前年同期比では少年・男性向けコミック合わせてプラスは1誌のみ…少年・男性向けコミック誌部数動向(2017年1月-3月)

2017/05/23 05:16

専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由で漫画や文章を読む機会が多数設けられるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇の一途にあるとの解釈もある。一方で紙媒体を用いた本は相対的な立ち位置の揺らぎを覚え、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。主に子供向けとして提供されているコミック誌業界においては、さらに子供の娯楽や価値観の変化も加わり、ビジネス的に厳しい立場に追い込まれ、よりリスクが低く新天地のように見えるウェブベースでの展開に移行する雑誌が相次いでいる。社団法人日本雑誌協会では2017年5月16日付で、四半期毎に更新・公開している印刷部数に関して、公開データベース上の値に最新値の2017年1月から3月分の値を反映させた。そこで今回は各雑誌が一般向けに、あるいは営業の中で提示する値よりもはるかに実態に近い、この公開された「印刷証明付き部数」を基に、「少年・男性向けコミック誌」の動向に関して複数の切り口からグラフ化を行い、現状を精査していくことにする。

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一誌ずば抜けた強さに変わりはないが…直近四半期の動向


データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など各種文中の用語の解説、諸般注意事項、同一カテゴリの過去の記事は一連の記事の解説ページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明・収録済み。詳細はそちらで確認のこと。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前四半期から変わらず。今記事におけるもう一つの対象ジャンル「男性コミック誌」と合わせても、唯一のダブルミリオンセラー(200万部以上の実績)誌として君臨中……だったのだが、開示されている記録の限りでははじめてその大台を割り込む形となった。次いでやや年上の少年向け雑誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)雑誌「コロコロコミック」。

少し前までは「コロコロコミック」「週刊少年マガジン」も合わせ3誌が100万部超えだったものの、「妖怪ウォッチ」によるけん引効果が切れ、「コロコロコミック」が脱落。そして2016年第3四半期で「週刊少年マガジン」も100万部を割り込んでしまっている。今四半期では「週刊少年マガジン」の100万部回復は成らず、むしろさらに部数を減らしている。

↑ 2016年10-12月期と最新データ(2017年1-3月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2016年10-12月期と最新データ(2017年1-3月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

今件「印刷証明付き部数」は現時点では2008年第2四半期以降の値が公開されている。かつては複数誌が100万部を超えていたが、「週刊少年マガジン」がミリオンクラブから脱退したことで、少年向けコミック誌で100万部超えの雑誌は「週刊少年ジャンプ」だけとなってしまった。恐らくはこの状態が今後も継続するのだろう。やはりすき間時間の消費対象の代替的存在、スマートフォンをはじめとしたモバイル端末の普及による影響は極めて大きい。

他方、唯一のミリオンクラブ会員でトップを行く「週刊少年ジャンプ」だが、直近データで確認すると印刷証明付き部数は現在191万5000部。雑誌では返本や在庫本(売れ残り)なども存在するので(返本率などは部数動向では非公開)、それを勘案すると最終消費者の手に渡っている冊数は、これよりも少なくなる。雑誌の種類やジャンルによって返本率は大きな変動があるが、暫定値として1割から2割と試算すると(上場している取次会社の決算資料の限りでは、その値が大よそ平均値)、実セールスは180万部ぐらいだろうか。単なる通過点、そして実売ではすでに領域に届いていたことは確実であったとはいえ、印刷証明付き部数の時点で200万部割れとの事実は、衝撃的に違いない。

↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年ジャンプ)(部)
↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年ジャンプ)(部)

同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた記録を目にするに、その4割足らずにまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。半年前における「週刊少年マガジン」の100万部割れと合わせ、雑誌全体の歴史において一つの時代を刻んだ流れと考えれば、冷静に受け止めることもできるのだが。

コンビニなどでも良く見かけるメジャーな週刊コミック誌で、【週刊少年サンデーがダイナミックなリストラクチャリングをするという話】でも伝えた通り、大規模かつ大胆な組織構造改革宣言を行った「週刊少年サンデー」の部数は、今四半期では31万9667部。容易に取得可能な最古のデータとなる2008年の4月から6月期における86万6667部からは37%程度にまで部数を減らしている。

↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年サンデー)(部)
↑ 雑誌印刷実績推移(週刊少年サンデー)(部)

