「進撃の巨人」効果落ち着く、「妖怪ウォッチ」や「パズドラZ」で伸びるコロコロ…少年・男性向けコミック誌部数動向(2014年1月-3月)

2014/05/18 14:30

社団法人日本雑誌協会は2014年5月13日付で、四半期毎に更新・公開している印刷部数について、公開データベース上の値に最新値となる2014年1月から3月分の値を反映させたことを発表した。これは協会側が各出版社・編集部から許諾を受けた主要定期発刊誌の「印刷証明付き部数」を掲載したもの。該当誌の出版部数動向・実情を示す値として、出版社が公示している「公称」販売部数よりも高精度なものであり、各状況の精査には非常に有益な値である。今回はそのデータの中から「少年・男性向けコミック誌」の値を確認した上で整理し、複数の切り口からグラフ化を行い、同ジャンルの現状を精査していくことにする。

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直近四半期の動向…100万部超はジャンプとマガジンのみ


データの取得場所の解説、「印刷証明付部数」など各種文中の用語の説明、諸般注意事項は一連の記事に関するまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明を行っている。必要な場合はそちらで確認のこと。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」の独走トップ状態、週刊少年マガジンまでが100万部超、やや若年層をメインに据えた雑誌としては「コロコロコミック」が最上位にあることには違いない。
↑ 2013年10-12月期と最新データ(2014年1-3月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2013年10-12月期と最新データ(2014年1-3月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

直近データによれば「ジャンプ」の印刷部数は271万6000部。読者の手に届かずに返本される冊子も少なからずあるので(雑誌の完売は滅多にない)実態の販売数はこれよりも少なくなる。ジャンプの返本率はもちろん公開されていないが、仮に1割と設定すると、実売部数は240万部強位だろうか。雑誌に限らず新聞や書籍までも含め、紙媒体の不調が続く中、毎週この部数を全国に向けでさばききる実力には頭が下がる。一方、同誌の最盛期、1995年時点においては635万部を刊行していた事実を思い返すに、少々複雑な気分になる。20年近くが経過したとはいえ、すでに半分を割り込んでいるからだ。

今四半期はデータ公開上の脱落誌・追加誌は無し。前四半期で追加された「別冊少年マガジン」も滞りなく公開されている。

続いて男性向けコミック誌。コンビニや本屋などの陳列棚における配置冊数、さらには姿を見つけられるか否か自体といった、販売現場の状況から察することができる動きが、具体的な数字となって表れている。

↑ 2013年10-12月期と最新データ(2014年1-3月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2013年10-12月期と最新データ(2014年1-3月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

少年向けコミック誌同様、今四半期では脱落誌・追加誌は無し。

2四半期前に第2位と第3位の入れ替わりという、他ジャンルも含めて滅多にない状況が発生した男性向けコミック誌だが、今四半期はそのような波乱はない。順位が入れ替わった後の2誌(週刊ヤングジャンプとヤングマガジン)の差は開くばかりで、今四半期では約5万部もの差異が確認できる。前者の部数がほぼ変わらず、後者が落ちていくばかりで、少々危うさを覚える。

男性向けコミック誌では数少ない事例といえる、複数誌の休刊・統廃合の結果として新たに複数誌の創刊という形を採った集英社の「グランドジャンプ」と「グランドジャンププレミアム」。今四半期においてもなお後者のデータ公開は無い。創刊号から大規模な連載陣の入れ替えを行い、バランス調整や互いのテコ入れを繰り返しているが、読者数の底上げまでには至っていない。一方で公開値のある「グランドジャンプ」に限れば、この1年半ほどの間は部数も安定を示している。周辺環境と合わせて考えれば、大健闘の部類に属することになる。

↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2014年1-3月期まで)
↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)((2014年1-3月期まで)

前四半期比較で動向精査


続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を当方で算出し、状況の精査を行う。季節変動などを考慮しない単純比較でしかないものの、短期間における部数動向の実態を知ることが出来る。なおデータが非開示となった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌はこのグラフには登場しない(比較・計算のしようがない)。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年1-3月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年1-3月期、前期比)

最大の下げ幅を示している「月刊少年ライバル」の下げっぷりが目立つ。これが前年同期比では無く前期比であることを考えれば、早急に対策を打たねば……と思うのが普通だが、実は【講談社の月刊少年ライバル休刊へ、新少年漫画誌刊行の模索も】でも伝えている通り、同誌は6月発売分で休刊が決まってしまっている。これに向けたさまざまな整理の中で部数が落ちているのか、それとも部数が落ちたから休刊が決まったのかまでは、この数字からだけでは分からない。

次いで下げ幅が大きいのは「月刊少年シリウス」。これは2013年10月号から連載を開始した「進撃の巨人 Before the fall」の影響で大きく伸びた前四半期の反動によるところが大きい。もっともこれでもまだ、特需が始まる前の1万部前半と比べれば大きく前進していることに違いは無い。「進撃の巨人」効果は薄れてはいるものの、なお健在である。

↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

「シリウス」同様……というよりはこちらこそがメインの「月刊別冊マガジン」も落ち込み具合が大きい。同誌連載の「進撃の巨人」はクライマックスの真っただ中にあり、同作品の影響力はむしろプラスに働いているはずなのだが、アニメが終了したことによる人気の落ち着きや、それ以外の作品で複数本が最終回を迎えていることがマイナスに働いたのかもしれない。

