外務省発「米国における対日世論調査」の所感

2013/12/23 10:00

ここ数日来、外務省が2013年12月19日に対報道発表、ウェブ上での展開を同20日に行った【米国における対日世論調査(結果概要)(2013年)】に関する解説記事を展開した。今回はそれらの記事の文中でも繰り返し触れた、今調査の特異性を中心に、総括的なものを覚え書き代わりにまとめることにする。

スポンサードリンク


一般公開前の報道とそれを起因とした混乱


12月19日付で対報道発表が行われ、それを基に各新聞社で発せられた記事内容は、それなりにセンセーショナルなものだった。同時に各新聞社、あるいは編集・記者サイドの解釈・思惑が多分に盛り込まれた、あるいは映し出された展開を見せることとなった。

中でも各サイトや掲示板でもっとも引用されたのが、朝日新聞の【米世論「日米安保を維持」急減 「重要パートナー」中国に抜かれる 外務省調査】という記事。グラフ付きで「アメリカにおいて日米安保維持率は一般人・有識者共に急落し、該当項目の調査開始以来最低を示した云々」というもの。また記事タイトルでは「重要パートナーは日本から中国にスライドした」的な話が書かれ、ショッキングな内容となっている。紙面ではさらにその理由として尖閣諸島周りの日中間のドタバタに嫌気が差し、巻き込まれるのを嫌ったからではないかとの分析がなされている。要は尖閣問題で日本がちょっかい(日本としては正当な権利の主張でしかないのだが)を出したから、アメリカが毛嫌いをしたという解釈。

↑ ウェブ版では途中までしか読めず、会員登録をしないと締めの内容まではわからない。
↑ ウェブ版では途中までしか読めず、会員登録をしないと締めの内容まではわからない。

この時点で「?」マークを頭に浮かべた人も少なくなかったが、センセーショナルな話を好むまとめサイトやソーシャルメディアを中心に、この記事が多方面へと引用され、有象無象の噂話や仮説が語られ、結び付けられ、不安がる人達を増幅させていくことになる。

「今調査はこれまでとは違う」状況の判明


報道向け発表の翌日、12月20日には外務省の公式サイト上で該当調査の結果が公開。早速、昨年同様のフォーマットで分析をすべく精査を開始した。一通り目を通し、グラフ化のためのデータ入力・再計算をした上での第一印象は、「イレギュラーが多い」。朝日新聞の記事が指摘した日米安保の支持率は確かに急落、過去最低を記録していたし、アジアの最重要パートナーとしての位置づけも中国が日本を抜いている。中には経年変化で予測できるものもあったが、あちこちに突出したような値が出ている。

例えば【中国一番日本が二番…米のアジア地域諸国に対するパートナー意識の重要度推移をグラフ化してみる(2013年)(最新)】の「最重要パートナーとして挙げた理由」項目。2013年分は思いっきり値が跳ねている。

↑ 「日本」と回答した理由(自由回答)(一般人)
↑ 「日本」と回答した理由(自由回答)(一般人)

↑ 「中国」と回答した理由(自由回答)(一般人)
↑ 「中国」と回答した理由(自由回答)(一般人)

具体的に計算をしても、これまでは全項目合わせて100%以下だったのが、2013年のみ100%をはるかに超えている。

そこで調査要目を再確認し、不明な点を外務省に問い合わせた結果、かなりの違いを確認できた。まず調査会社が従来のギャラップ社からハリス・インタラクティブ社に変更されており(依頼時にギャラップ社で不祥事疑惑が持ち上がったからとのこと。来年以降もハリス社になるのか、ギャラップ社に戻るのかは現時点では不明)、調査実施のタイミングも従来の春先から夏に変わっている。当然、調査対象母集団における傾向も大きく変化している。また、設問やカウント方式も異なる項目も存在し、当然イレギュラーな値が出る可能性が生じている。

例えば上記の事例の場合は、自由回答形式であることは同じだが、2012年までは「もっとも該当しそうな項目”のみ”に各国を選んだ回答者を振り分け」た上で、それぞれの項目の該当者の比率を算出している。いわば単一回答スタイルと考えて良い。「政治的な結びつきが強いけれど、貿易・経済関係もそれなりにあるかな」という考えなら、「政治的な結びつき」のみでカウントされる。

ところが2013年では「該当しそうな項目”すべて”に各国を選んだ回答者を各項目毎に振り分け」た上で、それぞれの項目該当者の比率を計算している。つまり複数回答スタイルとなる。2012年までと同じく「政治的な結びつきが強いけど、貿易・経済関係もそれなりにあるかな」と回答した人は、2013年では「政治的結びつき」「貿易・経済関係」双方でカウントされる。これでは一部項目の値が跳ねて当然である。

↑ アジアの最重要パートナーとして挙げた国の提示理由に関するカウント方式の違い
↑ アジアの最重要パートナーとして挙げた国の提示理由に関するカウント方式の違い

この項目はあくまでも一例に過ぎない。2013年分の結果においては、設問そのものは過去のものと変わりはないが(一部選択肢が差し替えられているものもあるが、多分に状況に応じたもので、この類の変更はこれまでも行われている)、調査対象母集団の環境や性質、質問様式、さらには回答の集計方法の違いによる、過去のものとの結果の差異が生じている可能性は高い。これについて発表資料では調査対象母集団などの詳細に関する言及は無く、外務省自身も把握はしていないとのこと(ハリス社の公式サイトも確認したが、今件調査の結果は未公開だった)。

このような状態である以上、過去と比較して想定しえない値の変化が確認できても、それを「日米間などにおける情勢・心境の大幅な変化」との受け止め方をすることは出来ない。いわゆる「連続性への嫌疑」が生じている次第である。複数の項目で日米間におけるアメリカ側の急激な疎遠感を覚えさせる変化が生じているが、これがそのまま実態としての「アメリカの日本離れ」を意味するわけでは無いことに注意されたい。

分析上の問題…美味しい部分のみのつまみ食い?