グラフの形状からも分かる通り、何度か大胆な改革により部数持ち直しの機運も見られたが、全体的な流れに逆らうまでには至っていない。今回の改革に関しても、現時点ではその成果は数字には現れていない。もっとも2015年8月に宣言を始めたのだから、今回の該当期間で成果を見せろとは難しい話であり、むしろ今後の動向に期待をしたいところ。手をかける部分が大規模かつ深刻なものであれば、その状況改善と成果が数字となって表れるのには、半年や一年の短期間では無く、数年もの時が必要とされよう。

ただしそこまで同誌そのものが現状の体制を維持できるのか、早ければ2017年中にも陥る可能性がある30万部割れが一つの節目となるのではないか。その点が不安ではある。

続いて男性向けコミック誌。

↑ 2016年10-12月期と最新データ(2017年1-3月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2016年10-12月期と最新データ(2017年1-3月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

男性向けコミックは少年向けと比べると印刷部数の規模が小さく、また飛びぬけた値を示す雑誌が無いため、上位陣では比較的きれいな部数の差異による傾斜のグラフが生成される。また第5位以降の部数差異はごく少数で、ちょっとしたヒット作の登場があれば、順位が塗り替えられるかもしれない。

男性向けコミック誌では脱落、追加誌は無し。半年前に抜けた「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」の穴を埋めるような雑誌が現れると良いのだが。

前四半期比較で動向精査…男性向けはプラスが4誌


続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。雑誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、雑誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。

なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌は、このグラフには登場しない。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2017年1-3月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2017年1-3月期、前期比)

今四半期で前四半期比によるプラス計上の雑誌は「少年サンデーS」の1誌のみ。プラス16.2%と大きな上昇幅。

元々販売部数が少数(直近では1.4万部)で前期比のぶれが生じやすいのも一因だが、今回の健闘ぶりはそれよりもむしろ、言葉通り中身が買われたとの解釈が妥当だろう。特化性のある雑誌構成に加え、2017年3月25日発売号では高橋留美子先生の特集が掲載されており(「高橋留美子2億冊突破。付録全員サービスなど るーみっくファンなら買うべきこの1冊」とのコピーが表紙を踊っている)、これが部数を大きくけん引したものと思われる。

同誌は以前リニューアルに際して多様な本家週刊少年サンデーの外伝版的作品の導入やテレビアニメの漫画版、人気作品のリバイバル連載などで大きく部数を伸ばし(2012年)、昨年も青山剛昌先生の描き下ろし複製原画やシールなどの付録(応募券など)で突発的な部数増加を見せるなど、気概のある企画を打ち出すことで知られている。

↑ 雑誌印刷実績推移(少年サンデーS)(部)
↑ 雑誌印刷実績推移(少年サンデーS)(部)

今後の挙動にも大きな期待が寄せられよう。

他方、誤差範囲内とも判断できる5%内の下げに留まった雑誌は7誌、それ以上の下げ幅を見せたのは5誌。特にコロコロ系の下げ幅が著しいが、これは「妖怪ウォッチ特需」からの失速の中にあると解釈するのが無難。

↑ 雑誌印刷実績推移(コロコロコミック)(部)
↑ 雑誌印刷実績推移(コロコロコミック)(部)

「妖怪ウォッチ特需」の影響が無くなれば60万部台までの下落は容易に想像ができる。

「妖怪ウォッチ」同様にコミック誌業界に大きなパワーを注入した「進撃の巨人」の特需で、かつて部数を伸ばした「月刊シリウス」だが、ようやく反動も収まり、部数も安定する形となった。今回は下げ幅も最小限に留まっている。しかし現状の1万部割れは芳しいとはいえず、少々の部数の変化でも大きな変化率となって表れてしまう。さらなるてこ入れ、あるいはけん引役の抜擢・創生が必要なのには違いない。

↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2017年1-3月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2017年1-3月期、前期比)

プラス計上をした雑誌は誤差領域だが4誌、「コミック乱」「ヤングアニマル」「コミック乱ツインズ」「ビックコミックスピリッツ」。他方、誤差範囲を超えた5%超の下げ幅は1誌、「ヤングアニマル嵐」。同誌は直近では7.7万部の部数を誇る中堅誌ではあるが、部数は低迷中で最近では下げ幅が加速している感は否めない。

↑ 雑誌印刷実績変移(ヤングアニマル嵐)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(ヤングアニマル嵐)(部)

基幹誌となる「ヤングアニマル」よりも部数の下げ方が急なのも合わせ、状況改善の施策が求められるところではある。

前年同期比で検証…年ベースでプラスは少年1誌のみ


続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2017年1-3月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2016年1-3月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が開いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。数十年もの歴史を誇る雑誌もある中で、わずか1年で数十パーセントもの下げ幅を示す雑誌も見受けられるが、それだけ雑誌業界は大きく動いていることを再確認させられる……とはかつて用いていた表現だが、最近では「見受けられる」ではなく「少なくない」と差し換えた方が良い状況となっている。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2017年1-3月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2017年1-3月期、前年同期比)

