残るは一誌のみ…「小学一年生」-「小学六年生」などの部数動向(2023年10-12月分)

2024/03/11 02:30

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小学一年生2024年4月号社団法人日本雑誌協会が2024年2月21日に発表した、「印刷証明付き部数」の最新データ(2023年10-12月分)を基に、多様なジャンルにわたり、各種雑誌の部数動向を精査し、個々の雑誌だけでなくそれぞれのジャンルのすう勢を精査している。今回は一連の記事の締めくくりとして、小学生向け、さらには幼稚園児向け雑誌の部数動向を確認していく。少子化やメディアの多様化に伴い市場の縮小が危惧される中で、これらの雑誌の部数動向はいかなる動きを示しているのだろうか。

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残存誌は「小学一年生」のみ


データの取得場所の解説、「印刷証明付き部数」など用語の説明、諸般注意事項、バックナンバー的記事はまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】上で説明済み。必要な場合はそちらで確認のこと。

日本雑誌協会の公式サイト上でデータが取得できる2008年4-6月期分以降の、「小学一年生」から「小学六年生」までの印刷証明付き部数を取得し、その推移を示したのが次のグラフ。「GAKUMAN plus」は「小学五年生」「小学六年生」の統合・刷新版として登場した雑誌のため、あえて今グラフに含めている(すでに休刊しているが)。また後述する「小学8年生」は印刷証明付き部数が公開されていないので、当然グラフには登場しない。

↑ 印刷証明付き部数(小学一年生-六年生、部)
↑ 印刷証明付き部数(小学一年生-六年生、部)

子供は年を重ねるにつれて好奇心が旺盛になり、また使える手段や知識が多様化する。そのため定番雑誌以外の雑誌や媒体への欲求が増し、保護者もそれに応えるようになる。

昨今では子供が小学生、さらには幼稚園・保育園児の時期からスマートフォンやタブレット型端末を貸し与える保護者も少なくない。子供への情操教育などまで含めて、子供向けの学習用タブレット型端末をパッケージ化した教育プログラムも多数の関連企業から展開されており(ベネッセの「チャレンジタッチ」が好例)、それらが学習用も兼ねた子供向け雑誌の代替品として扱われる面もある。結果、高学年向け雑誌になるほど購買対象種類は増え、一雑誌あたりの購入部数は減っていく。今グラフではその実情が見事に現れた形となっている。

その上、昨今の雑誌業界全体の不況のあおりを受け、該当雑誌は次々に休刊。かつてこれらの雑誌で育ってきた大人にはショックな話ではあるが、すでに「小学三年生」「小学四年生」「小学五年生」「小学六年生」が休刊しており、これまで発行を続けているのは「小学一年生」「小学二年生」の2誌のみ「だった」。

そして【小学二年生の休刊が公式に発表、残るは小学一年生のみ】でも伝えたが、「小学二年生」も2016年12月26日発売の「2・3月合併号」を最後に休刊。残りは「小学一年生」のみなのが現状。

直近期における前期比、つまり季節変動などによる影響がありうる動向は、「小学一年生」ではマイナス16.0%となり、大きな減少。季節変動を考慮した上での変化が分かる前年同期比はマイナス11.0%でこちらも大きな減少。毎年10-12月期は前期の7-9月期と比べて部数が減少する傾向があるため、前期比でマイナスとなるのは当然のことだが、前年同期比でもマイナスとなったのは、残念な話ではある。

「小学二年生」の休刊後はその代替…というよりは、「小学二年生」も含めた小学生全体に向けた雑誌とのコンセプトで、増刊号的立場の「小学8年生」が展開を開始している。該当期間内では2023年11月28日に発売された2023年 年末年始特別号が最新刊。付録もあわせ非常にリッチで、部数面でも大いに期待できそうな内容ではあるが、部数公開は行われていない。公式サイトで確認すると、現在はすでに隔月刊誌として宣言しており、印刷証明付き部数の公開をしてもよさそうなものだが。

幼稚園関連誌を追加し状況を再確認すると


「小学●年生」の現存誌が1誌しかなくなったことを受け、当サイトの一連の記事では幼稚園児向け雑誌を加え、精査を行っている。対象として「学習幼稚園」「幼稚園」「たのしい幼稚園」の3誌を加え、再構築したのが次のグラフ。タイトルに「など」が入っていることに注意。なお「学習幼稚園」は2021年11月16日発売の2022年1月号を最後に、新しい号が出ていないためか、部数公開も2022年1-3月期以降休止されている(掲載枠は継続しているので休刊ではない模様。編集部に問い合わせをしているが現時点で返答は無し)。

