前年同期比では少年・男性向けコミック合わせてプラスは1誌のみ…少年・男性向けコミック誌部数動向(2016年7月-9月)

2016/11/08 05:06

専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由で漫画や文章を読む機会が多数設けられるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇の一途にあるとの解釈もなされている。一方で紙媒体を用いた本は相対的な立ち位置の揺らぎを覚え、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。主に子供向けとして提供されているコミック誌業界においては、さらに子供の娯楽や価値観の変化も加わり、ビジネス的に厳しい立場に追い込まれ、よりリスクが低く新天地のように見えるウェブベースでの展開に移行する雑誌が相次いでいる。社団法人日本雑誌協会では2016年10月28日付で、四半期毎に更新・公開している印刷部数に関して、公開データベース上の値に最新値の2016年7月から9月分の値を反映させた。そこで今回は各雑誌が一般向けに、あるいは営業の中で提示する値よりもはるかに実態に近い、この公開された「印刷証明付き部数」を基に、「少年・男性向けコミック誌」の動向に関して複数の切り口からグラフ化を行い、現状を精査していくことにする。

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一誌ずば抜けた強さに変わりはないが…直近四半期の動向


データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など各種文中の用語の解説、諸般注意事項、同一カテゴリの過去の記事は一連の記事の解説ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明・収録済み。詳細はそちらで確認のこと。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前四半期から変わらず。今記事におけるもう一つの対象ジャンル「男性コミック誌」と合わせても、唯一のダブルミリオンセラー(200万部以上の実績)誌として君臨中。次いでやや年上の少年向け雑誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)雑誌「コロコロコミック」。

少し前までは「コロコロコミック」も合わせ3誌が100万部超えだったものの、「妖怪ウォッチ」によるけん引効果が切れ、同誌が脱落し、現在では「週刊少年ジャンプ」「週刊少年マガジン」の2誌のみ……がこれまでのテンプレート的な説明ではあったが、先に一部報道で伝えられた通り、「週刊少年マガジン」も今回発表の四半期分で100万部の大台を割る値を計上することとなった。前四半期では「このままでは早ければ今年から来年にかけて100万部割れもありうる状況」とコメントしたが、早くも四半期後、つまり今回でその事態が体現化した次第ではある。

↑ 2016年4-6月期と最新データ(2016年7-9月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2016年4-6月期と最新データ(2016年7-9月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

今件「印刷証明付き部数」は現時点では2008年第2四半期以降の値が公開されている。それ以前の動向は把握できないが、少なくとも取得可能な値の限りでは、「週刊少年マガジン」が100万部割れを起こしたのは今回が初めて。

他方、トップを行く「週刊少年ジャンプ」だが、直近データで確認すると印刷証明付き部数は現在215万1667部。雑誌では返本や在庫本なども存在するので(返本率などは部数動向では非公開)、それを勘案すると最終消費者の手に渡る冊数は、これよりも少なくなる。雑誌の種類やジャンルによって返本率は大きな変動があるが、暫定値として1割から2割と試算すると(上場している取次会社の決算資料の限りでは、その値が大よそ平均値)、200万部プラスα程度。ここ数年で電車の乗客を見渡した時に、コミック雑誌を手に持って読んでいる人が随分と減ったこと、また電車の棚や駅ホームのゴミ箱などでも見受けられなくなったことを思い返せば、毎週全国で200万人以上もの人が購入し目を通している状況は奇跡に近い。

もっとも同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた記録を目にするに、その4割足らずにまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。さらにじわりと部数は減退を続けており、このペースでは2020年前後には大台の200万部を切る可能性も否定できない。あるいはその大台割れが、紙媒体としての雑誌にとって、一つの節目となるのだろう。今回の「週刊少年マガジン」の大台割れも、雑誌全体の流れの中の一つの節目でしかないと考えれば、冷静に受け止めることもできる。

それこそヒーローものに登場する秘密兵器や必殺技のような、「何らかの起死回生策を見出せれば」との思いも多々ある。しかし消費者サイドの趣味趣向の多様化などを受け、雑誌そのものをけん引する大作が登場しにくくなっている昨今では、メジャー級のタイトル創生よりも、抜本的な施策転換こそが中長期的な戦略として必要なのだろう。

今回は脱落・追加雑誌は無し。ただし講談社の「マガジンSPECIAL」が2017年1月20日発売・2月号で休刊することが公式に発表されている。今四半期は部数が計上されているが、今後休刊を前に非公開となるかもしれない。また往々にして休刊が決まった後の雑誌は部数が急激に減る傾向があるが、その動きが今件でも確認されている。

↑ 雑誌印刷実績推移(マガジンSPECIAL)(部)
↑ 雑誌印刷実績推移(マガジンSPECIAL)(部)

後ほど言及する前期比、前年同期比でも大きな減退ぶりを見せているが、部数推移でも明らかな急降下が生じている。休刊が決まったとなれば仕方があるまい。

コンビニなどでも良く見かけるメジャーどころの週刊コミック誌で、【週刊少年サンデーがダイナミックなリストラクチャリングをするという話】でも伝えた通り、大規模かつ大胆な組織構造改革宣言を行った「週刊少年サンデー」の部数は、33万0000部。容易に取得可能な最古のデータとなる2008年の4月から6月期における86万6667部からは38%程度にまで部数を減らしている。

↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年サンデー)(部)
↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年サンデー)(部)

グラフの形状からも分かる通り、何度か大胆な改革により部数持ち直しの機運も見られたが(直近では前四半期でも生じている)、全体的な流れに逆らうまでには至っていない。今回の改革に関しても、現時点ではその成果は数字には現れていない。もっとも2015年8月に宣言を始めたのだから、今回の該当期間で成果を見せろとは難しい話であり、むしろ今後の動向に期待をしたいところ。手をかける部分が大規模かつ深刻なものであれば、その状況改善と成果が数字となって表れるのには、半年や一年の短期間では無く、数年もの時が必要とされよう。

ただしそこまで同誌そのものが現状の体制を維持できるのか、早ければ今年中にも陥る可能性がある30万部割れが一つの節目となるのではないか。その点が不安ではある。

続いて男性向けコミック誌。

↑ 2016年4-6月期と最新データ(2016年7-9月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2016年4-6月期と最新データ(2016年7-9月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

男性向けコミックは少年向けと比べると印刷部数の規模が小さく、また飛びぬけた値を示す雑誌が無いため、上位陣では比較的きれいな部数の差異による傾斜のグラフが生成される。またトップから第3位までの差異が小さく、競馬や競輪、F1レースの周回時におけるグループ的なものができているのも興味深い。ただし最近では小さからぬ部数の変動(多分に減少)が起きており、このグループ構成が変化する可能性はある。実際、「スペリオール」から「アフタヌーン」までは部数にさほど変化が無く、ちょっとしたヒット作の登場があれば、順位が塗り替えられるかもしれない。

男性向けコミック誌では「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」が脱落。これは【戦国系漫画雑誌「戦国武将列伝」が休刊に】で伝えている通り、6月27日発売号で休刊となってしまったため。「コミック乱三兄弟」的な表現で、数少ない堅調なコミック誌として注目していただけに、残念な話には違いない。

前四半期比較で動向精査…少年向けはプラスが2誌


続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。雑誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、雑誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。

なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌は、このグラフには登場しない。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2016年7-9月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2016年7-9月期、前期比)

今四半期で前四半期比によるプラス計上の雑誌は「少年サンデーS(スーパー)」と「月刊少年シリウス」の2誌。後者は前年同期比ではマイナスを計上しているのに加え、元々部数が1万部割れを起こしているところから多分に誤差の領域と判断できるが、前者は明らかな上昇ぶり。

