震災後初の節電要請そのものの見送り……2016年夏の電力需給対策内容正式発表

2016/05/13 14:34

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政府や経済産業省など関係省庁は2016年5月13日、同日開催された「電力需給に関する検討会合」の結果として、2016年度夏季における電力需給対策「2016年度夏季の電力需給対策について」を正式に決定すると共に、その内容を発表した。それによれば沖縄電力をのぞく、電力需給の点で懸念のあった9電力会社すべてで、電力会社管轄間の融通無しでも、電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3.0%以上を確保できる見通しとなった。予断を許さない状況には違いないが、今夏は震災以降はじめて、具体的な数字目標付きの電力使用制限令の発令は無く、数値目標を設けない節電協力要請(定着節電分の確実な実施)も無い、消費者や企業への節電要請がなされない夏を迎えることとなった(【電力需給に関する検討会合公式ページ】【節電ポータルサイト(経産省)】)。


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原発再稼働、火力増強、新電力への離脱


【電力需給検証小委員会】などで公開された「2016年度夏季の電力需給対策について」の関連資料によれば、2010年度夏季並の猛暑となる気象リスクや直近の経済成長の伸び、企業や家庭における節電の定着などを織り込んだ上で、いずれの電力管内でも電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3.0%以上を確保できる見通しとなった。

ただし前年までと同様に、火力発電所による定期検査の繰り延べ、老朽発電所の再稼働を前提としており、大規模な電源脱落や想定外の気温の上昇による需要増に伴う、供給力不足のリスクがあることに変わりはない。

今夏季の電力需給対策として発表された内容は次の通り。一般企業や国民に対する直接の要請事項は無い。

■需給ひっ迫への備え…大規模な電源脱落などにより、万が一、電力需給がひっ迫する場合への備えとして、以下の対策を行う。

1.発電所などの計画外停止のリスクを最小限にするため、電力会社に対して、発電設備などの保守・保全を強化することを要請。

2.電力の安定供給を確保するため、電力広域的運営推進機関に対して、電力会社管内の需給状況を改善する必要があると認められる時は、他の電力会社に対し、速やかに融通を指示するなど必要な対応を講じることを要請(いわゆる融通電力の実施)。

3.電力会社に対して、ディマンドリスポンス(時間帯別の電力料金設定を行い、ピーク時以外の電力使用を促進する)など、需要面での取組の促進を図ることを要請。

4.産業界や一般消費者と一体となった省エネキャンペーンなどを実施し、2030年度に向けた徹底した省エネの取組を進めていく。

■ひっ迫に備えた情報発信
1.電力需給状況や予想電力需要についての情報発信を行うとともに、民間事業者など(インターネット事業者など)への情報提供を積極的に行う。

2.上記の対策にもかかわらず、電力需給のひっ迫が予想される場合には、「需給ひっ迫警報」を発出し、節電の協力を要請する。

連系線による電力融通が可能な9社において、経済復旧・発展による電力需要の増加、新電電への離脱に伴う影響を加味した、夏季の経済影響などによる電力需要変化は次の通り。

↑ 電力需要における夏期経済影響(2010年度夏期比)(万kW)(9電力管轄)
↑ 電力需要における夏期経済影響(2010年度夏期比)(万kW)(9電力管轄)

↑ 電力需要における離脱影響(2016年度見通し、内訳、2010年度夏期比)(万kW)(9電力管轄)
↑ 電力需要における離脱影響(2016年度見通し、内訳、2010年度夏期比)(万kW)(9電力管轄)

経済影響に伴う電力需給の増減は、単純に工場稼働率や規模だけに影響を受けるとは限らないが、その地域の経済状況と小さからぬ関係があるため、各地域の経済状況を推し量る値でもある。東日本、特に東京電力管轄においては大いに需要が増加しているが、その分新電力への離脱の影響も大きく、結果として需給状態はより安定度が高くなっている。他電力管轄でも多かれ少なかれ新電力への離脱効果が出ており、経済影響による電力需要の拡大を十分以上にカバーできている。

また家庭や大口、小口など各消費先における節電による需要減だが、こちらは節電意識の減退に伴い、大よそ2015年度よりは規模縮小。2010年度比ではなお高い値を示しているものの、電力需要を推定する際の係数としては、前年度実績よりは低めの値を計上する形となっている。

↑ 2010年度比の、2016年度夏季定着節電見込み(9電力管轄)
↑ 2010年度比の、2016年度夏季定着節電見込み(9電力管轄)

