「バスに乗り遅れるな」そのバスは大抵間違った方向に走っている

2013/12/07 21:10

時折耳にするキャッチフレーズ「バスに乗り遅れるな」。一見威勢の良い言葉のように聞こえるが、当方にはあまり良い覚えがない。その言葉が発せられた対象となる事象は、大抵において間違った選択肢だったという経験を有しているからである。それに熟考を好む方なので、急かされるのも好きではない。慌てて判断した結果は……概して後悔するものだったりする。今回は「バスに乗り遅れるな」という言い回しについて所感をまとめてみることにする。

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「バスに乗り遅れるな」言葉の由来と深読み


「バスに乗り遅れるな」とは前世紀の世界恐慌後において「強い指導力の下に挙国一致で国を動かす」全体主義こそが、国の苦境を救うとの世界的気運が高まり、その国際的な時流に乗り遅れないようにとのスローガンとして用いられた言葉。要は「勝ち馬に乗り遅れるな」「早く話に乗らないと損をするぞ」という意味である。半世紀強ほど前ではあるが、それなりに由緒ある言い回しというわけだ。

「バスに乗り遅れるな」という言葉には、「正しい方向に進む」意図に加え、「とにかく乗り遅れるな」という意図が加わっている。いやむしろ、急かして後者が優先している雰囲気がにじみ出ている。要は急かせて聞き手に熟慮させる余裕を与えないとの意志が少なからず盛り込まれている次第である。もしその事象が本当に正しいもの、価値あるものだと確証を持って聞き手に推奨できるものならば、わざわざ「早く話に乗らないと損をするぞ」的な表現を使わなくとも済むはずだ(「乗り遅れた」ら事象の恩恵にあずかれないではないか、とする反論もあろうが、概して熟慮する位の時間はある。本物のバスではないのだから)。

「とにかく乗れ、乗り遅れるな」と急かされたそのバスが、正しい方向に向かっているとは限らない。少なくとも急かされて乗ってしまった場合、十分に判断した上での選択では無い。多分に急かした側に誘導された結果となる。

飛び乗った電車は正しい方面行か


時間ぎりぎりで駅に駆け込み、ホームまで突っ走ったところ、目の前で扉が閉まる寸前の電車に遭遇。慌ててその電車に飛び乗ったが、落ち着いて車内放送に耳を傾けたら、まったく別の方面に向かうものだった……という経験をしたことがある人は少なくあるまい。「正しい電車に乗る」よりも、「扉が閉まる目の前の電車を逃さないように乗り込む」との判断が優先した結果起きたミスである。

これは「振り込め詐欺」(警視庁管轄では「母さん助けて詐欺」とも呼んでいる)にも似ている。「振り込め詐欺」は心理的な仕組みとしては次の通りとなる。人間の判断は大きく「自動的処理」「熟慮的処理」の2過程を経ることになるが、対象者を急かしたり脅迫することで「自動的処理」を優先せさ、「熟慮的処理」をないがしろにさせてしまうことにより、誤った判断をさせるというものだ。次の図は2008年10月に内閣府が公開した「振り込め詐欺」に関する分析「消費者の意思決定行動に係わる経済実験の実施及び分析調査」に追記した、振り込め詐欺でだまされてしまう人の心理パターンを図式化したもの。

↑ 「振り込み詐欺」にあう人の行動・思考パターン
↑ 「振り込み詐欺」にあう人の行動・思考パターン

この流れは、くだんの「バスに乗り遅れるな」の仕組みとよく似ている。つまり「乗り遅れるな」と急かすことで「自動的処理」を聞き手に優先させ、「熟慮的処理」をないがしろにさせている次第である。

群衆心理も作用する


また「バスに乗り遅れるな」は、「周囲の人達があのバスに乗っているのだから、あなたも早く乗らないと」という、集団心理を流用しているとも言える。この集団心理とは「周りが走っているから自分も一緒に走ってしまう」「何が売っているのかも分からずに、行列があるからそこに並ぶ」が良い例。

これは個々の状況が(特に精神的・情報量的に)不安定におかれている場合に、特に良く起きる。個々の意志が強固であれば自分の判断で考える心の余裕があるが、足元がぐらついていたり自信がない状態では、つい流れにさからわずに従ってしまう。明確な判断力の欠如した状態において、集団心理による誘導、そして場合によっては乗り遅れることによるマイナス要素の提示という圧迫により、人は流れに従い、「バスに乗ってしまう」。これが連鎖状態となると、「スタンピード現象」なるものも発生する。

この「スタンピード(現象)」とは英語で「Stampede」と表記する。直訳は動物や家畜などの集団が何かをきっかけに、同じ方向に一斉に走り出すこと。


↑ スタンピード現象の好例。車に乗った一家が柵の向こう側にいる牛に話しかけ、牛もそれに気がつき、興味を持つ。その後、車は移動してしまうが、一家の声に反応した牛が一頭二頭と後をついていく、「声には気がついていないのに」周囲の動きに釣られて他の牛も走り出し、最後には飼い牛のほとんどが車を追いかけてしまう。ほとんどの牛は「何故自分が走っているのか」その理由も分からないまま駆け出す。【直接リンクはこちら:Stampede!】

「バスに乗り遅れるな」の掛け声に、その内容もよく理解せずに「乗り」、後で悔やんだ経験がある人に、この牛たちの所業を笑うことはできまい。

最良の策は「少し待つ」


よく考えてみよう。「バスに乗り遅れるな」と急かされたその事柄は本当に正しい選択肢なのか。自分にとって、そして場合によっては皆にとって、プラスとなるものなのか。

「オレオレ詐欺」の最大の対策は、熟慮の時間を確保するため、「少し待つ」ことが効果的とされている。「バスに乗り遅れるな」もまた然り。「バスに乗り遅れるな」との言葉と共に、何かを急かされる事態に遭遇したら、逆に立ち止まり、じっくりと時間をかけて考えることをお勧めする。むしろその言葉を熟慮のシグナルと見なしても構わない。

どのみち「バスに乗り遅れるな」とされる物事は、明日も明後日も同じように語られることになる。考える時間はそれなりに残っている。本当に「バスに乗り遅れるような状況」ならば、その言い回しすら使われないからだ。標語にすれば「あわてるな そのバスホントに 正しいの?」というところだろうか。


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