「少年サンデーS(スーパー)」が高橋留美子先生の特集などで大きく部数を底上げしたのは上記の通りだが、前年同期比でも大きな伸びを示す形となった。それ以外の雑誌はすべてマイナス、しかも誤差領域内にあるのは1誌のみ。

水曜発売の週刊誌として相並び紹介されることが多い、そして昨今では100万部割れで注目を集めた「週刊少年マガジン」と、その宿命的ライバルな存在の「週刊少年サンデー」の部数動向は次の通り。

↑ 雑誌印刷実績変化率(週刊少年サンデー/週刊少年マガジン)(部)
↑ 雑誌印刷実績変化率(週刊少年サンデー/週刊少年マガジン)(部)

「週刊少年マガジン」の方が部数は約3倍多いが、部数の下げ方もやや急で、その差は少しずつだが縮まりつつある。このような形での競争ではなく、双方とも上昇機運の中での競り合いを見せてほしいものだが。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2017年1-3月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2017年1-3月期、前年同期比)

全誌がマイナスで誤差領域は7誌、誤差を超えたのは9誌。上記で言及した「ヤングアニマル嵐」の下げ幅が2割近くに達しており、強い危機感が改めて認識できる。他にも「アフタヌーン」「月刊!スピリッツ」「モーニング」と名だたる雑誌たちが1割超えの下げ幅を計上している。有名どころ、コンビニなどでも多々目に留まる雑誌が軒並み名を連ねているのを見るに、もの悲しさを覚えるものがある。同時に「そういえば最近になって立ち寄り先のコンビニで見かけなくなったな」と思い返した雑誌も複数あるだけに、複雑な心境にも追いやられる。

兄弟誌の「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」が休刊し、「コミック乱三兄弟」ならぬ「コミック乱コンビ」となってしまった「コミック乱ツインズ」「コミック乱」はいずれも誤差領域内に留まっている。



本文の複数か所で触れている通り、またゲームタイトルそのものや周辺アイテムの現状からも分かる通り、一部の雑誌業界に旋風を巻き起こした「妖怪ウォッチ」の特需効果は今やその残り香を楽しむ、あるいは過去の事象としてその影響がグラフ上に表れている程度のものとなっている。シリーズ最新作も登場したが、かつてのような特需の気配は見られない。一部では特需を飲み込んで地盤固めに成功したと見られる雑誌もあるが、多分は元ある状況に戻しを見せている。

現在は電子書籍、ウェブ漫画が浸透する中で、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも選択肢が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。これまでは馬車でしか行き来できなかった場所への輸送ビジネスが、バスや電車、飛行機などが登場し、馬車業界において顧客が奪われているような展開とも表現できる。

なお今件の各値はあくまでも印刷証明付き部数であり、紙媒体としての展開動向。【印刷証明付き部数と実売数と実展開コンテンツ数と】でも解説しているが、コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用性向も確実に上昇している。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各雑誌、コミックそのものの需要がそれと連動する形で減退しているとは限らないことは認識しておくべきである。

出版社の中には市場の需要に合わせて積極的に電子化を進め、コンテンツの提供ができれば、そしてビジネスとなるのなら、紙媒体であろうが電子書籍(雑誌)であろうが気にならないとの姿勢を示すところもある。結果として当然ながら、紙媒体の印刷数は減ってしまうが、それは雑誌全体の売れ行きが低迷したのではなく、あくまでも紙刷りの雑誌の部数が減ったまでに過ぎない(それ自身は大きな問題には違いないのだが)。そしてこの電子書籍・雑誌に関する発行…というよりは実売数に関しては、各社とも開示に否定的なのが現状であり、印刷証明付き部数のように定点観測的な比較対象など不可能であることを合わせ記しておく。デジタルの観点では各社ともより具体的な数字は把握されているはずだが、だからこそ守秘性が高く、第三者への開示がはばかられるのだろう。

便宜性、利点を思い返せば、紙媒体による雑誌そのものが無くなることはありえない。しかし今後さらに紙媒体としてのビジネスの上では過酷な状況が待ち受けている。これから紙媒体の市場が広がり、売上がアップするような未来は想像しがたい。その厳しい実情の中で理性を失わず、コンテンツを提供する自らの立場を誇りとし、環境の変化に合った施策を取るか否か。その点にこそ、各雑誌社、雑誌編集部局の実力と本質が現れるのではないだろうか。


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