媒介・ツールとしての役割も大きい家庭用ゲーム機とその対応ソフトは、スマートフォンの普及浸透とそれ用のゲームアプリの大々的な展開で、大きな転換期の中にある。ただでさえインターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視されるゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる中で、二重の危機誘発要因の到来に違いない。「アプリ系ゲームの紙媒体専門誌を出せばよい」との意見もあるが、あまり上手くいった事例を聞かないのは、情報の更新伝達スピードがマッチしないのが主な要因だろう。まさに四方の行く手をさえぎられた状態のゲームやエンタメ系の専門誌の実情に関して、社団法人日本雑誌協会が2017年2月7日付で発表した、主要定期発刊誌の販売数を「各社の許諾のもと」に「印刷証明付き部数」として示した印刷部数の最新版となる、2016年10月から12月分の値を取得精査し、現状などを把握していくことにする。

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Vジャンはトップに変わりなし…部数現状


データの取得場所の解説や「印刷証明付部数」など用語の内容に関する説明、読む際の諸般注意事項、さらには類似記事のバックナンバー一覧に関しては、一連の記事のまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明済み。必要な場合はそちらで確認のこと。また記事のカテゴリ名をクリックしてたどれる同一カテゴリの記事一覧からも、印刷証明付き部数関連の記事の過去のものを確認できるので、その手段も併用してほしい。

まずは最新値にあたる2016年の10-12月期分と、そしてその直前四半期にあたる2016年7-9月期における印刷実績をグラフ化し、現状を確認する。

↑ 2016年の7-9月期と2016年10-12月期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の印刷実績
↑ 2016年の7-9月期と2016年10-12月期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の印刷実績

大よそ部数は青よりも赤の方が短めで、減退している様子が分かる。他方、部数のグラフでも明らかに「PASH!」が大きく伸びている様子が分かるのは珍しい。もっとも、最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で、このポジションに変化は無い。

今期では追加・非公開化の雑誌は無し。数四半期前に部数公開から脱落した「週刊アスキー」と「電撃PlayStation」の復活の兆しも無し。「週刊アスキー」は現在ではデジタル媒体上での展開となっているが、「電撃PlayStation」は現在もなお紙媒体として新刊が定期的に発行されており、休刊や電子化による非公開化では無い。単純に編集部、あるいは企業レベルでの都合による非公開化。

「電撃PlayStation」と似たような現象は以前「ニュータイプ」でも起きており、それも合わせ発売元であるKADOKAWAの方針の可能性は否定できない。株式公開企業や大型企業による法的な公開義務はないものの、すでに公開していた数字を非公開化する施策は、情報の非開示化との姿勢としては残念と評せざるを得ない。

ともあれ現在印刷証明付き部数を掌握しているゲーム・エンタメ誌は、現時点で7誌にまで減少している。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無(ジャンル区分そのものは今なお存在している)、「ゲーム・アニメ情報誌」でも6誌にまで減少しているのが現状。今後も減少傾向が続くようならば、「ゲーム・エンタメ」の定義で包括しえる、類似カテゴリの雑誌を加えることも検討せねばなるまい。

とはいえ、類似の主旨を持つカテゴリが存在しそうにないのも悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「Nintendo DREAM」「娘TYPE」が挙げられるが、印刷証明部数は非公開。残念ではある。

ダイナミック上昇を見せる「PASH!」…前四半期との相違確認


次に四半期、つまり直近3か月間で生じた印刷数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が配慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌)(2016年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌)(2016年10-12月期、前期比)

マイナス方向に動いた雑誌はすべて誤差領域の5%を超えており、「声優アニメディア」「アニメディア」「声優グランプリ」「Vジャンプ」の4誌が該当。特に「Vジャンプ」は上記の通り今分類では最大の部数を計上する雑誌で、その雑誌において1割近い減退は少々ショッキングではある。

一方プラス方向に動いたのは誤差領域内が「アニメージュ」「メガミマガジン」、そして誤差を超えた確実な増加が「PASH!」。「PASH!」はその増加ぶりでグラフの全体バランスを崩してしまっているほど。これは【PASH!が「ユーリ!!! on ICE」で1万部重版との話】でも言及しているが2016年12月号において表紙、特集、さらには付録ポスターまで合わせ「ユーリ!!! on ICE」祭り的な状態となり、多くのファンのハートをつかんだ結果。さらに2017年1月号では表紙、巻頭解説で「おそ松さん」の特集が行われ、そして「ユーリ!!! on ICE」に関しては作品に登場した楽曲の解説や関係者インタビューなどに加え、再びポスターにも登場するなど、やはりお祭り号的な状態となっている。

結果として「PASH!」の直近印刷証明付き部数は5万3233部と、前四半期の2万5033部から倍増以上の結果に。さすがに先の「おそ松さん」特需には届かないものの(8万1667部、2016年第1四半期)、「進撃の巨人」特需で計上した4万1567部(2013年第3四半期)は余裕で超える形となっている。

↑ PASH!印刷実績(部)
↑ PASH!印刷実績(部)