さらに今回の「米国における対日世論調査」に絡んだ報道では、上記に挙げた朝日新聞をはじめ一部の報道で、「特異な部分のみを抽出し、自社(記者自身)の主張をプッシュする」ような解説がなされているのが目に留まる。特異な値が、しかも自論を後押しするような動きがあったのだから、喜び勇んで書き連ねたのは理解できるが、その動きのみの解説ならまだしも、それのみを挙げて全体像を解説するのは問題がある。

例えば「アジア地域でもっとも重要なパートナー」において、日本は中国に抜かれた云々とある。しかしこれは【中国一番日本が二番…米のアジア地域諸国に対するパートナー意識の重要度推移をグラフ化してみる(2013年)(最新)】で挙げた経年グラフを見れば分かる通り、今回が初めてではない。2010年ですでに日中は同列に並び、2011年の時点で日中間の順位は逆転している(選択肢にオーストラリアと韓国が加わったため、票が割れたとの解釈もできる)。

↑ アジア地域の中でどの国が米国・地域にとり最も重要なパートナーであるか(一般人、択一)
↑ アジア地域の中でどの国が米国・地域にとり最も重要なパートナーであるか(一般人、択一)

2012年は東日本大地震・震災と「オペレーション・トモダチ」もあり、大きく日本の票が伸びて日本がトップに戻ったが、2013年では再び日中間が逆転している。何も2013年が初めての話ではない。

しかもその理由を見ると上記グラフの通り、日本は政治的、貿易・経済的な結びつきによるところが大きいのに対し、中国は貿易・経済的な面での結び付き「のみ」となっている(無論上記で触れた、統計上の問題もある)。性質的にまったく別物であることが注釈では不可欠となる。

日米安保に関する支持率も、朝日新聞の指摘通り、調査開始以来最大の下げ幅を示し、値そのものは調査開始以来最低値を示した。

↑ 日米安全保障条約の維持について(「維持すべき」「そうは思わない」「分からない」のうち「維持すべき」の回答者)
↑ 日米安全保障条約の維持について(「維持すべき」「そうは思わない」「分からない」のうち「維持すべき」の回答者)

しかしこれもデータをよく見ると、【日米安保のアメリカ側評価は約7割(2013年)(最新)】で解説している通り、昨年2012年から「維持すべき」で減った分のほとんどが、「分からない」に流れていることが確認できる。日米安保だけに限っても、維持への積極支持姿勢の意欲が減り、判断が付きかねる人が増えたとの解釈ができる。否定派が増えたわけでは無い。

さらに考えの上で連動しうる他項目を見ると、「日本の常任理事国入りを求める有識者の増加(前年比18%ポイント増)」「日本の防衛力増強を肯定する一般人意見の増加(前年比5%ポイント増、否定派は13%ポイント減)」などの動きが確認できる。つまり単なる「日米安保におけるアメリカの日本離れ」では無く「日本の自立した軍事力や常任理事国入りという外交権限の増強により、日米安保での相互依存・傾注度を軽減するべきである」、さらにかみ砕くと「日本には(良き同盟国として)軍事・外交面でのより強力なフリーハンドを所有してもらい、アメリカの負担を減らすべきだ」との意図が読めてくる。単純な「日米安保支持者が大幅に減ったので、アメリカの日本離れが進んでいる」との解釈をすると、大きな読み違いをする結果となる。

無論この解釈も、2013年分のデータにおいて、2012年までと間に有意な連続性が担保されていたら、との前提でなされている。もっとも、その前提が否定されれば、そもそも論として「日米安保におけるアメリカの日本離れ」という話も語ることはできない。



既存のデータからは想定しにくい、大きなイレギュラーと評せる値が生じた、今回の「米国における対日世論調査」。尖閣諸島周りの話やオスプレイに関する報道が値の変動に影響を与えたとする見方もあるが、それだけを理由としてここまでの変化が生じるとは考えにくい。

今回のように特異な動きを示す値が出たら、まずは調査そのもの・元データを確かめ、原因を調べねばならない。そして調査側、元データに問題が無いことを確認できたら、はじめてその特異値が生じた事象が何かを調べ、連想されるものを検証していく。このプロセスがデータの精査には欠かせない。

今回はその第一段階、調査そのものに問題点(念の為に述べておくが、ハリス社自身に問題があったわけでは無い。設定及び環境上、これまでのギャラップ社調査の値とは単純な比較が出来ないということである)があったことになる。単年のデータとしては検証に値する内容だが、過去のデータとの比較では、十分以上の留意が求められる。突出した値に驚かされて、特定の内容に煽動されてしまうことの無いよう、注意を心掛けてほしいものだ。


■関連記事:
【日本から主要5か国への好感度推移をグラフ化してみる(2013年)(最新)】
【日本の常任理事国入り、国内賛成派は8割超え(2013年)(最新)】
【対米89%、好感度もうなぎ昇り…対外国・震災対策評価をグラフ化してみる】
【統計のワナを学ぶための優良コーナー「統計の落としアナ」、総務省で提供】

スポンサードリンク




▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2016 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー