「進撃の巨人」効果のシリウスばく進続く…少年・男性向けコミック誌部数動向(2013年10月-12月)

2014/02/17 08:30

社団法人日本雑誌協会は2014年2月14日に、四半期毎に更新・公開を行っている印刷部数に関して、公開データベース上の値に最新値となる2013年10月-12月分の値を反映させたことを発表した。これは協会側が各出版社・編集部から許諾を受けている主要定期発刊誌の「印刷証明付き部数」を掲載したもの。該当誌の動向・実情を示す値として、個々の出版社が個別に公示している「公称」販売部数よりも高精度なものであり、各状況の精査には欠かせない。今回はそのデータの中から「少年・男性向けコミック誌」の値を抽出した上で整理し、複数の切り口でグラフ化して現状を精査していくことにする。

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直近四半期の動向…ジャンプが断トツ、マガジンが後を追う


データの取得場所に関する解説、「印刷証明付部数」など用語の説明、諸般注意事項は一連の記事に関するまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明を行っている。

まずは少年向けコミック誌。「週刊少年ジャンプ」の独走トップ状態、そして100万部超え雑誌として週刊少年マガジンが唯一続く状況に変わりは無い。

↑ 2013年7-9月期と最新データ(2013年10-12月期)による少年向けコミック誌の印刷実績
↑ 2013年7-9月期と最新データ(2013年10-12月期)による少年向けコミック誌の印刷実績

「ジャンプ」の印刷部数は274万5000部。読者の手に届かずに返本される冊子を考えれば、実態の販売数はこれよりも少なくなる。ジャンプの返本率はもちろん公開されていないが、仮に1割と試算すると、実売部数は250万部前後だろうか。紙媒体の不調が続く中、毎週これだけの部数をさばききる実力には頭が下がる。もっとも、同誌の最盛期にあたる1995年時点の値、635万部にははるかに及ばず、時代の流れを実感させられる。

今四半期はデータ公開上の脱落誌は無く、「別冊少年マガジン」の公開値が追加されることとなった。同誌の部数は18万部。2009年9月の創刊で、今になってなぜ、という感もあるが、同誌では「進撃の巨人」が創刊号から連載されており、同作品の躍進ぶりを受けて公開に踏み切ったと考えれば道理は通る。

続いて男性向けコミック誌。コンビニや本屋などで見かける、平積み状態の度合いがほぼ反映されているように見える印刷部数展開。

↑ 2013年7-9月期と最新データ(2013年10-12月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2013年7-9月期と最新データ(2013年10-12月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

今四半期では脱落誌は無く、「月刊!スピリッツ」が追加されている(今四半期では1万部)。こちらは2009年8月に創刊された雑誌で、上記の「別冊少年マガジン」同様、今になってなぜ、という感もあるが、いずれにせよ情報公開を行う雑誌が増えるのは喜ばしい話に違いない。

前四半期で第2位と第3位が入れ替わるという波乱があったが、今四半期では上位陣に大きな動きは無い。むしろ前四半期で順位を落としたヤングマガジンが、さらに部数を落としているようすがうかがえる。

男性向けコミック誌では珍しく複数誌の休刊・統廃合による複数創刊という形を採った集英社の「グランドジャンプ」「グランドジャンププレミアム」。今四半期でも情報の公開は前者のみとなった。創刊号から大規模な連載陣の入れ替えを行うなど、(本当の意味での)リストラクチャリングを実施しており、印刷実績の下落もようやく落ち着いてきたように見受けられる。ただしこの値では統合前の「ビジネスジャンプ」の最後期データ23.9万部には届いていない。直近の目標としては、この部数超えということになるのだろう。

↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2013年10-12月期まで)
↑ グランドジャンプの印刷実績(万部)(2013年10-12月期まで)

前四半期比較で動向を眺める


続いて公開データを用いて各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の変移の精査を行う。季節変動などを考慮しない単純比較だが、短期間の動きの実態を知ることが出来る。なおデータが非開示となった雑誌、今回はじめてデータが公開された雑誌はこのグラフには登場しない。今回からデータの公開が成された「別冊少年マガジン」「月刊!スピリッツ」は前四半期のデータが無く、不参加となる。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2013年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2013年10-12月期、前期比)

「月刊少年シリウス」の伸びが目立つ。これは前四半期の記事で言及した通り、同誌が2013年10月号から連載を開始した「進撃の巨人 Before the fall」の影響によるもの。連載前は1万部強の印刷部数だったが、前四半期では2万部近く、そして今四半期では2万部をゆうに超える値を示している。まさに「進撃の巨人」によって勢いよく背を伸ばした光り輝く恒星、太陽を除いて地球上から見えるもっとも明るい星、シリウスのようでもある。
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(月刊少年シリウス)(部)

「シリウス」にはかなわないものの、「別冊コロコロコミックスペシャル」の伸びも注目に値する。こちらは「オレカバトル」「妖怪ウォッチ」などの盛り上がり(後者は2014年1月からテレビ放送開始ということもあり、機運が高まっている)、さらには12月28日発売号から「ふなっしー」の漫画連載が始まったのが原因だろう。