アニメ放送は2016年12月で終了しているため、今後同様の需要が続くとは考えにくいが、「ユーリ!!! on ICE」の作品そのものの力強さを考えれば、そして「PASH!」が企画の上で追い続ければ、次四半期もそれなりの値を示すことは不可能ではあるまい。

今ジャンルで最大部数を示している「Vジャンプ」はマイナス8.9%。同誌は付録や特集記事で大きな上下を見せることでも知られているが、昨今ではその上下の動きでも大よそボックス圏内に留まっている。

↑ Vジャンプ印刷実績(部)
↑ Vジャンプ印刷実績(部)

今四半期はたまたま前四半期から下げたが、中長期的には想定の範囲内の下げ度合いであり、大きな心配は要らない……はず。現状では20万部が底値で、その値を割るようなことがあれば、「Vジャンプ」の集客力に大きな懸念を持つべきだろうが、今はまだその必要は無い。同誌は他誌以上に付録、特に人気ゲームと連動企画的なアイテムによって部数が変動する傾向が強く、時折今回のように「たまたま需要がマッチせず、部数に結び付かない」こともある。

ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ゲームと密接な関係にある付録を常につけることで雑誌の集客力を高めさせるのも、雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論なのだろう。雑誌を購入すれば確実にカードが取得できる点では、スマートフォンのアプリゲームにおける「ガチャ」よりは多分に親切に違いないとの見方もできよう。

特需の香りが残る前年同期比


続いて前年同期比における動向を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べればロングスパンの値動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。

↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系)(2016年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(ゲーム・エンタメ系)(2016年10-12月期、前年同期比)

上記の通り「ユーリ!!! on ICE」や「おそ松さん」特需で跳ねた「PASH!」は別格だが、それ以外にも「アニメージュ」「声優アニメディア」が誤差領域を超えた上昇ぶり。他方、下落は4誌で、うち誤差を超えているのは「Vジャンプ」のみ。

前四半期比でわずかな上昇に留まっている「アニメージュ」も、前年同期比では大きな飛躍。これは比較対象となる2016年第4四半期がやや落ち込んでいたことに加え、2017年1月号で「ユーリ!!! on ICE」の別冊付録があり、この人気が部数を大きくけん引したものと考えられる。実際同誌をめぐってはさまざまなやり取りがインターネット上でも確認されている。

アニメ関連雑誌としてはライバル的な存在、世間一般では「三大アニメ誌」とも呼ばれている、具体的には「アニメージュ」「アニメディア」「ニュータイプ」の動向。「ニュータイプ」の部数が非公開となったため、今回も残り「アニメージュ」「アニメディア」のみ、データの継続反映をさせた上で、状況の精査を続ける。

「アニメージュ」と「アニメディア」の2誌間で順位変動が起きた後、そのポジションが維持されたまま、3誌とも部数を下げていた。その後順位はしばしば入れ替わり、もみあいの形を維持している。前四半期では「アニメージュ」「アニメディア」両誌とも「おそ松さん」特需の恩恵を受けて部数が跳ね上がり、過去数年に渡るつばぜり合いが吹き飛ぶ様相が示された。今四半期でもその勢いが「アニメージュ」ではまだ残っている状況。さらに今四半期では上記の通り「アニメージュ」が「ユーリ!!! on ICE」の特需を受け、「アニメディア」との差をやや大きなものとする結果となった。

↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年10-12月期まで)
↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年10-12月期まで)

↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年10-12月期まで)(ニュータイプ除く)
↑ 三大アニメ誌の印刷実績(部)(2016年10-12月期まで)(ニュータイプ除く)

直近値では「アニメージュ」4万6433部、「アニメディア」3万9700部。前四半期と比べ、両誌の差異は2倍以上に広がった計算となる。

非公開化直前の「ニュータイプ」は「アニメージュ」「アニメディア」とさほど変わらない部数だったことから、昨今のつばぜり合いにおいてどのようなポジションを示しているのか、大いに気になるところ。しかし非公開である以上、その願いはかなうことはない。



【CESA、2015年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表】にもある通り、日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は縮小を続けている。冒頭の解説の通り、少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も低迷は続くことだろう。

動向が掌握可能な期間の限りでは「進撃の巨人」や「おそ松さん」、そして今四半期では「ユーリ!!! on ICE」が一部雑誌に特需をもたらしている。元々部数が6ケタ台に届いていないのも一因だが、アニメ業界のトレンドに乗る形で適切な供給を行えば、大きな勢いを得られることが改めて明らかになった。

世界的に話題となり社会現象すら巻き起こした、スマートフォン向けアプリの「ポケモンGO」だが、本来は今ジャンルの各誌が対象となる。しかしスマホが対象であることから、各誌の部数動向に影響を与えたとの話は耳にしない。スマートフォン向けのゲームアプリでは「ポケモンGO」のような広範囲の属性に浸透するタイプではないものの、大いに人気を博し、他分野にも影響を示すタイトルは複数存在している。例えば「Vジャンプ」のカードのように、それらアプリとの連動企画が可能なら、定期的な部数底上げが期待できるのだが。


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