主要局はほぼ下落…主要テレビ局の直近視聴率実情(2022年3月期・上期)
2021/11/20 03:21


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全日は日テレ、ゴールデンはNHKがトップ
日本国内のテレビ局における視聴率は以前【「テレビをつけている時間」と「視聴時間」、「視聴率」を考え直してみる】で解説した通り、現在ではビデオリサーチ社のみが計測を実施している。上場テレビ局・企業では各社が程度の差はあるものの投資家への経営の状況判断材料として、各種短信資料で視聴率の公開を行っている。視聴率動向が広告売上をはじめとしたテレビ局の主事業である放送業務の勢いを推し量るのに、最適な指標だからである。一方、各社の資料ともビデオリサーチ社提供の値を基にしているため、基本的に同じものとなる。
まずは現時点で直近にあたる2022年3月期・上期の、キー局の視聴率をグラフ化する。データは【TBSホールディングス・決算説明会資料集ページ】内にある「2022年3月期第2四半期決算資料」などから取得した(第2四半期とは上期を意味する)。なお「キー局」と表現した場合、一般的にはNHKは含まれないが、よい機会でもあるので合わせてグラフに収めておく。
なお昨今では多くの局の発表資料においてHUT(世帯視聴率、Households Using Television)ではなくPUT(個人視聴率、Persons Using Television)を用いるようになったが、連続性を鑑み今記事では引き続きHUTを用いる。以後の記事内表記・グラフ内表記も断りがない限り「視聴率」は「世帯視聴率」を意味する。またNHKの視聴率は半期単位の値は取得が不可能となったため、NHK自身が公開している四半期単位の視聴率を基に自己計算している(過去の値で同一方法にて計算をし、整合性があることを確認済み)。

↑ 主要局世帯視聴率(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区)(2022年3月期・上期)
テレビ東京は区分の上では在京キー局の5局に収められているが、他の4局と比べれば放送内容の特異性(比較的経済関連の内容が多い)の都合上、視聴率で他局と比べて低めの値が出るのは、ある意味やむを得ない。その特異性を考慮し順位精査の際に除外すると、日本テレビ・テレビ朝日・NHKが高め、TBSとフジテレビが低めと、2階層状態にある。
視聴率が低迷しやすい昼間や深夜を除いていることから、全日と比べて高い視聴率が期待できるのがゴールデンタイム(19-22時)とプライムタイム(19-23時)。その双方で10%を切っているのは(テレビ東京以外では)TBSとフジテレビ。双方とも10%以上はテレビ朝日とNHK。日本テレビはゴールデンタイムのみ10%以上。
放送している番組の構成にもよるが、ゴールデンタイムとプライムタイムの視聴率の差はあまり出ておらず、テレビ朝日以外は両者とも同じか、ゴールデンタイムの方が若干高い程度。しかしNHKに限れば大きな差異が生じている。つまりNHKは他局と比べ、プライムタイムが弱いと判断できる(理由は後ほど)。
数年前までは主要キー局ではTBSが一番低迷していたが、今期ではそれ以上にフジテレビの低迷が目立つ。全日だけでなく、ゴールデンタイムやプライムタイムすべての区分において、(テレビ東京を除けば)視聴率は一番低い立場に収まってしまっている。

ゴールデンタイムで視聴率動向を見ると、トップはNHK、次いでテレビ朝日、そして日本テレビ、TBS、フジテレビが続く。プライムタイムで比較すると、テレビ朝日がトップとなり、次いでNHK、日本テレビ、TBS、フジテレビの順となる。NHKのプライムタイムでのいまいち度合いは直上にその理由を記した通りだが、プライムタイムではテレビ朝日において、ゴールデンタイムを超える値を示しているのは意外かもしれない。22-23時の時間帯で放送される各局の人気番組のすう勢が、そのままこの差に表れるともいえる。テレビ朝日では「報道ステーション」がメイン、後は各種映画や特番、ワイド劇場となるのだろう。
前年同期からの変化で各局の勢いを推し量る
視聴率の変移を前年同期(2021年3月期・上期)との比較で表すと次のようになる。