一方電力供給に関しては、震災前は長期停止していたものの電力ひっ迫に伴い再稼働した火力発電所のうち、一部が設備劣化のために再び長期停止となり、今夏の供給力としては見込まないものも複数存在する(計365万kw)。また再稼働を目指しているが、部品調達などの関係で今夏の稼働は見込めないものも計上されていない(計463万kw)。さらに電気事業法に基づいた法定定期検査期間に該当するものを見極め、それらの定期検査を行い(当然供給力としては計上されない)、それ以外の稼働可能なものは稼働させ、最大限の供給力として見込むものとしている。

コストパフォーマンス、メンテナンスなどの状況から稼働対象としての優先順位が低い老朽火力発電所の多分が稼働しているため、計画外の停止件数は増加する傾向にあった。想定されていない発電所の停止は、当然供給力の不安定感をもたらすため、電力需給においてはマイナス要因となる。

↑ 各年度の火力発電所における計画外停止件数推移(夏季と冬季)
↑ 各年度の火力発電所における計画外停止件数推移(夏季と冬季)

老朽火力発電所の稼働数そのものの減退に伴い、2015年度では計画外停止数も減少しはじめている。本来ならば老朽火力発電所の稼働無しに電力供給が成されることが、リスク軽減につながることから、需給安定の上でも好ましい。

水力発電は前年度とほぼ変わらず、揚水発電は一部補修工事による停止があることから全体量は減少、太陽光発電は安定的に見込めると算出評価できる範囲での算出の結果、前年度見通しからは227万kWの増加、実績からは357万kWの減少となっている(天候に大きく左右されるため、見込みは確実に見込める供給力を元に算出されることから、実績よりは低くなる傾向がある)。風力や地熱発電は昨年度とほぼ変わらず。

これらの需給動向を受け、電力管轄間の電力融通をしなくとも、全電力管轄内で安定的な電力供給の最低ラインである、予備率3.0%を確保できることとなった次第である。

↑ 2016年度夏季(8月)における電力予備率見通し(沖縄除く)
↑ 2016年度夏季(8月)における電力予備率見通し(沖縄除く)

他方、原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加は顕著化している。「原発の停止分の発電電力量を、火力発電の焚き増しにより代替していると仮定し、直近の燃料価格などを踏まえ」、これまでの実績及び今後の試算を行うと、(各資源価格の上下変動も考慮)もあわせ、2011年度から2015年度の5年間で14.4兆円のロスが生じる計算となる(【総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会内の電力需給検証小委員会】第15回会合「資料7 電力需給検証小委員会報告書(案)」などから)。

↑ 原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加(兆円/年)(2016年4月時点、2015年度は推計)
↑ 原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加(兆円/年)(2016年4月時点、2015年度は推計)

石油価格の大幅な下落に伴い、石油焚き増し分の試算額は大幅に下落したが、多くはLNGにシフト済。そのLNGも単価は下落傾向にあり、直近年度ではその恩恵を受ける形となっている(第13回配布資料「資料4 第12回委員会の指摘事項への回答」によると、試算値は2015年度分はLGNが9円/kWh、石油が13円/kWhとなっている)。

他方温室効果ガスの排出量は火力発電所の稼働率の上昇に伴い大幅に増加。2014年度は電力分だけでも4.57億トンとなり、2010年度比で0.83億トンの増加を示している(電力以外は0.33億トンの減少)。

当然、このコストは直接的に電力会社への負担となり、メンテナンスや機器改編・更新のさまたげの大きな要因となる。そして過剰な負担を軽減するために行われる電気料金の引き上げは家計や企業への重圧となり、それは経済行動の低迷を導き得る。家計に限っても、それだけ可処分所得が減り、生活への負荷につながることは、多くの人が体感しているはずだ。



今年は冒頭にもある通り、震災以降初めての数字目標のあるなしを問わず、節電要請そのものが成されない夏を迎えることとなった。上記各データにある通り、新電力への移行に伴う供給必要量の減少、火力発電所の増強、原子力発電所の一部再稼働によるところが大きい。再生可能エネルギーの供給拡大も一因ではあるが、不安定要素が大きいため、最初から計画に盛り込むのにはややリスクが高いため、メインのサポートとしては難しいところがある。

しかしながら電力各方面が相変わらず緊迫した状況にあることに違いは無い。このような状況を(オーバーワークでも)実際に電力不足に伴う大規模な停電をはじめとする危機的状況が体現化しなかったから別に良いのではないか、むしろインフラ関係者は押し並べてそのようなオーバーワークすら義務であると主張する筋もある。その主張がいかに非論理的で非理知的であるかは、同じような、いわばブラック企業的な状況を促進するような主張を他の企業・業界に対してはむしろ積極的に否定していることを見れば明らかではある。

関連各方面においては、震災直後から連なる一連の政策の決定的な過ちと、それが今なお続く現状を悔やみつつ、今後のさらなる状況改善に向け、最大限の効果的な手立てを望みたいところだ。


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