これはいくつかの要因が重なったことによるものと考えられる。9月発売の11月号における荻野純先生の読切「未だ見ぬ明日に」の掲載などもその一つだが、もっとも大きい要素は8月発売の10月号における「赤井&安室祭り」。この号で全員サービスとして青山剛昌先生の描き下ろし複製原画やシールなどが付録(応募券など)として添付されたことから、ファンの注目が大いに集まり、多数の本屋で品切れ、ネット通販サイトでも予約をまかないきれなくなるなどの事態が生じている。

これを受けて編集部側でも【サンデーS10月号につきまして編集部よりお知らせ】の告知を出し、次号でもほぼ同等のサービスの提供を行うと共に、期間限定でウェブ上にて10月号掲載の作品を読めるような措置が施されるほど(現在は終了している)。かつての「進撃の巨人」「妖怪ウォッチ」を思わせるような勢いには、驚きを覚えるばかりであると共に、「名探偵コナン」シリーズが「週刊サンデー」やその姉妹誌にとって、欠かせない存在であることが改めて確認できる。

他方、誤差範囲内とも判断できる5%内の下げに留まった雑誌は8誌、それ以上の下げ幅を見せたのは5誌、「妖怪ウォッチ」の特需が去った後、その勢いを減じているコロコロシリーズだが、その減退速度はゆるやかなものとなりつつあるものの、一部ではまだ大きな下げの中にある。下げ幅10%超で仕切り直しても2誌が該当する現状を見るに、反動の大きさが良くわかる。

「コロコロコミック」は今回マイナス2.1%の下げにとどまったものの、特需からの失速が続いている現状では、まだまだ油断はできない。

↑ 雑誌印刷実績変移(コロコロコミック)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(コロコロコミック)(部)

他方、部数動向をグラフを介して良く見直すと、特需で得た勢いを飲み込み、その後の失速を半分程度に抑えているようにも見える。このまま部数を横ばいにしたままで維持できれば、特需分の半数は固定客を得たとの解釈もできる。再び大きなけん引役を見出す、生み出すことができれば、再度100万部超えを果たし、少年向けコミック誌で第3番目、もとい2番目となるミリオンセラー誌として君臨するのもそれほど難しくは無い。

また「妖怪ウォッチ」同様にコミック誌業界に大きなパワーを注入してくれた「進撃の巨人」の特需で、かつて部数を伸ばした「月刊シリウス」だが、ようやく反動も収まり、部数も安定する形となった。今回は前期比でプラスすら計上している。しかし現状の1万部割れは芳しいとはいえず、少々の部数の変化でも大きな変化率となって表れてしまう。さらなるてこ入れ、あるいはけん引役の抜擢・創生が必要なのには違いない。

↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2016年7-9月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2016年7-9月期、前期比)

プラス計上をした雑誌は皆無。誤差範囲を超えた5%超の下げ幅は2誌、「コミック乱ツインズ」と「ビッグコミックスピリッツ」。上記の通り姉妹誌……ではなく兄弟誌にあたる「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」が休刊したこともあり、その読者も一部吸収はしているはずなのだが、部数は伸び悩んでしまった。

5%超の下げ幅の雑誌が2誌のみなのは幸いだが、棒グラフの色がすべて赤系統の状況は決して好ましいものではない。関係各方面にとっては気が気でない実情ではある。

前年同期比で検証…年ベースでプラスは少年1誌のみ


続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2016年7-9月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2015年7-9月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が開いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。数十年もの歴史を誇る雑誌もある中で、わずか1年で数十パーセントもの下げ幅を示す雑誌も見受けられるが、それだけ雑誌業界は大きく動いていることを再確認させられる……とはかつて用いていた表現だが、最近では「見受けられる」ではなく「少なくない」と差し換えた方が良い状況となりつつある。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2016年7-9月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2016年7-9月期、前年同期比)