↑主要局世帯視聴率前年同期比(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区、ppt)(2022年3月期・上期)
元々テレビの局単位での視聴率は、特番や特定の番組、さらにはイベント的な放送に大きく影響されるところがある。例えば社会現象を引き起こすほどの人気を博したNHKの「あまちゃん」、TBSの「半沢直樹」が好例。
今期はNHK以外の全局が全時間区分においてマイナスとなり、NHK以外では視聴率が増加した局・時間区分は皆無となった。非常に珍しい現象だが、恐らくは前年同期では新型コロナウイルスの流行に伴う巣ごもり化によってテレビ視聴の観点では局を問わずプラスへと働いており、その反動が表れる形となったのだろう。
マイナス幅を見比べると、時間区分別ではテレビ朝日以外は全日よりもゴールデンタイムやプライムタイムのマイナス幅が大きい。多くの人がテレビを視聴する時間帯で、よりテレビから離れる傾向があったことになる。他方テレビ朝日では時間区分によるマイナス幅の差がそれほど大きくはない。昼夜を問わず、同局番組の放送から距離が置かれたことになる。放送内容や番組構成の傾向が視聴率の落ち込み方に反映されたようで興味深い。一方でフジテレビはテレビ東京同様に元々の値が小さいため、下げ幅に差異があまり生じなかったようだ。
全局の中で時間区分を問わず一番大きなマイナス幅を示した日本テレビだが、直近の同社四半期決算説明会の公開資料では具体的な説明は特に無し。むしろ「テレビ広告収入が、一昨年のコロナ禍前の水準にほぼ回復」「スポット中心に増収、タイムも東京五輪などで増収」など、収益的にはポジティブな動きの中にあることが説明されている。かろうじて「コロナ禍で在宅率の高かった昨年と比較すると、各局数値を下げているものの、日本テレビは11年連続『個人3冠』へ向け推移中」と視聴率に関する言及があり、今回の視聴率の下げ方が、コロナ禍による特需的なものからの反動でしかないと分析している。
詳しくは経年のテレビ視聴率の記事で解説するが、この数年は各局ともターニングポイントを迎えている気配を示している。ある局はVの字回復を見せ、ある局は低迷を続け、ある局は下落傾向が継続している。まるで雑誌の印刷証明部数の話を思い起こさせるのだが、単発のヒーロー的番組やイベントのおかげで一時的な盛り返しを見せることはあっても、根本的な体質、視聴者への姿勢の部分がしっかりとしていないと、次第に低迷さが顕著になる。
中にはそのドーピング的効果に味を占め、魅惑に取りつかれ、繰り返しその効果を望んでいるような行動を示す局も見受けられるが、「待ちぼうけ」の歌にある通り、常に切り株にうさぎがやってくるとは限らない。それを期待するどころか、切り株を増やすべく樹の伐採を繰り返し、かえって地道な努力の成果である果実の収穫量を減らすような動きすら見受けられるのは残念な話(昨今の「報道」番組では特にその傾向が見受けられる)。
4大従来メディアの中では最大の影響力を持つ一方、その力に翻弄される面も見せている。そのような状況下で、各局がいかなる姿勢を見せ、その姿勢が視聴率の動向にいかなる成果として結びついていくのか。今後も注意深く見守りたいところだ。
なお2016年10月3日からは視聴率調査に関して新しい測定方法が用いられている。これは従来のリアルタイム視聴に加え、いわゆるタイムシフト視聴も測定に加わるもの(「統合視聴率」と呼ばれる)。視聴スタイルの変化に対応するためとの説明があるが、具体的な計算式は次の通りとなる。
各局でHUTからPUTに掲載を差し替えたり、リアルタイム視聴率だけでなく総合視聴率を併記する局が出てきたが、今記事では引き続きHUT・リアルタイム視聴率での勘案を継続することにする。
掲載視聴率をHUTからPUTに切り替える局が出てきたのは、世帯人数の少人数化に加え、テレビの観賞スタイルが「家族皆で」から「個人で」が主流になりつつあるとの認識が、局側で生じて来たことを意味するのかもしれない。
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