他方マイナス誌はいつもの通り。中でも「週刊少年サンデー」は部数そのものが大きいにも関わらず7.9%の下げが確認されている。これにより同誌は大台の50万部を切ってしまったことになる(2013年4月-6月期以来2度目)。前四半期では「爆サン」キャンペーンで大いに部数を伸ばした同誌だが、これでほぼ帳消しとなってしまった。

続いて男性向けコミック。こちらは特徴的な動きを示している。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2013年10-12月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2013年10-12月期、前期比)

大きく伸びたのが「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」「コミック乱」、そしてプラスを示したのが「コミック乱ツインズ」と「アフタヌーン」。「アフタヌーン」はともかく、他の3誌はいわゆる「コミック乱」3兄弟ともいえる雑誌群である。元々これらは軟調な男性向けコミック誌の中でも数少ない成長株ではあったが、今回は特に際立った動きを示している。

その理由について特定は出来ないが、「これではないか」とする要素は複数カウントできる。まずはNHKの大河ドラマ「軍師官兵衛」の放映開始に伴う、戦国系、歴史物への興味関心の高まり。特に黒田官兵衛の右腕とされる後藤又兵衛の出世物語を描いた作品の連載が始まったことが大きい。また歴史シミュレーションゲーム「信長の野望・創造」とのコラボ企画の展開(「戦国武将列伝」連載作品のキャラを使用できるスペシャル・シリアルコードの封入)、そして著名原作にしてこれまでにも何度となく映像化・漫画化されてきた「戦国自衛隊」の連載開始。

いずれも雑誌の機運を高める手法としてはオーソドックスな部類だが、それだけに確実で効果のあるものばかり。今回の結果も納得がいく。

シリウス一強…季節変動を無視できる前年同期比で検証


次に示すのは、季節変動による部数変化を考慮しなくて良い、前年同期比を算出したもの。今回は2013年10-12月分と、その1年前2012年10-12月分の数字の比較となる。雑誌の印刷数における年ベースでの純粋な伸縮動向が確認できる。

まずは少年向けコミック誌。

↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2013年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(少年向けコミック誌)(2013年10-12月期、前年同期比)

前年同期比で誤差(プラスマイナス5%)を超えたプラスを示したのは1誌、「月刊少年シリウス」のみ(前四半期から継続)。逆に5%を超える下落を示しているのは「ゲッサン」をはじめ10誌。前四半期と変わりなし(顔触れは一部変化している)。

続いて男性向けコミック。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2013年10-12月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2013年10-12月期、前年同期比)

プラスを示した雑誌は2誌、誤差(プラスマイナス5%)を超えるマイナスぶりを示した雑誌は9誌。市場全体の軟調ぶりは顕著である。一方、上記で解説の通り、「コミック乱」三兄弟は今四半期では盛り上がりを示しており、そのうち「コミック乱」と「コミック乱ツインズ」はプラス領域でその威厳を見せつけている。

唯一前年同期比ではマイナスの「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」も、前四半期比ではプラス化しているのは上記で記した通り。今回のテコ入れ・幸運による回復ぶりは確かなもので、今後この流れが続けば、前年同期比でもプラスを見せる日もそう遠くはない。

↑ 雑誌印刷実績変移(コミック乱ツインズ戦国武将列伝)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(コミック乱ツインズ戦国武将列伝)(部)

次四半期の動きが一番気になる雑誌と言えよう。



電子書籍向けの媒体といえるタブレット機や電子書籍リーダーの普及率が上昇し、それと連動する形で電子書籍スタイルの出版物が増えていく昨今においては、ただでさえデジタル端末の普及による全般的な紙媒体離れが進んでいる風潮もあわせ、印刷実績が漸減していくのは仕方がないとする見方もある。

しかし少年・男性向けコミックの分野では、印刷実績の公開誌増加、本格的なてこ入れと幸運による盛り上がりを見せる「コミック乱」三兄弟の堅調ぶり、ヒーロー的作品の活躍による「月刊少年シリウス」の成長など、今四半期ではいくつかの好材料を見出すことができた。

これは運によるところもあるが、切り口次第では紙による雑誌媒体もセールスを底上げできる可能性を証明したことになる。さらに過去の紙上の資産を活かしてデジタル化を果たすことで作家のモチベーションを高め、過去の紙媒体の資産の掘り起しと需要の再開拓を図る動きも、【Jコミ】を筆頭に各方面で見受けられる。

特に少年・男性向けコミックは、そのメインターゲットとなる若年層がスマートフォンなどのデジタルデバイスを積極的に利用している、普及率が急速に高まり続けていることもあり、状況は極めて厳しい。しかし見方を変えれば、それらデジタル媒体利用層にも受ける方法を用いることで、紙媒体の雑誌が手に取られる手口は十分あり得る。効果的な手法の模索とその体現化が早急に求められていることに違いはないが、新たな流れを導き出す可能性は決して低くはない。

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