↑ 印刷証明付き部数(小学一年生-六年生など、部)
↑ 印刷証明付き部数(小学一年生-六年生など、部)

追加した幼稚園児関連の3誌の動向を「小学●年生」シリーズと重ねたが、幼稚園児向け雑誌では小学生向け雑誌のような、「春に伸び、冬に落ちる」といった年単位での季節変動的な傾向は確認できない(「たのしい幼稚園」がそれらしいように見えるが、年によって1-3月期が伸びる場合と4-6月期が伸びる場合があり、やや傾向は異なる)。一方で、幼稚園児向け雑誌もまた小学生向け同様に、中期的にはその部数を減らしているのが分かる。

このグラフから休刊中のものを除外し、記事執筆時点で刊行中のものに限定し、グラフを再構築したのが次の図。

↑ 印刷証明付き部数(現存「小学●年生」シリーズと幼稚園関連(一部)、部)
↑ 印刷証明付き部数(現存「小学●年生」シリーズと幼稚園関連(一部)、部)

休刊誌による情報ノイズ的なものがなくなり、見た目はすっきりとしたものになった。無論それで刊行中の雑誌の状況が変化するわけではなく、全体的にはじわじわと部数が削られていく状況が改めて分かる。そして一方で最近における一部雑誌における特異な増加ぶりが一時的に生じていた、それがその後に失速したのも認識できる。

ともあれ、部数動向を一層分かりやすくするため、各年の同四半期の動向に絞ってグラフを再構築したのが次の図。季節変動を考慮せずに済む、年ベースでの動向を推し量ることができる。

↑ 印刷証明付き部数(現存「小学●年生」シリーズと幼稚園関連(一部)、部)(各年10-12月期のみ)
↑ 印刷証明付き部数(現存「小学●年生」シリーズと幼稚園関連(一部)、部)(各年10-12月期のみ)

一部イレギュラーはあるもののほぼ右肩下がりで推移してきた現存誌のうち「小学一年生」では2014年において、明らかにこれまでとは異なる動きを示しているのが分かる。これが「妖怪ウォッチ」特需によるもの(2011年も同様の上昇が生じているが原因は不明。テレビドラマで子役ブームが起きており、そのブームの中で人気となった芦田愛菜氏が何度も表紙を飾ったのが原因かもしれない)。しかしそれ以降はあえなく失速し、再び減少基調に転じている。また2016年以降の「小学一年生」の減少ぶりが非常に大きなものであることも確認できる。

一方、2020年の「小学一年生」、2023年の「たのしい幼稚園」もまた、特異なものとして見ることができる。これは話題を集めた付録による集客効果の結果だと考えられる。



子供向け教材の不調さの一因としてよく語られる「少子化」だが、状況として存在する以上、その影響が無いわけではない。しかし今記事グラフの領域時期に該当する期間中に、幼稚園児や小学生が半減するようなスピードで少子化が進んでいるわけではなく(【小学生や中学生の数の推移(最新)】で確認済み)、少子化だけを理由とするのには無理がある。

「小学●年生」で現存しているのは「小学一年生」のみ。経験則から休刊の最終判断ラインとなる5万部切れすら生じる時期も多々あり、先行きは明るいとはいえない。

該当雑誌各誌でも付録の充実化やインターネットとの連動企画の積み増し、現在の子供の趣向にマッチした特集記事の展開やイベントの実施など、努力を重ねているのは間違いない。

しかしながら現状の手立てでは、状況を明確な形で改善させるまでには至っていない。ライバルとなるメディア、具体的にはタブレット型端末やスマートフォン、そして【小学一年生・二年生などの子供向け学習雑誌の不調と、ライバルらしきもの】や本文でも指摘した「チャレンジタッチ」のような、競合他社の総合メディア型学習システムに太刀打ちできるだけの訴求力を持ち合わせていないと、保護者に判断されていることになる。しかも今ジャンルでは一様に部数減少を続けており、参考になりそうな雑誌が存在しないのも難儀なところ。

「妖怪ウォッチ」特需をよい経験とし、今後はいかにこのタイプの特需となるネタを活用して部数底上げに活かすか。その施策を断続的に続けることができるか。感度の高い子供市場に向けたレーダーの実装と、即時に対応できる機動力、そして企画力の高さが求められる。子供を育てる立場にある保護者の納得がいくものを創り上げるのはもちろんだが、子供自身が興味や関心を抱き、保護者にねだるほどの魅力を創生し盛り込み続けるのも、職人ならではの使命であり、状況改善の道の一つに違いない。


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