上記で詳細を説明した「コナン特需」が発生した「少年サンデーS(スーパー)」が前年同期比でも唯一の、そしてダイナミックなまでのプラス。4割増しの値はコナン様様としか表現しようが無い。

他方、それ以外の雑誌はすべてがマイナスで、誤差範ちゅうである5%の下げ幅内に留まっているのは「月刊シリウス」のみ。それ以外はすべて5%超の下げ幅。さらに10%を超える仕切り分けをしても半数以上、9誌に登る。「マガジンSPECIAL」は上記の通り休刊が決定したため、コロコロ系列は「妖怪ウォッチ」特需の反動がまだ響いているために不可抗力の面もあるが、それ以外の雑誌でも1割2割は当たり前な厳しい実態を再認識させる結果ではある。

水曜発売の週刊誌として相並び紹介されることが多い、そして昨今では上記の通り100万部割れで報じられた「週刊少年マガジン」と、その対的な存在の「週刊少年サンデー」の部数動向は次の通り。

↑ 雑誌印刷実績変化率(週刊少年サンデー/週刊少年マガジン)(部)
↑ 雑誌印刷実績変化率(週刊少年サンデー/週刊少年マガジン)(部)

「週刊少年マガジン」の方が部数は約3倍多いが、部数の下げ方もやや急で、その差は少しずつだが縮まりつつある。このような形での競争ではなく、双方とも上昇機運の中での競り合いを見せてほしいものだが。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2016年7-9月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2016年7-9月期、前年同期比)

前四半期比同様、すべてがマイナスを計上。しかも下げ幅はさらに大きく、誤差領域を超えているのは10誌、10%以上の下げ幅は6誌に至る。有名どころ、コンビニなどでも他為に留める雑誌が軒並み名を連ねているのを見るに、もの悲しさを覚えるものがある。同時に「そういえば最近になって立ち寄り先のコンビニで見かけなくなったな」と思い返した雑誌も複数あるだけに、複雑な心境にも追いやられる。

なお前年同期比で10%以上の下げ幅を計上した男性コミック誌のうち、現状が10万部以上の雑誌は3誌。数万部の部数ならばまだ誤差とも解釈は不可能ではないが、10万部を超えているとなれば明らかな低迷感の表れと見なさざるを得ない。



記事タイトルや本文の複数か所で触れている通り、またゲームタイトルそのものや周辺アイテムの現状からも分かる通り、一部の雑誌業界に旋風を巻き起こした「妖怪ウォッチ」の特需効果は勢いを止め、ゆるやかに勢いを落としつつもその残り香を楽しむ状況となっている。シリーズ最新作も登場したが、かつてのような特需の気配は見られない。一部では特需を飲み込んで地盤固めに成功したと見られる雑誌もあるが、多分は元ある状況に戻しを見せている。

現在は電子書籍、ウェブ漫画が浸透する中で、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも選択肢が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。これまでは馬車でしか行き来できなかった場所への輸送ビジネスが、バスや電車、飛行機などが登場し、馬車業界において顧客が奪われているような展開とも表現できる。

なお今件の各値はあくまでも印刷証明部数であり、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用性向も確実に上昇している。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各雑誌、コミックそのものの需要がそれと連動する形で減退しているとは限らないことは認識しておくべきである。あくまでも紙刷りの雑誌の部数が減ったまでに過ぎない(それ自身は大きな問題には違いないのだが)。

便宜性、利点を思い返せば、紙媒体による雑誌そのものが無くなることはありえない。しかし今後さらに紙媒体としてのビジネスの上では過酷な状況が待ち受けている。これから紙媒体の市場が広がり、売上がアップするような未来は想像しがたい。その厳しい実情の中で理性を失わず、コンテンツを提供する自らの立場を誇りとし、環境の変化に合った施策を取るか否か。その点にこそ、各雑誌社、雑誌編集部局の実力と本質が現れるのではないだろうか。


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