一方、唯一の前期比プラスを示したのが「コロコロコミック」。これは考えられるポジティブ要因としては2つあり、1つが「妖怪ウォッチ」関連の連載や特集によるもの。テレビアニメも好調放映中で、元となったゲームもアニメに連動する形でセールスを伸ばし、相乗効果は容易に期待できる。もう1つは、子供達に人気のあるゲーム『パズドラZ』との連動企画として、特殊なダンジョンで遊べるシリアルコードが複数号でついていた件。これが大きな魅力となったと考えられる。

週刊大手コミック誌としてマガジン同様メジャー誌のラインアップに挙げられる「週刊少年サンデー」だが、2四半期前のキャンペーンで一時的に部数を戻したものの、今四半期は前四半期同様に決して小さくない下げ率を示し、50万部の大台がさらに遠のくこととなった。同じ対ミンクで発売されるマガジンとの部数差はすでに2.8倍。3倍差がつくのもそう遠い話では無くなってしまう。

続いて男性向けコミック。こちらは少年コミック誌と比べれば平穏な動きか。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2014年1-3月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2014年1-3月期、前期比)

プラスを示したのは「イブニング」と「ヤングアニマル」のみ。いつもは元気な「コミック乱」3兄弟も、今四半期期はあまり元気がない。特に「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」は1割超の下げ幅を示している。主要因としては前四半期に降ってわいたようなプラス要因(NHK大河ドラマでの歴史ものスタート、歴史シミュレーションゲームとのコラボ、著名原作の漫画化)の影響が薄れたことによる反動と見てよいだろう。実際、前々四半期と比べれば大きな違いは無く、後述する前年同期比でも、元々軟調な「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」以外はさほど大きな変移を示していない。

また昨今、ある連載漫画で何かと世間を騒がせ、編集方針にまで注目が集まっている「ビックコミックスピリッツ」だが、前四半期比での変移はマイナス4.3%。他誌同様に減少傾向に歯止めがかからない状態にある。

↑ 雑誌印刷実績変移(ビックコミックスピリッツ)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(ビックコミックスピリッツ)(部)

前年同期比ではまだシリウス強し…前年同期比で検証


次に示すのは、季節変動による部数変化を考慮せずに済む、前年同期比を算出したもの。今回は2014年1-3月分に関する考察なので、その1年前2013年1-3月分の数字との比較となる。雑誌の印刷数における年ベースでの純粋な伸縮動向が確認できる。ただし昨今では雑誌業界は大きな荒波の中にあるため、わずか1年で大きく情勢が変化(多分に悪化)することがあり、数字が2ケタ%台のマイナスを示すことも珍しくは無い。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年1-3月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2014年1-3月期、前年同期比)

前述した通り「月刊少年ライバル」は休刊に向けて大きな減少値を示したため、前年同期比でも飛びぬけたマイナス値を示すこととなった。それに反して「進撃の巨人」効果がまだ残っている「月刊少年シリウス」は大きくプラス。興味深いことにそれ以外では、コロコロ3兄弟的な「コロコロコミック」「別冊コロコロコミックスペシャル」「コロコロイチバン!」の3誌が仲良くプラスの動きを示した。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2014年1-3月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2014年1-3月期、前年同期比)

プラスを示した雑誌は「コミック乱」のみ。一方で10%以上の下げを示したのは4誌に達している。上記でも触れている通り「コミック乱」3兄弟では唯一「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」が大きく下げている他は、それなりの動きを示している。

また今ジャンルに含まれる雑誌が元々多いのも一因だが、赤表示、つまり5%以上の下げ方を示した雑誌に「ビックコミック」の名を冠する雑誌が多いのが目に留まる。加えるならかつては堅調さの代名詞だった「ヤングアニマル」も下げ方が著しく、男性向けコミック誌全体が厳しい状態にあることをうかがわせる。男性向けコミック誌は今リスト上にないものも多数出版されているが、それらの雑誌の動向も気になってしまうというものだ。



流行や先端技術に敏感な若年層がターゲットとなる少年向けコミック誌では、子供の需要を的確にとらえることで、うまく雑誌不調な現況を乗り切ろうとする動きがちらほらと見受けられる。今回大きな数字を挙げた「コロコロコミック」のように、同じ世代における人気の他ジャンル商品との連動性をアピールしたり、前四半期の「月刊少年シリウス」などのようにヒーロー的作品を呈するのも一つの策。

他方男性向けコミック誌ではそのような連動性企画を創出しにくく、難儀しているようすがうかがえる。金銭面である程度余力を持ち、スマートフォンやタブレット機の所有率が高い青年・成人若年層男性をターゲットとしており、真っ向からライバルと立ち向かわねばならなくなるため、競争はより厳しい(少年向けならばデジタル機器の普及率は「まだ」それほど高くは無い。また普及率が高い世代でも金銭的な問題がある)。

無難な成長戦略としては、やはり少年コミック誌に見受けられる「他媒体との連動」「ヒーロー作品の掘り起し、創生」が挙げられる。この「金脈」を探し当て、掘り起こすための機会創生として、過去の紙媒体の資産の再認識や需要の再開拓、さらには書き手の創作意欲をも高める【Jコミ】のような存在も見逃せない(雑誌と単行本とのすき間を埋め得るアイディアとして注目に値する、単行本化されていない漫画をオンデマンドで印刷するサービス「Jコミで印刷できるってよHD」も登場している)。

一方で、中には一般商業誌では禁じ手に近い炎上商法を行う雑誌も登場している。超短期的には効果を発揮しても、これまでの該当雑誌のさまざまな蓄積を削り取り侵食してしまうだけに他ならず、類似雑誌にまでそのマイナス影響が及びかねない。見方を変えれば、そこまでしなければならないほど、男性向けコミック誌は追い詰められているのかもしれない。


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